銀の鎧細工通信
目次


2005年03月30日(水) はいはい (陸奥銀)


「・・・なあ」

「なんじゃ」


「・・・あんた、ちったァ目立たない格好とか、しねーの」

「目立たない?」

陸奥がくすりと笑った。

「どう見てもただの旅装束じゃろ」

「男のな」






春の陽気に誘われて、銀時は昼過ぎに起きるなり、
ふらりと町に出た。
卸問屋で、帳簿を店主と見合っている陸奥と
出くわしたのはそんな時。

商談なので、菅笠はかぶっていないものの、濃紺の着物に
濃紺の袴を伽半におさめ、黒い外套を羽織っている。


目に鮮やかなのは、その金灰の長い髪と、
細い首を隠す様に巻かれた真紅の絹のスカーフ。

やれ「春物の着物を買う金もこの貧乏道場にはない」と
お妙が新八への給料不払いでブチ切れた矢先だった。


これだけの美形だ、飾れば幾らでも光るのに、
化粧は完璧なくせに服装に関してはこと、陸奥は
ストイックだった。

「ま、綺麗なねえちゃんが男装ってェのも、悪かねーけどな」

「男装しちゅう訳じゃないろー、単に機動力の問題じゃ」
陸奥が色を抑えながらも、完璧に施された化粧を施した
この上ない「オンナ」の顔で応える。
マスカラ睫毛が頬に作る上品な影まで計算し尽くされている。
口角を上げ気味に塗られた紅まで鮮やかだった。



「まっことオトコちゅうもんは、自分のことば棚にあげゆうて、
オナゴの見てくればっかり気にしゆう。勝手なもんじゃな」



銀時の年中同じ出で立ちをちろりと見やって云った。
無表情のために作られた化粧はこういう時に更に映える。
服の色が地味で、オトコじみているからこそ、彼女のオンナっぷりは、
これみよがしに目に焼きつくのだった。

「俺は別にいーんだよ、色気づく歳でもねーし」
何気なく返した言葉に含む、瞬間のどきり、という鼓動も
陸奥の計算のうちだろう。
(ほんっと喰えないオンナだぜ)
ばさり、と外套を払い、細いしなやかな手を出すと、
圧倒的な素早さで銀時の顎を捉え指先で自分の方へと向かせる。
「んなっ!?」
何だよ、までも云わせずに陸奥はにやりと笑むと手を放す、
「ほがァなこと、よう云うわ、考えとるくせに。
どんな面して云うちょるんか見てやった」
真昼間の街中だ、ただでさえ目立つ二人の、こうした動きは
人の目を引く。周囲は何も見なかった振りで目を逸らす。

(うわあ、もうなんつーことを・・・)
と方眉を下げて気まずさをやり過ごす。
陸奥の金灰の髪が光を受けてちらり、ちらりと光反射しては
それが目に入る。
顔の間近で見た爪は、働くオンナのものとは思えないほどに
手入れが行き届いて、美しく塗られていた。

「はいはい、どんな服着て様が、あんたは何時でもイイ女だよ」

降参の色もあからさまに、銀時が肩をすくめて口にすると、
陸奥は「何も出んぞ」と返した。


「期待してねェよ、単に美意識を誉めただけ」
陸奥が鼻で笑う、
「おまんの美意識にゃ、敵わんぜよ」

(あー、中身のってこと?)

銀時はいい気分になる。自分の生き方の、魂の美意識の
在り方を誉められるのは嬉しいものだ。
他人の評価など期待しない様に、それで思いのままに
生きていけるために、それ、を振り切って振り捨てて
生きてきたのだ。
とうにアテにしないで、生きているにしても、改めて認められるのは
一人の侍として生きていて、嬉しい事に他ならない。
ましてや、それが違う道で闘っている人間から出た言葉だから尚の事。

(ヅラや坂本からは聞けないもんだしな)


陸奥がくくく、と喉の奥で笑っているので、そちらに目をやる。
口元を手で隠し、彼女は笑っていた。

「何よ」

「おまんも全く可愛いオトコじゃの、そのニヤけ面」


「フン、キツネオンナめ」

子供があかんべえをするかの様に、不貞腐れた口調。

ああ、春の陽光に幻惑される、陸奥ときたら花に嵐、
変幻自在に翻弄される。
いや、

(俺の周りの女は皆そうか、花で嵐、)


「オトコは単純なくらいで丁度いいんじゃ、どうせ考えたところで
ろくでもないもんしか出てきちゃあせん」

悪い目つきに施されたアイラインも艶めきたつ。

「その点坂本は何も考えてねーしなあ、悩み多い銀サンには
理解できませんよ、全くな」




「はいはい、気ばァ遣うてせいぜい苦労するこっちゃな」

ふわりと、ぎらりと、陸奥はいつでもその鋭い美意識で
生きている。
お登勢にキャサリン、お妙、神楽、・・・西郷もか?
銀時は身近な女性を思い浮かべて

(全くオンナどもの「道」の真っ直ぐさったら見事なもんだぜ)

「おまんらよかァ、よっぽど強く柔軟に生きちょるんじゃ」

銀時の考えを読んだ様に、陸奥は口にした。



「あーもう俺、多串くんでもからかってくるわ」

「土方か、あいつも苦労ばっかりしちゅうきにゃ」

「そ、男だって頑張ってるんだぜ」

「はいはい、もっと気ばァ張るんじゃな」


颯爽と去る背中、小さくて細いそれ、
オンナもオトコも、結局のところ自分の信じた道を
ただ闘って生きている。









END

オトコの不器用な侍道、オンナのしたたかで逞しく美しい生きる道、
どっちも求道者ですね。
思想も何もなく、人間一人が生きることへのオマージュです。

春めいてきて、何となく心も揺れては何処か浮かれる。
皆さまも着飾って繰りだしましょ、町に。
オンナもオトコも、自分の思うように頑張りましょ。

BGM:PUFFY、またかい。

タイトルは椎名林檎の「はいはい」と、PUFFYの上記、アメリカで
出したアルバム収録の「Hi Hi」から。
春っぽく軽いものをば。


2005年03月29日(火) 水溶性 (坂土)


ぱしゃりと水辺で音がする。
魚が跳ねたか、水鳥が飛び立ったか。
真夜中の水辺では何も見えない、
ただ水音だけが、ぱしゃりぱしゃん。


ぱしゃん



鼻歌を歌いながら、木々の生い茂る林をすいすいと
下駄で軽く歩く。
土から浮き上がった根に躓きもせず、
長身を、無造作に伸び放してある枝に掠める事もなく。
坂本は闇を怖がらない。
見えないものを怖がらない。
畏怖もしない。
ただ判別のつかない水音の正体を想像しては楽しみ、
見えない障害を鋭い勘だけで避ける。
手招く闇に呑まれもせずに、顎を撫でつつそれすら楽しむ。
不幸にも其れに絡め取られた土方の四肢すら、そういうものとして
鑑賞している節がある。

薄情なわけではない。


「土方ーァ、おんし何処に隠れちゅうがかー」
焦るでもない声が土方を闇の中で呼ぶ。
木の葉を踏む音すら立てずに、土方は大きな木の陰から
姿を現す、「此処だ」。
黒い隊服は髪と共に闇に混じって溶け込んでいる。
「おお」
ぱあっと坂本は表情を変えた。
山で珍しい動物や植物でも見つけた様な表情。


あるがままを無条件に受け入れてしまうキャパシティの
広さに大きさに、土方は苛立ちを覚える。

それは昼間の近藤の言葉へでもあった、たかが「人の親」でくくれて
納得できてしまう、度を越えた包容力。
若さと剣の腕への自負から(元来の性悪さも含めて)の
沖田の振る舞いへでもあった、何事も無かったのかのように、
予想の範疇であったかのように、マスコミの人間に呑気面で蹴りを
入れてみせる若さ。
理解を超えたものへの、想像を超えてしまうものへの、
畏怖や惑いを感じない事が悪いのではない。
ただ、自分の卑小さと、拭いがたく何かを見限って、諦めて
しまっている暗い部分をちりちりと焦がされるのだ。

どれだけ気にかかって仕方が無くても、銀時があの爆風の中で
死んでいたら、土方は納得しないままそれを飲み込んでしまう。
信用も出来ない、期待なんてもっての他だった。
するだけ、後が辛い。

「どうしたがか、暗い顔ばしちゅうて」
目の前に大きな影がかかり、坂本が目の前で立っている事が解る。

「・・・別に」
口の端をゆがめて薄く笑った。
自分でも解っていた、コレ、は気を引くための笑い方だ。
こんな笑い方をすれば、大抵の人間は何かあったのだと思う笑い方。
信じる事も出来ないくせに、都合のいいところでばかり他人に縋る
自分は何て弱くて醜悪だろう。
土方の笑みが更に自虐的になる。

坂本が、夜だというのにかけ放したサングラスの下で
むう、と眉を寄せるのが解る。
「ふ、ふふ・・・」
土方が堪え切れない、という風に歪んだ笑いをこぼしながら
その横をすり抜ける。


春の林は妙にざわめいている。
生き物がうごめく気配、辺りをうかがいながら。
その中にある湖も何処かざわついている。
水面下で化け物でも蠢いていればいい。

土方は迷わずに潅木を除けて、湖の水際まで行き、
そのまま速度を緩めることなくばしゃばしゃと入っていった。
「・・・!土方・・・っ」
坂本が長い体を反転させて(ああ、それは何て見事な動きだ、
大きく弧を描くような、輝かしいもの)、後を追いかける。

湖畔で外套を脱ぎ、スカーフを外す、無駄の無い素早い動き。
土方は腰まで水に浸りながらぼんやりとそれを見ていた。
まだ冷たいはずの水の温度も感じない、下駄まで脱いで、
水の中へ土方を追ってきたのを見届けて、土方は頭までぱしゃん、と
水中に沈めた。




刀はこの上ない重石だ。
これが重くて浮かび上がれなどしない。
沈んだまま、湖底の水流に身を任せる、
見上げても水面の揺らぎがわずかに見えるばかりで、
心地よい暗さだ、音もろくに耳に入らない。
土方は満足げに目を閉じる。




「土方・・・」



「土方ァ・・・っ」



誰が自分を呼んでいるのかも解らない。
解りたくも無い。

他人を信じる事も出来ない、期待なんて出来ないからしない、
でも利用するのか、好いように使うのか。
(ほんっとにどうしようもねェな)
思いながら、肺に残っていた最後の空気がごぼりと口をついて出た。

耳の奥がぼうぼうと鳴り、頭の中まで夜の水中のように暗く
なりはじめる。


ごお、不意に水流が動いて、土方が心地よく浸っていた流れを
乱して壊した。
脱力仕切っている土方の体が水流に乗って揺れる。
顔の上のほうで水の動きを感じて土方は薄く目を開ける、
大きな手が自分の眼前に迫ってきているのが目に入った。
すると胸倉を掴まれて引き上げられる。

外気に、空気に、晒されて囲まれて、土方は大きく咳き込む、
気管と肺に酸素が流れ込む、急激に、暴力的に。

苦しい。
苦しい。
苦しい。

この、地上は苦しい。


(苦しんだよ、坂本)

(ここ、の息苦しさに耐えかねて宇宙へ出たお前なら解るだろう?)


大きな掌で引き摺り上げられた上体を抱えられ、
片方の手で顔に張り付く髪をかき上げられる。
水に濡れた髪でオールバックにされた土方が、

まばたきをすると、
睫毛から水滴が零れ落ちる。


雫をこぼしながら上体を傾けたままで坂本に視線を向けた。
今度は目尻から水が流れて落ちる。

ぱたり、ぱたり、と水滴が土方の全身から水面に落ちて溶ける。



「このまま、こげな処で溶けゆう気なら、おまんを宇宙に
連れて行くきにゃ」

坂本は殴るでもなく、怒るでもなく、説教するでもなく、
罵倒するでもなく、呆れるでもなく、憐れむのでもなく、
びしょ濡れの土方を抱えて低く、よく通る声で告げた。
土方を真っ直ぐに見ている。


流し目のままで(真っ直ぐに見据えたら、目に水滴が入る)坂本を
見返す、その視線の動きは微かなものだ。


「無理だよ、俺ァ此処を離れられねえ」


土方は、力なく、でもはっきりと云った。



あっはっは、と坂本が明朗に笑い声を上げ、
「まるでかぐや姫の逆じゃな、ちいとも地球から離れようと
しちゃくれん」
と云いながら土方をしっかりと抱き締めた。
その勢いと力強さに、土方の肩が、腰が、背が、首が、
腕が、指先が、徐々に形を取り戻す。
固体に戻る。
触れられているところから、実体を取り戻す。

溶け込んでいた液体ではなく、固体である自分の指先を
実感すると、土方は黒い隊服が自分の体にまつわりついているのを
感じる。水を含んで重くなっているのを覚える。



白い手首から指先までが闇の中で発光する。

するり、とその手を坂本の首に絡める。両手で彼の抱擁に応える。


水の中から産まれたての、生き物のように。











END


はい、坂土です。
パピーと神楽ちゃんと銀さんと新八、皇子と爺に本気で泣きながらも、
私はこんな捏造を抱いても居るのです。
恐るべきかな妄想の同時進行・・・・・・!!

妙に土方が冷静ぶっているのが余りに不憫で、彼は暗い水の中に
解けて消えてしまうのが似合うと思いまして、そしたら
こんなことになりました。
自分では結構満足しています。
土方がこんな風に、恥も面目も立場もなく振舞えるのは坂本だけでしょう。

銀さんだったら、先ず刀を重石にしようとすることを怒る。
そして莫迦にしながら諭すでしょう。

沖田だったら、一緒に死んじゃうか、沈む土方に刀を突き刺して、
その血の色の湖で自分も死ぬか立ち尽くすかするでしょう。
これはこれで、好きなんです。書きたいかも。救い無いけどね。
もしくは引き摺りあげて徹底的に冷たく「逃げようったってそうは
いかねえですぜ」とか云うかも知れない。

山崎だったら、必死で引き摺りあげて、殴って泣きながら謝って、
それで土方を抱き締めながら縋るでしょう。

侍でもなく、副長としてでもなく、土方が振舞えるのは坂本相手だけ。
しかも坂本の性格からして、喚かない騒がない。良くも悪くも。


ってなことで陰気な坂土でした。
火のように激しい土方の、陰気な水の性質。

書いていて、何処かアスカカかエビカカを思い出しました。>銀迦ちゃん

BGM:PUFFYちゃん。こんな暗いもの書きながら、何て
ポップでキュートなものを聴いているんだ自分・・・!






2005年03月26日(土) 普通の日記、私信とか予定。


ちょっと忙しくしてます、

SUIさま
メールのお返事遅れててごめんなさい!
Dグレで・・・エリクロエリお願いしても宜しいでしょうか・・・。
いえ、ラビとアレンでもいいです、SUIさんの書かれるアレン
大好きなんです。
丁寧なご感想に感謝を、心より。
じっくりお返事させて頂きます。
そしてまだ書かせていただきます、私的に不完全燃焼。いつもですが。苦笑


何だか坂土の反響が大きい!
お伝えしてくださったことに感謝を込めて、
今度は坂土書きます。
坂土にどんなイメージがあるか、良かったら
メルフォででもはくすででも、お聞かせ頂けたら
励みになります。
どうぞ宜しくです。良かったら。


2005年03月21日(月) 薔薇の葬列 (Dグレ、エリクロエリ)


きっと、初めのうちには覚えていたの。
私が「誰」で、この皮が「誰」だったのか。
この皮の持ち主だった女は、私のことを想い過ぎて、
死んだ私を想って想って、呼び戻してしまった。
そうして私はこの女を殺してその皮に入り込み、アクマになった。

何で私を呼び戻したの、アクマになんかにしたの。
ひどいじゃない。



どうして強く、精一杯生き続けてくれなかったの。
私が死んでも。
居なくなっても、ねえ。
ひどいじゃない、あんまりよ、私に殺させるなんて、ねえ。






気が付いたらそんな悲しみも自分の出生も忘れて、ただ殺してた。
だって私はアクマだもの。単純に空腹に従ったわ。
「罪に苦悩し
己の姿に絶望し
現実を憎悪する」
この苛立ちで私は進化する兵器。
その苛立ちの為にお腹を空かせては人を殺して育つメカ。

進化すればするほどに呪いは忘れた、
そんなものよりも綺麗な洋服や最新の化粧品に
興味が湧いたわ。
自分が誰なのかも、皮が誰だったのかも忘れてしまったから、
罪悪感に苦悩する事もなくなったわ。
自分の姿は進化と共に幾らでも変えられた、
乱れたセットは直せばいいし、
崩れたメイクはしなおせばいい。


だから羨ましかった、どうしても得られないものが。

だから嬉しかった、伯爵の命令とはいえ、行った先で
アレイスターと出逢えた事。

自分の進化をはじめて喜べた、進化の先に芽生えた
自分の自我を祝福できた。
お洒落やショッピングでは満たされない空腹感が満たされる喜び。

彼を騙して、共に暮らす事が出来たのはここまで進化していたから。




私を壊す事の出来るアレイスター、その牙は怖かったわ、
でも私は村人を、彼はアクマを、殺す事で一緒に居られた。

騙しあってたわね、こんなの恋愛ごっこだったかも知れないわね。
でも私は知ってた、貴方がエクソシストだって。
でも貴方だってうすうす気付いていたでしょう?
だから私の血を欲しては、そんな自分を「忌まわしい吸血鬼」だと
責めては罵った。そうして泣いたわね。

・・・私の所為にはしなかったわね。
私がアクマだと、貴方は疑わなかったわね。
何処か気付いていたはずよ。
貴方は寄生型、勝手に牙が反応する筈。
それをずっと耐えていてくれたわね。
やさしいアレイスター、やさしい私の、私だけの吸血鬼。



ああ、何処かでオレンジのガキの絶叫がする、
今好い所なんだから邪魔しないでよ。
私とアレイスターの最期の恋愛ごっこの瞬間なのよ。
「ごっこ」が「本当」に変わる最期の一瞬。最後のチャンス。
あら?ちょっと待って今何て叫んだ?あのガキ。
「I LOVE YOU」?!
それ、今アレイスターが私の身体に駆け上りながら、
声に出さずに口だけで云ったわよ?


そう、そうなのアレイスター。


貴方もごっこ遊びを止める決心がついたみたいね。
じゃあ私は本音を云うわ。
本当のことを一部だけ、云うわ。


「そとへ行けないのを全部じじいのせいにしてさ
自分が城を出て傷つくのが恐いだけでしょーーが!!」


「臆病者!!」

云ってやったわ。
これで、もし私が壊されても貴方、外部に出られるでしょう?
だって本当の事だものね、これは呪いよ。アクマの呪い。
貴方は私の言葉によって外部に出られる様になる。


「エリアーデ」
やさしいアレイスター、こんな醜い姿の私でも名前を呼んでくれるのね。
私だと思ってくれているのね。
貴方の嘘なんてバレバレの見え見え、「醜いお前は見たくない」なんてね、
自分の吸血鬼じみた容貌を何より気にしている貴方が、そんな風に
他人を観るはず無い事くらい解ってるわよ。
知っているの、お見通しよ。

捨て身の攻撃、
「跡形もなく消えよう」と聴こえた。








聴こえたでしょう?私の声。


「あなたを」


「愛したかったのにな・・・」

これからも

「ずっと」

「私だけの吸血鬼で・・・」



ねえ、後悔していないわよ、アレイスター。
貴方、動けたのだから観ていたでしょう?

干乾びて落ちて行く貴方を見下ろす私を、

貴方に血を吸い尽くされて壊される私を、



一番キレイだったでしょう?
これまでで一番、眩しいくらい「きれい」だったでしょう?




後悔していないわ。

忘れないで、アレイスター。私のことを。
これも呪いよ、最期の呪い。
解けない呪いよ、忘れないでね。
貴方を愛した美しい女のこと、
吸血鬼を愛した女のこと、

エクソシストと恋をしたアクマのこと。

覚えていてね、その最期の美しさを。

アレイスター、やさしい私の吸血鬼。







END


BGMはCoccoの『遺書』ですからね、本気です。
書きながら泣きました、ちょっと。
こんな事初めてだ、自分で小説書きながら泣きそうになるなんて。

タイトルはピーターが初めて出た映画のタイトルです。
ゲイ・ボーイと近親相姦、叶わない父親への愛が血まみれを招く、
これも非常に美しい悲恋の映画です。超オススメ。


・・・エリアーデ大好きです。やばいです。
ラビが叫んでいるところ、あれはアレイスターの顔とかぶせてあるのは
彼の叫びでもあったのだと解釈しています!!
だから、口パクで云ったことにしちゃった。

あそこまで進化して、自分を抑えられるアクマなら、味方にして
しまえば良かったのに、と想ってばかりいます。
アレイスターとコンビを組ませれば彼は何時でもフルパワーで闘えるし、
ああ、でもアクマの殺人衝動はアクマを殺しても満たされないのかな。
伯爵の呪いは、所有はどれだけ自我が進化しても解けないのかな・・・。

あまりにも悲しい、美しい恋。
十分、恋をしていたと思う。二人は箱庭で。
何で師匠、アレンたちを送り込んだの、どうしてそっとしておいて
あげなかったの。

「次号、クロウリーがアレン達に語ったこととは?!そして・・・!?」
迂闊な事語ったら許さないぞ、アレイスター!
星野さんは最後まできっちりエピソードを描ける人なので、
信じてますよー。うう・・・エリアーデ・・・・・・。

女性の1人称モノはたまにすっごく書きたくなります、
しかもこういう「オンナ」っぽい、はすっぱな人の。
銀魂でも鋼でも無理だったからすごく嬉しい。
ああ、ラストさんでも書けたな、彼女も殺されてしまって涙。
どうせならアルに殺して欲しかった、せめて。
バトロワでは光子でガンガンかけたんですけどね。

エリクロでもクロエリでもいいけど、このカップリングは
私の殿堂に入りました。大好きで愛しい。読み直してまた泣く。




2005年03月20日(日) Cocoon (銀桂、SUIさまへ捧ぐ)

「お前さ、髪、切らねェの」

呑んだくれて夜明けに家へと戻る銀時は、
夜勤の呼び込みをしていた桂と会った。
珍しい事だった。
ふたり並んで朝焼けの白々とした街外れを歩く、
随分と懐かしい気分になる。

こんな事がよくあった、あの時は何を話していたんだろう・・・
他に人が居たときもあったし、二人だけのときもあった。
よく並んで歩いたものだった。
もう、どれだけ考えても仕方の無いものだった。
感傷的にしかならない、あまりにも不毛で、不憫な過去と
いう自分たち。
あまりにも、不憫で哀れで惨めな。
そう云ったら銀時は否定するだろう、「莫迦だなあヅラァ」と
間抜け面を作って俺を揶揄するだろう。
それも解ってはいた、俺だって現在を生きているつもりだ。

考えに沈んでいたため反応が遅れる、桂ははた、と顔を上げて
「何故だ?」
と訊き返した。
腰の辺りまで届こうかという、黒髪が艶を放って流れるように
風に煽られた。さらさら、さらさら、留まる事を知らない時間の様に。


「前はもう少し短かったじゃねーか。肩の下あたりになるとマメに
切ってて、ホラ、坂本に切られてひでェ事になったりしてよ」
銀時は笑ってはいなかった。
朝日の所為なのかどうかは解らない、目を細めて語る。
「そうだな・・・最近は放っておきっぱなしだ。
・・・銀時、これでお前にカツラを作ってやろうか」
銀時が盛大に噴出して、爆笑した。
笑い過ぎで咳き込みだす。
「ぐっ・・・ふふ、ぶははは!!おまっ、それ!
ヅラ屋のヅラになるって話?!とらばーゆですか?!」
腹を抱えている、銀時が本当に笑えているのを見るのは
嬉しい、喜ばしい事のはずだったが、一抹の寂しさがよぎる。
元々群れる気質の人間ではなかったが、一度集まりが出来ると
それを何よりも大事にし、その和の中で笑いを絶やさないのが
銀時だった。
その銀時が戦況の悪化と共に笑わなくなり、眼ばかりがどんどんと
暗くなっていくのを見ているのは苦痛だった。


「俺は桂だ、発音が違うだろう、云ってみろ」
「いっや、ぶふっ、だ、だってお前明らかにオヤジギャグだぜ」
息切れしている。
「そう思うお前の発想がオヤジなんだ、嫌味だと理解しろ」
口角を上げて桂は笑んだ、自分の葛藤を気取られない様に。


すう、と銀時の笑いが消えた。
(ああ、やはり気付かれてしまうか)


「ヅラ、ぎ」
「お前の根性そのまんまの髪だ、俺の様な髪質になってみたいだろう?
遠慮するな、いつでも土下座でお願いしに来い」
言葉を遮った。にこりと微笑んで、言葉をせき止める。


義務感だけでやってるなら、もう止めろよ。



云わないでくれ、聞きたくなど無い。
俺はあの最後の時に、他に取り得る手段が思いつかなかった。
お前のようにもなれなかったし、坂本のようにもあれなかった、
何も云わずに大きな怪我を抱えて消えた高杉のようにも振舞えなかった。
諦めることも、
捨てることも、
認めることも、
受け入れることも、
他の道を選ぶことも、
俺には出来なかった。
残った残骸を掻き集めて、取りこぼしては泣いて、
這いずってまた集めて、立ち尽くすしか出来なかった。
死んでいった者のためにも、誰かは同じ場所に立っていなければ
ならないと思ったんだ。

「生け贄のつもりかよ、偉そうに」

祭りの騒動の際に再会した高杉にはそう吐き捨てられた。

そうかも知れなかった。

浮かばれなかった魂の、拠り所になって、俺は生きた墓標として
その魂を担ぎながら、侍として闘うつもりだった。
いつまでも嫌だ嫌だと篭城して駄々をこねているようなものかも知れない。
今、自分に付いて来てくれている者には失礼な事だ。


「お前さ、」
銀時が口を開く、心が身構える。

「ちゃんと変わってるよ、昔はそんな笑い方出来なかったじゃねえか」

桂の表情が抜け落ちる。

「誤魔化しでも何でもよォ、そういう笑い方すんのはさ、
今一緒に居る奴らのためだからだろ」

「変わらないな、お前は」
ああ、多分自分は今困った様に笑っただろう、でもごく自然に。

「俺は昔からオトナだからね、出来た人間だからね、ホラ」
ニイ、と笑う笑顔と、並んで歩くブーツの頼もしさ。

「ほざけ、酒と糖分で腹が出てきてるんじゃないのか、
自称、永遠の少年が泣くぞ」
表情を隠すために、
断ち切れない思いのように、
伸ばしたままの髪は呪いの繭かも知れなかった。
自分はその中に閉じこもっているのかも知れなかった。


でも、
「お前なあ、西郷んトコに売り飛ばすぞ」
「ふん、出来るものならやってみろ、俺は現役だぞ、鈍ったお前
なんぞ敵ではない」
でも、

「髪、切ってやるから、今度ウチ来いよ」

するり、と髪を一束柔らかく掴まれる。

「・・・そうだな」

「しっかしホントに綺麗な髪だな、オイ。まあ俺は死んでも
ヅラのヅラは御免ですけど」

はらはらと銀時が、髪をゆっくりと放す、
舞う髪は風になびく。
ゆったりとした銀時の笑みも、自分の卑怯な笑いも、
全ては無駄ではないのだ。
きっといつか、こんな風にほどけるだろう、解けるだろう。


だから、ああ、
この繭はいつか開いて、俺も何処かへ行けるかも知れない。
抱えた魂ごと、何処か納得のいく場所へ。

「桂だ、って云っているだろうが」
銀時の膝の裏に蹴りを食らわし、がくりとよろけるのを
見て笑いながら思った。

町が目覚め、ざわめき出す。
夜が明ける。






END

居候の身である、しがない私にリンクのお申し出をくだすった
SUIさまに、リンク感謝記念として書かせていただきました。
全然、銀桂じゃないですね、銀さんと桂ですよね、これじゃ。
ううむ、申し訳ないです。
つーわけでもう1本くらいリベンジさせて頂こう。
高杉も出してみたんですが、高桂書けるかな〜・・・うじうじやってる
者同士の受けカップルならいけるか・・・ってそれも全然ダメじゃん!

SUIさまの『ダスイストアレス、今日と昔の話』の冒頭の文言は秀逸。
一応、其処で云うことの叶わない銀さんの誉め言葉を云わせてみようと
思ったSSです。良かったらお納めくださいませ。

SUIさまのサイトです。↓
http://sui.gonna.jp/allelujah/

繊細にもの狂おしく苦悩し、葛藤する桂を書かれています。
流れるような文章は甘美です。
Dグレでも書かれているのですが、アレンがうちのコと違って
大人びていて、愛の苦しみを味わいつくして絶望も飲み込んで、
いっそ儚い位の老獪さが切ないのです。
そう、銀桂でもそうなんですが、切ないのです。
という訳で桂好きさん、アレン好きさん、是非ともオススメです。

高杉や銀ちゃんが男っぽくて格好良いのですよ、また。
見習いたいわ。

★銀迦ちゃん★
素的なデザインとまとめをありがとう!
お礼は色々考えているけど、一番手早く出来るのはコレ(文章書く)、
ですわ。近高でも桂でもラビミラでも、云いつけて下さいな。
バナーもうれしい。とっても。

これから空知関連サーチに登録予定です、
皆さまコレからもどうぞ良しなに。
私、本当にあっさりリクエストには応えますので、お気に召したら
拍手ででもお聞かせくださいね。

BGM:より子『Coccon』タイトルもここから。


2005年03月18日(金) 聴こえたから (坂土)

「副長、お客ですよ」

事件の処理のための書類などを製作し、本部への
報告資料などをまとめている土方に声がかかる。

「誰だ?」
机から目を放さず訊く。

「それが・・・あのう・・・坂本辰馬なんですよ」

指に挟んでいた煙草がポロリと落ちた、
慌てて拾うけれど、書類に少し焦げがついてしまった。
「はあ?・・・ん、ああ、解った。すぐ行く、中に入れなくていいぞ」

外套を羽織って門扉へ向かう。
日差しが眼に刺さる、良い天気だ。

ひょこり、と門から姿をのぞかせると、坂本がぶんぶんと手を振って
「おーう土方!元気にしちょったがか〜」
と云いながら近付いてきた。
長身に真っ赤な外套、もさもさの癖っ毛に下駄、何て目立つ男だろう。
思わず土方は溜息をついた。

「何じゃ、人の顔見るからに溜息ばつきゆうて」
「何もクソもねえよ・・・近藤さんなら出てるぜ」
頭約一つ分違うだろうか、見上げる形で話す。

「それは構わんきに、おんしに会いに来ゆうがじゃ」
にこにことしながら坂本は応えた、
「俺?何でまた」

「何でもいいじゃろ、まあ何処か行くろ、立ち話もくたびれるしのう」
ぽふ、と土方の肩を叩いて促した。


相変らず突拍子も無く、つかみ所の無いやつだな・・・土方は思う。

近藤の惚れ込んでいるお妙と、坂本が気に入っているおりょうが
同じ店で働いている事から、ちょくちょく顔は合わせる。
坂本は、近藤と違って一途にひとりを思う性質ではないので、
あちこちに入れ込んでいる女がいるのだろう。
しかも、ヤツには女と男の区分が無いらしく、自分も一度だけ
坂本と寝たことが有った。
他人を放っておけない性格なのだ。
その朗らかさに、土方は近藤と通ずるものをふと感じては困惑する。


「土方、痩せたんと違うか」
「そうか?体重計なんて無いからわからねーな」

「青白い顔ばしちゅうきに、煙草ばっかりのんじょるからじゃ」
「うるせえな、お前は俺の母親か」
土方の吸っている煙草を取り上げて、坂本は吸い込んでみる
「げえっほ、ぐ、げほ」
盛大に咽て、嫌な顔でつき返す。
「煙いだけじゃな、高杉といい、なんでこんなもん吸いようがか
さっぱり解らんがじゃ」
「高杉?」
「おう、高杉晋助」
土方の目の色が変わる、
「あいつ、まだ江戸に居るのか」
「居るよ」
祭りの騒動以来、マークはしているのにさっぱり網にかからない、
最も注意しておかなければならない人間なのに。
あっさりとした坂本の対応に苛付く。

「近藤はたまに会ってるみたいじゃきに、心配なかろ」

またしても煙草を取り落としそうになる。





「・・・なんだって?」




「あちゃ、知らんかったがか。こりゃ口滑らしたきにゃ」


頭も身体も凍り付く、震えそうになる声を必死で抑えて訊ねる。

「何であの二人に付き合いがあんだ」

「さあ、わしも詳しくは知らんが、かなり前、そうそう鬼兵隊が
壊滅しちょった時から面識があるらしいぜよ、時々高杉のねぐらを
訊いてきゆう」

土方は呆然とした。



そんなに前から。


それは大体、真撰組が作られたのと同時期の話のはずだった。
何故。
裏切られたとは思わない、そもそも銀時といい坂本といい西郷といい、
もう既に攘夷志士に知り合いがいるのだ。
ただ、未だに活動を続けている桂と高杉は捜査の対象だ。
近藤がそれを知りながら、あえて捕まえないのだから絶対に理由がある、
それがショックだった。
わざわざ居場所を訊いてまで会いに行っているのだ。
隊の誰にも、自分にも何も云わず。

「土方、そげな顔しゆうな」
困りきった坂本の声に我に帰る。

「近藤さんに何か考えが有るんだろ、俺が口出しする事じゃねェ」

素っ気無い声を出す事が精一杯の強がりだった。
きっと、近藤本人に問いただす事など自分には出来ない、
そんな勇気は無い。
衝撃の余韻でぐらぐらと眩暈がした。
突然、坂本に手をぎゅうと握られる、咄嗟に見上げると
「倒れん様にせにゃいかんぜよ」
と優しく、云われるので土方は心底困り果てた。

「誰が倒れるかよ」
(俺には関係が無い事なんだから、だって近藤さんは何も云わないから)

むしろ、白昼に男二人が手を繋いでいる事に焦りを覚えた、
しかも自分は隊服だ。
手を払って辺りを見渡す、誰もいない。ほっとした。


くそ、と心の中で毒づいた。
余りにも遣り切れない。

自分だって銀時と寝ているくせに。


腕を突如としてつかまれ、ずんずんと脇道に入って行く。
坂本の大股歩きに、足がもつれた。


「何だよ!」
怒鳴って腕を振り払うと、坂本は向き直って両手を広げた

「泣いてもいいきにゃ」

土方の表情が歪んだ、うるせえ、放っておけ、
喉がからからに渇いて声が出ない。
「誰が泣くかよ」
ひび割れた声で吐き捨てた。

坂本が眉を上げて、肩をすくめる。
しょうがない、といった風に土方を抱き寄せる、
「知らんかったんじゃなあ、すまんこと云うたがきに」

「・・・っ・・・」

坂本の胸の中で、土方が呻き声をあげた。
そういえば近藤は会議の際に「万が一高杉を見ても、迂闊に手を出すな、
殺される。先ず俺に声をかけろ」と云った事が有った。
河原で高杉らしい人物の目撃証言があった時にも、自分を制して
「俺が行く」と云っていた。

捕まえないのは構わない。
でも、どうして何も云ってくれないんだ、俺にさえ何も。
そんなに高杉が大事なのか、
そんなに高杉が大事なのか?
近藤さん、近藤さん、近藤さん。


訳が解らないままに溢れそうになる涙を精一杯堪えた。
出会いも、付き合いも、さっぱり自分には解らない。
知りようも無い。
そんな事が自分たちの間に、無い事の方がおかしいのに、
それでも知っておきたかった。覚悟すら出来なかった。
訳が解らない、解りようも無い。当たり前なのに。
ふ、と坂本の手が背中を擦り、頭を撫でる。
抱きすくめられながら
「全然、何でもねェ事だ」
と呟いた。


「ほんとにおんしは、たまに顔を見んと気になって仕方ないがぜよ、
心配でたまらんきにゃ」


土方が目を見開く、近藤の台詞のように聴こえた。

「トシ、お前は苦労性で意地っ張りだから、何でもすぐ自分だけで
抱えようとする。心配で仕方ねェよ、それを解れよ」

そういう事をたまに云われる。

近藤も高杉に対してそう思っているのかもしれない。
何故だかそう思った。

坂本の腕の中から離れて、
「余計なお世話だ」
と小さく云った。
声が出たか、土方には解らなかった。
出ていなかったかも、聴こえなかったかも、

苦笑される。
「聴こえるんじゃ、おまんの声が」

「何?」
顔を上げる。


「しんどい、って」
「黙ってるのがしんどくてかなわん、って」
「重たいもん、色々と背負いすぎじゃ、土方は」

一言一言、区切りながら坂本は云った。

「・・・仕方ねーだろうが・・・」

もういっそ泣きたかった。
泣けたらマシだった。
でも泣いても余計に辛くなるだけで少しも楽にはならないし、
何も変わらないのは解っていた。

坂本が上体をかがめて、土方に優しく口付ける。
受けながら土方は目を瞑った、
心の中で、涙が一筋伝った。
誰も知らなくていい、
気付かなくていい、

知られたら、たまったもんじゃない。
自分の想いなんて、誰も気に留めなければいいのに、

どうして俺に構うんだ。



そのまま旅籠に行き、土方は坂本とセックスをした。
そんな時だけ、苦しい思いを忘れられるだろうと思ったし、
坂本も多分そういうつもりだった。

声を殺し、顔をも隠す土方に、坂本は「土方、無理せんでいいんぜよ」と
云い続けた。何度も繰り返した。
「わしには、聴こえてるきに。吐き出していいんぜよ」




そう云われても、縋るわけにいかないだろう。
優しさに、日溜りに甘えたら、自分は凍て付いた世界に
戻れなくなるかも知れない、
それが怖いから土方は少しも素直になど、なれない。
ただ、自分を守るために。
ただ、自分を保つために。
ただ、自分が立っていられるために。







END

銀迦ちゃんが2月までのジャンルを分けてまとめてくれました、
バナーもじきにあげてくれると思います。
本当にありがたいです。
背景も凝ってくれて、自分の旧作が読み易くなりました。

★レス★
ゆいさま
何気ない日常の良さが、銀魂にはありますよね。
妙に生活臭があるというか。
なので、自分の歌舞伎町体験と共に書いてみました。
どこか寂しくて、どこか気が抜けて、でもこれから帰れるという
安心感。
後ですね、新宿歌舞伎町のドンキホーテ横には、放火事件以来、
本当に仮設ロッカーみたいな派出所が出来ていたんです。
銀迦ちゃんと観ながら、「これはネタに使える」など話していたもの
ですから、使ってみました。
きんと寒くて、ちょっと寂しくて、冬から春にかけての不思議な
気持ちを感じ取っていただけたようで本当に嬉しいです、
ありがとうございました!!!!











2005年03月16日(水) 紅梅 (近高)


夜気に匂い立つ紅の花弁。
骨のように無骨な幹には不似合いな、
小さく可憐な花。
満開のそれは血飛沫の様だった。
暗闇に花だけがいやに目に付く。


何処に居ようと、異質な雰囲気を纏って、
いやに目に付く彼の様に。




春めいてきて、昼間はもう暖かい。
近藤は非番の日に、その小春日和につられて
町をそぞろ歩きに出かけた。
巡察じゃなく、私服で町をただぶらぶらするのは
悪くない。むしろ楽しみの一つだ。

真撰組の制服姿では嫌でも周囲を威圧してしまう。
周りを道行く人間が、警戒もせずに浮かれさざめき、
それに埋没して歩ける事は、近藤の様な人間好きには
他ならない楽しみだった。
顎鬚を撫でながら、特にあても無く散歩をする。
可愛い娘が居れば振り返り、顔なじみの爺さんに挨拶したら、
そのまま捕まって道端の茶屋で将棋を打ったりもする。

(あ)

はっと息を呑む。
どうして、こんなに人が居る中でもアイツは目立つんだろう。
特別目立つ体格じゃない、最近は散々たしなめた所為か着流しも
昼間は地味なものを着ている。
濃紺の着流しに黒い帯、
菅笠をかぶっていないので細い首が露だ。
形の良い小さな頭、包帯と仕込刀さえなければ少年のようだった。

(まあ、あれならチンピラくらいに見えるわな)

妙な安堵だった。
本来なら真っ先に捕まえなければならない超危険分子、
攘夷志士の中でも最も警戒され、畏れられている男。
しかし隊士の口から、奴を見たという報告を受けた試しが無い、
自分は割とよく見かけるのに。しかもあんなに目立つ奴なのに。
それもまた、妙な安堵だった。

「た」

呼びかけ様として口を噤む、真昼間から大声で呼ぶ名前じゃない。
滅多に無い苗字ではないけれど、気をつけるに越した事は無いし、
何より本人の機嫌が圧倒的に悪くなる。それが面倒だった。

「晋助」

少し潜めて、低めにした声で響かせた。奴は耳がいい(夜目も効く)。
一拍、間をおいてから振り向く。
ゆっくりと。
人込みの流れの中で、明らかに異質。違和感で浮き上がっている様な。
厚くて大きな掌を胸元で小さく手を振って、大股で近付く。
何処か呆けたような顔で見上げてくるので、
「よう、どうした」
と問えば、
「名前なんて呼ぶ奴いねェから、反応できた事に驚いてる」
ぽつり
「一応、俺の名前だって認識してるんだな」
ぽつり、と応えた。
「くっ、あはははは!そういや俺も名前で呼ぶ奴なんていねーなあ、
最近じゃ”ゴリラ”で振り返っちまう」
笑い飛ばしながら、一回り小さい高杉の体を隠すように横に立つ。

本当は眉を顰めて黙り込みそうだった。そうしたかった。
偽名ですら、そうそう呼ばれないほどに高杉は人と関わり無く
生きているのだ、そもそも名前を呼ぶ相手もろくに居ないだろう。
こんなに、町には人が大勢居るのに。
こんなに、町には人が溢れているのに。


誰も知らない、
彼を知らない。
名前も存在も、「過激派攘夷志士・高杉晋助」だけが一人歩きして、
今ここに居る彼を誰も知らない。

知られても困るので、尚の事身を潜めて、
存在を消して、息を殺して生きている。
生きているのに、
ここに居るのに、
死んだ振りをしながら生きなければならない。



胸の辺りがちくちくする。
幕府は、というか片栗虎のおやっさんが俺たちを拾ってくれた
恩は一生かけて、この身で返していくつもりだし、
自分の仕事にも、侍であることにもプライドも意地もある。
でも、でも高杉を捕まえる事とそれが繋がらない、
繋げてはいけないとすら思う。
たまたま刀と侍の意地をかけて立ち上がったのが、こいつの
率いた鬼兵隊が先だっただけのことだ。
道場で行く末を考えあぐねていた自分を尻目に、こいつは
すぐに立ち上がって闘ったんだ。
そして守ろうとした幕府に仲間を殺された。
時折、土方と沖田は桂を発見しては血眼で追っかけているが、
あれも本当のところは遊びのようなものだ。
意地の張り合いのようなガキの喧嘩レベル。
本当に信じたものを守るために闘って、今も闘っている奴を
捕まえるだとか殺すだとか、多分、実は誰も考えていない。

(そんでも、俺らが考えてなくたって、立場ってモノはあるし、
お偉方は始末したくて仕方ないんだろうなあ・・・)

「お前、何処行くんだ」
考え事の合間に、突然声をかけられて驚く、
「えっ、あ?!ああ、今日は非番だから、別に何処って事も
無くって、ただ散歩をですね」
「つまんねー事考えてたんだろ、キョドるな、鬱陶しい」
ふんと鼻で笑って、高杉は痛いところを突いてくる。
でも其れは、高杉にとってだって痛いところの筈だった、
(ああ、ヤダヤダ、こいつはブチ切れてるか、嫌味に辛気臭いか
のどっちかだ。しかも両方とも自虐的なんだ)
「お前こそ、昼間出歩くなんて珍しいじゃねえか」
「買いもん」
生きていることを感じさせる言葉に驚く。

「何?」
「三味」
「ああ」

高杉の生まれは悪くない。田舎の百姓の自警団じみた、芋道場の
自分よりも良い教育を受けている。
なので、彼は三味線や小唄を嗜んでいる。

一度だけ泥酔したついでに無理矢理に謡わせた、予想外の
のびのびとした声が窓から空へ高く伸びてゆき、闇夜に溶けた。
ああコイツは死んだ仲間に謡ったんだ、と思った。
涙も出なかった。
仲間たちといた頃は、呑んでは謡い騒いだんだろう、今は独り
聴かせる者も無く。


近藤は三味線の事はさっぱり解らなかったが、4軒ほど店に付き合い、
高杉が三味線を選ぶのを観ていた。
別段、楽しそうな訳でもなく、普通の顔で眺めては爪弾く。
結局小ぶりで値段もそこそこの、上品な物を買った。

包もうとする親父を制して、そのまま無造作に手にする。
それが様になる。
(本当は飾らない粋の持ち主なんだ、高杉は)

持ち金の無くなった高杉に「奢ってやるから聴かせろ」と
ねだり、屋台で色々な食物と酒を買って、近所の寺へ向かった。
もう日も暮れてあたりは真っ暗、
梅の香りが何処からか漂ってくる。

寺の縁台で寝転びながら、高杉が好きなように謡ったり
弾いたりしているのに聴き入る。
適当に食物をつまんでは呑んで、高杉の失敗を笑ったりする。
彼の郷里の唄の意味を尋ねる。


そうしてどれ位経ったろう、きっと夜中だ。
高杉が「疲れた」と云って縁台にごろりと横になり、
煙管を吹かす。
並んで横になっていると、夜の静かさと梅の香りがぐっと
強くなるのを感じた。

近藤は香りを頼りにと、立ち上がって藪の中に入っていった、
大して夜目の効かない近藤は、あちこちにひっかかり、「いでっ」と
声を洩らすと、後ろの方から高杉の笑い声が耳に届く。
「莫迦か、何してんだ、小便か?」
「ちげーよ、あいててて何かひっかかった」
くつくつという彼の低い笑い声を聞きながら、探す。



あった。



暗くても見える紅。




ひっそりと。





またあちこち引っ掻き傷を作りながら戻る。
「おら」
高杉が首だけもたげる、

手折った紅梅の枝。
小さな花がほろほろと咲いている。


それを受け取って、高杉はくるくるとかざす。
「お前にしちゃ気の利いた勘定だ」
そう云って、耳の後ろに差した。




夜明けに彼は三味線にその枝を挟んで去っていった。
何処に帰るのか。
帰る場所なんかあるのか。
無いのに。
無いけど。



濃紺の着流しに背負った三味線、そこの紅梅。

「高杉、晋助」
思わず呼び止める。
振り返る。
「高杉晋助、高杉、高杉、高杉」
喉がつかえる、
こいつの気持ちは予想できないし、出来たとしても肩代わりできない。
あげ続けてる悲鳴を止めてやる事も叶わない。

でも、ぎこちなく歩きよって、高杉をぎゅううと抱き締める。
「高杉」
「高杉」
「・・・なんだよ」
「高杉」
「なんだ」
「お前忘れるなよ、覚えてろよ」
「なにをだ」
「此処に居る事」
「・・・・・・」
「呼ぶから、俺が呼ぶからお前の名前、なあ高杉」
そっと近藤の腕を緩めさせ、高杉は口付ける。

「また、梅持って来いよ、そしたら謡ってやってもいいぜ」

離れながらそう云った。


「おう」

じっと目を観て返事をする。
彼は何か確かめるように、近藤の胸をぽんと叩いて、
また背を向けて去っていった。

梅の香りが後に残る。
莫迦みたいな約束、他愛ない時間、でも
それがあいつの何か確かなものになればいい。
近藤は願いながら屯所へ帰った。


向き合った背は、ふたりとも少し寂しい。
少し悲しい。
でも確かに生きている。







END


長くなったなあ、読んでくだすった方、お疲れ様です。
結構ラブラブな近高でしたねえ、でもパラレル軸じゃなくって、
近藤はお妙さんのこと好きだし、土方は近藤さんのこと好きで
悶々としてます。
行き過ぎちゃった友情というか、同士愛というか・・・
義理人情に厚い、熱い近藤にとっては、高杉は放っておけない
人間なんだと妄想。
珍しくおとなしい高杉でした、きっと彼は躁鬱の波が激しい、
でも基本的に儚いと思う。
だって何も持ってないんだもの、何も残ってないんだもの。

あーあ・・・土方かわいそう。と書きながら思いました。
沖土の「白梅」と対の作品にしました。

実は超入魂しました。めちゃくちゃ有り得ない妄想カプなのにね。
つーわけでレスはまた後で・・・。
がくり。








2005年03月14日(月) 花吹雪 (ラビミラ・リーバーミランダ)


「ミ〜ランダさんっ」

機嫌の良い、人懐こい、しかし低い落ち着いた声に振り向く。
ほあほあと凝った細工と刺繍のバンダナで上げた
オレンジの髪がゆれる。

「ラビさん」

ホームの中庭でミランダは本を読んでいた。

彼女が実は結構な本の虫だとは最近知った、
人の多いところを避けて何処かに一人でいる事も。
そして時々厨房の片付けを手伝ったり、
化学班の研究室を掃除したり、
うっかりリーバーと仲良くなっていたりする事も・・・!




まだ落ち着かないのか、一所にじっとしている事も無いが、
人だかりで歓談するのも苦手なので、そういう細々とした
立ち回りになる。
何かと失敗ばかりしていても、誰も彼女を責めない。

「元々此処は滅茶苦茶なんだから、大丈夫だわ、むしろ
こういう気遣いしてくれる事の方がホントありがたいね」

研究室の本と書類の山を片付けようとして崩し、半べその
ミランダにそう云ったのはリーバーだった。
他の研究員も頷いている。
慌てて本と書類の山を分類し、埋もれたミランダは顔を上げた、
リーバーはよく笑う方でもないし、どちらかというと
無愛想でニヒルな表情をする。
でも笑顔でフォローされるよりも、飄々と言葉をかけられ、
ミランダの半べその顔に「ん?」と無言で首を傾げてやることの
方が彼女には有難かった。
「ありがとう、リーバーさん・・・ごめんなさいね、
すぐ元に戻しますから」

だからミランダは、心を落ち着けて失敗の後始末をつけることが出来た。

「いーぜ、別にゆっくりで。俺まだ仕事で残ってるし」
椅子にもたれかかり、コーヒーカップに口をつけながら
リーバーは云った。もう書類の方に目を向けている。
わあわあ騒がれて、あたふたと片付けを手伝われても申し訳なさで
余計に惨めな気持ちになる事も、ミランダは経験から知っていた、
手もかさず、責めることも無い、繕ったフォローもしない。
その態度になにより安心できた。
それは卑下でも、侮蔑でも、罵倒でも、同情でもなく、信頼だから。
信頼と認められる事、感謝こそがミランダを安心させ、
その安心が彼女を成長させるのは云うまでも無い。


「今日は何読んでるんさ」
ぴょこりと覗きこむと、過去のエクソシストの型の分類リストだった。
「私、装備型って訳でもないし・・・ちょっと珍しいみたいだから、
他にどんな方が居たのか知りたくって・・・」
ラビが不意に身を寄せてもミランダは動じなくなった、
恥ずかしげに微笑むのは相変らずだが、大分心を開いてきてくれている。

何かと複雑な境遇でホームに訪れるエクソシストやファインダーには
性格的に癖がある人間が多い。
そうした沢山の人間と接することでラビは人付き合いの技術を
身につけた、
(内気で根暗な人も多いけど、ミランダさんはまた特別だしな)
だから彼女のはにかんだ笑顔はラビには嬉しい。

「その本は?」
「リーバーさんが貸してくれたの」
ラビのへにゃりとした笑顔がビシッと音を立てて凍る。

年の割には老成した性格の持ち主であるラビでも、
リーバーの器のデカさには敵わないと思うことがしばしばあった。
何せあのコムイの片腕だ、生半可な知識やタフさ、頭の回転や
人格で無いと勤まらない。
その、リーバーとミランダが最近親しい。

この間も食堂で一緒にお茶をしているのを見てしまった、
割って入ったラビの目つきの悪さに、何ら身の覚えの無いリーバーの
反応は至ってクールで平常どおり、それが余計に悔しかった。
「お前も座れば?」
なんて立ったままのラビに椅子を勧める始末。
「じゃあ私、コーヒーでも頂いてきましょうか」
ふわりと席を立ったミランダに
「悪い、俺の分も頼める?」と云ったリーバーに
持ってきたコーヒーにはミルクだけが2つ付いていた。
ラビにはミルクと砂糖が一揃い。
「必要か訊きそびれちゃったから、一応両方」
とミランダは云う。

(おいおい・・・)

リーバーは一日にかなりの量のコーヒーを飲むので胃が少し悪い。
というよりも化学班はコムイの影響もあって、大体皆胃が悪い。
ミルクを2つ入れるのは彼特有の飲み方だった。

(そんな事把握しちゃう仲なわけ?)

ミランダにもリーバーにも何も意識は無い、
だったらはっきりとミランダを狙っているラビに分はあった、が。


「ふうん」
渋い声を出したラビの事をミランダが見返る。
不意に、小さく微笑んで、ラビに向かって細い手を伸ばした、
ぎょっとして
「なっ、何さ?」
とベンチからずり落ちそうになるラビに、ミランダは
「花びら」
と呟いて、ふわりとラビの髪に手を滑らせた。

「ほら」
と痩せた掌を開くと、白い花びらが乗っている。
真っ赤な頬でラビは「ありがと」と俯いた。

「いいえ?」
ミランダは小首を傾げた後に、
「ここは結構植物が多いのね」と云った。

隔離された絶壁の要塞、黒い城。
だからこそ皆は其処を家らしくするために、昔から様々な
植物を植えてきた。出身国から持ち寄った多国籍な庭園。

ざわりと大きく風が吹くと、林の奥から白い花びらが
無数に飛んでくる。
ミランダが髪とスカートの裾を抑えながら「まあ」と
小さな感嘆の声を洩らした。
「きれいね」
嬉しげな表情のミランダの黒い髪にも、肩にも、白い花びらが
つもっている。
「・・・きれいさね」
呟くと、ラビは吸い寄せられるようにミランダの髪の、肩の、
花びらを大きな掌でそっと払ってやった。
細い肩、青白い肌、この痩せぎすで折れそうな人の中で、
しっかりとしたあの大時計の振り子のような芯が真っ直ぐに通っている。
愛しいな、と思った。


「大変、本の間にも花びらが入っちゃったわ。
でもリーバーさんなら、むしろ喜びそうね、ずっと研究室に
釘付けだから」
にっこりとしたミランダに、
ラビは「あーそうだろうね」と事も無げに答えつつ、
心の中で「打倒リーバー!」に燃えるのだった。





「リーバーさん、これ有難うございました」
本を手渡す。
「んー、いや全然。何かまた見たいモンあったら云ってよ」
「ええ、有難う。お礼があるの、後で本を開いてみてね、じゃあ」
とミランダは静かに云うと、長い裾を翻して研究室のドアを音も立てずに
閉めて出て行った。

「?」
リーバーが本を開くと、はらはら、ふわひら、
小さな花びらがまるで花吹雪のように柔らかに舞い落ちた。
長身の彼の胸元から足元までの小さな花吹雪。
ぷっと吹き出し、
「誰がこれ掃除すんだよ」
と独り言を云いながらも、リーバーは珍しく目を細めて笑っていた。








END

ラビミラでリーバーミランダです!!
実はリーミラ、私の一押し。只今銀迦ちゃんを洗脳したく。
恋心に自覚があるのはラビだけです。
いいね、ミランダもてもてでいって欲しいね!
リナリーちゃんは無論アイドルです。
リナアレで。

Dグレはカップリが判然としなかったのですが、最近ノマカプ優勢かも、
と思ってきています。
てか、リーバーが好きなんだ私多分・・・。
ええ、ええ、シカマルとか沢松とか、ああいうスタンスの飄々と
した切れ者キャラに弱いんですよ。


只今銀迦ちゃんが2月までの作品をまとめてくれています。
これで旧作も読みやすくなるかと思うと、そのデザインを彼女が
やってくれてると思うと、私が嬉しい!笑。
素的なデザインにしてくれています、お楽しみにvv

銀魂(土方受け・高杉絡み・陸奥攻め・エリヅラ・その他)と
鋼、その他で分類をお願いしています。



2005年03月12日(土) 捨てられた花 (朝のかぶき町の風景、銀土+おりょう)

「う〜・・・さみっ」

夜にかぶき町に設けられた臨時交番で夜警を
云い渡されてからしばらくたった。

それはロッカーの様な実に簡素なもので、
小さなストーブでも直に暖まるのは幸いだったが、
夜も朝も無く猥雑で喧しいかぶき町でぼんやりと
過ごしている事が苦痛だ。


日誌に「異常なし」の記録をつけて出たのは5時半、
屯所まで30分はかかる。
一番冷え込む時間帯、白々と薄青い春の空とは裏腹に
空気は冷え切り、夜明けの冷え込みがじんと響く。

かじかんだ指先で煙草をぎこちなく摘み、
土方は火を点けた。
ふーーーーと煙を一筋吐く、まだまだ朝夜は冷える。
昼間が暖かいと尚の事そう思う。



かぶき町では土曜ということもあってか、ばたばたと
倒れこんでいる酔っ払い、それを楽しげに千鳥足で介抱する連れ、
何のかんのと賑々しい。
(人は仕事明けだってのによ・・・)
別に構わないのだが、何とはなしに心の中でごちる。

朝の静けさの中では何処か無声劇じみている。


夜勤明けに、せめて暖かいコーヒーと軽い食事を、と
思っても夜の街かぶき町を抜けて屯所の方まで来てしまうと
開いている店など無い。
(ほっと一息くらい付かせろってんだ・・・)
今度は少し本気でごちる。
煙草を持つ指先が痛いほどに冷たい。

はた、と歩道を見ると小さな花々が散乱している、
横のゴミ捨て場からカラスか猫かネズミかが、食い破った
ゴミ袋から溢れて散ばっているのだ。
白と薄桃色。
八重の花びらが踏まれて潰れ、でもその無愛想な町並みに、
不意に異質な人工的でない自然物が目に入る。
茎は無く、ただ花だけが無数にばら撒かれている。
土方は足を止めて見入った。
(寒いけど、確かに春なんだよな)
ゴミにされた花に思うのも妙な事だった。

白々とした朝の歓楽街に黒い影、
歩道に捨てられた花々。
煙草を黙々とふかして足元に見入る。



「姉上!」
聞きなれた声に顔を上げると、其処には新八がお妙の店の前に
駆け寄っていた。
「アラ、どうしたの新ちゃん、宝くじでも当たったの?」
「宝くじじゃないですよ、自分で「働いて帰る姉の夜道を気遣う
くらい出来ないのか」ってキレたんでしょうが」
店のママに会釈をしてお妙とおりょうも仕事終わりの時間の様だ。
「そんな事云ったかしら?」
「云いましたよ、ハーゲンダッツの蓋投げつけながら、いででっ」
「余計な事云ってないで、じゃあおりょうちゃんを送って、」
「あーいい、いい。もう明るいし、大丈夫よ慣れてるもの」
新八のこめかみにゲンコでグリグリが入っているのを見て、
おりょうは面倒臭そうに云い、「じゃーね、お疲れ」と手を振った。

志村姉弟は逆方向だったので土方には気付かなかったが、
おりょうは土方の居る所と同じ方向だった、擦れ違い様に
「仕事明けですか?」と訊ねられたので
「そうです、そっちもお疲れ様」と土方は淡々と応える。
近藤のお陰?でおりょうとも顔なじみだった。
「いいええ、土方さんもご苦労様」と云うとおりょうはにこっと
笑って会釈をして通り過ぎた。


土方は花の散らばったゴミ捨て場のある歩道をそのまま進む、
今度は呑み屋の暖簾をくぐって長谷川と銀時が姿を見せる。
「おーう!多串くん!」
「うっせえ、酔っ払いはさっさと帰れ、こちとら仕事明けだっつのに」
と苦々しく吐き捨ててそのまま立去る。


しばらく行くと土方の携帯がなった、公衆電話からだった。
「もしもしー?」
「なんだよ」
「もう帰る?」
「ああ、なんでだ」
「もうちょっと俺に付き合ってよ」
「・・・いいぜ」
「さっき居た所にいるから〜」
銀時の声は大分酔っている。
そのテンションに付き合うのは疲れそうだったが、そのまま
真っ直ぐ屯所に帰るのも忍びなかった。
また捨てられた花の上を土方は歩く、
すぐ真横にはゴミ袋が山になっているのに、歩道には、花。


また携帯電話がなった。
「あ?」
「ごめん、さっきのやっぱナシで、」
銀時の潜めた声の後ろで「早く帰るアルよ!」と神楽の声がした。
「マダオもこんな時間まで銀ちゃんと呑んでるなんて、
だから奥さん帰ってこないんだよ、このマダオ!」
「あーはいはい、了解」
「ごめん」
プツ、と素早く電話を切った。



土方はもう1本煙草に火を点ける。

おりょうはコンビニに入る。


(・・・迎えに来るだとか、一緒に帰るだとか、いいねえ)


さほど本心で羨ましいと思っている訳でもないけれど、
こんなにも清々しい朝で、仕事疲れの気だるさと眠気、
何とはなしにボヤキが混じる。


土方は自販機でホットコーヒーを買った。

おりょうは肉まんを買った。


(迎えが来るだとか、一緒に帰るとか・・・)

ふーっと煙草の煙を空に吐き出してコーヒーをすする。

はあ、っと白い息を空に吹いて肉まんをほおばる。



満更でもないけれど、無いものねだりもちょっと有りつつ、
とにかく寒いので擦れ違っただけの二人は図らずも早足で帰宅を
急いだ。
缶コーヒーと肉まんの暖かさ。
今夜もお疲れ様、の小さな一息。



歩道の花が、捨てられたゴミ袋からこぼれ出した花が、
コンクリートの上で朝日を受けてふわふわとほの淡く光る。






END

すいまっせん、夜勤明けの歌舞伎町も、ゴミ袋からこぼれた花も、
すっごく寒いのも、肉まん歩き食いしたのも私です!!笑。
ほぼ実話です。
電話もです。笑。
いーよねーお迎えに来る人が居るとかさー、一緒に帰る人が居るってさー、
とかちょっと羨ましくありつつも、晴れ晴れしいのが仕事明け。
潔く一人で肉まん食うのです、つーもろに自分ネタSSでした。
結構、皆夜の仕事とか呑んだくれとかだから、花を見た瞬間に
「これは使える」と。笑。
MOEも何も無くて申し訳ないです。

BGM:Sigur Ros()

★レス★
ゆいさま
悶えて頂けましたか・・・!う、うれしい!!
厳しくきっぱりした山崎には、土方は揺れるといいと思います、
日頃安心しきってやりたい放題だからこそ。
絶対に銀さんと関わることで土方は変わった部分があると思うんです、
多分他の人もそうなんだろうけど、なまじっか真逆な生き方で、
同じものを求めている銀土コンビは尚の事かな、と。
そうなんですよねえ、「不快」!!いいですよね、もうMOEる単語です。
沖田も山崎もそれが不快で仕方ないと、うふふ。
でも自分たちじゃどうしようも出来ないものだからこそ尚更不快だと
更に嬉しいです。笑。
事件・流血ものがイケる方、という事で嬉しいです、また陰気なものも
書いていきたいのでどうぞ遊びにいらしてくださいねvv
ありがとうございました!

12日の「リンクを・・・」のアナタさま!
身に余る光栄なお言葉、僥倖でございます!!!
おそらく技術的には可能なんじゃないかと・・・、はい。
もし宜しければ、お手透きの際にでも目次ページの下部にある
MAILからH.NやサイトのURLをご連絡頂けたら
幸いです。
全然構わないどころか嬉しいですし、光栄なのですが、
「いいの!?アタシでいいの!?」とあわあわしておりまして、苦笑。

目次ページにリンクを貼って頂いても、URLは変わる事はないので
大丈夫だと思います。
ごめんなさい、管理などは全部オーナーの金銀迦ちゃんに
お任せなもので、機械よく解らないんです私。苦笑。
本当に素晴らしいお申し出、ありがとうございます!


2005年03月07日(月) 鳴砂 (山土)


眼が眩んで瞬く。
薄青い空はぼんやりと霞み、
空気の暖かさは春の到来を告げる。
夜になれば冷えるというのに。
砂漠のような気候だ。
砂漠のような だ。
砂が遠くでごうごうと鳴っている。
轟々、轟々。


「へぐしっ」


「あーあ、薄着で出てくるからですよ。三寒四温、
この時季を甘く見ると風邪一直線ですよ?」

「っあー・・・うるせェ。大体遅くなったのは
お前のせいだろう、俺はさっさと帰るつもりだったんだ」

「武装警察っつたって、警察なんだから道案内くらいは
当然でしょうが」

「うるせェ奴だなちまちまとォお!わかってんだよそんくれェ!」
くしっと土方はまたくしゃみをした。


辺りは暗く静かだった。
月が二人のはるか天上でおぼろに輝いている。
ぼわぼわと滲む影は酷く頼りの無いものだった。


コートを着ずに、ベストとシャツだけの土方は肩を寄せて抱いている。
その土方の真横、家の格子窓から刀が突如突き出た、
土方は寸前で其れを交わし、向き直って刀を抜く。
それと同時に土方の頬の横を掠め、ひゅ、と風を切って
何かが飛んだかと思うと、にぶい声とともにどさり、と音がした。

「山崎」

「土方さんは嫌いでしょうけどね、小さな刃物くらい投げれた方が、
やっぱり便利ですよ」
メスの様な小刀を伸ばした掌から覗かせて山崎は云った。
云うなり、その手を逆に振りかざし、するとまた「ぐっ」と呻き声が
したかと思うとどさりと何かが倒れこむ音が背後からした。

土方が振り向くと、道端に小太りの男が倒れている、
その手の先に、落ちた刀。
じわじわと血だまりが広がる。
黒く、どす黒い其れは、こんな夜ではコールタールのようだった。




「いきなり殺してどうする、俺らの仕事は殺しじゃねえぞ。
背後関係を洗わないで殺しちまってどうすんだ」

押し殺した声が、土方の怒りを表していた。
眼がちらちらと赤く光る。
(ああ、行灯の火か)
山崎は全然関係なく、土方の虹彩を赤く光らせる光源を思った。
そうして無言で刀の柄だけを勢いよく弾いた。
柄の持ち手を喰らって、にぶい音ともに、また一人倒れる。
「・・・殺してませんよ」

ぎろりと、噛み付きそうな勢いで土方が睨みつけた。
大きな舌打ちをすると、最後の男の方へ歩み寄る、
「屯所に連絡入れろ、こいつを連行する。医者も呼んどけ」

「了解」

山崎は先ず本部へ携帯で連絡をいれ、死体の始末を頼んだ。
その後に真撰組の屯所へ連絡をする。
「あ、山崎です。不逞浪士に襲撃、2名即時処分。1名連行、
医者を呼んでおいてください、はい、ええ副長と一緒です、はい、じゃ」



完全に失神している男を動けないようにしながらも、気道を確保し、
「襲撃かどうかも解らなかっただろう、今の。脅しかも知れなかった!」
土方が怒鳴った。


「完全に副長のこめかみを狙った位置でした、脅しにしたって
致命傷を狙ってる」
携帯を胸ポケットに仕舞いながら山崎は事も無げに云い切った。
「現に俺はかわせただろうがよ!」

「かわせなかったらどうすんですか」

土方は目を逸らさずに睨みつけてくる、殴られるかも知れないなと
思いながら山崎は自分の口をふさげなかった。



「副長、あんた甘くなってる。
・・・俺らは木刀で、何の組織にも所属しないで、
気楽にやってる人種じゃないんですよ」


予想以上に声は冷静だった、むしろ静かな位だ、と山崎は思った。
「ど・・・」
土方は云いかけて止めた。
唇が戦慄く。

どういう意味だ。

訊くだけ間抜けな台詞だった。
だからこそ土方も口を噤んだ、殴ったら肯定したことになる。
銀時を意識していることを認めることになる。

(あ、血が出る)

噛み締めすぎた唇が、裂けて血を流しそうだった。
山崎はそう思うなり土方に口付けた。

「気にしたって、俺たちはああは振舞えないんですから、
考えるだけ副長たちが危険に晒される」

土方がだらりと垂らし、硬く握った拳をそっと押さえながら
囁く。

(卑怯だな)

敢えて「たち」、と云ったのは「近藤もだ」という意味だ。



山崎の手が添えられた拳が震えだす。
ぎゅうと押し包んで、土方の頬に、こめかみに、鼻先に、
まつげに、額に、ゆっくりと口付けを落とす。



土方の全身から「遣り切れなさ」という血が滴り落ちて、
こぼれてくる。
山崎はそれを一滴残らず吸い込む。
砂漠のように。



轟々、轟々、うすぼんやりとした月明かりの何処か彼方で、
砂が鳴っている。
何かを喚いている。
聞き取ることなど出来ない。
ただ轟々、轟々と唸りを上げる。










END

山土でついに一線越えましたよ皆さん!!どういう報告ですかね。
陰気くさい続きでいってみました。
流血とか、人死にが苦手な方の為に注意書きが必要か迷いました、が、
あえて無しで。
「胸くそ悪くなったわこの野郎!」という方が居られたら、
今後は書き添えますので、お手数ですがお知らせくださいませ。

優しいようで、実は底知れぬ厳しさを持つ男、
砂漠のような、薄情な山崎。私MOEなSSですいません!
沖田といい・・・土方が可哀相になってきましたよ・・・。
誰かシアワセにしたってよ。
銀さんさらって嫁にしてやってくれよ。

BGM:鬼束ちひろ「シャイン」、好きなんですよねこの曲。

★レス★
ゆいさま
シンメトリーといい近代画といい、甘美なお言葉むしろ燃えました!
タイトルに使わせて頂きたいくらい、心そそるお言葉に感謝感謝です。
互いにしか拾えないけど、拾っても抱えきれないものばかり、
そんな遣る瀬無い近←土、銀土前提の山崎を書いてみました。
静か、と云って頂けるのは、実は狙っているもので、本当に嬉しいです。
静かに痛ましい土方に燃え、静かに静かに何かを守ろうとしている銀さんに
燃え、静かに狂気を抱く皆に燃え、と何処か笑いと哀愁が漂うのが
銀魂の好きなMOEポイントでございます。
いつもありがとうございます、本当に励みになっております!!


2005年03月06日(日) 悪夢症 (沖土)


この人殺し。
お上の名を借りて、やってる事は結局ただの人殺しだろう。
どんな名目があっても、やってる事は人殺しだろう。
刀をただの兵器にして、凶器にして、
美学も何もあったものじゃない。
正義だなんて嘘を吐くな、人の命を奪っておいて。
この人殺し。
罪を認めろ、報いを受けろ、罰を与えられろ、
呪われろ、

大事な者を殺されろ、奪われろ、壊されろ。
ひとごろし。
呪われよ、人殺し。
贖いきる事の無い報いと罰と呪いに苛まれるがいい。
救いなんて何処にも無い。
殺して、救われる事なんて有りはしない。
忘れるな一時も。



「・・・う・・・っあ、・・・うああっ!」
がばりと跳ね起きる。
冷や汗にまみれ、呼吸は静かな一人部屋に響くほどだ。
震える手で、それでも無意識に、起き抜けに掴んだのは、
       
       刀

だった。


悪夢の余韻にざわりと目の前が暗くなる。
「くっそ・・・っ!」
ガシャ、と重い音を立てて、それを畳みに投げつける。
両手で顔を覆って、呼吸を整え心を静めようとする。

額の冷や汗を拭い、煙草とライター、灰皿を掴んで縁側へと出た。




月も出ておらず、くもった夜空に、ぬるい夜気が汗を冷やす。
深く溜息をついて、腰を下ろすと煙草に火をつける。
ぎりりと歯噛みして、髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
どうしろと云うんだ。
唸る。


きし、と廊下のきしむ音に顔を上げると、沖田が立っている。
寝巻きの着流しに、刀を携えて。
「総、悟」
しゃりん、と怜悧な音を立てて抜刀する、
そのまま切っ先を喉元すれすれに突き付けた。
「ひでェツラしてやがるぜィ」
そう云う沖田も、青白い顔色をしている。

汗に濡れた前髪の間から、ぎらぎらと目だけが不安げに光る。
傲然とした表情を剥ぎ取ると、あまりにも病的な脆い表情になる。
細い顎、肉の薄いこけた頬、むごたらしい痩せ狼。
神経質さがじわじわと蝕んでいる。

「毎晩毎晩、うなされちゃ起きてるだろィ」

じわじわと黒い影に蝕まれる。

「迷惑なんでさ」

俯いてから眉を顰めた。
だったら、見えるように顔を上げたまま、泣くなりすれば良いものを。
歪んだ顔を見せない、もう既に血まみれで歪に生きているのに。

切っ先で顎を持ち上げる、抵抗しないでされるがままに
顔を上げたが、刀の先端で喉の薄い皮膚が少し切れた。
筋の浮いた首に血が流れる。


青白く、やせ細った首に、流れる血の赤だけが生きている事を感じさせた、
毎晩のようにうなされては眠れないまま朝になり、
ろくに食事もとらず、病んだ表情で煙草ばかり呑んでいる。

沖田が刀の先に力を少し込めると、先端が喉に刺さる、
眉を顰め、顔をしかめた。
血の筋が増える。

「何とか云ったらどうですかい」


「・・・何も云うことなんざねェよ」
ぽつりとこぼす。

「あんた、今に狂っちまう」
少しだけ刺さった切っ先を離し、頚動脈にと向きを変える。




「その前に、俺が殺してやりましょうかィ」



「俺を殺して、お前どうすんだよ」

「隠して、逃げますぜ」



甘い様な痛い様な表情をした。
もう狂ってきているのかも知れない。


「お前らが、死ぬのを見るくらいならマシかもな」



「首を切り落として、俺が連れて行ってやりまさあ」


そう云われて、ふ、と微笑んだ。
不憫で無残な痩せ狼。
抱えすぎて潰されかけている。
最期まで側で見ていてやる、と沖田は思った。
逃げ切れない悪夢という、現実。
逃げられない現実という、悪夢。


殺すことに慣れたつもりでも、殺されることに脅え続けるのは、
殺すこと自体が異常な行為で、慣れない事の証左だ。






「どうしますかィ、土方さん」










END

陰気風味な沖土。あくまでも風味ですよ、コレくらいは。
今思えばNARUTOを銀迦ちゃんとやってた時には、果てしなく
暗かったし血まみれだったしグロかったです。
何であんなの描けたんだろうな。

こういうのは、正直書くの楽しいです。
銀さん相手だと、何処かしら救いが見えてしまうから、
カップリ的には沖土か山土だと思います。
この話しも山土にするか迷いました。

BGM:鬼束ちひろ


2005年03月05日(土) 剣 (銀土)

それは鏡のようなあなたとわたし。


さかさまの銀と黒。


斬らない刀と斬る刀。


重ねあう切っ先、重ねあう体、
どうしても同じ想いと
どうしても違う立場。




はらはらと零れ落ちるように雪が降る、今年は雪が多い。
黒いコートを着込んだ土方は、自動販売機の横で暖かい
コーヒーの缶で指を暖め、煙草を呑んでいる。
吐く息の白さと相まって、煙は白く深く、雪景色の中に溶けていった。
「多串くん」
振り返らなくても解る、太い訳でも無いのに妙に響く声。
無視をしているともう1度呼ばれる。
何処か甘い声、甘えさせたい様な甘えたい様な。
ざり、という音とともに足音が近付いてくる、
がしゃこん。
自動販売機で奴が何かを買っている。
土方はただ前を見ていた、雪が降り積もってゆくだけの風景を。
痺れる様に熱かった缶も、今は土方の全体的に長い手指の中で
すっかりぬるくなった。
持て余してしまう。

ふ、と横に立った銀時は、片方の袖をいつも抜いているのだが、
しっかり着込んで羽織とマフラーを身に着けている。
ずび、と鼻をすすっては銀時も缶を大きな掌の中で転がして
暖を取っていた。
「さみーな」

「・・・ああ」
声まで、無音に降りそそぐ雪に吸い込まれそうだった。
「煙草、頂戴」
「貰い煙草ばっかりしやがって、いい加減自分で買えよ」
云いながら土方はコートの胸ポケットから煙草を出す。
銀時は土方からしばしば煙草を貰うが、自分では買わないし
独りで居るときに吸っているのも見たことはない。
当然ライターも持ってはいないので、土方はライターと
煙草を渡してやった。
「自分で買って吸うほど必要じゃねーんだよ」


土方は少し銀時を見詰めた後に、また目を前に向ける。
(必要ね、こいつの云いたい事は解る・・・)


以前「多串くん、いつからそんなに煙害野郎になったの?」
と訊かれた。
「真選組が出来てからだな、道場にいた頃にはそんなにずっと
吸ってた訳じゃねえ」と本当のことをそのままに答えた。

幕府の犬は自由にものが云えない。
火の粉が降りかかるのは先ず近藤だった。
国に飼われた組織には不自由が付きまとう。
云いたいことを飲み込んで、近藤のために我慢する。
誰にも気付かれないように溜息をつく方法、
押し黙る方法、
場を繋ぐ方法、
最近は単なるニコチン中毒で、そうした事も今更あまり考えない。


そうしたものを刺激してくるのは銀時だった。
忘れたい事、忘れようとしてる事、考えないようにしている事、
つついて暴き出すのはいつも。

(何でそんな事しやがんだろうな・・・)

「そんな生き方してて疲れねーの」
とはよく云われるが、大きなお世話だという事は
銀時もよく解っているはずだった。
そういう風にしか在れない土方を否定など出来ない。

(だからこそかな・・・)

「お節介野郎」
コートに顔をうずめて土方がぼそりと呟いた。

銀時は、小さく笑って、土方の刀に手をかける、
「だって、コレ重いじゃん」
とんとん、と軽く柄をたたく。


「それがもうお節介だってんだ」


「まあねえ」
銀時が美味そうに、煙草を吸い込み、
空に向かって煙を吐き出す。


手の中の、もう微かなぬくもりは、本当に持て余す。

銀時の懐に、そのすっかり冷めた缶コーヒーを捻じ込む。

こんなに冷え切った空気の中では、触れ合ってる肩が
暖かいのかも解らない。



それは鏡のようなあなたとわたし。


さかさまの銀と黒。


斬らない刀と斬る刀。


どうしても同じ想いと
どうしても違う立場。

憎悪と憧憬、感傷と執着。

決して同じにならないけれど、寄り添うことだけなら出来る。
剣という自分たち。







END

祝!銀魂6巻。事前に表紙の画像を見ており、友人に動揺のメールを
送っていた銀鉄火です。
でもって、銀さんと土方が同一人物だった設定に悶絶。
本当に空知は予想をはるかに凌駕してくれる、素晴らしい描き手だと
思います。はふ〜満悦。
同一人物、鏡の片割れSSでした。

BGM:Syrup 16g


2005年03月02日(水) 呪い (ミハベ:おお振り)

阿部君は絶対ワザと笑ったりしない。
自分でも云ってたけど、言葉も雑、な方だと思う。


「やっぱ笑顔がいいね」
そう云って見せた笑顔は、多分俺に気を遣ってもくれたんだろうけど、
阿部君自身に笑いを作った、んだ。ワザと、敢えて。
榛名サン、は阿部君のエースなんだ。
阿部君の、自分のエース。

成りたい。
俺が、阿部君のエースに成りたい。
阿部君には、俺が、投げるんだ。
俺が、阿部君に。



初春の薄青の空を背にして、立膝で(まだ三橋の笑顔に)笑っている
阿部は、柔らかい表情をしていたが、だからこそ三橋にはそれが
痛かった。
叶わなかった願い、なんてものじゃない。
阿部が榛名に抱いているのは、もっとドロドロと黒くて、
ギラギラと鋭くて痛い感情だ。
いっそその感情に酔っている様に、阿部は甘い風を受けて、
柔らかく笑んでいた。

三橋の背筋に鳥肌が立つ。

(ズルイ。)

阿部の根っこに突き刺さって、支配している榛名を憎いと思った。



いつも何かを考えている顔をしている阿部を、あんなにも剥き出しで、
触れたらこちらまで血を流さなければ済まない様な、
そうして阿部自身が消えてしまいそうな、
儚くて傷だらけの表情にさせる榛名。

その上阿部はそれに気が付いていない。
魅入られた吸血鬼に、うっとりと首を差し出しながら、
死んでいく様な恍惚とした表情に。
云った処で、阿部はそれこそ激昂して否定するだろう、
殴られるかも知れない、と三橋は思った。

(それだけ、榛名サンの事が重いんだ・・・)

いつもだったら、此処で「俺はダメピーだから」と、引き下がる
三橋が、それでもズルイ、とクヤシイ、を頭の中でぐるぐるさせている。


頭をもたげた黒い感情は、阿部を想うヤサシイものでは、無かった。
自分が投げる事で、阿部を支配したい、榛名の占める位置を奪いたい。
それがどれだけ、更に阿部の傷を抉って、彼を泣かせるものであっても。
血まみれの彼を抱き締めて、彼は俺のキャッチだと喚く様な思いに、
三橋本人ですら気付かない振りをした。





「捕手ももう一人つくりましょ!」
心臓を何かが突き抜けた。
三橋は、もう阿部以外の人間に投げたくなかった。
1球も洩らさず阿部に投げ、阿部に捕らせたかった。

(阿部君じゃなきゃ、イミない)

(阿部君が受けてくれなきゃ、俺は役に立たないダメダメピッチャーだ)



(そしたら、そしたら、
いつまでも榛名サン、を超えられない)



気の無い投球の訳を訊かれた時に、三橋は駄々をこねた。
「阿部君じゃなかったら」
意味が無いんだ。


阿部の返答は、呪いを強化した。
呪縛を深くした。
阿部の中にも、三橋と組んで、榛名を見返したいという思いがあった、
そうして、榛名が物としか見ていなかった自分に目を向けさせたい。
思い知らせてやりたい、自分が味わった思いを。

ピッチャーと云う生き物に、思い知らせてやりたい。

榛名が阿部の心身に刻み込んだ呪いは、阿部に呪いを生ませた。
三橋に呪いを生ませた。阿部に更にかける呪い。
阿部自身が気付いてもいない、榛名の阿部へ向けた執着が、
その呪いを黒く禍々しく歪め続ける。


「あ、阿部君・・・」

一日を終え、着替えて帰る段階になって三橋が声をかける。
「なに」

「・・・やっぱ、い」
「よくない!くちでいわなきゃわかんねーって云っただろ」
三橋の言動パターンを読み尽くして、阿部は先回りする。
びくっと身を震わせた三橋をなだめる様に、
「いいから、云えよ。なに」
と口にしてやれば、三橋は肩の力を抜く。

自分は今まで榛名という投手に支配され続けてきた、
自分の思い通りになる三橋が、かわいく思えるのも無理の無いことだ。

「お、俺ねっ、・・・うれしかった」
「なにが」
「阿部君、が、俺の投げる試合は全部キャッチャーやる、って
云ってくれて・・・うれしかった・・・です」

ふ、と目を細めて笑って、阿部は三橋の手をぎゅうと握った。
「エースはお前だからな、お前がケガもなんもしねーで、
万全で投げられるのがイチバンなんだから、忘れんなよ」


作り笑いではなかったが、阿部の向うに榛名がチラつく、

(まだ全然ダメだ・・・)

阿部の中から、榛名を全部消し去りたい。全部自分でいっぱいにしたい。

三橋は、阿部を握った手ごと引っ張って、
体勢を崩した阿部を抱きとめる。
勢いだけで阿部にキスをした。

「俺っ!投げるから!」
阿部を抱き締めたまま三橋は大きな声で云う。
阿部は目を見開いて体を硬くしていた、その理由を
三橋は知らない。
榛名とのセックスが思い出されたなんて、知らない。
「阿部君には、俺が、投げる」

黒い触手に首の後ろを撫でられる、阿部は身が竦んで
振り返れなかった。

「・・・おう」
小声で三橋の言葉を肯定する。

黒い影を退けるために。

(俺はコイツの球を受けるんだ、だから、もう、)



俺を解放してくれ。







END

すいません!ハルアベ書いたら、ミハベも書いておかなきゃ気が
済まなかったです。
三橋→阿部→榛名です。でも榛名も阿部には執着してます。
阿部は阿部で、榛名への執着は無視してますが、根は深い。
それとは別に三橋のことも想ってはいます。
うーふふふ、ぐっちゃぐっちゃの愛憎ですね、いいですね。
何だか、心理描写の卓越した漫画だからこそ、銀魂よりも
えぐい、黒い話が書けるのに驚き。

メインは銀魂ですが、阿部偏愛なので、たまに書いちゃうかもです。
すげー楽しい。皆若いから、人の気持ちなんてまるで無視だし、
全然解ってないし、ワガママと自分の欲望に正直で、実に残酷。
体も正直だし。
ふふ・・・つっぱしってほしいわ。阿部受けエロとか書けるな、私。

BGM:天野月子「人形」阿部ソング、笑。

★レス★
ゆいさま
知らないジャンルでも読んでくださるなんて光栄です〜うわあん。涙。
『おおきく振りかぶって』っていうのは、アフタヌーンで連載している
野球漫画です。
気が向いたら是非に。オススメですよう。
いつも本当にありがとうございます!
次は銀魂で土方受けを書きますからねー!!

もりさん
うわあ!お読みくだすっていたのですね!有難うございます!!
メッセが送れたのが、よりにもよって阿部受けSS、という事で、
私はかなり舞い上がり、おお振りを続けてしまいました。
もりさんが阿部受け、っていうのがまた更に嬉しいです!キャー!
少ないですよねー・・・なのでもう自家発電です。あんなに受けで
エロなのに、阿部受けはどうして少ないのでしょうかねえ。苦笑。

陸奥が好きと云って頂けるのも本当に光栄でして。
多分、陸奥至上主義サイト様に負けぬ勢いで、陸奥を敬愛している
のではないかと思います。
あまりに私が陸奥好きで、妄想しまくりなので、皆さま退いてらっしゃる
かしらー・・・と思っていたので、良かったです〜!安心。

何しろもりさんは坂土の師!(祖?)
こちらこそ通わさせて頂いていますよう!
長いはくすメッセージ、有難うございました!

あ、皆さま、銀は長文をネウロの様に好物としております。笑。
長文、短文、問わず、喰わせてやって下さいましv







銀鉄火 |MAILHomePage