銀の鎧細工通信
目次


2005年04月25日(月) 謳黒 (Dグレ、リーバーミランダ)


もう長いこと謳い上げている。
ひたすらに黒い城で黒い歴史を。
生と死の、生の、黒い生を、謳い上げ続けている。
長いこと。



口さがない者を一喝し、リーバーは見渡す限りの棺に視線を戻した。
ここまで、ここまで酷い状態は見たことが無い。
確実に事態は動き出している。その歯車がどちらに転ぶかは、
本当に「今が正念場なのだ」としか思うことが出来なかった。
今、少しでも圧されたら、伯爵の側へと状況は回転してしまう。

(これだけの人数を火葬するのにどれ位時間を取られるか)

不謹慎でも、リーバーはその時間と手間を算出した。当然の事だった。


本来なら無事に帰還したファインダーの手も借りたかったが、
大半が悲嘆に泣きくれていて、とてもではないが火葬の手伝いなど
任す事は出来ないと思われた。
こんな状態では、それこそ親族のみならず、

誰がアクマとして死者を

呼び戻してしまうか解らない。


(ラビが居れば火判で済ませられたんだがな・・・)

今、居ない者の力を頼っても仕方が無い。
哀しみに呑まれて悲劇の中で伯爵に手招かれる者が出る前に、
何とかしなければ。

(そのために、俺は此処に居るんだ)

拳を握りしめる。


科学班には古株が多い。
元々、エクソシストでも無くファインダーでも無い、事務方のそれも
極秘任務や情報、分析したデータ諸々を扱う特殊な部署だ。
ホームから出入りする事など無く、外界との縁はほぼ皆無いか、
捨てたかで、身の危険は僅少だからだ。つまりは死ににくい。

(最前線でカラダ張ってる奴らのために、俺は居るんだ)


コムイは死者の親しかった者への対応に追われている、
「よっし!メソメソしてる暇ァ無ぇぞ!」

「・・・こいつらの・・・不本意な帰還を無駄にすんな!!」

科学班の方へと振り返りながら、自分を鼓舞するかのように凛とした
大声を出す、それは棺桶に縋り付いて慟哭する者たちの耳にも入るように
意識されたものだった。
科学班のメンバーは黙って力強く頷く。

「・・・早く、安心させてやろう。皆で。」


「お前らは、アクマとして呼び戻される事なんか無ぇってよ」

嗚咽の声が、止まっていた。
リーバーの声は、夥しい数の棺桶に満たされた部屋に静かに、力強く、
優しく響き渡った。
くず折れていた者の大半がふらりと立ち上がり、
「俺たちも手伝います」
と、云った。か細く、涙に枯れた声で、云った。

リーバーは慈しみに満ちた表情で、応えた。
「・・・おう」




はた、と気が付く。
後ろの方で真っ青な(ただでさえ骨の様に青白いというのに)顔を
して必死に立つのを堪えていた、ミランダの姿が消えている。
(あの人にゃ、まだ辛いだろうな・・・俺ですらこんなに酷いのは
・・・初めてだ)



ホームの広い中庭に粛々と棺が運び込まれる、科学班が急遽作った
火力装置で、棺は火にくべられる手筈だった。
リーバーがコムイとの打ち合わせを終え、火葬をはじめようと中庭へ
向かうと、其処には墓標の様に大きな時計が置かれていた。
当然その横にはミランダが、居る。
並べられた棺を開け、その死者を悼む者に囲まれた中で彼女は
跪いていた。祈るように、否、それは、間違いなく祈っていた。

「何してるんだ!」
駆けつけたリーバーに、ミランダは
「時間を吸い取っているんです」
と応えた。

「な・・・」
「ヘブラスカさんと相談して決めたんです」
「何だって?」
最後まで云う事を許されず、先にミランダに言葉を紡がれて
止まった問いをリーバーはようやく口に出来た。

ミランダはその力の特殊さと、各国に散らばった元帥たちの危険に
より、付き従い習う師匠を未だ持っていない。
なので、ヘブラスカに彼女のエクソシストとしての教育は委ねられていた。


「遺体の、傷が余りにも酷い方だけですけど」
「何故・・・」
ミランダは祈るように手をかざし、本来直視も出来ないような
損傷の死体から時間を吸い取り、その死者の姿を生来のものに戻して
居るのだった。
「・・・中には、本人の判別すら難しい程の傷で亡くなっている方も
居ます、・・・それでも此処に帰ってきた・・・せめて安らかに
埋葬するのが、残された人間への慰めだと、思ったんです」
神田が居なくて良かった、瞬間的にそう思った。
絶対に彼は「時間の無駄で、しかも偽善で欺瞞だ」と云っただろう。


「殉職でも、名誉の帰還でも、この方たちの死は不本意です」
ミランダはきっぱりと云った。
四肢がちぎれ、内臓が飛び出、顔も何も判らない様な肉塊に、
彼女は目を逸らさずにただ祈りの手をかざしている。


「許さないから、せめて身体だけは本来のまま、
このホームの土に返って欲しいんです。
憎しみと呪いは、・・・もうこの方たちから解放したいんです」


棺を取り囲む者(多くはファインダーたちだ)は、皆涙を浮べながら
それを見守っている。
よく見知った、生きて笑って怒って泣いていた、暖かかった知り合いが
その姿を取り戻す事は、伯爵たちへの怒りを改めて実感させる行為の
ようだった。
同時に、無残に過ぎる肉の塊と化してしまった仲間が、見慣れた姿に
戻って火の中に消えていく事は、哀し過ぎる諦めとともに、
救いでもあるようだった。
ある者はじっと涙を湛えて直立し、
ある者ははらはらと静かに涙をこぼした。

しかし誰も、慟哭し、号泣し、取り乱しはしていなかった。

仲間の死を受け入れ、闘っていく事への決意を新たにするように、
それは厳かな儀式だった。
呪いと憎しみから解放されているのは残された者にとっても同様だ、
それは悲劇しか産まない。
不本意な死を、不条理な暴力を、それでも受け入れて自分たちは
生きていく、そして闘っていく、そう確認するための作業だった。


リーバーの肩に、ぽんと手が置かれる。
「室長・・・!」
コムイはしいっと人差し指を口に当て、
「僕が許可したんだ」
と小さく云った。

「無念の形はそのままで処理するのが本来は妥当だろうね、
でも、あまりに人数が多すぎる。
この城に、無念と怒りと憎しみと呪いと恐怖が充満してごらん、
僕には其れは脅威だと思えた、だから、許可したんだ」

無念の形、とは、むごたらしい死体の事だ。
そう、損壊した肉体はそのまま朽ちるのが普通の事だ。
でもその普遍の倫理に悖っても、報われぬ想いを昇華しなければ
先に進めない。
機械的に死体を火葬という処理で葬っても、それは弔いにはならない。
残された者の救いの儀礼にはならない、生きていく力を生み出しは、
きっと、しない。

違和感は残ったが、あのミランダがそれを提案し、自分で動いたのなら
それだけでも意味があるような気がした。
現に、見知った顔が戻っていくのを見守る生者の顔は、
当然哀しみに満ちてはいるが、そこに怯えや悲劇性は見られない。

「でも、これじゃ彼女が保たないんじゃ・・・」
リーバーはぼそぼそと低くコムイに問うた。
「大丈夫、棺にまた蓋を閉める時には、時間は戻しているんだよ」
「・・・!?彼女、もうそんな事が出来るんですか」
「みたいだね、物凄く努力しているみたいだよ、ヘブくんが誉めていた」
「・・・そっすか」


ミランダは汗をかき、唇を噛み締めながらも、慈しみと労わりと労いを
込めた細い手をかざし、ひたすらに生前の姿を残された者に見せてから
死者に時間を返し、炎の中へと送る作業を続けている。
時間もさほど長くはかからない。

(これならタイムロスもそう大きくは無い。機械的に棺桶を
火にくべていくよりかは余程人間の葬式にふさわしい時間だ)


燃え立ち、消えない炎に照らされて、その弔いの行為は夜更けまで
行われた。
死者は煙となって空へ登り、生者はそれを見送った。
遺灰は逆三角錐の容器に収められ、祈りの歌とともにホームに
ゆっくりとまかれていった。
その繰り返し。
ひたすらな繰り返し。



夜じゅうずっと、弔いと歌は続き、葬列は薄明かりと香とともに
ホームを練り歩き続け、連なり続けた。

夜明けになって、最後の一人の遺灰が撒かれ、中庭に仲間たちの
葬列が戻ってきた時、ミランダの時計が、響きを上げた。
哀しく、暖かく、切なく、染み渡るような
「ゴーン・・・ゴー・・・ン・・・」
厳かで慎ましい響きだった。

皆が引き上げても、ミランダは時計に寄り添い、
跪いたままで、燃え跡を見ている。
夜明けの光が彼女を仄かに包んでいる。


「お疲れさん」
湯気の立つ紅茶を手渡してやる。
「リーバーさん・・・」
ありがとう、と云って受け取った紅茶のカップを両手で包み、
ミランダはまた燃え跡に視線を戻す。
穏やかな表情では、無かった。
瞳いっぱいに涙を湛え、それは震えながらかろうじて落下を堪えていた。
「ごめんなさい、勝手な事をして、忙しいのに時間をかけさせて」
声は抑えていたが、手は震えていた。

「・・・自然の摂理にゃ反してるけど、今の俺たちには、
良かったんだと思うぜ。ありがとな」
ミランダの横にリーバーは腰を下ろした。
ふるふると彼女が首を振る。

「不自然で、異常な事だとは思ったんです。でも、大切な人が
あんな姿のまま、それが最後だなんて、あんまりだと思ったんです」

「確かにあれが最後に見る姿じゃ・・・たまらんわな」

「・・・リーバーさん、私は矛盾してる。自信が無いんです、
本当ならどんな姿であれ、それがその人の最期ならそれをそのまま
受け止める事が死との対峙だと思ってるんですよ・・・」

俯いた拍子に、ぱたん、と紅茶の中に涙の粒が落ちた。

「悪いな、俺も上手い言葉が思いつか無ぇんだ。
・・・あんたの努力が良かったのか悪かったのかも、正直解らない。
でも今が異常事態なんだよ、
・・・仲間の内からアクマを出すより、良かった、そんなエグい事
ばっかり考えちまう」

ミランダが無言のままこくりと肯いた。

「ただ、俺はあんなに殺されたのも初めてだが、アクマを破壊しない
エクソシストを見るのも初めてだった」


「イノセンスの力で人間の魂を救済するエクソシストは、初めて見た」



「憎しみと怒りだけで、人間長くは保たねえよ、
・・・あんたは勝つために、生きるために、摂理を曲げたんだ。
それは、・・・善いとか悪いとかじゃなくて、
生きていくためには、必要だったんじゃねーかな・・・」


また、一滴、紅茶に落ちた、
「ありがとう・・・」
か細くミランダは云った。

つり上がった眉をハの字に下げ、
「相当疲れたろ、立てないんじゃねえの?」
リーバーは、ふ、と苦笑して訊く。

「ええ、実は大分朦朧としてるんです」
真面目くさって応えるミランダに、
「アンタだけなら部屋まで抱えていけるけど、時計と一緒は無理だな」
と云うと「此処で大丈夫ですから」と予想通り応えた。
彼女は時計から離れない。
またリーバーは苦笑して、
「じゃあ、俺もこいつを借りていいかい」
と訊く。
ミランダはくるりと横に顔を向け、リーバーをじっと見つめると、
微笑んで「ええ、勿論」と云った。






仮眠を取って、火力装置の撤収に来た科学班の一人が、
見たのは時計に背を預け、
互いの肩にもたれて寄り添い眠る二人の姿だった。



生を謳おう、
生を謳おう。
それが例えどれ程までに黒いものであっても。
生きている限り、生を謳おう。







END

オウコクシリーズ第3段、はDグレでした。
謳歌、の謳です。
アレンなんかは特にいい例ですね、呪われている黒い力であっても、
生を謳歌すること。それは希望なのではないか、と今週の本誌の
衝撃とともに思ったSSでした。

銀迦ちゃん、わしはやっぱりリーバーが好きですよ。
いや、ラビも大好きよ。
ただ、ミランダさんと絡めるとなると、大人なリーバーかな、とね。

ええと、『追う哭』のBGMはEVANESCENCE『FALLEN』、
『歐黒』のBGMはGiovanni Mirabassiの『Pueblo Unido Jamas Sera Vencido』でした。


2005年04月24日(日) 追う哭 (土→近)


もう長いことあの人ばかり追っている。
慟哭も叶わない、近くて遠い処でずっと。


声に出さずに恋う。
一言も云わずに泣き続けている。
こんな風になってしまったのはいつからだ?
こんな想いなど抱くようになってしまったのはいつからだ?
戻りたい、帰りたい、ただ単純に彼を兄の様に慕っていた頃に。

大声をあげて嘆き、泣く。口は閉ざしたままで。
何も云わずに付いて行く、あの人の味方に、ただ側に。
吐いて行く、自分の思いに嘘を。
就いて行く、彼の助けとなる立場に身を置いて。
点いて行く、彼は俺の灯りだ。明るい光。
それを追う俺の影はどんなにか暗いだろう。

(後ろ暗い、の暗い、だよな)

土方は暗い部屋で一人、自嘲する。

(ガキの頃からつるんでたのに何を血迷って、俺の、)


(想いの質は変わっちまったんだろうなあ)

何度考えた事だろう。
憧れがただ過ぎたのだと、何度思おうとしただろう、
尊敬の仕方が少し幼稚なのだと、何度自戒しただろう、
兄貴分を慕う思いに過ぎないのだと、何度自分に云い聞かせただろう。


でも駄目だった、無理だった。
師弟愛?兄弟愛?幼馴染?憧憬?
何にも当て嵌まらない思慕はその度に募った。
それは信じ難く、受け入れがたい事で、土方は音にしない叫びを
どれ程あげて過ごしたか。

同性を想うことに対する違和感も当初は感じていた、しかしそれは
取るに足らないイデオロギーなのだと承服するのに時間はかからなかった。
本当に心底、想ってしまう相手に性別など関係ない。
その人物への興味が、性的に働いても何も不思議な事は無い。
当たり障りの無い通念で、人間関係における感情を抑制し歪んだ枠に
押し込めている事の方がむしろ異常だと思えた。

(惚れた相手が同じ性別でも、それ自体にゃ問題は無かった)


(詰まらん偏見なんぞ、根拠もねーし莫迦げてる)


(でも)



あの人だけは想ってはいけなかった。



そんな風に想ってはいけなかった。



何故だかそう思えた。
彼の無償の笑顔に、与えられる生き生きとした命の機微に、
差し伸べられる力強い腕に、支えられる頼もしい背中に、
それらの純粋さに対して、自分の感情は、醜いと感じた。

独占したい、そんな風に思ってしまう自分を嫌悪した。
実際にそんな事になったら、即座に舌を噛み切って死にたいほどに、
彼の分け隔てない人柄を好んでいるのに。
まるで矛盾している自分の感情は、コントロールできない。
混乱しきって、それでも離れたくないと願ってしまう。
もつれた想いが土方を雁字搦めに縛りつける。


(そもそも俺は、あの人が難しい顔してるのが似合わないから、
それは昔から嫌だったんだ。笑ってる方が似合ってると思ってた。
絶対そのほうがイイ。単細胞の人情家なんだから、豪快に
笑ってられりゃ周りだって安心する)




昔から鼻っ柱が強く、負けず嫌いで愛想が無くて、奉公に出されても
勝手に帰ってきてしまい、揉め事ばかり起こすわでバラガキだなんだと
呼ばれる気難しい厄介な土方を本気で怒り、本気で擁護してくれたのは、
本気で土方の事を考えてくれた人間はそう居ない。
土方の云い分を最後まで真剣に聞いて、取り合って一緒に考えてくれた
人間はそう居ない。

「トシは苦労性で生真面目なんだな、そんな難しい事ばっかり
考えるな!俺の所で剣術でも習ってカラダ動かせよ!」
そう云って豪快に笑って背中を叩いてくれたのは、彼だけだった。

行灯も点けずに部屋の壁に寄りかかって煙草を呑んでいる土方の頬が
ふ、と緩む。


こんな風に、ただ明るい思い出だけ抱えて、
ただ側に居られたらどんなに良かったろう。

惚れっぽい(けれど一途な)彼が、「好きな女性が見つかったんだ」と
土方に告げるたびに、胸の奥が焦げつくようになってしまった。
あまりに大切だと、愛しくて盲目的に信頼していて、支えられて、
そうして生きている限り彼への想いはどんどんと降り積もる、
そしてそれが焦げつくばかりで土方の全身は焦げついた想いがすっかり
剥がれ落ちないまでになってしまった。

募る、ちりちりと炎を小さく放ち、燃え尽きる。

灰は無風の環境の中では、何処にも吹き散らされる事無く、
ひたすらに堆積し、その層は厚みを増して一層酷く黒く硬くなった。



「しんどいだけなんて、もう恋愛じゃないぜ」
「そりゃ本気で惚れてりゃ辛い事なんて幾らでも有るけどよ」
「なんも得られるもんが無いってのは、違うよ」
非番の隊士が呑んで帰ってきたのだろう、よもや鬼の副長が
真っ暗な自室に居るとも知らずに、部屋の前を通り過ぎていく。

(しんどいだけ、ね・・・)
煙草の煙を鋭く吐き出す、真っ直ぐに放たれた煙は薄く霞む。

(そりゃしんどいさ、とても云えない感情だ)
告げたら、あの人はどれだけ困るだろう。困った顔なんて見たくない。

(忘れられるモンなら忘れてぇよ、気付きたく無かった)
間違った方向で想い始めてしまった時から遣り直せたら。

(でもなあ、)
土方は煙草をもみ消し、両手で顔を覆った。


(俺の、あの人への執着は、妄執に近いくらいで、決して楽しいような
心が浮かれるような色恋じゃ無ぇさ)
深いため息をつく。重い。


(でもなあ、笑ってられりゃ嬉しいんだよな・・・すげえ)


哀しいまでに心は定点から離れない。
今の自分の原点とも思えるくらいに、彼の存在は土方にとって大きかった。
彼が居なかったら今の自分は有り得ない。


どうしてこんなに信じきってしまったのだろう。
どうしてこんなに愛しいと思ってしまったのだろう。
どうしてこんなに大切だと思ってしまったのだろう。
どうして自分は間違ってしまったのだろう。


報われないどころか玉砕すら出来ない。
失うのが怖かった。今の関係が。


無風地帯で全てがあの人のため。

定まってしまった心の指標は動かない。

好きなものは好きなのだと開き直っても、苦しい。

背中を守って支えて行く事は、他の何にも代えがたい。


(黙って追うしかできねぇよ)


(あの人の墓の前で哭しても、俺はやかましい犬みたいにそれを
守って生きていきそうな気すらするぜ・・・)




土方の携帯が着信を知らせ、部屋を明るくする。


「よーう、赤目の黒犬くん、元気ィ?」

「よう、糖尿で甲斐性無しの白髪頭。呑んでて金でも足りなくなったかよ」

「そんなに呑んでねぇよ、ばーか。これから呑むんだよ、
多串くん、出てこない?」


風が吹いて、風通しが良くなって、堆積した灰と焦土を吹き晒して
欲しいと何処かで願っている。






END

オウコクシリーズ第2段でした。
「哭」の字には慟哭、とあるように大声で泣く、以外にも
哭す、と葬式や墓前で大声で泣く、という動詞があり、字の意味としては
口2つと犬で、犬が大声でなくものの代表とされており、口二つとは
やかましいことです。
私は土方を『赤い雷と黒犬』で書いたように、虹彩がグレーがかっていて、
光の反射で赤く光る眼になる、黒い忠犬だと思っていまして、そんで
この字を使いました。

ちなみに高杉の「刻」も苛刻などのように骨身を削るような苦しみをする、
むごい仕打ちをする、の刻す、と時間のきざみ、の両方でこの漢字を
使っています。
広辞苑片手に当て字。笑。
オウコクシリーズまだ続きますよ、元はたまたま手近にあった
笹川美和の『黄黒』(オウコク)のCDからなんですけどね。

★レスポンス!★
高杉ファンで感情移入をしてくださったというアナタ様、
とても嬉しいです!正直、私は自分の書く高杉は他所様の高杉と違って
陰気で、あんまり「マッドで格好好い高杉!」じゃない事に結構ビビって
おりまして・・・安心しました。
高杉ファンの方にそういう風に云って頂ける事は本当に嬉しいです。
カップリングもマイナーですし、自信ないもので、色々と。苦笑。
有難うございました!高杉はこれからも書いていきます。
相方であり、サイトオーナーの金銀迦ちゃんと近高本も出しそう、です。






2005年04月23日(土) 負う刻 (高杉→鬼兵隊)

もう長いこと過去ばかり負っている。
刻まれてしまった時も、人も、戻らない。


自分ひとりが残ったわけではなかった。
ある者は「お前の所為で皆は死んだのだ」と吐き散らかして去り、
ある者は「皆の死を無駄にしない為にも俺たちだけでまた仲間を募って
戦い続けましょう」と懇願した。

誰かの所為だ、
誰かの為に、

もう、高杉にそれらを負う余力は無かった。
願いや想いごと自分も潰えて終わったのだと思っていた。
正直なところ、高杉に懇願した者も、いつ「お前の責任だ」と
罵り出すかも解らなかった。
「弔い合戦なんて辛気臭いのは御免でな、鬼兵隊は解散だ」
そう云った時の残った仲間の眼は、事実既に「裏切り者」と
高杉を攻めるものだった。
遣る瀬無い哀しみが突き刺さった、けれどそれで良かったのだと
高杉は思っていた。

鬼兵隊内で、不信と裏切りと呪いが渦を巻き、これ以上の血を流し、
仲間であった人間同士が内部から殺しあうより余程マシだと思った。
戦って負けて、晒し首にされて、それで鬼兵隊は壊滅、そう歴史に
刻まれた方がマシだと思えた。

もう自分の大切なものが、これ以上無いほどまでに壊れるのが、
余りにも怖ろしく、哀しく、ましてや内部崩壊などという事態になったら
本当に高杉は死んでも死に切れない。
臆病心が無い訳でもなかったが、踏み躙られきった中の最期の誇りだった。

離散していく仲間たちを片目だけで見送りながら、
それらの残す思いを、全て全て全て残さずに自分が引き受けようと思い、
全員の背中を見届けた。
怒りと罵りと諦めと呆れと軽蔑と無念とを、高杉に云い残して去って行く
者たち全員を、高杉は見送った、最後まで見送り続けた。




誰も居なくなった時、城の門扉の前で自分の首を掻き切ろうかとも
考えた。自分たちが晒し首にされるべき者だと云うのなら、進んで
晒しに行ってやろうかと。

(それだけじゃ足りない)

自分の首から噴き出す血、身体から一滴も残すところ無く
城の前で搾り出したとしても、とても足りない。
死んだ仲間の、残された仲間の、去った仲間の、自分の、
感情はその程度で昇華しきれるものではなかった。とても。


どうしてやろうかと考え続け、潜伏しては逃れ生き延び、
何の為かと自らに問い続け、自らの体内に飲み込み蓄えた想いたちが
腐敗しはじめ、高杉の中で毒となって高杉自身を蝕んでも、
それらは高杉にとっては自分の四肢よりも臓物よりも器官よりも、
分かち難いものだった。
目を失くそうとも、腕を失くそうとも、それだけは失くしたら
死んでしまう、と思うものだった。


忘れて無かった事にして生きていけ、という自分の暗黙の宣告も
相当に仲間たちにとって酷だったのだと悟ったのは、風の便りで
仲間が過激派攘夷志士として粛清されたり、自殺したと耳にする頃だった。


詫びる言葉など持たない。
ただ、高杉はこうべを垂れた。

そして生きることだけは止めない。



腐敗し爛れ、虫が湧き、毒となって侵し続け、
いつか命を奪うものだと
解った上で高杉は手放さない。
鬼兵隊を手放さない。

(この毒に殺される以外に俺に見合う死に方は無い)

詫びる言葉など持たない。
ただ、高杉は抱えている。

そして刻まれたものを負い続ける。



さあ、この毒が、この呪いこの想い、この哀しみこの無念、この怒り
この呪詛この、この、あらゆる情念が自分を殺すまでに、
俺は出来るかぎりの事をしよう。
呪いをなすりつけなどしない、
毒を吐き散らしたりはしない、
全て俺のものだ。
全て俺が負うものだ。
誰にも分けたりはしない。
誰にもやらない。



全て飲み込み内に秘め、
じわりじわりと蝕まれ、
高杉が野垂れ死んだ場所から
この呪いは、毒は、ようやく他のものを侵し出すのだ。
その王国の領土を拡大し始めるのだ。



高杉はじっと自分の両の掌を見つめ、そうして
腹に手を当てた。

(まるで鬼胎だ)

低く笑う。

(そうか、そもそも鬼兵隊の生みの親は俺だしな、)

くつくつと俯いてつき上げる笑いは、哀切に身悶えているようでもあった。

(俺は、また、まだ鬼を産むのか)


(俺の身体を養分にして、せいぜい立派な鬼になれよ)





その時まで、高杉の身体を食い破って鬼が産まれるその時まで、
負うのだ、全てを。
負い続けて生きるのだ、過去を。
負い続けて生きるのだ、死人を。
負い続けて生きるのだ、想いを。










END

オウコク、とタイトルは読んで下さい。
次は土方→近藤でオウコクです。
どんな字になるかはお楽しみ。

★拍手レス★
土方自暴自棄気味・・・のアナタ様。
報われないと解っていながら、忘れる事も出来ない片想いを
続けていたら、時々ヤケになるのではないかと、私は思っていまして。
そのヤケに周囲が付け込んでいるのか、土方自身が付けこまさせているのか、そう思うと因果で萌えるのでございます。笑。
ありがとうございました!



2005年04月21日(木) 撃墜 (山土)


苛立ちが募る。
土方に初めて触れた、あの日以来、どんどん募る。
進んで溺れ死にしようとしている土方。

そんな事で、死体に近藤さんが縋り付いて泣けば、
そんな事で、満足なのか。

愛されないなら、忘れられないように、と?
(阿呆くせぇ)

そんな自己犠牲が土方なりの精一杯なのかと思うと、
莫迦らしくもあったのと同じ位哀れだった。
堅牢な要塞に閉じこもっているつもりでも、それがどれだけ
穴だらけなのかに、土方は気が付いていない。

(そうやってこの先も生きていくつもりなのかよ)

いたたまれなさに、いっそ痛みが走る。

「山崎」
呼ばれて顔を上げる、

ああ、この人はどんなものを抱えていても、こうして
凛然としていられる。
襖に片腕を付いて、咥え煙草のまま書類に目を落としている。
ガキだと云えば、この人も俺も変わらないレベルだ。
想うばかりで、取りに行かない。
敢えて、行かない。

「不備でもありました?」

立ち上がって土方に歩み寄って、書類を覗きこむ、
「いや、不備じゃねぇんだが、此処んトコ気になってな、俺の記憶と
違ってたからよ」
「ああ、その件ですか」

何食わぬ顔で過ごすこの日々に、一体何が残るんだろう。
土方の切れ長の目が伏され、睫毛があわい陰を作るのを見ながら、
よぎるのは近藤の顔でもあったし、沖田の顔でもあった。
あの万事屋の旦那といい、坂本辰馬が土方にちょっかいを出すのも、
理解できなくは無かった。

(だって、アンタ莫迦なんだもん)

「副長」

「ん?」

目線だけぱっと上げた土方に口づける。
すぐ離れる。
山崎の方が身長が低いため、上目遣いになる、
土方が反応をしないので、腕を引っ張り襖を閉める。
後頭部に手を当てて引き寄せる。
額をくっつけ、

「副長、アンタ、どうすんですか」

「何がだ・・・?」

予想外の穏やかな声が山崎の目の前から響く、

「自分は肝心な事を何も云わないで、周りにちょっかいばっかり
出されてて、それでいいんですか、何とも思わないんですか」

「ふ・・・何の話だよ」

柔らかく破顔する。
「俺が何も気付かないと本当に思ってます?」
その笑顔に釘を刺す。

土方の前髪が鼻先をくすぐる。
「何を何処まで知っているんだろうな、お前は」

「・・・俺だって解らねぇよ、こんなの悪い夢かと思うぜ」

ああ、今のは、近藤さんと・・・おそらく、高杉晋助に付き合いが
あることだ。
そうじゃない、近藤さんの事じゃなくて、あんたのことだ。

「だからされるがままなんですか、俺にも、万事屋の旦那にも、
坂本にも、・・・沖田隊長にも」

「どいつもこいつも、気が知れねぇ。・・・お前は、どういう
つもりなんだよ、俺に何を求めてるんだよ」

莫迦野郎と怒鳴って殴れたらよかった。

おそらく今なら土方に触れても、この人は抵抗しないだろう、
でもそんな事をして何になる?
10代そこらの子どもじゃあるまいし、セックスで何かが変わるか?



山崎は溜息をついて手を離す。
土方の髪の感触が掌に残る。
「そうやって、他人任せにして、自分は関係ない振り決め込んでのが
腹立つんすよ、他の奴らも多かれ少なかれそうなんじゃないすか」

「機嫌悪いな」
襖に背を預け、腕を組んで土方が云う。

「アンタに苛々するもんで」
ひるまず、真っ直ぐに見据え、冷静な口調を意識して云い放つ。


「俺は、謝らんぞ」

土方が少し笑って応えた。

(それがアンタの答えかよ)

「・・・でしょうね」

(道化なのは俺たちかも知れないな、この人が変わるとでも
思ってんのか、いや、思ってるよ)



(そうとでも思わなきゃ、見てられねぇよ)



「はいはい、山崎退、職務に戻ります」


「おう、次サボったら斬るからな」

「サボりじゃないですよ、上司に目を配るのも監察の仕事ですから」


「よく云うぜ」
煙草に火をつける。
「副長こそ、いつまでもそんな風に隙見せてたら、
どうなるか解らないですよ」
殺気を込めた目付きで口にしてやる、せめて、それくらいは。
せめて。せめて。


「・・・ま、気を付けるぜ」


云いながら事務室を出て行った、後に残るのは煙草の残り香。



(あーあ、どうしてくれようか)

山崎は事務室に一人残り、長い髪をわしわしと梳きながら
作戦を練る。
撃墜したところで、何にもならない、不毛な作戦だ。
でもやってみなければ解らない。

こんなにも苛立つのは、あまりに遣り切れない。

仕込んでいる小刀を、柱にめがけて投げ放つ、カツ、といい音を
たてて綺麗に柱に突き刺さる。
土方の、ただ真っ直ぐな軌跡を、方向転換させたいんだ。
墜落しても同じ処へまた向かうだろうけれど、
何もしないよりはマシだ。
何もしない土方よりはマシだ、多分。


苦い思いを飲み込んで、山崎は文机に向かう。








END


進展したかと思えば、やっぱりどうどうめぐりな山土。
強引さに物を云わせる沖田か、
意外性で惹き付ける銀さんか、
包容力でなだめてやる坂本か、
策略と思い遣りで攻める山崎か、
誰か土方を何とかできないですかねえ。ふへへ。




2005年04月20日(水) 絶望の臨界点 (おお振り、ハルアベ)


「おい、起きろよ」

「さっさと起きて、服着て帰れ」


「寝たふりしてんじゃねえぞ、親帰ってきちまう」



「タカヤ」



ふわ、と目蓋を開ける。
眼に入ったのは、真っ白い昼間の光、カーテンに映って
その光は散乱する。更に白く。

ましろなひかり。

ずるり、と重い身体を引き起こしてみれば、榛名は勉強机に
足をかけて雑誌を読んでいる。Tシャツにジーンズ。
こいつは、服も着て、手近な雑誌を読みながら、今、俺に
起きろといったのか、そして出て行けと。見向きもせずに。

少しも心が動かない自分にむしろ嫌気がさした。
何とも思わない、余りにも何も感じない。
なのに、何で無駄な体力を使ってまで、休みの日にこんな事を
しているんだろうか。
ストレス発散になりもしないセックス。
性欲ならオナニーで処理した方が余程マシだ。


ばさ!

榛名が投げ付けた雑誌が頬からこめかみにかけてぶつかる。

「呆けてんじゃねえよ、ウゼェ奴だな」

実に凶悪な表情だった。
それも、何とも思わない。腹も立たない。
恨みつらみ憎しみ呪い、全部が丸出しで、醜悪に過ぎて、
いっそそれは一つの造形美だと感じられた。


それを見ながらも、部屋のただ明るい光に、阿部は自然と
口が笑みの形を作るのを押さえられなかった。

また要らぬ暴力を受けるので、それを悟られない様に
俯いて散らばった服を拾う。
高校入試に備えるために、シニアの3年生が引退するまであとわずか、
榛名はもうすぐ居なくなる、自分の目の前から。
マウンドでの、あの本当の目の前から。
にも関わらず、こいつは何をしているのか。
榛名は、何をしているんだ、自分と。

(本当に・・・すげぇ馬鹿、コイツ)

心の中ではネジが飛んだように大笑いをしているのに、
阿部の表情はもう動かない、無表情で無言のままトランクスを穿き、
Tシャツをかぶる。
カーテンがひるがえり、阿部の裸の背中を滑るようになぞった。
そして、その光の反射は榛名を照らす、
また榛名は阿部の方を見ても居ない。


(元希さん・・・アンタ、何してるわけ?)


極力、腰を上げたくなかったのでベッドに座ったままジーンズを
ずるずると引き上げる。
靴下を探そうとして、(ああ、今日はサンダルだった)と思い至る。
ようやく立ち上がると、筋肉が痛んだ、日頃使わない筋肉が。
カチャカチャとベルトを締めていると、

「タカヤ」

と投げやりに呼ばれる。
「なんすか」

「お前、髪伸びたな」

「ああ、別にボウズじゃなきゃいけないって訳じゃないっすし」
阿部も、榛名の事を見ないままベルトを締め終え、
「じゃ」
と云って部屋を出て行こうとする。

もう、榛名の表情に興味もなかった。
見なくても解る程度には見たし、榛名はその程度の表情しかしなかった、
そう、ただ攻撃的で威圧的な表情のみが僅かなバリエーション。
知ったことといえば、射精の時だけ、一瞬、
酷く泣きそうな表情をするということだった。
それも大概が無理な体勢で挿入されるため、あまり見ることはない。


ドアノブに手をかけた時に
「お前どうすんの」

と問われた。

「何がすか」

「俺が辞めたら」








いよいよ、堪えられなかった。
阿部は明らかに笑顔でない表情のままで噴き出し、
音声だけで激しく笑った。

榛名が、目を見開きながら顔を上げたのが、白い光の中で
スローモーションのように、見えた。
また剣呑な薄暗い目をしているのも、はっきりと見えた。
ゆらりと椅子から立ち上がり、身を屈めて笑い続ける阿部に近寄ると
胸倉を掴む、榛名の言葉を挟ませずに


「どうもこうもねえよ、俺は続けるぜ?何事も無く」

阿部は云った。

「あんたが辞める?それが何だよ、」


「ふ、くく・・・何でもねぇ事なんすよ、俺には特に問題ない」

ぶるぶると、阿部の胸倉を掴んだ手が震える。
阿部の笑いが更に増す。

「他のピッチャーの球、とりますよ」


そう云うが早いか、阿部は激しく殴りつけられる、
よろけた処を、腹に蹴りを入れられる。

「う・・・っぐ・・・げほ」

床に両手をついた阿部に榛名は云う
「お前、今更他のピッチャーで満足できるとか思ってんのか?」

ごろんと仰向けになり、咽ながら応える。

「そりゃ、ね。アンタよか強い球投げられる奴はいねーでしょ」

また口が笑いを形作るのを今度ははっきりと感じた、
口の中でじわりじわりと血の味が広がる。
明るい日差しの中で、榛名はあまりにも惨めに見えた。



「でも、それが何だよ。
精液も独りじゃぶちまけられねーような甘ったれに比べりゃ
問題ないっすよ、
俺が指示を出すんだから、どうとでもなる」



阿部は両手を交差して、その甲で顔を覆う、
情けないほど、笑いは後から後から込み上げた。
情けなかった。
ただひたすら情けなかった。


あまりに笑いすぎて、涙が出てきた。
自分は泣いているのか、笑っているのか、阿部自身にも解らない。


「元希さん・・・アンタ全然変わらなかったな、ホント、全然、
変わんなかったよ」


涙がこめかみを伝って、耳に入って気持ちが悪い。
手の甲でそれをぬぐい、阿部は立ち上がった。


硬直している榛名を見遣る。
黙って睨みつけてくる、それが一層、

哀しかった。


ふ、と阿部は微笑んだ。今度は本当に心からの微笑みだった。


「付き合ってやりますよ、アンタが俺のピッチャーでいるうちは幾らでも」


云い放った後に、榛名の顔は見ることが出来なかった。
そんな事は、とても出来なかった。
暴力すら振るえなくなっているのは、榛名が打ちのめされている証拠だ、

(俺がそれを望んだんだ)

でも阿部は榛名の顔を見ることが出来なかった。

(俺はわざと、元希さんの一番痛いところを抉ったんだ)


(ここで殴るなり、また犯すなり、せめて出来りゃね・・・)

それは矛盾した願いだった。
阿部の、願いだった。
自分によって、阿部という人間、阿部という捕手によって、
榛名が変われればいいと思った。
思っていた。




「お邪魔しました」

云って出た屋外は、一層眩しく、阿部の全身を刺し貫く。


それから榛名が引退し、チームに顔を出さなくなるまで
数回のセックスをし、暴力的な投球をされ続け、実際に殴られもした。
それで、終わりだった。








END

ええと・・・御要望があったので、書いてしまいましたおお振り。
本当に私は単純なもんで、メッセージで感想を頂けると、めっきり
イメージやら妄想やら意欲が膨らむんですね。
えらく夏先取りなおお振りでした。


レス:
ゆいさん
「一途で哀しい」っていうのは、案外私の書くキャラクターに共通して
いるかも知れない、とお言葉を頂いて噛み締めてみて思いました。
そうなんですよね、本当に土方は哀れで・・・彼の身体だけじゃなくて、
執着心ごと、誰か攫えたら面白いのに。と思いつつ、それは難しいよなあ、
なんて思っています。
せいぜい私の妄想で、銀さんを筆頭に皆には頑張ってもらいます!笑。
ありがとうございました!

15日23時のアナタ様
「お話の空気にうっとりです」だなんて有難うございます!
空気感や風景描写に実は力を入れて、想像を読んで下さる方なりに
して頂けたらうれしいなあ・・・と思っておりますもので。
光栄です、これからも頑張ります。ありがとうございました!

SUIさん
よろめくまでだなんて・・・むしろ私の方こそ、メールでも書かせて
頂きましたが、熊野比丘尼にまで反応頂けて、本当にうれしいです。
ありがとうございます。
いつもながら、私が書いていること以上のものを感じ取って、お伝え
下さる事には本当に感謝で一杯です。

17日16時のアナタ様
まあ、近藤の喉が潰れた時の高杉の反応・・・いい味かもしていた
でしょうか?嬉しいです。
んーと・・・何処の部分でしょう、殺す殺さないの遣り取りでしょうか、
呆けたところか、手紙を破いたところかな?なあんて、書いた本人が、
何処で反応頂けたかを想像・妄想しなおしてはうふうふしています。笑。
ありがとうございました!

BGM:キャシャーンサントラ
最近読みかえしブームが長い、キャシー・アッカーを読み直して超感動、
とか中山可穂の『卒塔婆小町』とか、笙野頼子とか・・・。










2005年04月15日(金) 潰れた喉 (近高そよ)加筆版。

「あ、忘れてたぜ、近藤!」

「あい?」

片栗虎の娘のデートを妨害するために、急遽非番の人間を
シフトに入れ、休みをとって秘密裏の仕事としてかり出された、
近藤・土方・沖田の3人は遊園地からの帰り際に
片栗虎からそれぞれ缶ビールを奢ってもらい、帰るところだった。

口の端に泡をくっつけて、ごくごくとビールを呑んでいた近藤は、
缶のフチを咥えながら振り返った。
「ほれ」

「文、っすか」

「お前なあ、もてないからって、それは不味いからな、
あの方にだけは手ェ出すなよ、本当に色んな意味で犯罪だからな」

片栗虎の鬼気迫った表情(元来、凶悪面だが)に、沖田が
「かー!この一杯のために生きてるー!」と腰に手を当てながら
ごきゅごきゅと呑み干すオッサンプレイから「何々」と覗き込み、
土方はまだ水滴をばたばた垂らしながらそれを見ている。
「何の話だよ、とっつあん」
はらりと裏返してみると、そこには、流麗な筆致で「そよ」と
書かれていた。

「えええええええええええ?!」
近藤と沖田の絶叫がこだまする。





残りのビールは呑めなかった、少しぬるくなってしまった其れを
沖田にやり、近藤は自室で文を開く、大方の予想はついていた。

<近藤勲様>
と書かれた手紙は実に達筆なものだった。






「・・・あーあ・・・子どもの恋文の方がまだマシだよ、こんなん」

部屋にそのまま大の字で倒れこんだ。

「高杉なァ・・・お前ホント厄介な奴だよ・・・」

仰向けになりながら縁側の方へ顔を向ける(近藤はいくら土方に
たしなめられても、自室の襖を閉めない)、
朝一でかり出されたため、まだ外は日がやや傾きかけた頃だった。
明るい光を、鳥のさえずりが聴こえる、新芽が透ける様に美しい、
「ィよいせっと」
近藤は起き上がり、「ちょっと出てくる」と云い残して屯所を出た。
「え、局長・・・その格好で行くんですか・・・」
門番をしていた隊士のつっこみも耳に入らないまま、ふらりと
歩いていく。『大江戸遊園地』特製Tシャツにナイロン地のスウェット、
それに草履履き、どこからみても体育会系の気の好い兄ちゃんだ。






「てめー何処の体育会系だ」
開口一番、高杉が珍しく唖然としている。
「は?何がだ」
全然頓着しないからこそ、余計に体育会系の兄ちゃんが、弁当でも
まとめて買出しに来た風に見えた。


まだ「桜屋」に居る高杉に、「ほれ」と云って文を渡す、
正しくは窓の横の壁に寄りかかって酒を呑んでいる高杉の
膝近くにはらりと落とした。
少し離れて近藤も腰を下ろす。
宿主に借りてきたおちょこで勝手に高杉の酒を注いだ。
文の裏側の署名を見て、高杉が舌打ちをした、煙管に煙草を詰めだす。
「読まねーのか」

「黙れよクソゴリラ」

近藤は黙って悪罵を聞き入れ、おちょこに口をつける。
「・・・これ、どうやって経由してきた」

「うちのとっっつあん、あ、警察庁長官ね、が預けられたみてーだ」

ゆらり、と高杉が振り向く、既に刀に手がかかっている、
「そいつの信用度は」

近藤はごろんと横になると、高杉へと手を伸ばし、刀を握った手を
大きな手で押さえた。
「絶対に中を覗き見たりしねェ人だよ」

「大体、護衛もすげェ付いてるし、何より本人が凶悪だ、
殺しに行っても無理だから、止せ」

「てめーといい、本当に幕府の犬は不愉快な奴ばっかりだ」

近藤の手を振り払い、煙管を咥えて火をつける。
「なあ、読まないのか」
近藤は片肘で頭を支え、横臥したまま訊ねた。
「俺に宛てた文じゃねえだろ」
あまりにもあっさりと云われたので、近藤は片肘をはなし、
高杉の顔を見上げた。

「何でそう思う」



「あいつは、俺に直接文なんざ書かない、絶対」


きっぱりと、でも高杉独特の沈鬱で投げやりで気だるい話し方で応えた。



<近藤さん
高杉さんは元気にしておいででしょうか、あの方に、元気なんて言葉が
全くそぐわない事は解っております。
ただ、先日街に溢れる桜を見ました。
あの方は、やっぱりこの街の何処かで彷徨っては桜を見ているのだろう、
と思いました。
私は、この城に閉じ込められておりますが、あの方は生きる事そのものの
牢獄に幽閉されていますね。それも、自ら進んでなので、誰も彼を解放し
てやることは叶わないのでしょう。

もうお気づきかと思います。
私はかつて城を抜け、近藤さんたちにご迷惑をかけた際に、
高杉さんと遭っております。
城抜けを手助けしてくれたのはあの方でした。
城外で私を殺すおつもりだったのでしょう、
でも、彼は私を殺しませんでした。
殺さなかったのです。


私とあの方は、ともに社会から隔離された処に幽閉されております。
けれどその牢獄はあまりに遠く、遠く、その何ものも交わる事は
ありません。
同じものを呪っていながら、連なる事は、出来得ません。
同じものの崩壊を願っているのに、何をも共有出来得ません。
姿ばかりは見える処に居るのに、その距離はあまりに遠くて、
決して、近付きあう事は叶いません。
私が其れを望むのもあの方は許しはしないでしょう。

ただ、
近藤さん、以前に金魚を一緒に見て下さいましたね、
高杉さんが、この様な暖かく美しい季節にも、独り凍り付いている
ことが私にはいたたまれないのです。

あの方に、私のことを口にしても何もお話にはならないでしょうし、
不愉快と痛みを湛えた表情をされるだけかと思います。
この手紙の事も、お話にならないで結構です。
私は、これ以上あの方が血を流し続けることを望みません、
けれど私にはどうする事も出来ないのです。

長々と申し訳ありません。
どうか、どうぞ、近藤さん、あの方を独りにしないで下さい。
私がせめて願える事は、ひたすらに身勝手なこのようなものでございます>



この二人は鏡の裏表だ。
同じ、幕府という鏡の裏と表で、ひたすらに交わらない世界を
生きている。
背中を合わせてることも、認めがたく、受け入れがたい。
当然だ。

(俺は、その鏡をただ見ているだけしかできねーんかな・・・)
何も出来ない。
高杉を、過去の呪縛から解き放ったら、奴は迷わず自分で死ぬだろう。
そよ姫を、城から解き放ったら、この国は天人に殺されるだろう。
この二人は、自分で喉を潰してしまった。
叫ぶ声も、嘆く声も、あげずに済むように。
掻き切りたいと願っているかもしれない、喉。



それを互いに解っている。
だから、声などかけない。

「高杉、」

(口に出していいから、なんて云える訳ねえ)

見上げたまま、名前を呼んで、そのまま薄く口を開いたままで
言葉を次げない近藤に、高杉は淡々と云った。
初めて聴く声だった。
静かで、哀しいほどに静かで、あまりにも脆い声。


「お前、何で俺に構うんだ」


「もう手の施しようの無い事、解っているだろ?」


「お前が見てて辛いだけだろ?」


「何で、なのにこうして会いに来るんだ」



開け放された窓から、桜の花びらが舞い込む。
高杉はうつむいて、手にしたおちょこに花びらが入り込んだのを見ている。


(解ってるさ、嫌ってほど、千切れるかと思うほど解ってるんだよ)

(でも、だからって放っておけるか、放っておけるか)



近藤は、自分の喉まで潰れたように思った。
云えない、思ったことをそのまま口にしても、何にもならない。

(こんなのは、俺向きじゃねえ。それも解ってる。
思ったこと何でも口にして、そうして動けていけたら一番だと思ってる)


もう理屈ではなかった。
川に沈んでいきそうな高杉を助けたのも、
攘夷志士であることが解った上で、屯所に担ぎ込んだのも、
高杉が自ら名乗ってきたにも関わらず、二度も、
正確にはもっと、

高杉は自分の誇りをかけた全身を、それしか出来ないから、
もうそれしか残っていないから、近藤に提示するのに、
近藤は其れを聞き入れないことも。


「高杉・・・お前、俺がお前を捕まえるか殺せばいいって思ってるだろ」

「思ってるぜ、そう簡単に捕まってやる気も殺されてやる気も無いがな」


「でも、俺が絶対に、そうしないことも解ってるだろ」


「全然納得いかねーが、そうだろうな。お前は、俺を殺さない」


「だから会いに来るんだよ」


「見張りか?」
「莫迦野郎、違ェよ」


「お前、そよ姫を殺そうと思えば出来たのに、しなかったろ」

「・・・・・・・・・」


「生かして、生き地獄を生き続けろって、そう思ったのかよ」

「・・・・・・・・・」


「殺したり、なんて、出来る訳ねえだろーが」


「そんで、無かった事に、出会わなかった事に出来る訳も、ねェだろうが」



高杉は黙ったまま、何も云わない。
ああ、この喉を高杉が潰した瞬間に戻れたら、俺は何をしてでも
止めたのに。こいつがこんな風にしか生きられなくなる前に、
別の生き方で生きられる道を残したのに。
一緒に、探したのに。

もう考えても無駄な感傷だとは解っていた。


高杉の抱えた、おちょこを奪って呑み干す。
「うげ、桜の花びらって、にげェのな」
近藤は顔をしかめた。


「ちなみに、今ので酒は最後だかんな」


高杉がうつろに近藤のほうを見た、
「おら、買いに行くぞ、立てよ高杉」


「立てよ、」

「俺はお前を看取るつもりも、殺すつもりもねェからな」


高杉が、ゆっくりと立ち上がった。
それを見て近藤は笑った。
ひどく、うれしそうな笑顔に、高杉は「てめーなんざ死んじまえ、
・・・上物の酒をがばがば呑みやがって」と云った。


足元の手紙を拾うと、細かく、細かく、細かく、
そこに込められた想いを誰にも知られることの無いように、
そこに込められた想いが風に乗って、せめて遠くへ、せめて高くへ
舞っていけるように、

細かく、高杉は千切って、窓の外に放った。


花吹雪によく似ていた。



二人は連れ立って、酒を買いに出た。
まだ日は高い。






END


近藤×高杉で検索をして来てくださったアナタさま、
この様な希少なカップリングを愛する方が、
私とここのオーナー、銀迦ちゃん以外にもいらしたことに、
正直驚き、そしてとても嬉しかったです。ありがとうございます。

うちの近高は、更にそよちゃんを絡めるという、捏造純度100%を
オーバーするものなのですが、少しでも、マイナーカップリを愛する方の
お暇潰しにでもなれれば、本当に幸いです。

うわわ、凄い勢いで拍手を頂いているのですが、実はこれは
ミスって途中でアップしてしまっています。
その段階で拍手メッセージを下さった方、ありがとうございます、
でも正式にはこれがラストです。

でもってレスの続き。

切ないここの近高が好き、と仰ってくださったアナタさま、
ありがとうございます。
でも最近、切なさともどかしさ、遣る瀬無さを追及しすぎで、
どんどん高杉が儚くなってきてしまって、焦っております。
彼の苛烈さと危うさを、激情と狂気を踏まえたうえで、
切ない高杉の生と、それの側に居ようとする近藤を書きたい!!と
思っております。よろしかったらまた遊びにいらしてくださいね、
近高観をお話してくださったら、泣いて喜びます。





2005年04月13日(水) 迷妄の速度 (沖土)


黒猫が這いずっている。
下半身の利かないその猫は、するすると蛇の様に目の前を通り過ぎて

消えた。




ざあ、と強い夜風に煽られた木の葉の影が障子に映る、何かの
生き物の様にしなっている。
物が極度に少なく、がらくたの様な物がぽつぽつと転がっている
広い部屋の真ん中で、沖田は布団に入ったまま目を開けている。
はだけた布団から両手が出ており、季節がぬるくなった事を身体で感じる。
空気中の見えない鍵盤を叩くように、天井に向けた利き手の
指をふらふらと動かす。
自分の呼吸音さえ、外の風の音にかき消されて聞こえない。



むくりと起き上がり、ざざわ、ざざあ、と木の葉擦れの音に耳を澄ます。

あの猫は何処へ行った?



布団から廊下へと出ると、まだ空気は少し冷たい。
ひたひたと裸足に冷えた床の感触を染み込ませながら沖田は歩く。

歩くのはゆっくりな方だった、気忙しそうに大股でガツガツ歩く
土方とは対称的であり、かといって悠々と歩く近藤とも似ない、何処か
存在感の無い、気配の薄い歩き方だった。
山崎が仕事の都合で身に付けた歩き方とも違う、速度は緩急を繰り返し
少しも定まらない。

「お前とは歩調を合わせ辛い」

それはまだ沖田が13歳ほどの頃に、土方に云われた事だった。
本人はそんな事を考えてみた事も無い、ただ、思うままに歩いているだけ。
今もそれは変わらない、土方が迷走しているならば、自分は迷妄している
だけだ、ただ其れくらいのものだ。


すらりと襖を開ける。
眠りの浅い土方は廊下からの気配だけで目を覚ましてしまう、
「・・・ぁんだよ・・・」
不機嫌な声が、横向きに臥し背中を向けたままで放たれる、
その気配が沖田のものだとも解っている口調。
「よく解りやすねィ」
「わざと剣呑なもん撒き散らして歩いてっからだろ・・・」
「ご名答。命頂きに参上」
「莫迦か、部屋戻って寝ろ、クソガキ」
ぼそぼそとした声は、風の唸りを背景にして、沖田の耳に飛び込んでくる。
「そりゃねェですよ。俺は探しモンの最中なんでさ」

「・・・こんな時間に探しモンだ・・・?寝惚けてるのか」

土方がごろりと向き直る、のそのそと起き上がり、枕もとの灰皿と
煙草を引き寄せるのは、沖田の気まぐれに付き合う気を見せた証拠だ。
ぺたりと冷えた畳を踏んで、沖田は部屋に入る、
風の音が更に遠くなる。

そしてその代わりに土方の匂いや気配が沖田を取り巻いた。
煙草と紙類の匂い。
「ほれ」
ばふ、と座布団が突っ立ったままの沖田へと放られた。
それを無視して土方が胡坐をかいている布団の上に腰を下ろす、
じろ、と睨みつけられても、じっと目を見つめ返すだけの瞳は硝子玉の
ようだ。沖田の目は何にも語らない、そのことに慣れっこになっている
土方は静かに目を逸らした。

「で?探し物ったぁ何だ」
明かりをつけていない部屋は、外からの薄明かりでぼんやりと
している。そこに土方の煙草の煙が靄をかけた。
「猫でさ」

「猫?」

「そう、下半身が不自由な猫。蛇みたいにするするって、
前足と上半身だけで動くんでさ」

「総悟、お前やっぱり寝惚けてんだよ」

「眼は覚めてますぜィ、夢の中に出てきた猫なんでさ」

ふー、と土方が天井へ向けて煙を吐いた。
「それ、見つかるのかよ」

「さあ、だから探してるんだろィ」

「ふん」

土方が呆れた声を出して、襖の方へ目をやった、
「すげえ風だな、木が化け物みてえだ」


「ですねい。・・・ああ、猫がどっかで這ってやがる」


土方は煙草をもみ消す、
「探しに行くか?」
立ち上がって云った。
ざざあ、ざざり、ざわあ、ごおぅ、風の音が一瞬だけ鮮明になる。
海鳴りのようにも聴こえる、轟き逆巻く其れ。


「いいんですかィ」
沖田は見上げてぽつりと問うた、

「お前のせいですっかり目が覚めちまった」
煙草を寝巻きの着流しにごそごそと入れながら応える。



風と土方の声の合間に、目を赤くちろりと光らせる猫が、
動かない下半身を引き摺って這っているのがちかちかとよぎる。


「俺の探しモンは見つかるけど、あんたの探しモンは、
見つかりやしないんですぜ?」


「何だよそりゃ、俺は何も探してねえよ」
眉を寄せた土方が沖田の腕を取って立ち上がらせた。




ああ、ああ、今宵また迷妄の速度で、迷走する猫を追いかけている。
ざわあ、ざざざ、ずざあ、ざざわ、







END

幽玄狙って意味不明な沖土でした。へ、へへ・・・。

BGMはHi-Posiです。『歌と身体だけの関係』です。身体と歌だけ、
だったか?


気を取り直してレスポンスです!

ぱのらまさん
よもや、憧れてはや・・・5年目?にもなろう貴女様に、こうして
メッセージを頂けるとは思っても見ませんでした。
人生の妙味、僥倖に酔い痴れます。
ふふ、実は腐女子妄想、満載のどろどろぐたぐたの人間模様、哀愁仕立て
の銀魂フルコースに舌鼓をうって頂けているのは、非常に嬉しいです。
改めてじっくりメールでお返事させていただきますね、
取り急ぎ、心よりの御礼と歓喜を込めて。

ゆいさん
お久しぶりです!お元気でしたか?
ゆいさんが如何お過ごしか気にかかっておりましたらば、
パソコンがやさぐれたり、とお忙しい日々だったのですね。
今週のジャンプで、沖田の将来に土方の幸せを賭けてみたくも
なりました、ええ、無理だとは思っているんです。
・・・正直、土方はあの絶対に、報われない処が魅力なのだと思って
いまして。笑。単に薄幸なのではなく、虚しく空廻っている土方、ラブ。
お暇な際にでも、また遊びにいらしてくださいね、
ありがとうございました!








2005年04月12日(火) 下り坂 (銀土)


坂を下っていたら、その下から登ってくる奴が居た。
「あ」
と云うと寄って来た。


「巡察中?」
「ああ」

「ルートって決まってんの?」
「大体はな、でも押さえるポイント以外は行く奴次第だ」

「押さえる場所って、何処」
「莫迦野郎、お前に云うかよ」

「俺がヅラに流すとでも思ってんの」
「桂だけじゃないだろう」

「?・・・誰のこと云ってんの、多串くん」
「てめーで考えろ」

にや、と銀時は笑った。

「何だよ」

土方が眉を寄せる、いつも以上に過敏で獰猛な表情。

「ほんと、自分勝手な奴だな、多串くん」
云うなり土方の耳たぶの後ろを爪の先でくすぐる。

ぴくり、と身を震わせたにもかかわらず、身体的な刺激には頓着せずに、
銀時に云われた言葉だけに顔をしかめる。
言葉の代わりに煙を吐き出す。
云わない分だけ土方は煙草を吸うし、そうすればそうするほど
彼は言葉を失っていく、話せなくなる。
おそらくそれこそが土方の望んでいる事なのだ、
云わなくて済む、云わないままで封じておき続ける事。
そうして自分で自分を騙して、誤魔化して、その先に
想いが消失する事を願っている。


銀時の奥の方で残酷な好奇心が増殖する。

(誰が許すかよ)
「云わなきゃいいってもんじゃないだろ」


耳たぶの後ろから、首筋にかけてを繰り返し撫でる。

「黙ってりゃ済むと、本当に思ってんの」

「何の話だよ」
思うままだ。
こうして話を振れば、土方は喰い付く。
自分から云えないなら云わしてやるまでだ。
無理矢理に引き摺り出し、暴き晒した彼の最奥の感情から、
土方自身が目を背ける様を見たい。
その羞恥と自己嫌悪と、死に至るほどの絶望。

弱りきった土方を、断崖の淵で見てみたい。
そして自分が引き上げたい。
転げ落ちた下り坂の下で、一番の底辺で、倒れ伏した土方を
引き摺り起こしたい。

「おまえ、すぐにだんまりだからよ」

「別にんな事ねえだろ」

「そう?」

飄々と銀時は笑う。

「じゃあ、云ってごらんよ、おまえはどうしたいの」

首筋を撫でて弄んでいた指で、首もとのスカーフを掴んで、
無理矢理に胸倉を寄せる。
崩れた体勢の土方を見下げて云う。


一瞬激情が眼に走り、土方はそれを無かった事にするために眼を伏せる、
まばたきをひとつして、もう一度銀時を見据えた眼にはもう
困惑と迷いの色は無い。

「おまえを斬り殺したい」

掠れた声で淡々と滑らかに告げる。


銀時は満足げに微笑んでは
「それ、忘れるんじゃねーぞ」
と云って返事を聞かずに土方に口付けた。
抱き寄せた腰に力を込める。
シャツの中に手を滑り込ませては、土方の腰から背中を
撫で上げる。内臓の後ろの辺りで爪を立てた、

引き摺りだしてやる、この中で渦巻いているもの。



ぶちまけた血みどろと臓物の中から、蠢いて甦る土方を
歩き出させるのは、俺だ。
土方の中でのたうちまわっている獣の、首を斬り落として、
その血で土方を洗って自由にしてやるのは、俺だ。


だから、
「この坂、下っていくんだろ?
俺は下から来たから、戻らねーよ」


そう云って、別れた。



土方が坂を下っていたら、
その下の方から登ってくる銀時がいた。











END




2005年04月11日(月) 火の川 (陸奥妙)

何て美しい女だろうと思った。

弟たちが宇宙旅行に行っている際に、お妙は下着泥棒と
熾烈な格闘をしていたのだが、土産話でその際に出会ったという
銀時の旧い馴染みの、片腕。その女、だ。


どうやら銀時の知り合いは、同じ店に働くおりょうをいたく
気に入っており、宇宙での貿易の合間に店に押しかける。
(あの変な男が銀サンの知り合いだったとはね・・・)
何処か合点が行く。
お妙自身は、近藤に押しかけられては昏倒の沙汰(無論、近藤が)となり、
結局屯所に電話をし、迎えを寄越させていた、そうするうちに
「鬼の副長」が自ら、隊長の非番日の不在を確認すると
勝手に迎えに来るようになった。

「ご苦労様ですね、土方さん、と云いたいところですけど、
そもそもこのゴリラが来ない様には出来ないものなのかしら?」
にっこりと微笑んで嫌味を吐いても、土方は曖昧に笑って
「馬に蹴られるのは御免でね」
と応えるので、
「馬に蹴られる前に私に蹴られたいのかしら」
とだけ云ってやった。くつくつと土方が声を立てずに笑う。

(難儀なオトコね、こいつ絶対Mだわ)


そんな遣り取りをしているうちに、近藤と坂本は親しくなり、
自然と坂本にも迎えが寄越される事態になった、一体どんな
むさい男が来るのかと思ったら、

薄い金色の髪は少し灰色がかった艶を放ち、その透ける様な髪と菅笠から
のぞく眼は、長い睫毛の影の下で金緑にぎらぎらと光り、夜行性の
肉食獣のようだった。
白い肌は夜に発光し、店内で猫の目の様に細くなった瞳孔は、
どの様な種族の天人よりも、異なる種族の様に思えた。

「毛玉が世話ばかけたがじゃ」

それが、出会い。




店に来るたびに彼女はその人目を引く容貌と腕っ節の強さで
すっかりママに気に入られ、用心棒にしてもホステスにしても
遜色が無いと入店を誘われるようになった。
もっとも陸奥が本当にスナックで働くとは誰も思ってはいなかった。


そんな繰り返される日々の中、
坂本が殴られた弾みで割れたグラスの破片、
きらりと暗い店内のライトで輝いた破片、

「あ」

スローモーションのように、それが陸奥の手の甲を掠めるのを
お妙は見ていた。思わず小さな声が出た。
陸奥ですらその怪我に頓着しては居なかったというのに。


「ママ、坂本さんの介抱お願いして宜しいですか?」

「どうしたんだい、お妙ちゃん」

「む・・・いえ、ちょっと」

お妙は何故か陸奥の手の甲から流れる血のことを云えずに、
云えないままにその血の筋に視線を奪われながら、
「陸奥さん、奥に」と小声で囁き彼女の逆の手をひいて、
更衣室へと導いた。
陸奥は、無表情のままだ。
そしてなすがままについてくる。


更衣室の椅子に陸奥を座らせ、棚の上から救急箱を取り出す。
陸奥の横に腰掛け、手を自らの膝の上において、まず血をふき取る、

「・・・陸奥さんも、血は赤いのね」

「どういう意味じゃ」

ガーゼで傷の周囲を拭い、ガラスの破片が傷口に入っていない事を
確かめると、軽く圧迫するように止血する。

「別に、貴女には血が流れている感じがしないから」

「まことおまんは怖いもの知らずのオナゴじゃな」

ふふ、と笑って「そんな事無いわ」とだけ云って、顔は上げない。
「染みるかもしれないけど」
と前置きして消毒液に浸したガーゼで傷をなぞる、そっと、そっと。

「よく気がついたな、こげなちっこい怪我」

「たまたま見えたのよ」

「嘘ばつきなや」

お妙が顔を上げる、間近に陸奥の無表情、ああ、何て冷たく激しい眼を
しているのだろう。流れる髪は金灰の瀧のようだった。

「おまん、ずっと見ちょるじゃろう」

(何てまあ、しゃあしゃあと云う)
「陸奥さんこそ、そう思ったのなら、貴女が私を見ていたのでなくて?」
にっこりと微笑む。
花の様に、天女の様に、セイレーンの歌声の様に甘美で、沈没を
意図した笑い。罠の笑み。


くくっと陸奥が笑い、肩を少し揺らした。その肩がお妙の方に触れる。

「陸奥さんこそ、嘘ばかりついているくせに」

触れた肩と、自分の目の前に霞の様にかかる髪の色にお妙は動揺する。
自分の口をついて出た指摘に、彼女は何と応えるだろうか、その刺激に
背筋が震える。

「何の話じゃ」

「貴女、そのお国言葉、嘘でしょう」
「坂本さんに合わせているけれど、貴女土佐の生まれじゃないわね」
「紀伊の訛りがある、貴女の出はそちらじゃなくて?」

圧迫していたガーゼを取り去る、血の赤が眼に焼きつく。
お妙は陸奥を敢えて見なかった。俯いたまま続ける。

「木々と雨に恵まれたお山があって、天狗がすんでいるようだ、って
こないだお客さんが云っていたわ」
「深い緑に、誘い込まれたら戻ってこられなくなりそうで、怖い、って」


「妙」

呼ばれて、顔を上げた。
「戻れなくなるやがぃ、わしはなんも云いやせん」
じっとお妙の目を見据えながら云う。

ああ、やっぱり。
熊野と伊勢の、山と海と川の自然崇拝の地。
深遠なる深い深い緑の気配だ、深い深い山の奥で、
この人は潜んでいたんだ。


「気になっとぅらし、ただ、誰にも云わんときしゃんせ」
口封じだと云わんばかりにお妙に口づける。
お妙の頬を指先で撫でた、その手の甲から、ぱた、と
お妙の手の甲に血が滴る。

口付けを受けながら、
(ああ、止まったと思ったのに、まだ血が出るのね)
陸奥の髪を梳く、
軽く、羽衣のような髪だ。
薄く開けた目で、視線だけ落とすと、自分の手の甲に
陸奥の血が鮮やかに一滴落ちている。
花のようだ、と思った。

彼女の手の甲の、火の川から落ちて咲いた、花。


ぬるりと絡む舌、「・・・ふ・・・」、呼吸が漏れる。

陸奥の、まだ血が流れている怪我の上から、お妙は掌を重ねて
自分の頬から首筋にかけて添えさせた。


お妙の掌の中で、ぬるりと赤い川が、火の川が燃えている。








END


実は、陸奥攻めで対オンナを書いた事が無かったのですよ。
大体のオトコとは総当りさせたので、いっちょオンナと、と
思ってお妙さんにしました。

他に女性キャラでは浮かばなかったので、陸奥の相手になりそうな
人が。喰えないクセモノで、強くないと、と思ったら、まあお妙さん
かな、と。

陸奥の出身は、一応、陸奥宗光の紀伊藩(和歌山・三重)に
しました。彼女が途中から使うのは志摩弁です、しかもインチキです。

タイトルは小谷美紗子から。






2005年04月10日(日) 燃え尽きた花 (エリクロエリ)

その想いを、口にはしないという事。
同じ風景に感じたことを、告げる必要も意義も意味も無いという事。
もう、その事に、何の意味も無いという、放れてしまった指の暖かさ。
繋いで共有していた事の確かさと、もうそれを告げる意味の無いという
儚さは、同じ延長線上にある。
今も、共有できるだろう、共感できるだろう。
同じ風景が、風のそよぎや空気のにおい、草の葉のさざめき、
よぎるかも知れない、でも、
もう、それを伝え合う必要の無い、別離。
忘れたわけではないのに、お互いはそれぞれに生きている。



否、自分が壊した。私は壊してしまった。
破壊してしまった彼女は、何事も無ければいつものように
同じ花を見て微笑んでいたのだろう。
例年のように、自分と共に。
そんな事は今となっては夢想に過ぎない、
何処を見ても彼女を思い出す、彼女との思い出のある、

城を壊さねば何処へも行かれないと思った。

物を壊そうが思い出は消えないのは解っていたのに。
この先、幾らでもいつでも彼女を思い出すだろう、
やがて、思い出さなくなるだろう。




でもそれは、決して消えない何かなのである。




アレイスターがアレンに対して感じたのはその「何か」だった。
この少年は異形の手と眼を持って、決して消えはしない何かを
よぎらせ、想起しては呼吸を続けている。
アクマを壊し続けている。

不憫なほどに世慣れない様を見せる少年は、時に尋常ではない
老成を見せた。誰も口を挟めないような諦念を見せ付けた。

アレンがアレイスターに云った言葉の重みは、耳にした者にしか、
否、耳にはしても身に覚えのある者にしか解らないかもしれなかった。
愛するものを自らが消滅させた事をも理由にして生き続けねばならない、
それは一体どんな苦行であろうか。
消滅させた者の存在が重ければ重いほどに、決して購い切る事の無い
贖罪を、決して身から離れはしない因果と呪縛の十字架を背負って、
尚生きていくことは自らに科した刑罰としか思えない。

愛する者を自らが殺したことを理由にしてまで生きていかねばならない、
そんなものは自身の生そのものを黙々と死者に捧げ、こうべを下げ続ける
永く遠い弔いの葬列にして、犯罪者の裁きの道程だ。
投げ付けられる石礫すらなく、罵声をあびせる者の姿も無く、
ただ、ただ、独りで独りきりで歩き続けていくのだ。
野垂れ死ぬまで。
誰も知らないままに。



そうまでして生きてゆき、自らを罰し続けるほどに、
アレン、きみはその若さにして自らの生を投げ打つほどに、
壊したアクマを愛していたのであろう。
壊したアクマであった者を、愛していたのだろう。



私の自殺など、後追いなど、きみにすれば、何と不甲斐ない罰であった
だろうか。背負い続けて尚生きていくいくことを一生に請け負った、
なんという哀れな少年。
魅入られ、取り憑かれてしまった、哀れな少年。




私はきみにすくわれたとは思えない。

しかし、エリアーデ、エリアーデ、お前を想い続ける私が生きていく事を、
お前は許してくれるだろう。

お前をただ想って生きていくことのみを望むだろう。

だから、私はそのようにしよう。
そのように生きよう。
これは弔いでも何でもない、自己満足にして、お前への隷属である。
私はお前に支配されよう。
そうしてアクマを壊し続けて生きていこう。



記憶は消せない。ふと見かける花に、お前の面影や言葉が思い出される。
それがいい事でも悪い事でもない、もう、お前はいないのだ。
何処にも、何処を探しても、二度と会えはしないのだ。
私が想うばかりなのである。
あの君はもう二度と存在しない。
あの私も二度と存在しない。
もう二度と繰り返されはしない、
もう、もう二度と。


ああ、エリアーデ、お前はいつか云った。
咲いては散る花を惜しむ私に云った。

「アレイスター様、この花と同じ花はもう二度と咲く事はありませんわ、
でも、同じ花が咲き続ける事の方が、痛ましいと思われませんか?
決して枯れずに、同じままであらねばならないことの方が。」


「ねえアレイスター様、散っても何度でも咲きますわ、花は。
同じものは全く無い、それは淋しいことかも知れませんけれど、
私は救いだと想うのです。だから、お泣きにならないで」




エリアーデ、お前はもう咲かない。私ももう咲かない。
そうだな、お前がいないにもかかわらず同じ花だけが咲き続ける事の方が
余程、無残で痛ましい。
咲かなくて良い、もう咲かなくて良いのである、お前はいない。


私には関係のない花が咲いては散り、咲いては散り、私とお前の花は
何処にも存在しないままで私はそれを愛でよう。

想おう。




エリアーデ、焼き尽くした城と花。
お前が解き放ってくれた。
城から出なくとも良いと思っていた、しかし、こうなってしまった以上は
お前の望みのままに私は生きよう。
アクマであろうともお前を愛している、私はそのために生きよう。
私が殺した、壊したお前のために生きていく傲慢を、
嘲笑ってもいい。許さなくていい。

私が、独りで、勝手に、そうしていくのである。





アレン、きみはそうして生きているのではないのであるか?
君も、もう二度と咲かない、燃やし尽くした花を想って生きているのでは
ないのであるか?



その灰の色は、君の髪のように哀しい灰の色。
焼き尽くされた、もう何も燃えない灰の色。
花ですら、褪せた。
色を忘れた。






END

エリクロエリで、アレイスターからエリアーデとアレンへの想いを捏造。

最近、拍手メッセージが無くって・・・淋しいです。
良かったら罵詈雑言でもいいので浴びせかけてやってください。
ヨヨ・・・。







2005年04月05日(火) 異血 (桂→銀)SUIさまへ寄贈。


出遭った時から思っていた、
気になっていた、
その髪の色。
その強い腕。
その頑丈な身体。

違和を感じた。


訊いてみても「知らねーんだよ、俺は、そういうの」の一点張りだった、
それは尚の事自分の考えを裏打ちするようで、一層の違和と、異質なる
ものを感じさせた。出身地すら銀時は語らない、ただ、江戸の、
かぶき町を離れない事から、そこらが覚えのある土地なのでは
あるように思えた。彼は、いつも、其処に帰る。


銀時は家族を知らない、と云う。
何度目かに顔を遭わせた陸奥にそれとなく訊いてみても、彼女は曖昧に、
かつ無表情で話題を変えた。
元々陸奥はその手の私的な事を語る人種ではない。それは解っていた。
坂本に訊いてみても、知っているのか興味が無いのか、「さあ?」と
笑うだけだった。陸奥が何処の生まれで、どの様にして坂本の元へ流れて
来たのかは誰も知らなかった。
でも、銀時と陸奥に通ずるその異質、ありえない髪の色、ありえない強さ、
それは銀時のところのチャイナ娘を見ていて確信に近くなる。
神楽のピンクがかった赤毛。

人を超えた、何か。




「銀時」

「あんだよ」
団子をほおばりながら応える、銀の髪が春風にふわふわとなびく。


「お前・・・・・・いや、なんでもない」
云いかけて、桂は口を噤む。
訊いてどうするんだ、銀時自身も、自らの出自を知らない可能性の方が
高かった。うすうす気付いてはいても、それは憶測でしかない、
そんな不確かな事に銀時が囚われないであろう事も、桂は予測できた。

「ほんとお前はネチネチしてやがんなァ、云いたいこたハッキリ云えや」
どうでも良さそうに団子を追加する銀時を見ていて、よぎる考え、



         忌み子





地球人と天人の混血児、疎まれ、呪われ、捨てられたかも知れない子。
歓楽街のかぶき町だったら、天人の要人も接待に利用する、其処の
売春宿ででも孕まれた子どもであってもおかしくは無い。
そして其処に捨てられた子どもであってもおかしくは無い。

(お前、お前だって、うすうすは考えたんじゃないのか)

(だからチャイナ娘といい、誰彼構わず、人種に関わらず、
手を差し伸べるのでは、無いのか。銀時・・・)


光の無いところでは白髪のように見える銀髪は、今は光の中で
輝きを放っている。
見慣れたつもりでも、時々、どうしてコイツの髪はこのような色なのかと
不意に思ってしまう。
それは、陸奥の薄い金に灰色がかった髪と、何よりもあの獣のような、
金緑の瞳を見ると思うことでもあった。

色の問題だけではなかった。
何処か地に足のついていない姿は、単なる自由な気質のものではない、
坂本のように敢えて飛び立つ事を願ったものとは違う、何処か着地点の
無いが故の浮きたち。所在の無さそうな、身の置き所の無さそうな、
それが違和感の一つでもあった。
警戒心は強いくせに、他人を無条件に受け入れてしまう銀時の性格は、
何かその身の置き所の無い自分を肯定し、受け入れるためのものである
様な気がしてならなかった。


(お前は・・・何なんだ?)


混血児であろうと私生児であろうと今更何の問題も無い、
忌み疎まれた子であっても、銀時はしっかりと生きている。

(しかしな、時々不安になるんだ、俺は・・・)


桂は、自分の掌の中にある湯飲みを硬く握った。
銀時の危うさは、無鉄砲さは、何処か危うい。
坂本のようにただ本能的な勘でやっていることではない、
高杉のように、自棄になって死に切れないまま死に場所を探している訳
でもない、ただ、

ただ、いつ、どこに、消えてもおかしくない。


(現にお前は何も云わずに、戦が終わったときに姿を消したな)


(仲間の誰にも、何も云わずに)


不安感と、苦い思いが頭の中を満たす。
銀時の飄々とした生き方は、本当に彼が望んだものだったのか、
もしかしたら、彼はそうしか在れなかったのではないか。
考えても、時間が戻るわけではない、銀時に染み付いてしまった気質は
今更変わるものでもないだろう。


どこかで、人を突き放す。
帰れる場所のある者だけ、居場所のある者だけ。
そういう者だけを銀時は時折、わざと突き放す、彼がその事に
傷付かない訳ではないのにもかかわらず。
彼の周りの者だって、傷付かない訳は無いにもかかわらず。


桂は、ふ、と息をこぼして顔を上げた。
考えても仕方の無い事だろう、どうにもならないことなど
幾らである。

だから、その中で、自分は、銀時にその存在を知らしめてやるんだ。
(お前は、お前には居場所があるんだ、銀時。
自分から捨てるな、もう、誰も、自分も捨てるな)




「あ」
銀時の声に桂が振り向く。

手を伸ばして、桂の髪に触れる、
「ほれ」
指先には、桜色の柔らかな花びら。

桂の湯飲みに、それをはらりと落として、
「桜茶になったぜ」
と云って、笑った。


桂が困惑したような、さびしい色を浮べて小さく微笑む。

(銀時、お前が異質な、異種なる血を持つ者であっても、)




(俺は、お前に流れる血が赤い事を、哀しいほどに知っている)











END

いち、でもいけつ、でも好きに読んでください。タイトルは。
捧げるSUIさんにお任せします。

お花見銀桂。てか、ヅラの物思い。

SUIさんはアレンを忌み子として描いてらっしゃるのですが、
もし銀さんが天人とのハーフとかだったら、彼も忌み子ではないかと
おもいました。だって、銀髪って。


まあ、さっちゃんも、髪の色はあやめ色ですが。

てなわけで、リンクページを持たない私は再度ここで
告知をば。
SUIさんのサイトはこちらです。
http://sui.gonna.jp/allelujah/


BGM:Cocco



2005年04月04日(月) 立ち枯れ (坂土→近高)



「おお、近藤か、何?高杉の居場所?
・・・おまん、高杉と付き合いがありゆうこと、
土方に云うちょらんかったろー、おう、・・・おう、
・・・わしには何も云えんこっちゃ。・・・
・・・ほがなこと云うても、土方に説明ばしちょらんと
あんまりじゃ。むご過ぎる。
・・・信用しきってる大将に、裏切られたも同じことがじゃ、
あ?・・・わしは知らんきにゃ、自分で考えるんじゃな。
・・・おお、・・・あんなにおまんのこと、赤んぼみたいに
信頼しきっちょるんがぜよ?・・・ちったァ考えてやらにゃあ。

ほいで、高杉じゃな。ヅラから、桜家ばゆう旅籠に居るちゃー
聞いたんが最後じゃ。・・・ああ、多分この季節じゃ、まだ
そこに居るんじゃろな。・・・いや、・・・近藤、
土方は絶対に知らない振りを続けゆう、おまんが説明するもせんも、
おまんが決めることじゃきに。・・・おう、・・・じゃあな」


ふう、と溜息をついた。
宇宙回線の横で仕事をしていた陸奥が「ガキじゃあるまいし、
ほがァなことで要らん長電話されちょったら船が火の車じゃ」と
ぼそりと云った。

苦笑して、
「そがあなこと云うな。おまんだって、土方のことば、可愛がってるろー」
と坂本は応えた。覇気の無い声だった。
「地球に居る奴らは、どいつもそろって不憫じゃ」
陸奥は云った。
離れれば幸せだなんて、そんな単純な意味合いではなかった。



何も云えずに、花を咲かせることも出来ずに枯れていくもの。
花を失い、語る言葉を持たずに、立ったまま枯れているもの。
花を咲かさねばならない、と思い込んで自分ばかりが枯れていくもの。
枯れない花を咲かせ続けることの苦労を背負って生きるもの。



土方が、高杉が、桂が、銀時が、ただ不幸なだけとは思わない。
「観てていたたまれんのは、確かじゃな」
云って、坂本がまた溜息をついて窓の外に目をやった。
「ぐだぐだ考えちょると、脳みそまで毛玉になるがぜよ、おまんは」
陸奥は書類にペンを走らせたまま、云った。
「・・・そうじゃなあ」
苦笑する。それしか、出来ないだろう。






「山崎、」
呼び止められて振り返る、近藤はたまにだがこうして隠れて自分に
「桜家って、知ってるか」
と旅籠の場所を訊いてくる。
理由は、訊かない。
聞きたくないものだろうから。



土方の耳に入らなくても、彼が息の止まるような思いをする言葉が、
近藤の口から放たれる事が嫌だった。



「・・・西の外れの、桜並木あるじゃないですか、あそこの
近くにある、大きな桜の木がある所ですよ」
何の疑問も抱いていない、という顔で応える。
「あんがとな」
そう云った近藤の表情は、いつもよりも少し笑いに力が無かった。
「いえ」


こんな近藤の笑い顔を見たら、それこそ、やはり土方は
心が氷るような思いになるのだろう。

知らないで欲しい。
知らないでいて欲しい。
・・・でも多分もう、土方は何か知っている。
そうでなければ近藤がこんな風に笑うはずが無かった。
山崎は、ぺこりと会釈をして、廊下を去った。
心が重たかった、体も重たかった。







「・・・これか」
旅籠自体は小さな、民宿のようだったが、その敷地にある桜の
大木は本当に見事なものだった。
大きく枝を伸ばし、おそらくそれが売りなのだろう、全ての部屋から
その桜が見られるようになっていた。

「さくらや」とかな文字で書かれた行灯がかかっている門をくぐった。

いつも訪れてから困る、高杉が何て偽名を使っているのか解らないから。
彼の外見を説明し、そうして部屋を教えてもらう。


からり、と襖を開けた、近藤の姿を見るなり案の定、窓枠に腰掛けて
窓を全開にして桜を見ていた高杉は、酒の杯を投げつけた。
胸元にぽふ、と当たり、近藤はそれを受け止めて割れないようにする。



「その格好で来るな、莫迦にも程があるぜてめーは」

「逆にこうして堂々とくれば、誰もお前がお尋ね者だなんて
思わないんじゃねえか」
開口一番の悪態に、近藤は表情を緩める。

あの、鬼兵隊が壊滅寸前に追い込まれた戦いの日に、
川の中で沈みそうになっていた高杉を見つけて、
祭りの時に再開して以来、高杉は此処に居る。
今も、「俺の首を持っていけば、株が上がるぜ」と云う。

それが高杉の誇りなのだ。
鬼兵隊を率いていたということ、それが高杉の誇りなのだ。
幕府に裏切られ、悪者にされ、仲間を殺され晒し首にまでされた、
そんな痛手を、血を流し続ける傷を抱えながらも、それでも
高杉は、その仲間と過去を決して忘れはしないし、そうしようとも
しなかった。

引きずり出した心臓を、高く掲げて、自分の血を自分で浴び続けて
いるような生き方だと、近藤は思っていた。

其処までしてしまう奴に、それが良いとか悪いとか、云う気にはならない。
そうまでしてしまう奴に、そうでしか生きていけない奴に、
やめろとは云えない。

立ち枯れていても、生きている。
高杉は、生きている。


「いい、眺めだなあ」
怖ろしいくらいの圧倒的な存在感で咲き誇る桜が、
高杉の背後を埋め尽くしている。
こんなにも、暴力的なまでの生命を、儚い命の、花を全力で
咲かせている、桜。
「お前と似ているなあ」
近藤はにっ、と笑った。

「春だからって、頭に花でも咲いたのか」
ぶっきらぼうにだが、高杉が少し照れている事がわかる。

ああ、お前生きてるな。
生きているんだな。



窓へと歩み寄り、高杉の薄い肩に手を置く。
ずっとこうしていたのだろう、着物は冷え切っているが、
高杉の体温がじょじょに掌に伝わってくる。



小さなこうべに、近藤は額をつけた。



(すまねェ、トシ)

(すまねェ、トシ)


(でも俺は、俺が高杉の、こいつの立場だったら、
こんな風に生き続けていけるのか解らねえんだよ)


(トシ、お前らが大事だ。大事な仲間だ)




(だから俺は、斬られた花の首を目にして尚生きている
こいつを見て居たいんだ、)



(見て、側に居たいんだ。トシ)













END



嬉しい拍手メッセージを頂きました。
>「聴こえたから」坂土の土方がもう切なくて可哀相で、酷い生理痛の痛みも一瞬飛ぶ程土方の幸せを考えました

本当に、自分の書いた捏造作品へ、妄想キャラへ、ここまで云って
頂けるのは、物凄く嬉しい事です。ありがとうございました。

なので、『遭難者』という最初の近高以降の、土→近高を
まとめてみるために書きました。
土方の想いの質を知らない近藤は、それでも彼らを思うが故に
高杉を放っておけない事、其れに関して周囲の人間も心を痛めること、
それでも、どうしようもないこと。

結局、幸せではない、とは思います。
誰が悪いわけでもなく、でも誰も幸せでもない。
私はこんな風に考えながら、土→近前提で、近藤高杉、山崎→土方、
坂本×土方、陸奥坂本、陸奥土方を込めてみました。
「×」があるかないかは、明確なカップリングや、何処か片恋の要素が
あるかないかで使い分けています。

生理痛、暖めてお大事になすってくださいね。
おかげさまで、私は自分の中のひとつの整理が出来ました。


BGM:タテタカコ「卑怯者」リピート。『裏界線』収録。



2005年04月02日(土) 咲かないで枯れる (銀土→近)


春の朝は、さびしい。

芽吹く力を蓄えた植物が、木々が、わんと鳴るように
自己主張し、柔らかで暖かな朝焼けの光が其れを
讃え支えるように、照らす。
自分まで照らす、映し出してしまう。

夜のざわめきを残しながらも、町はまだ寝静まっていて、
徹夜で呑み明かしたらしき若い笑い声がまばらに響いては、
その生き生きとした様に気圧される。


何もかもが明るく、輝いているのに、静かで、自分は一人で、
何もかもの明るいものに、力強いものに、気圧されてしまう。

春の朝は、明るいからさびしい。
明るいから、こんな自分を映し出してしまうから、さびしい。




土方は淡々と煙草に火をつけた、一口目は浅く吸ってふかす。
抱える寂しさは潰されそうに重くも感じられ、
同時に取るに足らないほどに軽い感傷のようにも思えた。

例えば、銀時と夜を過ごしても、帰る道のこの空虚さは、
何も満たされはしない。
紛らわせはしないのだと、痛感させられてしまう。
仕事に明け暮れ、訳も解らないままに時間が流れるのに身を任せて
仕事をこなしていく。空いた時間を埋めるようにさまよって、
時間を潰し、最近は食事も簡易栄養補助食品。

自分を粗末にしている。
そう感じる。
でも、風になぶられ、額を撫でて掠める自分の髪の感触を
心地よいと思う。
まるで矛盾している。
自分を愛しているのか、いないのか。
そんな事、知る必要は無いのかも知れない。


一人であることを痛感する、噛み締める。
側に、例えばあの人、が居たら、自分のことを心配しすぎで
あの人自体が苦しむ事になるだろう。
ともに潰れてしまうだろう。
それは甘美な破滅などでも何でもない、笑えもしない悲惨で
惨めで悲しいだけの泥沼の深い底。
ああ、ならいっそ自分は、やはり、独りで居るのがいいのだろう。
こんなさびしい想いなど、大切なあの人を、苦しめるくらいなら
なんでもないことだろう。

煙が目に入りかけて、土方は目を細めた。
朝日が余計に目に染みる。
あまりに虚しくて、さびしくて、やりきれない。
煙草を持つ指先は冷え切っている。
あまりにも、虚しく、ただ、独りきり。


自分の仕事の多忙さを、時間の消費の異常さを、
並べ立てたとて何になる?
心からのものであっても、心配や気遣いが自分を癒さない事など、
解りきっている。
現実は変わらない。
同情が欲しい訳ではない、優しさはありがたい、
評価、そう認められたいという想い。
自分で自分を認めたいと想う思い。
こんなにも幼い自分は、独りで居るのが他人の迷惑にならずに
済むのだろう、無駄なことなど云わないのが、思いなど
口にしないのが、せめてもの悪あがきだろう。
ぼろぼろの見っとも無い誇りを守る最後の術。


なんてさびしい。
なんてさびしい。


銀時の気配が思い起こされる、それは心が動くものではあった。
それでけで救われる、誤魔化せる。
人の温もりに、どうしようもなく引かれてしまう。
引き込まれてしまう求めてしまう。
独りでも過ごせない。


(莫迦だ)

土方はぽつりと思う。
呑んでいる煙草すら、美味いのかも解らない。
ただ自分を痛めつけているのかも知れない。


叶わない願いを、心に抱いている。否、背負わされている。
もう捨ててしまいたい、捨てられてしまいたい。
側に居たい、側に居たくない。見たくない、姿。
何処かへ行けたら、逃げられたらまだマシかも知れない。

(何処に行こうが、忘れられないうちは覚えてる、
それでも、諦めがつくかも知れない)


無理だ、瞬時にそうも思った。





何処にもいけない。
此処にしか、居られない。
でも此処ではさびしい。
自分を安売りして、消費しても何も意味など無いのに。
さびしいから、何かせずには居られない。

此処はさびしい。
此処はさびしい。
俺はさびしい。


でも、それがどうしたっていうんだ、
どうすればいいんだ。
どうしようもない事じゃないか。
思考はぐるぐるぐると廻る、ぼんやりと煙と共に吐き出す。



憧憬と思慕の感情で思い起こす、
「トシ、頑張ったな。よくやってるな」
そう云って笑ってくれる、あの人。


(ガキの頃のまま、止まっちまってるのか、俺は)


もう、情けないとも思う力が、気力が湧いてこない。
ただに淡々と思う。
心の中でもあの人の名前は呼ばない。


満たされなさ、これは我侭だと解っている。
でも。

ああ春の朝はさびしい、自分ひとりきり。
周囲の生命力に負けてしまう、負けてしまう。


あの桜は咲くだろう、もう直に。


自分は咲かないで枯れるだろう。



だから取り敢えず、誰かに側に居て欲しい。
それだけでいい。
それだけでいいから。
枯れて死んでいく自分を、見ていて欲しい、
否、見ていなくてもいい。


(俺は、勝手に自滅する、最期まで一人だ)



自虐的な発想が淡々と込み上げる。
朝焼けの光にとても勝てない。

さびしさに、とても勝てない。






俯いたままで、ブーツの先を見ながら煙を吸い込む、
誰の名前も、呼ばない。
呼べばさびしくなるから。
呼んだら、さびしさが形を持ってしまうから。

誰の名前も呼ばなくて済むように、
誰か側に居て欲しい。
誰か、
誰か、
誰か。




空を見上げる事は出来なかった、そんな勇気は無かった。
ただ、土方は俯いて歩きながらさびしさだけに満たされている。







END


私の近況です。
って・・・ええ!?
勿論、土方として捏造妄想はいっぱい入れてますよ!!

いや、丁度今、夜勤仕事明けて、昼の仕事に行って、
また夜の仕事に入って、帰宅してきながら考えていた事です。
カロリーメイトを食べる回数が増え始めているのも私です。
心配して欲しい、誉めて欲しい、認めて欲しい。
そんな弱気心がむくむく湧いてきます、ただひたすらに働いていると。
子供ですなあ。

BGM:荘野ジュリ『36度5分』、またこのBGMで帰宅したのが
悪かった。私はさびしがりです。


銀鉄火 |MAILHomePage