銀の鎧細工通信
目次


2005年06月30日(木) 銀迦ちゃんから来たバトン

「Comic Baton」
これ、音楽と本はmixiでやったんですよね。
ああああああ悩むんだよねえ・・・。

Q1あなたのコミックの所持数は?:60前後かな。一人暮らしなので少ないです。実家には数百冊・・・。

Q2今読んでいるコミックは?:よしながふみ『愛がなくても喰ってゆけます』をひたすら読んで、紹介されている店に通っています。笑。2店行った、7月にもう2店行く予定です、うち1店は銀迦ちゃんと銀座のピエールマルコリーニでパフェ。
雁須磨子『ファミリーレストラン』人に貸しているんですが、週の3分の一その人の家に居るのでつい。

Q3.最後に買ったコミックは?:『ファミリーレストラン』。あとジャンプ(コミック雑誌だよ!)

Q4.よく読む、または思い入れのあるコミック

・ひぐちアサ『ヤサシイワタシ』
私の全てです。
コレが舞台の大学出身で、サークルでの風景など非常に懐かしい。テーマも私の生きる主題です。正直これを卒業論文に提出したかった。笑。
作者のひぐちアサ氏には卒論を送りつけました。笑。

・日本橋ヨヲコ『極東学園天国』
人生変わりましたね。銀迦ちゃんにも薦めました。
私は大のバシフリークです。
最高です、大好きです。日本橋作品は全部好きですが。

・佐々木倫子『動物のお医者さん』
根が深いです、影響受けまくり。日々この漫画の台詞やネタが飛び交ってます。生活に根ざした漫画です。大好き。

・内藤泰弘『TRIGUN MAXIMUM』
ウルフウッド、の一言に尽きます。笑。
テーマが最早ナウシカ級、その恩恵で生きているものを、人間は家畜化し幾らでも利用し血の一滴までをもすすりつくす。それに反逆する恩恵。
なんだか考えこんじゃいます。

・雁須磨子『どいつもこいつも』
これも日常に根差しています、しょっちゅうこの漫画のネタや台詞が出てくる。しかも無意識にですので相当なものです。雁須磨子は全般好きです。

一応5作品にしましたが、他にもジョージ朝倉作品や、よしながふみ作品(『愛すべき娘たち』とか、凄く好き)、『帯をギュッとね!』、『俺たちのフィールド』(末次ラブ)、『うしおととら』(白面ラブ)、漫画版『風の谷のナウシカ』(クシャナ殿下ラブ)、『ハルチン』(なななんキリコですわ)、『シャーマンキング』(特に恐山ル・ヴォアール編)、藤田貴美(『雪の女王』は名作です。『SHIMABARA』もすごい)、やまじえびね、などなどなど・・・漫画はとにかく大好物なのでキリがありません。

勿論『銀魂』もかけがえの無い漫画です。
空知作品はどれもいいですね、元気になる。

つーわけで、漫画バトンでした。



2005年06月24日(金) 花いちもんめ (神田ミランダ、アレンミランダ)


綺麗な嘘など要らないの。
だって皆皆皆要らない子。
神様にしか要らない神様の子。

孤独な理由なんて知っている。

手加減の無い生活、独りで居る方がずっと気楽だった。
でもそれも嘘。
嘘じゃない、
嘘じゃない、と思えばいつか本当の様に思えるようになる。
誰も貰ってくれなくていい、
誰もいなくていい、
居場所なんてなくていい。

貰ってはくれない花いちもんめ。
貰ってはもらえない花いちもんめ。

皆皆皆、暗闇の中で一人きり。
孤独の理由は解ってる。
手さぐり、触れるものなど何も無い。
暗闇なんて怖くない、見えない方がいい。
だって皆、見てみぬ振りして行ってしまうから。
ちらり視線投げかけ去ってしまうから。


「選ばれし」者だなんて、望んでなかった。
でもそうであった以上、それによって失くした人が居る以上、
与えられた意味がある以上、闘うしかないのだ。
でなければ何処にも進めないから。
嘆きに飲まれて動けなくなってしまうから。




はた、とアレンは窓に映った自分の姿を見た。
赤黒く変色し、夥しい静脈のに取り巻かれたような手、
くすり、と笑って(気持ちが悪いな)と思った。


着替えている最中に稲光が暗い部屋を照らしたので神田は外に目をやった。
カ、と光る閃光に目を焼かれ、窓ガラスに自分の胸の梵字が見えた。
手を当てると鼓動の音がする。
止まるな、尽きるな、追いつくまで追いつくまで。
間に合ってくれ。否、間に合わさなければ俺が生きてる意味なんて無い。
手ぐしで髪を纏めてきつく結う。


「あら雨・・・」
酷い稲妻が去ったと思ったら雨がぱらぱらと降り出した、ミランダは
顔を上げて外を見る。
自分の後ろでは大きな時計が規則正しく時を刻んでいる。
そっと撫でると正面の振り子が見えるように作られたガラス窓に自分の姿が
映し出される。
よく磨かれたそれに、痩せぎすのミランダが少し歪んで映る。
「焦っても仕方が無いけれどね・・・早く皆の役に立てるように・・・
なりたいわね」
額を押し当てる、この大きな時計を移動させるのは困難だ、しかし最前線で
闘う攻撃型の人間の支援になら打って付けのイノセンス。


神田が勢いよくドアを開け放つと小さく「きゃ」と声がした。
人の気配には過剰なまでに神経質な神田が、それに気が付かないのは
珍しい事だった。
自分はそんなに取り乱していたのか、と短気で頭に血が上りやすい事に
自覚が乏しい神田は自分に舌打ちをした。
それに対して相手は「ごめんなさい」とドア越しにか細い声をかけてきた、
ああこの声は・・・瞬間に神田はイラッとした。条件反射のようなものだ。
ドアを閉めつつ、そちらを見もしないで「いや、こっちが悪かったんだ、
悪かったな」とぶっきらぼうに云ってそのまま早足で去ろうとする。

「神田さん」
声をかけられる、苛立ちがまた増す。
「何だよ」
振り返ってやる。
「あの・・・失礼かも知れませんが・・・」
(シツレイだとか思ってるなら訊くんじゃねえよ)
下がった眉は長めの前髪に隠れて見えないが、血色の悪い細い女は
とても陰気で、怯えた様子が一層苛立ちを募らせる。
一度俯いてから顔を上げる、目に力が篭っている。
(ふん・・・此処に来てからちったぁマシになりやがったか)
自信の無さはすぐには払拭されない。
コンプレックスが消えない事も神田はファインダーとの揉め事で
飽き飽きしている。


(こんな奴がイノセンスの適合者だと?)

(使えもしない奴に与えるなんざ「神」のお遊びにゃ付き合いきれねえな)

アレンたちと一緒に本部へ来た時にそう思った。
役立たずにイノセンスが与えられ、奪われでもすれば損失は大きい。
(いい迷惑だぜ、このモヤシといい・・・!)



その頃よりは幾分マシにはなってきているが、気の弱さは相変わらずだ。

「神田さんの、イノセンスが発動したときの事を、差し支えない範囲で
教えて頂けませんか」
気は立っているものの、ぼんやりと考え事をしていたら声がかけられる、
予想以上の大きい声に驚く。

「・・・何でそんな事を訊くんだよ」

「私は発動後、間もないです。タイプも比較的珍しいそうで、どう、
・・・この力を使っていけるか解らない部分が多いので・・・その、
失礼な事とは思うんですけど参考にさせて頂きたくて」
体の横に垂らした手が強く握られている。

それを見ると、役立たずなりに少しは今後に賭けてやってもいい、そう
思えた。役立たずよりも役立つ奴が多い方がいいに決まっている。

「剣術は元々習ってた、たまたま手にした剣がこの六幻で、ある時
解放された。そんだけだ」

「そうですか」
端折りに端折った説明だったが、ミランダは感謝を込めた眼差しで
「ありがとうございます」と云った。
「剣術を習ってらした神田さんの武器が刀だったのには、きっと理由が
あるんでしょうね」
少し微笑んだ。
「神の意思、だとでも云いたいのか、そうだとしても俺は興味ない」
鼻白んで神田は”運命”や”導き”を否定する。

神の使徒?
くだらない。
正義を気取るつもりも善人ぶるつもりも更々無い。
俺は破壊者だ。


「違います」
穏やかな反論に釣り目を流してミランダを見つめた。
「扱いなれていたでしょう?きっと小さい頃から強かったでしょう?」
余裕のある優しい笑みに神田は少したじろぐ、がそれを表には出さない。


「だから神田さんは今も強い、そしてまだまだ強くなれるんですね」



イノセンス、ではなく「選ばれた者」だからでもなく、
ミランダは神田個人を認めている。
神田の個人的な意思と努力による強さを評価しているのだ。
ふ、と無駄な力みが消えた。
つり上がった眉、きつく鋭い目付きが緩むのを感じた。



「・・・あんたの武器は振り回せるモンでも装備するモンでもねぇ、
強くなりたきゃ先ず体力付けるこったな」

ぽつりと呟いた、無意識にだった。

「あ、確かにそうですね!ありがとうございます」
ふふ、とミランダは嬉しそうに微笑んで「ごめんなさい、引き止めてしまって」と云って去っていった。
長い団服の裾がふわりと翻る。
細い細い黒い影。
長く伸びる。
思わず手を伸ばした六幻は黒い細身の刀。



誰も自分を要らない花いちもんめ。
だから自分も誰も要らない花いちもんめ。


でも、要らないもの同士だったら・・・?

(傷の舐めあいも馴れ合いも御免だ)

特別な力をでは無くて、自分を見てくれた。
神の使徒ではない、剣の使い手としての闘う自分を見てくれた。

心地よい脱力感に神田は珍しくゆっくりと歩きはじめた。
カツン、と特殊な素材の頑丈なブーツが石の回廊に音を響かせる。
慣れない脱力感。
違和感、でも不快じゃない、妙に軽い感情。




「どうでした?」
食堂で湯気の立つ紅茶を飲んでいるアレンがにこにこしながら問う。
ホットワインを手にしたミランダが横に腰掛ける。

「ええ、アドバイスまでしてくれたわ、ありがとうねアレンくん」
こちらもにこにこと満足そうにしているミランダに(おや)と思う、
しょぼくれて、下手をすれば涙目で戻ってくる事すら想像していたにも
かかわらず(アドバイス・・・?神田が?!)天変地異の前触れか、
と思いながらも
「良かったですね」
とまた微笑む。

「で、神田の発動の時はどんなでしたか?」
ふー、と湯気を吹いて質問する、神田がアドバイスまでして、ミランダは
幸せそうにしている。
ある意味自分以上に水と油的な、むしろ火に油状態な二人にどんな遣り取りがなされたのか興味が湧いた。

「それはね、ほとんど話してくれなかったのよ、でも剣術は元々習っていたらしいの、それは磨きをかけようって思うわよね」
耐熱のグラスの中で紅が透けてミランダの手に映る。
「まあ、僕らみたいに0からのスタートじゃないならねえ」
一口紅茶をすすってアレンは続ける。
「しかも僕やリナリーみたいに身体性も無いミランダさんには、やっぱり装備型で、何か物を媒介しているエクソシストの話が参考になりそうですね」

かく、と項垂れてミランダは「ごめんなさいね・・・」と突然呟いた。
「へ!?何がですか!?」
「アレンくん・・・辛い事を話させてしまって・・・」
それは神田の前にアレンに発動時の事を訊いた事を指していた。
(本当にこの人は凹む方向での感情の起伏が激しいなあ)
思わず可笑しくなってアレンは噴出した、
「いいんです、一部の人は知っているし、それにホラ、これがあるから
大抵の人は予想していますよ」
瞳の上のペンタグルを指差してなだめてやる。



この呪いの印も、醜い手も、隠す必要が無い。
それは暗闇の中だからでもあるけれど、
要らない者たちは要らない者たちなりに一緒に生きていけるからでもある。


誰ももらってはくれない花いちもんめ。
あぶれものばかり。
必要としているのは神様の暇潰しのためにだけ。
綺麗な嘘など要らない。

自分たちも互いをもらってあげることは出来ない。
だって手を繋いでしまったら、また花いちもんめが此処でも
始まってしまうから。
手は繋げない。
此処では誰もが要らない子。
手も繋がないから花いちもんめは出来ないの。


アレンは笑った、うれしかった。


見てみぬ振りをされるのも、痛みを解る振りだけされても、
そんなの要らない。

皆要らない皆要らない、だから花いちもんめは要らない。


(・・・やっぱり、此処は、居場所かも知れないな)






END


書いてみたらミラ神っぽくなってしまいました。
神田はお子ちゃまだから、ミランダさんが本気になればお姉さんモードに
巻き込まれるでしょう。笑。
アレンはあくまでも腹黒ドス黒です。愛。












2005年06月16日(木) けもの (銀高)


ふとした瞬間に込み上げてくる、やりきれない悔恨。
忘れられない死人の重み。
どろどろに血にまみれ、重くなった。体も、心も。
そうした時に気配を感じるのだ。
自分の背後から忍び寄ってくるけもの。
自分の体の中から這いずり出てくるけもの。
のた打ち回り荒れ狂い、「殺せ」と「助けて」と繰り返し咆える。



「あー・・・ひでェ目にあったぜ・・・まっさか定春があんな
ドエライ生き物だったとはな」
痣だらけの脇腹がうずく、肋骨が折れなかったのは奇跡だ。
口の中が酷く切れていてなかなか血が止まらない、気持ち悪さと痛みを
誤魔化すために銀時は安酒場に繰り出した。
えいりあんの時といい、真っ先にしゃしゃり出てきて、定春を殺しても
おかしくなかったはずの真撰組はじめ、警察機構は手を出さなかった。
少しは出したが、あれも体裁だけのものに過ぎない。
奇妙な縁は、奇妙な信頼感による適度な距離感を生み出している。
「・・・それともアイツらあれか?実は犬好き?有り得るよな、ソレ」
鼻に詰めていたティッシュをとって投げ捨てる。
「よーやく止まりやがったか」
夕焼けが血の様に赤い。

(ああ、それなりに振り回され、家計は困窮させられてたものの、
うまく共存してたと思って飼い犬がねえ・・・あんなに暴れるとはな)

銀時の心が後ろ暗くなる。
「思うようにいかねェもんだ・・・」

ぽつりと呟いてがしがしと頭をかく、
「あだだだだだ!!んだコレェ、たんこぶかよ!?」
思わず一人つっこみを一人でしてしまう、黙っていたら、口を噤んでいたら
アイツが寄って来るのが解ってしまう。アイツの気配を意識してしまう。

考えるな、忘れろ。
無視すると決めたんだ。
殺しても殺しても息を吹き返して自分に付きまとう銀色の毛並みのけもの。
不吉な暗い暗い目で自分を見詰める、その目に囚われたら終いだ。
見てはならない、あの物云わぬ真っ黒な目を。


ぞわり、と背筋があわ立った。
木刀に手をかけて振り返る。
「高杉」
同じけものの気配を嗅ぎ付けてやってきたのか、
そこには血を浴びすぎてどす黒いけものを体内に抱えた男が一人。
ふらりとした足取り、やや揺れた体、大分酔っている。
押し殺した笑いで喉が鳴る。
「お前んトコのけもの、随分派手に暴れまわったじゃねえか、
こりゃ戦並だぜ、見ろよ後ろ」
くつくつと笑いながら煙管で銀時の背後を指す。


振り返れば、見たくもないから背を向けて歩いてきた山。
山、山、山、山、死体の山。
瓦礫に埋もれて砂埃舞う、焼け野が原の中の死体の山。



違う、目の錯覚だ。
しっかりしろ、連れて行かれるな、引きずられるな。
胸を通り抜けた銀色のけものを黙殺する。
銀時は足を踏ん張る。


「定春がやったのは街路樹ぶっ倒したのと、うちの屋根破ったのと、
地面に穴あけたぐれーだよ。後は真撰組の奴らがバズーカぶっ放したんだ」
不貞腐れたような半眼で素っ気無く応える。

「ふん・・・結局けものはけものだ、思い通りになんざならねえって解っただろ」
高杉がにやにやと笑い続ける。
祭りの日に跳ね除けたつもりだった。

お前と同じにはならない。と。


「うちのペットはちょーっと変わってるだけなんだよ」
銀時は踏ん張った足を動かさず直立している。
決してそちら側には、行かない。
自分の背を、腕を、柔らかく押さえて留めている者たちの顔を思い浮かべていく。一人ずつ。

「はっは!あれがペットかよ?!あの異形の化けもんがか!」
歩み寄ってくる、それは高杉が望んでいる事ではなく、彼の中の黒いけものがそうさせる。招きよせ引き込もうとするために。
「お前ん中にも、いるだろう、それを自覚したろう」
ふらりふらりと歩み寄りながら手招く。
銀時の目の前でぴたりと足を止めると、煙管で胸を突く。
痛んだのは、定春に強烈な殴打を喰らった箇所だけではなかった。
胸の中心に煙管を突き当て、高杉は顔を寄せる。
「けものくせェよ、なあ銀時・・・?」
暗い目は口元こそ笑っているものの酷く悲しげだった。
暴れまわるけものに振り回され、壊す事しか殺す事しか出来ず、死ぬ事も出来ず、苦しんでのた打ち回っているのはむしろ高杉自身だ。
何とかしたいのに、死人の重みをどうする事も出来ないまま生き続けているのは高杉自身だ。

イヌ科のけものは群れる。
群れて狩をする。

(そんなに仲間が欲しいのかよ)
心の中で舌打ちをした。
(そうまでしなけりゃやっていけないなら、重いものを何とかしろよ)

(自分自身で何とかしろよ)


(あんなに死んだのに、お前は生き残ったんだから)

(生きてんだから)


目の前の黒い影を銀時は引っ張って抱き込んだ。
小柄で骨の細い高杉は昔よりずっとずっと痩せこけていて、それがあまりにも不憫に思える。
(自業自得だ、莫迦野郎)
そう思いながら腕に力を込める。

「押さえられるんだよ、どんな化けもんでもけものでも。解っただろ。
マナーを守れない飼い主にペットを飼う資格はねーんだ、」
高杉は自分の中に生まれてしまったけものをどうにも出来ない。
なだめることも、野に還してやることも、望むままの餌のみ与え続け、けものは巨大化して高杉を苦しめる一方だ。

「お前にゃさ、飼う資格なんてねーんだから、捨てちまえよ」
腕の中の体が硬直する。
自分は残酷なことを云ったと解っている。
捨てる、とは鬼兵隊を忘れろ、という事と同義に近い。
「捨ててもくたばらねーんだ、だから大丈夫なんだよ」
高杉の抱え込んだけものは解放しても消え去りはしない、記憶は消せない、けれどその記憶によって殺し、殺される事からは解放される。

「ペットに振り回されてちゃ飼い主失格なんだからよ、お前もいい加減認めろよ」
そう云いながらも銀時の中に空いた空洞を銀色のけものは行きかっている。
蠢いている。生きている。
決して死に絶える事がないのは解っている。
だからこそ進んで養ってやる必要など無いのだ。


ぽふぽふ、と高杉の背中を軽く叩く、出て行け、もうこいつを自由にしてやれ、と云い聞かせるように。
まるで憑き物だ。
(あーあ、ったくあの莫迦姉妹にお祓いでもしてもらえばいいんだ、こいつ)
残酷に諌めたら、高杉は大人しくなった。
「ほれ、今とか、お前んとこのけもの、黙ってるじゃねーの」
笑いかけなどしない、片眉をつりあげて小莫迦にした表情をする。

「じゃーな、ちゃんと生きろよ。いいオトナなんだからよ」

手を放してすれ違う。
生きている道が違う、生きている場が違う、もう違う。
あの頃と。そして今の互いは。

「銀時、俺は」
高杉が硬直したまま、背中を向けて何かを云い掛けて、黙った。
ふん、と溜息を聞こえよがしについて、
「先ずはてめーが飯でも食え。じゃーな」
と云って銀時はまた背を向けて歩いて去る。

(しっかりしろ)

(いい加減にしろ)

(お前だけじゃないんだ)


(お前だけじゃない、でも俺は絶対にそっち、には行かない)




背を向け合った二人の歩む道は、違う。
歩くことも出来ないでいる高杉は、まだ歩き出すことが出来る。
それはけものみちじゃない。









END

銀時と高杉書いてみました!ちょっと「銀さん」コーナーに保存してある『拾う』を踏まえて。
突き放すことでしか、この二人は関われないかと思いました。なまじっか、昔を知っているから。共有した過去を持っているからこそ。


★6月14日のあなた様!
わあ、良かった!お気に召して何よりです!!いえもーこんなですから、気軽にじゃんじゃん拍手でもメルフォでも使ってくださいまし。
あの二人の生活は、とても静かだったと思います。緊張感を押さえ込んで押さえ込んで、本当にコップから水が溢れる寸前のような静けさ。
・・・私は今も「何で師匠はアレンたちをあそこに送り込んだの〜何でそっとしておいてあげなかったのお〜」と切なくなります。
いつか破綻するなら、それまでは二人の悲しい日々をそっとしておいてあげて欲しかったです。
でも、アレンたちが訪れたからこそ二人は必死で作り上げて守っていた虚像じゃない恋愛が出来たのかな、終わる時にだけ確信できる愛なんて嫌だけど、あのまま暮らしていたらもっと悲しい別離が来たのかも知れない、そう思うことにしています。
ありがとうございました!これからも書いていきたいです!

★6月16日のアナタ様!
わあ、うれしいです!!ある意味雰囲気だけで書いているようなSSばっかりでして・・・これは私に書く力が乏しい所為なんですが。
感覚的なものばかりではなくて、もっと構成されたものも書いていきたいと思っています、宜しかったらまた遊びにいらしてくださいね。
でもって、良かったらお好きなジャンルなどこそっとお聞かせくださいませvvありがとうございました!

BGM:天野月子『天龍』、最近こればっかりだなあ・・・。














2005年06月12日(日) OK ? WEAPON. (エリクロエリ)


ああ、貴方に噛まれるのはとても怖いわ。
ああ、けれどとても気持ちが好いの。
貴方と私でなければ出来ない事なのよ、ねえとても甘美だと思わない?
互いを殺してしまうギリギリの境目で戯れる、遊びなんてとても呼べない
殺し合いのような遣り取り。
イノチガケノレンアイ、ってヤツ?聞いたことしかないけどね。




エリアーデはアレイスターの祖父のなめきった巨大な肖像画を
睨み付けた。挑戦的に。
(フン、死んだアンタになんか興味は無いけど、アンタのお陰で
アレイスターはコンプレックスの塊で孤独なのよ。感謝してるわ御爺様)
無理矢理に作った勝ち誇った笑みは、聳え立つ高い高い天井への暗闇へと
吸い込まれる。黒と赤の城。
いつまで保つか解らない、期限付きのレンアイ。
しかも紛い物。
箱庭で造り上げた虚像。


千年公からの催促は無かった。
お供に、と持たされたアクマを壊した事くらいとうに露見しているはずだのに、彼はエリアーデに何も云っては来ない。
使いの者も偵察も寄越していないようだ。
(そうね、私は彼の殺人兵器。使い捨ての玩具の一つ)
階段の手すりに凭れる。
(多少の予想外の出来事の方が楽しいんでしょうね)
ふ、と溜息をつく。
溜息は美容に良くないだなんて、君に溜息なんて似合わないだなんて、
云った人間もいた。
けれどエリアーデは知っていた、ままならない出来事や感情に付く溜息の美しさを。
(さあ、私はどんな表情をしているのかしらね・・・)



「・・・エリアーデ・・・?」
おずおずと声がかけられる、あまりにも弱弱しい控えめな声。
階段の下から見上げてくる心細げな顔、なんて無防備な。
「どうなさいました・・・?アレイスター様」
自然と微笑がこぼれる。
「その・・・あまりに物憂げな顔をしているものだから・・・どうか、したであるか?」
そう云うアレイスターの方が物憂い顔が地顔に近いというのに、と思うとエリアーデの笑みはますます深く柔らかいものになった。
(莫迦な人間ね)
「何も。お茶でもいれましょうか、夕食をどうしようか考えていたんですのよ」
階段を下りながら応える、その靴に包まれたつま先から足の筋肉、指の動きまで全てに意識を込めてアレイスターへと近付く。
蒼白な彼の顔色の中に悦びの色が見えるのが面白くて仕方が無い。


「さ、アレイスター様。ご自慢のピアノを聴かせて下さいまし、私はその間にお茶の用意を致しますわ」
そっと二の腕に手をやり促す、細身で尖った印象の体が強張る。
するりと指先を腕に滑らせてエリアーデは横を通り過ぎた、愉快で仕方が無い。そして満ち足りていた、自分の思い通りに自分のことを見つめる彼に。
その感情が「レンアイ」なのかどうかは解らない、誰かに見せて確認をとる事が出来るわけでもない。
不確かで曖昧で、けれど感情だけは確かに湧き上がる。
それが何と呼ばれるものであっても。

(滑稽かも知れない)

ティーポットを暖めながらエリアーデは思う。

(もう人間の感情なんて忘れてしまって、私には快か不快かしか解らないのだし、人間の様にはいかないわ。真似事は所詮真似事)

神経質そうな音でゆっくりとピアノの調べが耳に届いた、
骸骨のような指で弾かれる鍵盤は、優しくて悲しい。

(後、私に解るのは美しいかそうでないか、壊すだけが存在意義の兵器のくせにね、そんな事が解っても仕方が無いのに)

ダージリンの茶葉をスプーンで掬って丁寧に落とす、
人間の飲食物もここまで進化したエリアーデは摂取する事は可能だ。
味もわかる、特別美味しいということが解るわけではなかったけれど。

じわじわと込み上げてくる苦いものは、虚しさではなかった。
自分は満足している。
このギリギリの境目で命を交えて共に生きている事に、
そしてそうするために互いが殺している事に。人間を、アクマを。
殺しあっている上で成立している今の生活。


砂時計で時間をはかる。
さらさら、さらさら、さらさら、砂はとめどなくこぼれて落下する。
ああ、落ちきらないで、もう少し待って。
まだ、待って。
お願いだから。
もう少しでいいから、タイムリミットがあるのは、解っているから。
今だけ、今だけ、今だけ。

エリアーデはじっと砂時計を見つめる、思い詰めた表情に哀願すら含まれている。無駄と解っている事を願い、請う。
諦念と儚さを抱えた上で、赦しばかり請う。

砂が、落ちきった。

(解ってるわ、私は兵器)

(誰に許しを請うというの)

神などいない。
神の使徒はアクマを殺す。
アクマは神の使徒を殺す。

(解っているわ)

トレイに茶器を乗せて抱える、ピアノの音はゆっくりと絶えず流れ、
エリアーデを招き、そして待っている。



(いいわね?私)


(いいわね?兵器)




解っているから、砂が落ちきるまで、このままでいましょう。
その時までこうしてずっと。
静かに殺しあって、生きてゆきましょう。
このままで。





END

★6月1日のアナタ様
高杉、書きたいですねえ。ううんと・・・でも銀高ってぴんとこないんですよね・・・何だか交わらない二人、と認識しておりまして。
一定似たものを抱えているくせに、それぞれの向かうところ、見ているところが真逆なので、敢えて別のキャラと絡めてそれぞれの違いを書いてみたい二人です。ありがとうございます。

★6月4日のアナタ様
坂土、しかも『アカシアの雨がやむとき』にまで「アカシアの雨に打たれて〜♪」とすらすら歌える方にメッセージを賜って非常にうれしく思います!!!いえ、歳の話なぞ・・・ごにょごにょ。笑。
下手すれば『アカシアの雨』なんて云ったらNokkoの『人魚』ですらもう知らない世代の方も居られる事でしょう。いやはや、不思議なものでございます。其の分凄くうれしかったですのよ。えへ。

土方は死なないでしょうねえ。死ねないでしょうねえ、それこそ史実の様に、近藤が死んだとしても、真撰組があるうちは彼は何が何でも、どれだけ辛くても、狂う事も死ぬ事も出来ずに生きていくのだと思っています。だからこそ燃えてしまう、この腐女子の性・・・!苦笑。
坂本や他の人が引っ張り上げてあげられれば楽になるんでしょうけどねえ・・・。
完全に土→近がベースになったものしか書いていないので、それを一度すっ飛ばしたラブラブな土方受けも、挑戦してみたいなあと思いました。
ありがとうございました!

★6月6日のアナタ様・・・!!
アナタ様のお陰で思わず咽びました!笑。
私だけが楽しいのかと思っていたエリクロエリ、よもやその様に思っていてくださる方が居るとは夢にも思っておりませんでした。
お伝えくださって本当に嬉しかったです。
まだ、それこそ燃え尽きてしまった悲恋だからこそ、もう少し二次創作で書いてゆきたいと思っております。
さて・・・今回のエリクロエリ静かな日常編は如何でしたでしょうか・・・少しでも楽しんでいただけたら本当に幸せです。ありがとうございました!
アナタ様に捧げさせていただきたいと思っています、これ。あ、返品可ですからご安心を。笑。

★6月11日のアナタ様
ああ・・・こんな私の書くヘタレた高杉に需要が在るのかと思うと光栄で倒れそうです・・・!!ではでは次は高杉で!(本当に単純)
私が書くといえば主に近高そよ、なのですが、ちょっと他の方向も考えてみます、ありがとうございました!


★★『悪夢症』でメルフォをご利用くださったアナタ様、返信が非常に遅れていて申し訳ありません、じっくりお返事させていただきますのでもうしばしお待ちくださいませ。本当に嬉しかったんです!!ありがとうございます。

★★ぱのらま様、泡を吹くほどのありがたいメールにも、なにやら後光が指している状態(笑)でお返事打つ手が震えます。プリントアウトして実は何度も読ませて頂いているのです。こちらもゆっくりしっかりお返事させて頂きたいと思っております。ありがとうございます。

皆さま、お返事が遅れていて申し訳ありません。

BGM:RADIOHEAD 『オーケイコンピューター』笑。






2005年06月03日(金) アカシアの雨がやむとき (坂土)


このまま死んでしまいたい。

俺を殺せ、俺を。
殺せ殺せ殺せ殺せ、俺の心を殺せ、俺の感情を殺せ、俺の想いを殺せ、
刀を握る腕と、走れる足と、あの人が見える目が、あればそれでいいから。
俺を殺せ。
俺の心を殺してくれ。
俺の口をふさいでくれ、もう何も云わずに済むように。
何も云わずに済むように。


まだ入梅も前だというのに、此処のところ夕立ちのような雨が降る。
にわかに曇り降り出す雨は地熱を乱雑に散らし、行き場の無い熱は
大気中でこもってどよりと沈んだ。
重ったるい湿気、重ったるい濡れたシャツ、土煙を巻き上げて夕立は乱暴に
土方の身を打った。
煙草がだめになる、と思って胸ポケットからズボンの前のポケットに仕舞いなおす、ここなら刀の柄で濡れにくい。
目を細めて顔を上げる、雨粒が痛い。


木陰に入って、ごまかし程度の雨宿りをする。

このまま死んでしまいたい。

すうと目を閉じた。
立ったまま、雨に打たれて、刀だけ抱えて、このまま。
帰らない自分をあの人は探すだろう、
湿気ばかり立ち込める冷えた空気の夜の中、冷たくなった自分を
見つけたらあの人は駆け寄って泣くだろうか。
ああ、涙を流すだろうな。
でも、それは違う。そうじゃなくて。

このまま死んでしまいたい。



緑の匂いが取り巻く、息苦しいほどに。
土方は溜息をつく。

ふと携帯が着信を知らせた、「坂本」の着信を知らせた。

「・・・もしもし」

「おう、土方、なんばしちゅう?」

「仕事中だよ。もっともこの雨の所為で今は雨宿りだ」

「じゃあ丁度いいきにゃ、ちいと寄っていかんか」

「お前のちょっとはアテにならねえからな、適当に切り上げるぜ俺は」

「構わん構わん、いつもの旅籠に居るがじゃ、寄っとうせ」

「・・・おう、じゃ−な」


電話を切ると、また溜息をついて木陰から空を見上げた。
もっとも、空は見えないし、葉から零れ落ちた雫が目の淵に落ちてきて、
土方は目を閉じる。頬を水滴が伝う。

・・・このまま、


するりと木陰から飛び出ると、夕立の中を土方は駆けた。




「おうおう、ズブ濡れじゃのう!」

「云ったじゃねーか、雨宿りしてたって」

「出来てないじゃのうか、あっはっは、まっとれ拭くもの持ってきゆう」

坂本はいつもにこにこしている。
人好きする優しさや寛容さを変えない。
それは、安心できるものではあったけれど、
土方の胸を酷く痛ませるものでもあった。


「ほれ」
とタオルを投げ付けられた、わしわしと髪から拭く。
どうせ隊服もズブ濡れだ、肩からタオルをかけて煙草を取り出す。


灰皿を前に置いてやりながら
「土方は不思議な奴じゃな」
と口角を上げながら云う。

「何がだ」

坂本は答えない。
ただ小さく微笑んでいる。

「放っておけよ」

ぽつりと呟く。


「放っておけよ、俺のことなんざ」


窓の外の雨音は優しい、
坂本と居る空間は優しい、
安心して、気が緩む。


でも。


放っておけない、と構われる事の
優しさは苦しい。
同情も憐れみも心配も要らない、要らなかった。
要らないのだと思いたかった。
すがりたくないから。
いつか突き放すのなら抱いてなど欲しくなかった。
否、それでも本当は良かった、
今安心して過ごせればそれだけでも良かった。
だからこそ欲しいのは、同情なんかじゃなくて、
泣き言なんて云いたくもないし、


土方の背後から坂本がぎゅうと抱き締めてくる。
力いっぱい込められた力に息をか細く吐き出した。

「濡れるぞ」

「構わん」

坂本は嬉しそうだ。
土方も嬉しかった、だからこそ痛む。
坂本の体温の高さがとても気持ちの良いことも、
自分の気持ちを知って尚抱き締めてくることも、


止めてくれ、

放っておいてくれ、

どうせ捨てるなら、

一人のほうがいい、

飽きられる人形なら、

知らない方がいい、

人の体温なんか、




このまま死んでしまいたい。


雨はやまない。


土方は何処にも行けない。











END

『悪夢症』シリーズ?にコメントを下さったアナタさま、
ありがとうございます。
あれね、本当に歌そのままなんですよ。苦笑。
それが私には沖土に聴こえたから、そうアレンジをしただけなんです。
沖田は、土方の心が近藤から離れない事を知りながらも「連れて行く」と
云えるから、まだ素直なのかも知れませんね。
他の誰も云えないでしょう、土方はましてや云えないでしょうねえ。


今回は浜田真理子の『アカシアの雨がやむとき』から触発。


2005年06月01日(水) 普通の日記

停滞していてすみません・・・。

ぬぐおおお!!思いっきりむさぼり書きたいのですが、
ちっくら忙しいんでございます。

ぼちぼち坂土を予定。
あとエリクロエリ(またかよ)、
市乱、
何かリクエストあったらお気軽に!
励みになります、触発されて指が進みます。

ああ、高杉も陸奥も書きたいわ・・・。
エリヅラもぼちぼち書きたいわ・・・。



銀鉄火 |MAILHomePage