銀の鎧細工通信
目次


2005年02月28日(月) 痕跡 (榛名阿部:おおきく振りかぶって)


憧れなんて甘いものは何処にも無かった、
ただ苦い苦い砂の味、
ただ鉄臭い血の味、
ただ吐き戻した胃液の味、
ただ滝のように流れて滴る汗と涙の味、
全身全霊の残酷なセックスの様な関係。
信頼なんて何処にも存在しないバッテリー。


「おい・・・阿部、大丈夫か・・・?」
「・・・っす、へ、いきだから・・・、せんぱ・・・
帰って、いいす、よ・・・」
更衣室の横にある流しで、ひたすら吐き続ける阿部の背を
撫でているシニアの先輩は、その頑なな態度に、
心配を丸出しにした声で
「無理するなよ」
と云い残して帰って行った。

榛名と組んでから1ヶ月と半。
全身、特に腹部から胸にかけてが酷く熱を持っている。
触るとぐにゃりとした嫌な手ごたえで、鬱血が重く腫れているのが解る。
冷や汗をかき続け、くらくらと歪む視界、がんがんと割れそうな頭、
吐くものなど何も無くても、内臓ごと揺さぶられる様な吐き気に
逆らえない。
意識を手ばなしかけたその瞬間、
「あれ、何してんのタカヤ」
阿部の目が見開かれ、ぴりっ、と体が震える。

一人で自主練をしていた榛名までも帰る時間になっていた、
(何時間吐いてたんだ俺・・・)
「・・・んでもないっす」
意地だけで体を起こし、榛名の出てきた更衣室へふらりと向かう。
戸口に立っていた榛名は、近付いてきた阿部の顔を見て呑気に云う。
「うぅわ、すげェ顔色」

誰のせいだ、と思いながらも、それでもこの人の捕手を辞さないのは
自分の決めたことだ、と思いながら阿部は無言で擦れ違う。

もうロッカーを開けるのすらやっとの思いで、阿部は着替えに取り掛かる、
練習後にかいた冷や汗ですっかり体が冷え切っている。
あちらこちらが悲鳴を上げ、激痛が走るけれど
これ以上体を冷やす訳にはいかない。
ぎしぎしと歪む体で脱ぎ捨てたアンダーシャツは、床に落ちて
濡れた音をたてた。
「きったねえカラダ」
榛名がドアを閉めながら、室内へ戻ってきている。
チェシャ猫を獰猛にした様な顔で笑う。
「・・・戸、締り、しとく・・・んで、帰ったら・・・ど、っすか」
誰とも口もききたくない、一人にして欲しかった。

阿部は更衣室内にある小さな洗面台で、手と顔を洗い流し、
頭から水をかぶる。
排水溝へ流れ落ちる水は、黒く砂混じりで、時々血が赤く落ちた。
流すだけ流して、顔を上げると、洗面所の前にある鏡に写る阿部の
背後に榛名が立っている。
「?!」
振り向こうとすると、そのまま背中越しに鏡の横に両手を付かれ、
阿部は鏡を見据えたまま、洗面台と榛名に挟まれる体勢になった。


「なん、すか。濡れますよ」
精一杯何でもない振りを装う。榛名はニヤニヤ笑いをやめない、
目だけが残酷にぎらついている。

阿部の背後から、その首筋に顔を寄せて
「お前が壊れても、俺はほっておくぜ?」
と、冷たい声で囁く。

榛名の長めの髪が阿部の首と肩をするすると滑る、
まるで蛇が体をはっている様だと、ぞっとする。

「なあタカヤ、何でお前こんなになるまで体張ってんの」

榛名の指が、掌が、阿部の痣だらけの体を撫でる。
阿部の垂れ目が揺れた、すぐに負けん気の強い色に戻る。
「じ、ぶんのために決まってんだ・・・ろっ」
流しに付いた拳を硬く硬く握り締める。
顔を上げて、鏡に写った榛名を真っ直ぐに睨みつけた。


「俺、の他に、あんたの球捕れる、キャッチはいねェんだ!
それを、忘れんな・・・っ!!」


榛名がニイ、と笑った。酷く満足そうに。
「やべ、勃っちまった」
「!?・・・元希さ・・・っ」
強引に阿部の体を振り向かせると、自分の投げた球で傷付いた
痣をひとつひとつ舐め、強く吸って痕を付ける。

ただでさえ熱を持って腫れて痛む痣に、鋭い痛みがチリリと走り、
阿部は脱力しかけるが、榛名の腕がそれを許さない。
「い・・・って・・・つ、・・・う」
ゆるく抗い、身を振るわせる阿部に榛名は云い放つ。


「お前は、俺のモノだからな。忘れるな、タカヤ」




榛名と、最悪のセックスをしはじめたのはその日からだった。
痣と傷に、更に痕跡を付ける榛名。
「俺を無視するな」という主張。
榛名の全身が、阿部の全身に刻み込まれる。
切り刻まれて、叩き込まれる。
痛みも快感も訳が解らなくて、ただ必死なセックス。



故障で使えなくなったら見向きもされなくなったエース、
その壁になって向き合った捕手。
二人とも退けない。
野球でもセックスでも、互いを飲み込みあう。
その痕跡が消えない位。




END

『おお振り』初です。
3巻をようやく買ったのですが、あまりにミハベでハルアベだったので、
もう辛抱堪りませんでした。
「阿部君には 俺が 投げる」は最高にエロかったですよ!!!
榛名も阿部君意識しまくりだしで、もう阿部モテモテ。
痛々しい受けとしては、高校生にして土方をも超えるかも知れない。笑。


『おお振り』をご存じない方ごめんなさい。

★れす★
28日ゆいさま
沖土感想有難うございます!というか、いつも有難うございます。
いやあ、ドキドキするシチュですよね。周りに人が居るってのは、笑。
まどろみながら、ある意味では弱っている沖田と土方、
思い出しても、忘れられなくても、胸をよぎっても、もう帰れない場所と
いうのは切ないですね。
攘夷組にしてもそれは同じだと思うのですが、真選組は別に刀を捨てないで
済めば、警察でなくても良かったわけなので、幕府の犬というのは
息苦しいんじゃないのかな〜と勝手に妄想しています。

ジャンプSSじゃないので、こちらでレスをお返ししても
気が付かないのでは?!と今気付きました。・・・うう・・・。







2005年02月26日(土) 溶岩のねぐら (沖土)


田舎のボロ道場でたむろしていた頃を今も夢にみる。
あわあわと実体を持たない其れは、もう本当はよく覚えていなくて、
ただ印象だけが残っている。
優しくて厳しくて、甘く安らかで。
でも、もう願っても思い起こしても帰りはしないんだ。
解ってはいるけれど、忘れもしない。



土方はふ、と目蓋を開けた。
また昔の夢だ。
夢自体も、目覚めも余りに静かで静かで、それが切ない。
何時だろう、と時計を見ようとすると、自分の顔の真横に
着物の合わせが飛びこむ。

これは、総悟のだ。

朝まで皆でくだらない話をしながら呑んでいたのだった、
そのまま雑魚寝になって、自分が眠っていた布団には総悟も
収まっている。

(こういう事、よくあったよなあ・・・あの頃は、やれ警察だなんて
身分でもねーし、毎日のように呑んでたし。金がなくなりゃちょっと
働いて、誰かがその金で飯作って安酒で呑んでたんだ・・・)

皆が雑魚寝で寝息を立てている朝に、一人目が覚めてしまうと
妙に切ない気持ちになる。朝の光が繊細に目を射す。

くだらねェな、と土方は心の中でごちた。

そっと溜息をついて、静かに布団から身を起こそうとすると
横に眠っていると思っていた沖田が、布団の中で土方の指先を握った。
驚きながらも、まだ目覚めきっていない頭で土方は何となく
その指先を握り返した。
すると沖田は、指の先ではなく、手を繋ぐ。
皆が寝ている中で、誰にも知られないよう布団の中で。

(あったけえ手・・・)

ヘビースモーカーの土方の手足の末端は冷えている事が多い。
土方は中途半端に起こしかけていた体をまた横たえ、温もりを
味わう。沖田が寝惚けているのか、目覚めているのかもよく解らない。

布団にもぐると、その暖かさに再びうとうとする。
まどろみの中に落ち込みかけた土方に、身をかがめた沖田が
素早く口付けた。
素早くだけれど、そっと。しっかりと。

(やわらけェな・・・)

最早まどろんでいる土方は、朦朧とそれを感じる。
反射的に、繋いだ手に少し力を込める。
沖田はそれを受けると、もぞもぞと頭を土方の顔の辺りまで
下げてきてまた口付ける。

(何だ、こいつ起きてるんじゃねえか・・・)

土方は身じろぎもせず、半ば眠りながらそれを受けた。
何度も、しっとりと触れるだけの口付けを繰り返している内に、
乾いた沖田の唇を小さく舐める。
沖田がそれに応えるように土方の唇を舐めて、舌が触れ合う。
口付けが深くなると、布団の中に濡れた音が響いた。
他に聴こえるのは誰かのいびきや寝息、だからこそ自分の息継ぎまでが
余計大きく耳に入ってきて、土方は誰かに気取られるのではないか、と
少し覚醒しはじめた。
けれど体は動かない。
重く流れる溶岩の様に、赤黒い光をぼんやりと放つ心持ち。
布団の中の薄暗がりがそう思わせる。

総悟と、自分の息遣いが聴こえて、
暖かい布団の中でゆっくりと口付けている。



甘い夢よりも、もう重く暗い今。
過ぎ去ってしまったからこそ、あの日々が儚く輝くのかもしれない。

静かにうっすらと輝く柔らかい光は遠く、
重ったるく、ゆるゆると過ぎる毎日。


火を燃やし続けねばならない生活の中で、
今、土方と沖田というひとつひとつの発火体は無言の溶岩。
何も話さず、口付けている間にどちらともなくまた眠る。


密やかに交わしたのは、感傷だったのかも知れない。




END


寝惚け沖土。まどろみながら、沖田役得。
でも、あまり下心とか性欲とかでなくてね、っていう秘め事。
周りに人がいるのは結構興奮シチュですけどね!

さてさて、ただいまです。帰ってきてからも仕事だの何だので更新できず、
歯がゆかったですよ!!きー。

旅はとても楽しかったです。

★レス★
19日、SUIさま
うれしい、また読んでくだすったのですね!有難うございます。深々。
いやあ、料理が下手な桂っていうのも非常に良いと思うのですが
(もしくは凄い味音痴とか)、どうにも攘夷組、
坊ちゃんの坂本は料理ダメで、きっと高杉もできない、そしてやらない。
銀さんは普通、となると桂が面倒見てたのかなあ、
と思ってついついお母さんな感じと云いますか・・・笑。
マメな働き者に書いてしまいます、もっと狂乱しなきゃダメですかねえ。
私も何か、念でも投影しているので、自分の書く桂と山崎は嫁に
欲しいタイプです。(え)
ラビミラの云い出しっぺは銀迦ちゃんなんですが、彼女がきゃっきゃ
云っていると、つい直に書いて「どう?」なんてやってしまいます。笑。
SUIさまのラビミラ、そして銀魂も拝見させて頂きたいです・・・!!
ラビミラ、いいですよね・・・うふふ。
エリヅラにラビミラまで御感想いただけてとても嬉しゅうございました、
ありがとうございます!

21日、ノマカプ良いですよのアナタ様
おお!またもはくすメッセージを有難うございます!!
アナタ様のお陰で、勇気りんりん、気持ちの向くままノマカプを
書いております。
そんな方に、また読んで頂けて、メッセージを
もらえるのは本当に嬉しいことでして・・・涙。
ラビミラ、有りでしたか!良かったです!うれしい!!
燃焼しているカプではあるものの、まだキャラが掴みきれていないので、
それが楽しくもあり、苦しくもある出産でした。
Dグレはノマでも同性でも、また書いていきたい作品です。
東北旅行、楽しかったです、またそんな風に云ってくださる方が居る
事が嬉しいのですよねえ。銀鉄火、寂しがり屋の人見知りですもので。笑。
ありがとうございました!

他の皆様もなのですが、メッセージを下さる方は何度か繰り返して送って
下さるリピーターさま?と思っております。
差し支えない範囲で適当な呼び名をお教え頂ければ、より私が、私が!
親密になります。失笑。

BGM:笹川美和『黄黒』


2005年02月18日(金) 月とオレンジ (ラビミランダ)


今回も無事に「ホーム」に帰って来られた。
相変らず「お帰り!」の声には慣れることが出来ず、
アレンはくすぐったい気持ちで、ひとつひとつに思いを
込めて「ただいま」と云う。

「アーレンっ、飯食いに行くさ」
躊躇いと、落ち着かなさに気付いたラビがすかさず
ぽん、と肩を叩いて促す。
「ラビ・・・そうですね」
嬉しいのだけど、それをどう表現して良いのか、
解らないから。
あからさまにほっとした表情をしたアレンに、ラビは
(仕方の無いヤツ)と肩をすくめ、側に居たリナリーは
ちょっと困った笑顔を浮べて
「じゃあ、私は兄さんに報告に行って来るから」
と云って軽やかに去って行った。

アレンは気まずげに「へへ・・・」と苦笑し、
ラビはいよいよ眉を下げて一息つく。
「ほんと、お前、モヤシな」
「なっ・・・!」
「いいから行こうぜ、腹減ったー」
フイ、と顔を逸らして、半歩先を行くラビは足音をたてない。


「あっらーん!お帰りなさい!二人とも無事で何よりよv
さァ何でも云って頂戴!腕振るっちゃうわよー!」
ジェリーの熱烈な歓待に、アレンは
「じゃあ・・・麻婆豆腐とオムライスとロールキャベツ、
鯖の押し寿司と温野菜のサラダにカツ丼、スコーンと
ライスにナンとグリーンカレーとクッパに餃子、カニ玉で。
デザートはチーズケーキワンホールとおはぎ10個」
と応え、彼女を喜ばせた。
それだけ食べられれば、怪我も無く元気な証拠。
ラビはアレンの容赦無い大食を目の当たりにするのは初めてで、
聞きながら「おいおいおい」と顔にツッコミが浮かんでいたのだが、
敢えて黙って「じゃ、俺カツカレー大盛りに何かサラダとスープ」
とだけジェリーに頼んだ。
「具合でも悪いんですか?それだけなんて」
自覚の無いアレンは意外そうに訊ねる。
「いや、お前が食い過ぎ、俺は普通さ」
げんなりとカウンターに肘をつくラビの後ろから、アレンに向かって
声がかかった。アルトの、控えめな声。

「・・・アレンくん」

「ミランダさん!!」
アレンが顔を輝かせるのを見て、ラビがほよ?と振り向く。
細い女性が、丈の長いコートで立っている。
(まるで葬式みたいさ)
ラビの第1印象はそれだった。

女性のエクソシストは比較的珍しく、と云うのもリナリーだけが
コムイの熱望により、マメにホームに戻ってくるだけで、後は皆
方々を駆け回っている。
大抵が皆動きやすさを考えて、膝丈かパンツルックで、
リナリーは対アクマ武器が武器なだけにミニスカートなのだった。
(コムイの趣味という噂もあったが)

「怪我はもういいの?」
「ミランダさんこそ!どうですか?慣れましたか、此処」
女性は、ふわりと笑んで、
「まだ・・・慣れないわ。だって初めて私を必要としてくれた所
なんだもの。どうしたらいいか解らなくって・・・」
と恥ずかしそうにした。
アレンは子どもの様にはしゃいでいたのが、今の言葉で落ち着いたらしく、
「よく、解ります」
と云って、えへへと笑った。
「はーい!アレンちゃん、ラビ、お待たせー!上がったわよ!」
ジェリーの声が元気よく響いて、ミランダはアレンの膨大な食事を
テーブルまで運ぶ手伝いをした。

「よい、せっと」
「すみません、ミランダさんまで手伝わせちゃって」
「いいのよ、お食事の邪魔に、ならないかしら・・・?」
アレンとラビが隣に座り、ミランダはアレンの向かいに腰掛けた。
「あ!ラビ、こちらはミランダさん」
ミランダはぺこりとお辞儀をした。
「ミランダ・ロットーさんだろ?噂は聞いてるさ、俺はラビっす」
ラビもぺこりとお辞儀を返す。
「噂って?」
ミランダが不安げに問うと、
「武器らしい武器じゃなくて、時計だろ?あの大きな。
化学班が喜んでるさ、サポートに入れるエクソシストはレアだから」
垂れ目のラビがにんまりと笑って応えてやると、ほっと表情を
緩ませて「そうなんですか・・・」とミランダは小さく呟いた。

プレッシャーと希望。
死線と隣り合わせでも、自分にも何かが出来るのだという喜び。
慣れない感情は持て余すけれど、決して不快ではない。
(このヒトも、アレンと似た様な表情するさ。まあ、直に適応出来る
奴なんかそう居ないけどな)

黙々と食事を摂るアレンを見ながら、済ませたラビにミランダは
「お茶でも頂いてきましょうか?」とやんわりと、おずおずと訊く。
「あ、すんません、コーヒー、ブラックでお願いします」
そそくさとミランダは裾を翻してジェリーの所へと行った。


「しっかし、アレン。お前アレだな」
「ふぁんでふか?」
まだもぐもぐしているアレンはそのまま答える、行儀悪いさ、と
嗜めた後に
「リナリーといい、あのヒトといい、モテるな。ガキの癖に」
「違います」
いつの間にか、コーヒーと紅茶をふたつトレイに乗せた
ミランダがテーブルの前に戻ってきて、きっぱりと云った。
トレイからコーヒーをラビの前に、紅茶の一つをアレンの前に
静かに置くと、
「違います、ラビさん。そんなんじゃありません」
ともう一度云った。
毅然とした態度に二人は目を丸くしている。
ミランダはカップを両手で包むと、顔を上げて
「アレンくんには、本当に感謝しているけれど、そういうんでは、
無いですから」
と、凛と力を込めて云い放つ。その表情は堂々としていて、
弱気さが消えてその分、抑えた意志の強さを感じさせた。

はた、と我にかえるとミランダは真っ赤になって
「あっ・・・、アレンくんは、ミルクや砂糖、要るのかしら」
と焦って訊く。
「へっ!?あ、じゃあミルクだけ、いいですか」
「勿論」
ミランダはまたそそくさと席を立って、カウンターへ向かう。
黒いコートの裾がひらりと舞う。

ラビが顔ごとそれを追う。
アレンはおそるおそるラビの顔を窺うと、
妙に姿勢を正したラビが、垂れ目を丸くしたまま
「・・・いいね・・・彼女」
とぼそりと呟く。
アレンは(またか・・・)という表情をしながら、満更ではない。
「すっごく、芯の強い、素的な人ですよ、ミランダさん。
一生懸命なんですよね、本当に」
「・・・ん、そんな感じさ」
ラビはまだミランダを目で追っている。

何とも云えない、やっぱり何処かくすぐったい気持ちで
アレンはシフォンケーキの最後の一口を、あむ、と頬張った。



月の様に静かで、凛としたあの人に、
オレンジ色が惑わされる。






END

はい、Dグレイマン初。ラビミラ。
いいですよね、ラビミラ。
更新停滞、と云いながら、睡眠時間を削ってまで、最後に一本。
しかもそれが初のDグレでラビミラ。笑。
銀迦ちゃんにあげるさ。

ちなみにアレンのオーダーは、私が食べたいものです。笑。

さ、朝一のバスで東北旅行だー!
風邪が流行ってます、皆様お気をつけて!!


2005年02月17日(木) 白旗 (山土)

     のために走れないなら、死んだ方が
マシなくらいさ。



相変らず副長は見ていていっそ痛々しい。
好きなものに対して、どうしてああも無心に盲目になれるのか。
山崎にはどうしても解らない。
解らないけど、その一途さに惹かれるのは確かだった。
自分もそんな風に想われたいとか、多分そういうのでは無い。

(ま、沖田隊長はそうなんだろうなあ・・・もっと自分を
見て欲しい、想って欲しい構って欲しい。何のかんの云って
まだコドモだし)

口にはとても出せないことを思いながら、机に向かって書類を作成する。
自分で淹れた茶をすする。
たす、と襖が開くと土方が入ってくる。
デスクワークをするのは土方と山崎、後は数えるくらいの者で、
この執務室はいつも人気がなく、屯所でも数少ない静かな部屋だ。
「あ、副長。お帰りなさい」
土方が巡察だったことは把握している。
「茶、淹れましょうか」
「ああ、頼む」
答える土方の声がそことなく涙声だったので、何事かと思う。

彼の手を見れば、『えいりあんVSやくざ』のパンフレット。
湯飲みを机に置きながら
「巡察中に観て来たんでしょう」
と笑いながら山崎は云う。
「内緒だぞ」
土方が思い出したのか、目頭を抑えながら云う。

「ほんっと副長、熱い男に弱いですよね」
含みを込めた。
「何だそりゃ」
「いーえ、何でも無いです」
本気で怪訝な顔をするので可笑しくて仕方ない。
近藤局長然り、あの万事屋の旦那然り、それがあからさまか
見え難かろうが、この人は「熱い漢」に弱いのだ。

(俺がミントンに熱くても、ぐらつきはしねーんだろうけど)
と思った矢先に
「お前だって熱いじゃねェか」
と云われて、山崎は茶を吹いた。
「うおっ!キタねーな!何だよ!!」

げほ、と咽た後に
「何だよ、じゃ無いですよ。何がですか」
とようやく訊くと、土方はいつもの澄ました顔で
「仕事熱心だろ、って意味だ」
とあっさり答えるので、心がむずむずする。

「そうすか?普通ですよ」
平静を装うが、声が震えた気がした。

(本当にこの人には飽きさせられないな)

「お前、今日もえいりあん探しにわざわざ出て、そんでまた
事務仕事だろ?おめーくらいだよ、そんな熱心に働くのは」
土方が書類の束に目を落としながら咥え煙草で云う。

山崎も書類にペンを走らせながら
「副長こそ」
とだけ答え、
「そのパンフは仕舞った方がいいと思いますけどね」
と付け足した。

土方は小さく笑いながら「てめーこそラケット仕舞えよ」と
やり返してくる。
(飽きない)
と山崎はまた思う。
(楽しい)

この人は何かにひたむきで、まっしぐらでも、決して他人の事を
無視はしない。売られた喧嘩は買うし、挑発にも乗り易い。
(根っこは単純なのに、苦労性なんだよなあ・・・)
山崎は書類から顔を上げて土方をじっと見詰める。

正直、黙って気遣って優しくしているのも楽しいのだが、
そればかりだとこの人は直に付け込まれる。
かと云って自分が云い寄っても、苦労の種を増やすだけだろう。
そう思うと結局、何も出来ないし何も云いだせないのだった。
(俺も損な性分だな)
そんな事を考えていると、土方が不意に顔を上げて目が合う。
山崎の心臓がぎくりと跳ねる。
「なあ」
山崎が見ていたことには何も触れず、
「お前今度、巡察いつだ」
土方はじっと見詰め返しながら問うてくる。
「明後日ですけど」
土方はにやりと笑って、
「俺は非番だ。口止めに奢ってやるから映画付き合え」
と云った。

心の中はざわめいているけど、山崎はそれを堪えて
「共犯にしようって魂胆ですか。ま、いいですけど」
と、なるべく素っ気無い風を努める。

「へへ、そりゃ良かったぜ」
土方が不敵に笑うので、
(ああ、もう乗りますよ。あんたの誘いになら幾らでも)
と心の中で降参の白旗をあげる。

「立て続けに2回も観るなんて、そんな良かったんですか?」
「まあな」
土方は機嫌がよく、鼻歌まで歌いだす始末。

(ああもう、何だろうねこの感情)




この人のひたむきさが、可愛くって仕方ない。
色々考えたところで、意気地の無い俺にはそれだけ。
今のところ。







END

仲良し山土。つーか山→土です。
発展させられないなあ、もう成り行きをすっ飛ばして、カラダだけでも
関係させないと、いつまでもうちの山崎こんな調子ですよ多分。
どうしようかなあ・・・山崎にきゅんきゅんしちゃったり、
あんあん云わされちゃったりしてる土方も書きたいんですがねえ。
うう・・・困った。

BGM:BUGY CRAXONE
あと、テニスの跡部さまのお歌。
忍足のアルバムが欲しいです。ぶっちゃけたー!!


レス★
17日混戦しまくりの土方受け最高です!と云って下さったアナタ様!
良かったあ、安心しましたあ〜へなへな。
ですよね、思いつく限りの人に可愛がられてれば良いですよね、あの人。
うふふ、今回も、土方の可愛さにやられている山崎(+私)なSSです。
うれしいです、有難うございました!

あ、鉄火は明日から旅行に出るので、一週間くらい更新無しです。
ネタ仕込んできますね〜。


2005年02月14日(月) 私にひかりを (銀土)


見なくていいものを、見たくないものを、
目に入れないために光を失くして。
それでも『逢わなかった方がマシだった』とは思わない。
そう思えたら、どれだけ楽だったろうに。



バレンタインともなると、気のいい男所帯は浮かれさざめく。
こぞって非番のシフト希望を出す奴が続出し、くじ引きで
休みを決めた。真っ先に希望を出したのは、他ならぬ近藤だった。
日付が変わるか変わらないかの時間に、即効でお妙の店にチョコを
せびりに突っ走り、坂本まで呼び出して大騒ぎを起こしたというのに
全く懲りていない。
「チョコレートを装った爆弾攻撃でもあるかも知れねーってのに、
どいつもこいつも!ったくお気楽なモンだぜ」
とぼやきながら土方は見回りへと赴く。


そうは云いながらも、最近目にする攘夷志士は、本当に困った
ゴロツキも居れば、気のいい根っからの侍もいると知った。
ますます、何かひとつの要因でも異なれば自分が立っていたのは
あちら側だったのだと痛感する。
奴らが行っているのは、幕府に云わせればテロリズムだが、
実のところは暴力でしか表現できない意思表示だ。
それは願いも込められたもので、テロというよりは正当な反撃で、
天人の傀儡に成り果てている、腐った幕府への批判の意思表示なのだ。


「アーラ、トシ子じゃないの」

野太い声に振り向く、
「マドマーゼル・・・。その『トシ子』っての止めてくれよ、ほんと」
「何云ってるのよ、まァた陰気な顔しやがって。アンタさえ良けりゃ
いつでもウチの店に来ればいいのに」
彼女、もその一人だ。道端で銀髪と喧嘩をしていたら、
通りがかった彼女、に仲裁され、そしてその素性を夜に聞かされた。

「何処で誰が何してるか、ほーんと解らねーよなァ。
今突っ走ってる道が何であれ、どいつも信じた道を走ってら」

珍しく神妙な顔で銀髪が云った言葉はよく覚えている。
ニヤニヤ笑いではなく、苦笑でベッドの中、片肘で頭を支えて
人の煙草に手を伸ばす。
銀髪の体には大小の傷跡が残っている。薄暗い部屋の中でも、
裸の腹や胸に残る生々しい傷は目に焼きつく。
おそらく、自分よりも其の傷は深くて、多いだろう。


「ホラ、トシ子。こんな日に辛気臭い顔してると、もてないオトコ
だって思われるわよ、これ持って行きなさい」
そう云いながら西郷は、手いっぱいに抱えた紙袋からチョコレートを
差し出した。客商売はこの手のイベントにマメである。
土方は今日の未明に陸奥にからかわれた事を思い出し、
滅入った気分でそれを受け取った。
「あ、そうだ。これもう一個パー子に持っていって頂戴」
と押し付けられる。
「近所なんだから、マドマーゼルが持って行きゃいいじゃねーか」
と云うと
「私は忙しいんだから、テメーが行きやがりなさい。しかも大体なんで
私がわざわざパー子に渡しに行ってやらなきゃならないのよ」
と有無をいわさぬ凶悪な表情で凄まれたので、
土方はジャーマンスープレックスをかまされる前に「はいはい」と答えた。


土方はチョコをポケットに入れて、煙草を呑みながら万事屋へと
向かった。
入り組んだかぶき町の路地にも慣れ、近道にも詳しくなった。
先日には一緒に巡察に出た沖田に「随分と深入りしたモンですねィ」と
嫌味を云われてしまった、

(深入りだって・・・?こんなモン、暇の潰し合いだろうが)

だんだんと重みを増していく、銀時との情交に云い訳をするように
土方は頭の中で毒づく。



引き戸を叩くと、「ふぁ〜い、今出ますよー、っと」と
だらけた声がする。明らかに寝起きで、しかも対応が眼鏡の
小僧では無いという事は、おそらくアイツ一人だけだ。
「あら、何よ多串くん。折角今日はガキどもが出払ってて、銀サン
気ままな一人暮らし気分を満喫なのに」
戸を開けるなり、これだ。
『叩っ斬るぞ、てめェ!』という言葉を飲み込んで、
「オラ」とつっけんどんにチョコを突き出す。
すると銀時の顔がすうっと青ざめ、
「・・・な、何コレ、多串くん・・・毒?毒入りなの?!」
とうろたえるので、慌てて「さっき西郷に頼まれたんだよ!」と
必要以上の大声で云い足した。

「あ、そう」

と云うと銀時はいつもの半眼に戻り、「まあ茶でも飲んでけば」と
土方の返事も聞かず部屋へと戻った。
断られるのを想定していない物云いは癪に障ったが、何となく
逆らえずに万事屋の戸をくぐる。

玄関で壁に手をかけ、ブーツを脱いでいると、台所で銀時が
本当に茶の用意を始めている。
昼下がりの日差しが、格子から射して銀髪をきらきらと輝かしている。
ふぁ〜、あふ。
大きなあくびをしながら、慣れた手つきで適当に急須に茶葉を入れる。




見えなければ良かった、知らなければ良かった、
こんな迷いなど斬り捨てられれば良かった。
ただ近藤さんと隊の事だけ考えていた頃の方がまだマシだった。
気は迷い、振り回され、要らない事まで考えさせられる。


土方がじっと見ているのに気付いた銀時は、
湯飲みに茶を注ぎながら、「何、したいの?」と
あっけらかんと云う。
「昼間っから、そんな思い詰めた顔しちゃってさ〜多串くんは
困ったコだねえ」
急須からこぼれた茶を布巾で拭うために、また台所に顔を向けた銀時に、
片足だけ脱いだブーツを投げつける。

「あいだァ!!ちょっと御巡りさん!アンタらの靴は鉄板仕込んで
ある安全靴なんだから、マジで死にますよ!何考えてんですかテメー!」

土方は「ふん、うるせェ」とだけ応えて、もう片方も脱ぐと
そのまま台所で頭をおさえている銀時に歩み寄り、
「これ、貰うぜ」と湯飲み茶碗をひとつ手にしながら、そのまま銀時に
軽くキスをして、ソファのある部屋へと入っていった。

銀時はあっけに取られて台所で固まっている。
ああ、この部屋は光で眩しい、土方は窓を見やって目を細めた。









END

一応バレンタイン絡みの銀土です。無理矢理?苦笑。
なんか、最近、私オールキャラ気味ですよね。偏っているけど。
先日の陸奥土も踏まえつつ、沖土も混ぜつつ、土→近は一貫してて、
マドマーゼルと土方を知り合いに・・・。
いえ、銀魂は皆好きなので、ついね・・・つい・・・
・・・だって、楽しいんですもの!!

という訳で、やはり私は銀土が好きです。
上記のように混戦しきった土方総受け、見境なしなクセによく云いますが。


2005年02月13日(日) ラプソディー・イン・ハート (エリヅラ)

ふう、と桂は溜息をつく。
「どうしたものかな・・・これ」
ひとつは小ぶりのハート型をしたチョコレートケーキで、
もう一つは丁寧にラッピングされたチョコレート。

今日は夕方でバイトを切り上げて、早めに帰宅して
先程完成させた。
大晦日は、「彼女」が夜勤らしかったため、何の躊躇いも無く
二人で年越しをしたが、明日はどうなんだろうか。


エリザベスには可愛い看護婦の彼女が、いる。


エリザベスは語らないので、予定などは知りようも無い。
出かける時も突然で、戻ってくるのも突然だった。
「幾松殿には朝渡しに行けるし・・・」
ケーキはどうしようか。
作ってみたは良いものの、渡す、というか二人で食べられるかの
目処がたたないのだった。
彼女と過ごすのならそれはそれでいいのだ、
「一日で腐るものでも無いしな」
桂は観念したようにまた一息つくと、立ち上がってケーキに
ラップをかけて冷蔵庫にしまった。

「よし、エリザベスが帰ってくるまでに晩飯も作ってしまおう!」
腕をまくって髪をくくり、敢えてしゃっきりとした声で自分を律した。
着物の袖をたすきがけでまとめる。


桂が魚を焼きがてら、菜の花のからし和えに取り掛かろうとすると、
引き戸が開いて、白いぬぼっとしたエリザベスが現れる。
「おお、おかえり。エリザベス」
桂のいささかほっとした様な声に、エリザベスがこっくりと頷く。
(俺は何をうだうだ気に病んでいたんだ、エリザベスはこうして
俺のところに帰ってくるのだから、明日一日くらい何でも無いではないか)
ちょっとのさびしさと、それでも嬉しさと安堵で桂は表情を
ほころばせると
「もう少しで晩飯できるからな、部屋で待っていてくれ」
と云う。

するとエリザベスがちょこちょこ寄って来て、おもむろに何かを
桂に差し出した。「何だ?」
そこには、どうやって物を掴んでいるのかさっぱり解らないエリザベスの
手には、『エリザベスさんへ』と書かれたカードのついたチョコが
乗せられていた。

カードには、あのナースの名前。

「今日、逢って来たのか?」
桂が期待すまい期待すまい、という風に押し殺した声で問うた。
エリザベスはまたこっくりと、先程よりも深く頷く。
じわり、と目の奥が熱くなって桂は慌てて目を逸らす、
「そうか、俺も明日は早番なんだ、・・・」
そこから言葉が出てこなかった。
菜の花を茹でている鍋が吹き零れそうになっていたので、
慌てて火を止める。
エリザベスはその間に冷蔵庫をぱかっと開けて、さっきのチョコを
仕舞おうとした。するとそこにはハート型をしたケーキ。
『エリザベスいつもありがとう』とホワイトチョコレートで書かれている。
桂がそれに気が付き、「あっ!」と声を上げた。

「・・・母の日みたいで変だとも思ったんだがな、でもバレンタインと
いうのは日頃の感謝を込めて贈り物をする日らしいから・・・」
と云う桂は俯いていて、でも後ろで一つにまとめた髪の間から
見える頬も耳も真っ赤だった。カッカと火照り、湯気まで出そうだった。

エリザベスがまたちょこちょこと桂のところへ寄って来て、
もふ、と桂を抱きしめた。ふわふわの手(着ぐるみ)で桂の頭を撫でて
やる。よしよし、と云わんばかりに何度も何度も。
桂は頬にあたるエリザベスの毛並みと、そのもふもふとした触感に
安心し、しかしおずおずと「明日の夜に、一緒に、食べような・・・?」
と疑問の形でエリザベスに告げた。
桂を抱き締めたまま、エリザベスが頷くのが解った。

迂闊にも涙が出てきてしまい、桂はぐしゅ、と涙声で
「さ、晩飯を作ってしまうよ」
と云ってエリザベスから離れてそっと涙をぬぐった。

エリザベスは濡れ縁を上がった一間の部屋にと入っていった。
桂は濡れ縁の台所で、おひつを開けて、飯を茶碗に盛ろうとして、
そのほあほあした白い湯気に、また涙腺がじわりとゆるむのを感じた。


部屋の方では、エリザベスが手編みのマフラーを明日まで何処に
隠そうか思案していた。
彼女が「エリザベスさんに上げるわ、あ、そうだ!エリザベスさんも
桂さんに作ってあげたら?私、教えてあげる」と一ヶ月半ほど前に
申し出てくれてから、二人で編んだものだった。


翌日は、朝から快晴のバレンタイン・ディ。
朝一で暖簾を上げる幾松に桂がチョコを渡しに行って、幾松は
「いやだねえ、何だか恥ずかしいよ!有難うね!」
と頬を染めて輝かんばかりの微笑みをこぼした。
「じゃあ、あたしはホワイト・ディに何を返そうかな」
と云いながら大切そうにチョコを両手で胸の前に掲げ持つ。
「世話になってばかりだから、気にしないでくれ」
と云う桂もとても嬉しそうだった。

夜勤明けの彼女は、ナース服のままで病院の庭に出て、
「はい、エリザベスさんこれ!」
と云ってマフラーをエリザベスにまいてやった。
「私が教える方だったのに、エリザベスさんの方が先に完成しちゃうんだ
ものね。まあ、長さが違うから、ってことにしておいてね」
チョコだけは昨日仕事の前に渡したものの、エリザベスがまけるほどの
長い長いマフラーは完成せず、彼女はそれを持って夜勤の仮眠時間で
編み上げたのだった。
「桂さんも、きっと凄く喜ぶわよ」
と云って、うふふ、と悪戯っこの様に微笑む彼女の笑顔も輝いていた。
エリザベスも、何となく嬉しげに見える。


どうか沢山の笑顔がこぼれますように。
どうか沢山のハッピーが訪れますように。
どうか皆の笑顔が輝きますように。





END

約束どおりのエリヅラです!!!!!!!!!
どうですか皆さん!?こんなん、どう?!
いや、どうって訊かれても、ねえ。ですね。はい。

エリナースでエリヅラでヅラ幾ですが、結構上手く収まるんですよね。
何だ、皆ハッピーラブラブでいいじゃないか!と。

私はすっかりナースの彼女のことを忘れていたんですが、友人から
指摘され、一気に考えていた話を改変しました。しかし何だか満足です。
日頃「煮え切らない・報われない」話ばっかり書いてる所為か、
反動でラブラブが書ける時には目一杯ハッピーに!と思ってしまいます。

エリヅラ好きさんたちの、お気に召したら本当に幸いです。

前日の桂のもやもやが書きたかったので、一日早く書いてしまいました。
なので明日は本命カップリング、土方受けでバレンタインネタかなあ。
でも土方受けは「どろどろもやもやぐずぐず」が好きだから、
何か、バレンタイン!−★みたいなの書けない気も・・・ううむ。



2005年02月12日(土) 仔犬 (陸奥土で土→近→妙でバレンタイン)


「何でもええがじゃ!はよ地球ば帰るぜよ!!」
「ちょっ、坂本さァん!解ったから、手ェ離して下さいよ!」
困り顔の操縦士がわめく、それよりも横で坂本がもっとわめいている。

長い手足をばたつかせ、終いには「おりょうちゃぁーーーーん!」と
叫びだす始末。操縦室の誰もが、彼女を待っていた。
(早く来て・・・!船が沈むから!)
「待っててくれろー!おりょ、ごばっ・・・!!」
「喧しいんじゃ、この毛玉」
云い捨てて、蹴りの勢いで頬にかかった金灰の髪を払いのける。
「陸奥さん!」
「陸奥さん!」
操縦室の誰もが、助かった!という輝きの眼差しで陸奥を見詰めた。
「こいつばァ、倉庫にでも放り込んでおくきに、
全速で地球に帰還じゃ」
「はい!」
見事に揃った返事が響いた。
白目をむいた坂本は陸奥の手によって、貨物の倉庫に閉じ込められた。
もっとも、地球に着くまでに意識は取り戻しそうも無かったが。

陸奥はむっすりと倉庫の鍵をかけると、事の発端である、
衛星を介しての宇宙端末を接続した。
彼女の自室にある17インチモニターが小さく唸りを上げて、
所謂「宇宙テレビ電話」を映し出す。
「はーいィ!こちら真選組です!」
慌しげにし、うっすら汗までかいている山崎が回線を受け取った。
「陸奥じゃ。近藤はおるきにゃ」
「ああ陸奥さん・・・それが・・・」
疲れきった苦笑いを浮べた山崎を見ると、陸奥はすぐさま
「解った。土方はいるろー、呼べ」と云い換えた。

「おう、陸奥さん」
と画面に映った土方は、着流しが乱れて肩がずり落ち、黒い艶やかな髪は
ぼさぼさになっている。冷静を装っているが、煙草に火を点けられない
ことが、混乱を如実に表していた。
「そっちは戦場の様やの」
「いや、あんたが電話してきたって事は、そっちも同じだろ」
「大迷惑じゃ。毛玉は血相変えて“地球に帰る”の一点張り」
「すまん・・・近藤さんはもう飛び出して行っちまった」
「・・・ふん。直に地球に着くきにゃ、いつもの場所じゃな」
「ああ、店で開店前に作るって話だ」
「解ったろ、じゃあな」
「お互い大変だな」
「おまんは其れを買うて出とるじゃのうか、わしは只の尻拭いじゃきに」
身も蓋も無い陸奥の言葉に、土方は少し困った顔で口角を上げた。
まるで飼い主の後をついてまわる仔犬みたいな顔じゃな、
と思いながら陸奥は回線を切った。着陸用のポートが見えた。


『お妙さんが店でチョコレートを作るらしい』

それが騒ぎの発端だった。
客に配るためのものらしく、そうすれば必然的におりょうも作ることに
なる。その情報を聞き付けた近藤が慌てふためいて、「恋の狩人」仲間
である坂本(二人とも狩人にしては何も獲られないが)に宇宙電話を
かけたのだ。
二人で「何としてもお妙さんから/おりょうちゃんから、チョコを
貰う!」と鼻息も荒く、店に駆け付ける事に結論が達するのに時間は
かからなかった。

着陸の振動とともに、坂本はがばりと跳ね起き、倉庫の頑丈なドアを
蹴破って一目散に駆けていった。
小さくなった後姿を見ると、陸奥は小さく舌打ちし、
「おまんら、後の事ばァ、任しゆうがぞ!」と怒鳴り、活気ある返事を
聞き届けると外套と菅笠を手にして颯爽と船を出た。

陸奥が店につく頃には、既にお妙がブチ切れ、
「だァから仕事にならねーって云ってんだろーが
こンのゴリラアアアーーー!!」
と絶叫しながら同時に近藤がアッパーカットで店からすっ飛んできた
処だった。
坂本はチョコの前にあぐらで座り込み、
「おりょうちゃんのチョコば、他のオトコにやるんは嫌じゃあああ!」
と半べそで訴えていた。
おりょうは「あんたにはやったでしょお!
大体これ皆アタシが作ったんじゃ無いわけだし!」と坂本の横で
頭を抱えている。
店員と、他の馴染み客はもういつもの事だと、鷹揚に笑っており、
だからこそ余計に店の前の道端に突っ立っている土方は遣る瀬無かった。
近藤はお妙によって沈黙させられたので、後は自分が連れて帰るだけ
だったが、坂本は・・・。
「土方」
「陸奥さん!早く何とかしてやってくれ・・・」
またしても(助かった!)の目で見詰められ、陸奥は辟易した。
「営業妨害で、おんしがしょっ引けばええがじゃ」
「そうは云っても店のママが『彼らはもういい』って諦めてんだから、
捕まえる理由がこっちにゃ無いんだよ」
ふ、と一息つくと、ズカズカと店に入り、「陸奥じゃなかか!」と
顔を上げた坂本の懐に飛び込むと鳩尾に拳をいれ、昏倒させる。
その手馴れたさばきに「陸奥ちゃん、相変らずお見事ねえ、
どうなの?考えてくれた?あんたならいつでもウチの店大歓迎なのに」
とママが声をかける。
「わしは接客には向かんろ。大体これ以上この店ば、バイオレンスに
しちゅうのも気が引けるぜよ」
と柔らかな表情と声でする返答には、店の男女がともども見惚れた。

いつもの様に坂本を陸奥が引き摺りながら帰ろうとすると、店のホステス
の一人が「あ、陸奥さん、折角だからコレ貰っていってよ」、と
綺麗にラッピングされたチョコレートを手渡した。
「わしじゃのうて、土方に遣ればええものを」と受け取りながら云うと、
「駄目なのよ、あの人は店に入ってこないから」とホステスはケラケラ
笑って云った。そう、大抵お妙によって店から追い出されている為に、
土方が店内で近藤を制止することはなかった。
「いい男よねえ、無口で渋くって。ま、この二人も可愛いんだけど」
別のホステスがクスクス笑いながら失神している近藤と坂本を見て云う。
陸奥は「騒がせたな、すまんきにゃ」と云いながら店を出る。


店の前では土方が近藤を介抱し、肩に腕を担いで立っていた。
器用に片手で煙草を吹かしながら、「お疲れさん」と云う。
(こげな仔犬みたいなオトコの何処が渋いんじゃ・・・)
そう思うと陸奥はさっき貰ったチョコを土方に突き出し、
「遣る」
と云った。
「こいつらが目ェ覚ましたらまた騒ぎよるがじゃ、おまん片付けろ」
「陸奥さんが貰ったモンだろ、船で事務仕事でもしてる時に
食えばいいじゃねェか」
土方が苦笑いで辞するので、陸奥はぽんと投げて寄越し、
「いいから喰え」
と云って坂本の身体を引っ張り上げて担ぐ。
頑なな陸奥の態度に観念したのか、土方が煙草を消し、
かさかさと包みを開けて、歩きながら口に放り込む。

(近藤さんがもぎ取って、懐に入れてるのと同じモンを喰うとはな・・・)

舌の上で溶ける甘さと、なんとなく苦い気持ちが口の中で混ざる。

「土方」
不意に呼ばれて振り向く
着物の襟をつかまれて、上体が下に向くと、
陸奥が唇を合わせ、舌先を土方の口腔に差し込む。
「んむっ?!」
驚いて何事か云おうとする瞬間には陸奥の唇は離れており、
「これで貰ったことになるきに」
と平然と云い放った。

「人をからかうなァ!」
と土方が真っ赤になって叫んでも、
「おんしゃあ、苦いきに。丁度じゃ」
と何処吹く風だ。
「んだよ・・・甘いモン嫌いならそう云えばいいのによ」
平静を保って土方が云うと、陸奥は一瞬だけ笑んで

「違う、土方が苦い思いばしちゅうから、それをわしが分けて
貰ってやって丁度ゆう意味じゃきに」

と優しく云った。
「それはお気遣い、ありがてェな!」
拗ねて煙草に火を点ける土方は、陸奥にしてみれば健気な黒い仔犬だ。
喉の奥で彼女はくつくつと笑った。

「わしは甘いモン、嫌いじゃないがか」

「だったら初めっからあんたが喰えばよかったんだ」

「いや、面倒ごとに巻き込まれたんじゃ、少しくらい
困らせてやってもバチは当たらんきにゃ」

「・・・俺が巻き込んだ訳じゃねーよ」

「だから、おまんは好きで巻き込まれてやってるんじゃろうが、
同罪じゃ」

近藤のことを止められないのは、近藤に土方が甘いのは、
本人にも自覚があった。
土方はぐうの音も出ない。

その困り顔(はたから見たら不機嫌な仏頂面だが)を見て、
陸奥はまた楽しそうにしている。








END

はい、バレンタインです。土方受けですが、攻めは陸奥です。笑。
好きなんですよねえ、坂本近藤コンビと陸奥土方コンビが。

★レス★
9日。白梅と金魚の感想を下さったアナタ様!!
ある意味沖田は、土方にとっての特別だとは思います。
近藤さんに片想いで、でも銀さんが気になって、なもやもやした土方が
対等に安心して振舞えるのは沖田だけなんじゃないかなあ、と。
で、対抗馬は山崎ですから!笑。
タリヨンも読んで下さったんですね!有難うございます〜!!
鬼畜攻めな格好良い高杉がメジャーな中で、脆く儚く薄幸な高杉、
しかも受けで近藤高杉、というのは私と金銀迦ちゃんの中ではメジャーな
妄想です。笑ってやってください・・・。へへ・・・へ・・・。
8月にも近高を書いてまして、目覚めていただけたら嬉しくて空も
飛べます、私。意外といけませんか?高杉受け。微笑。
ではでは、有難うございました!!これからも頑張ります!

Kルンバぴょん。
風邪は治りましたが玉子酒は作って下さい。本気。
でもって金魚高杉を喰うのは止めてください。消化に悪そうですから。
高そよ、やはり良いね、良いわ。ラヴィ!


2005年02月09日(水) 白梅 (沖土)

もう随分と長いこと、死んだままで
キスをしている。


不機嫌に呼ぶ。
平静を装って呼ぶ。
叫ぶように呼ぶ。
揶揄を込めて呼ぶ。
笑いながら呼ぶ。

あなた、あなた、あなたに俺は死んだままキスを。



「総悟」
ごく自然に呼ばれる。
「何ですかィ」
振り向く前から声の主は解っている、煙草で掠れた声。
甘くて苦い声。
屯所の縁側で土方が煙草を吹かしながら「ん」と云って
指で庭を指す。
その方向を見てみれば、庭木の梅が白い花を散らして咲き掛けている。
「梅ですかい」
土方は黙って咥え煙草で頷いた。
「もう春ですねェ」
隠居夫婦の様な遣り取りだな、と思いながら沖田は土方の
視線に関心を抱く。
この人は趣味で俳句を作る所為なのか、元来の気質なのか、
自然の移ろいによく気を向けている。
「鬼の副長」と呼ばれ、仕事中は黒い隊服に返り血を滴るほどに
浴びても平然としている姿とは似ても似つかない。
そして、土方がこういう事を云うのは沖田にだけだと、
沖田自身がよく知っていた。
近藤さんに云った処で「何だトシ、風流だなァ!」と豪快に云われ
恥ずかしくなるし、他の隊士には何よりも先ず「示しが付かない」の
一点張りだからだ。
沖田本人は、さほどの風流心は持ち合わせておらず、そうか、位の
ものなのだが、それを知らぬか知った上でなのか、それでも
土方は沖田に何かを示すことが多かった。

(独りで居るときは脇目も振らずにぎらぎら殺気ばかり放ってる
癖になあ・・・)

いつか山崎がぽつりと漏らしたのだが、
「副長って、一人で歩いてると、凄い猫背で前のめりになって
早足で歩いてますよね。俺、あの状態凄い気になっちゃうんですよ」
そんな土方がどんな時に、何を思って自然の変化に気を向け、
そしてそれをわざわざ沖田に告げるのかは皆目見当がつかない。
ただ、のんびりしている時になのは、確かだった。
常に近藤さんありきで、隊ありきで、気を張って隊を取り仕切っている、
その息が抜ける時に何かをようやく見ることが出来るのだろうか。

(でも、万事屋の旦那には先を越されてるんだよな・・・)

銀時は土方と犬の喧嘩のようになっている時に、不意に
「あ、多串くん、ホラあの雲柏餅に見えねえ?」
などと云って煙に巻く事が多い。

だからだろうか、近藤さんばかり見ているこの人が、
あの胡散臭い銀髪に興味を抱いているのは。
張り詰めているものを、逸らしてかわして飄々とやり過ごす。
土方がそれに心地よさを感じているのは確かだった、
そしてそれは同じ隊に居る自分にはどうしても与えられないものだった。





縁側に腰掛けて、足をぷらぷらさせていた土方が、不意に
裸足のまま庭に下りると、梅の一枝をぱきりと手折って、
「おら」
と沖田の顔面に突きつけた。
梅の深い香りがいっぱいに広がる。
縁側に立つ沖田よりも、庭に裸足で立つ土方の目線の方が低い。
柔らかな日光がぽかりぽかりと二人をぬくめる。
「んな真剣な顔して眺めてっから、欲しいのかと思って」
沖田は思わず噴出した、この人は神経質で完璧主義者のくせに、
どこかずれている。
日頃から沖田に「おめーは突拍子が無さ過ぎる。何をしやがるか
解ったもんじゃねえ」などと云うが、お互い様だろうと沖田は思った。
白梅の枝を受け取ると、くるくると日にかざして回してみる。

また縁側に腰を落ち着けて、煙草に火を点けようとしている土方の
耳の後ろの髪にその枝を刺す。
「何だよ」
煙草を咥えているために、くぐもった声で土方が怪訝な顔をした。


「あんたァ、真っ黒だから、白が似合いやすぜ」


無骨な骨のような枝に、あまりに柔らかな白い花。
それは少し土方に似ている様に思った、そして自分の考えの
甘ったるさに沖田は苦笑いを浮かべる。

「にやにやすんな、気持ち悪ィ。俺が黒いってんなら
てめーなんざ腹まで真っ黒じゃねえか」
眉間に皺を寄せて、元々少しつり上がった眉を更に上げる。
「てめーには秋になったら彼岸花でも頭に突き刺してやらァ」
ふーっと白い煙を吐きながら土方が云う。

ああ、それの方が自分には似合いかもしれないな。
有毒の異形の花。
毒々しい赤。血まみれのような。
何せ自分は死んでいる、死人から生えるのに相応しい花だ。
(まあ、そもそも花なんてガラじゃあないですぜ)
沖田は心の中で呟いた。

土方の横であぐらを掻く。
「俺ァ、花より団子ですぜィ」
そう云えば土方はくつくつと笑って
「おめーの場合は団子よか酒だろーが」
と云って沖田の腕を肘で小突く。
刺しっぱなしの梅の白い花がそれに合わせて揺れる。

当番の隊士は皆巡察なり、何なりと仕事をしている。
非番の隊士はここぞとばかりに小春日和に誘われて遊びに行った。
非番でも屯所に大体居るのは土方や沖田くらいのものだった。
近藤はここぞとばかりにお妙の元へと駆けて行く。

見てる者など居ない、居たとしても「ヤバイものを見てしまった」と
思って忍び足で去ることだろう。
そう考えて沖田は伸びをする。
「あーあ、全くいい天気でさァ」
云いながら土方の腿に頭を乗せる。
「重いんだよ」
土方は身じろぎもしないで至って普通に云う、
「硬い足を枕にしてやろうってのに、その云い草は何ですかい」
沖田が目を瞑ると
「じゃあ退けってんだ」
とだけ云った。微かな振動に目を開けると、土方が
白い花の向うで笑っている。


沖田は、また目を瞑る。

俺はもう長いこと死んでいるんだ。
あんたが近藤さんのことが好きだと気付いちまった時からもうずっと。
死んだままで、
「寝るんなら布団行け、総悟」
俺を呼ぶあんたの声に、キスをしている。
死んだままあんたが呼ぶ俺の名前にひとつひとつ。





END


沖土っていうか沖→土でしたね。
まあ膝枕だし、お花さしちゃってるし、土方は機嫌良くてさせ放題だし、
一応沖土かな?
白梅の花言葉は「気品」「忠実」です、ちょっと土方っぽいな、と。
もうこの夢見がちな私を誰か一升瓶とかで頭かち割って起こした方が
いいかも知れません。笑。
後、ナチュラルに史実を混ぜてます。銀魂界の土方が俳句を嗜むかは
知りませんが、やらなそうだよなあ・・・。でへへ。

うちの近所では梅がほころんで、良い香りです。
皆様のお住まいの近くでは如何でしょうか?
冬の名残を楽しみましょうねえ。

レス!
Y子嬢、メールと内容がかぶっているのに笑ってください。
書いてるということは、そこそこ元気だし、生きて呼吸をしていますよ!
ありがとうね、本当に。


BGM:笹川美和「数多」


2005年02月08日(火) 凍り付く金魚 (近藤高杉そよ)

※『タリヨンの原理』を踏まえての話です。




「おいっ!」

「おいってば高杉!!ちょっと待て!」

早足でガツガツを地面を削るように歩いていた高杉が
刹那、振り返って近藤の口元に骨張った手を押し付ける。
「道端で俺の名前、呼ぶんじゃねえ。てめえが・・・!」
怒りを通り越した、狂気じみた目で高杉が唸るように告げる。

幸い時間は夕暮れ時、街外れの街頭に人影は無い。
けれど、近藤が真選組の隊服姿で「高杉」と大声を出せば、
真選組に限らず幕吏に見つかる可能性は高かった。
細い手首を握ると、薄い肩をぽんぽんとはたく。
高杉が手を緩めると
「ぶは」
と息をつき、「すまんすまん、吃驚したもんだからつい」
と黒服の大型犬は破願する。
「てめー何処まで阿呆なんだ」
云い捨ててまた早足になる。
「いや、それは本当に悪かった。でもお前、何であの話に
そんなに過剰反応す」
「うるせェ!!てめーには関係無い!」
チキ、と高杉が刀の柄に手をかける。
近藤が真顔になる。
「内容は確かに関係無い、でも話したことでお前がそんな風に
なったのは俺の責任だ。関係がある」
高杉の感情の触れ幅は尋常ではない。
かつては土方と少し似ているかとも思ったことがあったが、
土方は内に感情を押し込める方だ。切羽詰るほど表に発散しない。
高杉の場合は躁状態でも鬱状態でも攻撃的なことに変わりは無いが、
とにかく酷く情緒不安定だ。


あまりにも過敏な手負いの獣、
その神経質さは本人を傷めることにしかならない。
ならない、のに。

「はっ、責任だ?!随分ご大層な言葉吐きやがる、
だからっててめェに何が出来る!」
物凄い大声ではないが、細い首にはっきりと浮いた筋が
高杉の緊張と力みを如実に表していて、その痛々しさに
近藤は目を細める。
「正直、解らない。どうすればお前が楽になるのか、俺は
幾ら考えても解らない、だから側に居る」
「だったら生憎だ、それが余計俺の機嫌を悪くしてるんだって
さっさと気付け!!」

ああ、まただ。
近藤は自分の奥の方で何かが痛むのを感じた。
ああ、また高杉が凍り付いている。
それが痛い、酷く痛い。


燃えたまま凍ってしまった炎。


高杉の印象は其れだった。
炎は内で燃えさかり、氷を溶かす側からまた凍り付いてしまい、
冷たく刺す氷の中の苦しみに、のたうって尚燃えさかって、
その繰り返し。
氷を溶かせれば。
炎を消せれば。
でもそのどちらかを損なえばこいつは死んでしまうかも知れない。
氷を溶かしたら自分の炎に焼かれて高杉は死ぬ。
炎を消したら氷の中でそのまま高杉は静かに死ぬ。


あのお方の云っていた事は正しい。
やはり、二人は何処かで逢っている。




おやっさんの付き添いで江戸城に行った。
只の供である近藤は別室で待つことになる、とはいえ土方の様に
煙草を呑むわけでもなく、部屋を出て廊下をうろうろ見て廻る。
客室の前の廊下には浮世絵や生け花が飾られ、さながら美術館の様だ。
その隅の、吹き抜けからの日差しを丁度浴びるところに
大きな水槽があった。
そこには真っ赤な金魚が、立派な、長い尾ひれをゆらゆらとさせながら
大きな水槽で一匹だけで泳いでいる。
日差しを受けてきらきらと鱗が輝く。
「ふわ〜・・・こりゃ綺麗だ」
ぽそ、と呟くと、背後からまさに鈴のような笑い声が小さくした。
振り向くとそこには「酢コンブ好きの姫様」と呼ばれるようになり、
その直前には真選組も捜索に借り出された人、そよ姫が立っていた。
「あ!」
近藤は訳の無い声を上げると一歩下がって深々と頭を下げた。
「構いません、私一人です。お楽になさってください」
そよはくすくすと笑いながら云う。
「真選組の、近藤局長、ですよね?」
土方が発見し、城まで送り届けたのは真夏だった、もう半年は前の事だ。
近藤は顔を上げると
「随分と記憶力が良くておいでですねえ」
と正直な感想を述べた。
「ふふ、私にとってもあれは大事件でしたもの」
屈託無くそよが云うので、近藤もつられて苦笑し、
「まあ、そうでしょうな」
と応える。
「ところでそよ姫、お一人で何を・・ってまた脱走する気じゃ・・・!」
近藤は自分で自分の云ったことに泡を食った。
「違います、金魚をね、観に来たのです」
そよはますます可笑しげにしている。近藤の素直な気質は人好きする。
「こいつですか?綺麗ですねえ、俺こんなに立派で綺麗な金魚
初めて見ました」
そよの横で大きな図体をかがめて、同じ目線で水槽を眺める。

「そうですね。でも幾ら姿が綺麗でも、見事でも、この金魚はこの
広いだけの水槽で、たったの一匹で凍り付いているんです」
「凍る・・・?」
「そう、見てくれだけを整えられて、只の飾り物のままで」


そう云うとそよは近藤の方へ顔を向けた、
「近藤さん、あなたの真選組は攘夷志士を主に追っていると伺っています」
「はい、他にも上から面倒事押し付けられたりしますけど、
大体はそうです」
『上』も『最高に上』のそよに向かってそんな事を普通に云ってしまう
近藤に、そよは好感を持った。


「高杉、晋助、は、まだ江戸に居るのですか」


「は?」
思いもかけない名前が飛び出たことに一瞬面食らったが、
祭りの騒ぎの際に名前でも聞いたのだろうと近藤は思った。
「居ますよ」
実はたまに会う(正しくは押し掛けている)、とは流石に云えなかった。
「捕まっては居ませんか?」
そよの口調は何処かおかしかった。
凶悪な不貞志士が徘徊していることに対する恐怖、というのでは全く
無かった。

むしろ高杉が捕らえられていないか案じている。

「捕らえて、いません」
近藤もだから敢えて自分に捕まえる気が無いことを暗に示した。
そよ姫は聡い、必ずこれに気が付く、と思った。
そよはぱっと顔を上げた、長い黒髪がまるで水槽の金魚の見事な
美しい尾ひれのように舞った。
「そうですか・・・」
黒目がちの瞳が少し揺らいだ。
それを押し隠すように伏せると、水槽に目を向けた、
「あの人も、この様な感じですね」
「金魚なんて可愛らしいモンじゃないですがね」
「ふふ・・・それはそうですけど。一人だけで、何処にも行けなくて、
ただ凍り付いている」
そよは水槽を指で撫でた。
高杉を見たのか、それとも高杉と遭ったのか、それは聞けなかった、
遠くで「そよ姫ー姫さまー」と呼ぶ声がしたからだ。
「じゃあ近藤さん、失礼します。どうぞ出世して、城に沢山いらして
下さいね、私あなたの隊、とても好きよ」
早口で云って微笑むと、そよは小走りで声のほうへ向かった。


笑い顔は、あの年齢にはあまりにも不相応なほど寂しいものだった。



その事を話した、その途端に高杉は酒瓶を蹴り倒して立ち上がって
表へと飛び出したのだった。

一人だけで、何処にも行けなくて、ただ凍り付いている

近藤の脳裏にそよの声が甦る、おそらくは高杉も。

「高杉・・・高杉・・・」
刀に手をかけたまま固まっている高杉に、なだめるように名前を呼びながら
近付いていく。
片目を覆っている髪を梳いてやる、高杉がびくりと震える。
そのまま手を肩に回して抱き寄せる。もう片方の手で、刀を握り締めすぎた
白い手を大きな掌で包む。

「行き場もやり場も、どうしようも無ェかも知れないけど、
お前、一人じゃない。絶対に一人じゃあない、高杉」
細い髪に顔を埋めて云う。
「・・・畜生、あのガキ、俺とアイツが同じだって・・・?」
か細く呟いた。
(ああ、やっぱり何処かで二人は遭っている・・・)
どんな状況で、どんな遣り取りをしたのかは知る由も無い、
けれどそれは酷く近藤の胸を痛ませ悲しくさせるものだった。
「そんなのはよ、救いにもなりゃしないだろうが、痛い思い
してんのはお前だけじゃないんだよ、解ってんだろう?」
「知った事かよ・・・そんなのに何で・・・俺が構わなきゃ
ならねェんだ・・・知らねーよ・・・」
脱力仕掛けた身体を支える様に、抱きしめる腕を強めた。
「・・・っもう凍るな、もう燃やすな、自分が痛いだけだろうが・・・!
だからってそよ姫みたいに寂しく笑っても欲しくねェ・・・ああ!もう
俺、何云ってんだ!畜生・・・!」
ぎゅう、と高杉を抱きしめたまま近藤が呻く。
「・・・ほんっと莫迦だな、てめー・・・」
ぼそりと呟かれて近藤が手を緩める、高杉が近藤の涙のにじんだ目を
見て噴出した。
「近藤、酒買ってこうぜ。俺、出て来る時に蹴っちまった」
すん、と鼻をすすって近藤が「ああ」と云って高杉の横に並んだ。




どうすればいいのかなんて、誰も解らないから。



ただ並んで夜道を歩いたりする。




END


ちょっとレスからいかせて頂きます。
8日、沖土大好物のアナタ様!
あああ嬉しい!早速にメッセージを有難うございます!しかも体調不良の
土方も好物でらっしゃいますか・・・うふふ、むふふ。
いいですよね、ぐったりした土方って。
安心しました!お優しい言葉まで頂いてしまって・・・本当に有難う
ございます、お陰様で銀鉄火ほぼ完治です!
また沖土、宜しかったら召し上がってくださいねv

で、ですね、えーと・・・ごめんなさい。
すげえ楽しかったです。近高そよ。もうなんだそりゃ、と云いたい
カップリングですが、書き手の脳が腐っていると、それなりに形に
なってしまうもので。え、なってない?
おかしいなあ、私の中では結構こういうことになっています。
私の頭がちょっとおかしいのですね。アハ★
何か、ツッコミでも罵倒でも、ご感想頂けたら幸いです。
長いのを読んでくださり有難うございました!ラブ!

BGM:鬼束ちひろ「育つ雑草」


2005年02月07日(月) 暗い森 (沖土)


目が覚めて。
目蓋が重い。と思ったらそれは頭で、
布団から上半身を起こした時点でぐらりと傾いだ。
ぼわんぼわんと鼓膜の中で脳みそが揺れているのが
反響しているようだった。
吐く息が熱い。
身体も、額も、耳の後ろも、口の中も、全部が酷く熱い。

(やべェ・・・これ風邪か?インフルエンザか?)

後者だとすればこの大所帯、蚊の天人だけで総崩れになった
くらいだ、広める訳にはいかない。
よろよろと手を伸ばして引っ掴んだ煙草に火を点ける、
味が全くしない、それどころか吐き気すら込み上げて来るようだった。
鼻も詰まっていて煙草の香りも感じられず、
喉ばかりが酷く痛む。唾液すら飲み下すのに眉を顰めるほどだ。

屯所にはかかり付けの医者がいたが、今日は日曜で、隊士たちには
関係が無いが医者は非番だった。

(呼びゃあ、来るだろうが・・・それは)
ちょっと情けないし恥ずかしくもある。
そして面倒くさい。

幸い今日は土方は非番だった。
やらなければならない事務仕事も有るが、それはまだ期限があった。

(まだマシだったな・・・)

そう思って布団に戻るが、だるさと熱であまりに苦しく、
眠れそうにも無い。
土方は弱弱しく舌打ちをすると、電話帳を繰って近場の救急外来の
病院を探した。隊支給の携帯電話でかけてみるが繋がらない。
別のところにかけてみる、「診察は出来ますけど、検査室が休み
なのでインフルエンザだったりしても検査は出来ませんよ」と
非常にぶっきらぼうに対応される。
これだけで土方はぐったりとし、「何なんだよ・・・」とか細く呻いた。
次にかけたのは少し離れた大病院、話中が何度か続き、ようやく
つながったら「2時間ほどこちらでお待ち頂く事になりますが」
と云われる。
「・・・っくそ」
体温計は手近に無いが、熱はますます上がっている気がする。
救急隊にかけてもずっと話中だ。
だからといって救急車を呼ぶなんて冗談じゃない。
土方は電話を放り投げ、くらくらする身体も布団に倒れこませた。

襖が豪快かつ無遠慮に開け放たれ、
「土方さん、朝飯ですぜーィ、何たらたらしてるんでさァ」
と呑気な声がした。
咄嗟に土方は身を硬くする(しまった・・・!もうそんな時間か!)
土方が荒い息を吐きつつ布団の上に転がっているのを見て、沖田は
きょとん、とした後に底意地の悪い笑みを浮かべながら襖を閉めて
部屋に入ってきた。
「風邪ですかィ?随分苦しそうじゃあ、ねえですかい」
云いながら土方を覗き込む。
じろりと睨むことは出来ても身体はさっぱり云うことを聞かない。
土方の額にぺたりと掌を当てて「38.8℃って処ですかねェ」と
やたらとリアルな数字を述べた。
「山崎に粥でも作らせてきやすよ」
すっくと立ち上がり部屋を出て行こうとする沖田に、
「総悟」
と掠れた声を振り絞る。
「いつもの二日酔いだって云っておきまさァ、そうすりゃ土方さんが
機嫌もわりーと思って誰も近付きゃしませんぜ」
いつもの、だとか機嫌も悪い、だとか、気になる単語は吐かれたが、
土方の『誰にも云うな』という意思は汲んでいる。
ふ、と土方は強張らせた身体を布団に埋めて、手だけで沖田を追った。

朦朧とする頭に、外の音だけが入ってくる。
異世界のような違和感を持って。
障子紙を通した日差しはうすらぼんやりと部屋を照らし、ますます
現実感が希薄になっていく。
どの位時間が経ったのか、眠るに眠れない夢うつつで居たら、
今度は静かに襖が開けられた。
沖田が盆に1人用の土鍋と大きな水差し、湯飲みを載せて立っている。
そしてもう一方の手には、バケツ。
しかも手の筋の浮かび方からして大量の水が入っている。
土方が怪訝な表情をしたのに気が付いたのか、
「ああ、部屋が乾燥すると喉が辛いじゃねェかと思いやしてね」
と沖田は云った。
山崎手製の雑炊には緑黄色野菜に大根、ネギ、生姜が入って味噌で
味付けがされており、とても『二日酔い』の人間に向けて作られた物
ではなかった。奴は二日酔いの際には出汁をきかせた粥に梅干を潰した
ものと鰹節を混ぜる。
土鍋の蓋を開けるなり、不機嫌な表情で
「総悟、てめえ他の奴に云ったか」
と問うと、
「ああ、これはたまたま俺が薬箱から解熱剤を出してるのを
見られちまって、そしたら山崎が何も云わずに作ったもんでさ。奴ァ
本当に監察としてもハウスキーパーとしても有能だぜい」
と事も無げに答えた。

(仕方が無い、山崎は後で自分が痛い目に合うようなことは決して
触れ回らないし、大丈夫だ)
土方は開き直って雑炊に口をつける。
ようやっとの思いで粗方食べ終えると、沖田が湯飲みに注いだ水と薬を
差し出す、無言で受け取ってそれを飲んだ。
それをじっと見た後に「よし」と沖田は云うと、土方の自室の押入れを
開け、何やらごそごそやりだす。
「・・・てめえ何してやがる・・・」
「へ?着替え、出してやりまさあ」
「汗かいてねえ」
「だから、これからかいて、熱下げるんですぜい」
そう云うと先ず掛け布団をもう一枚出し、土方の上に重ねた、
そうして今度はタオルを首に巻く。
「コレ、何だ」
「汗を吸うためと、保温でさ」
枕元に浴衣を一式並べ、満足げにする。
はた、と障子に目を遣ると、雨戸を閉め始めた。
薄く隙間だけで明かりを取った部屋は暗くなり、夕刻の様になった。
「これで良し」
と云うと沖田は土方の脇に寝そべった。
「んで、お前は何だ」
「何って、見舞いですぜィ。変なこと訊かねェでくだせえよ」
もふもふと布団に埋まり、首タオルの風邪ひき状態丸出しで土方が
「さぼる気だろ、んな事云って」と凄む。
「生憎、俺も今日は非番です」と目だけ笑っていないにこり、で沖田が
切り返す。

「・・・うつるかも知れねえんだぞ」
ぼそぼそと呟くと
「あれ?いつも土方さん、俺に莫迦って云うじゃねえですか」
「莫迦野郎、莫迦でも風邪ひくときゃひくんだよ」
云いながら土方は体がぽかぽかしてきたのを感じた。
熱による苦しい朦朧が、眩暈が、柔らかなまどろみになりつつある。
土方の声が小さくなりつつなるのを聞いて、沖田は目を細める。
「アンタ、五月蝿いからもう寝てくだせえ」
そう云うと、少し汗ばんだ土方の額にキスをした。
反応が返ってこないのを見ると、眠ったようだ。
沖田は満足げにもこもこの土方の寝顔を堪能し、(この姿、写真でも
撮っておけば後で脅し放題だな)などと考えながらも、布団に差し入れて
握った土方の手を放さない。

部屋の前で声がすると出て行って、
「今、あんお人に近付くと危ないぜィ」
と殺気のこもった笑みを浮かべた。
見る人が見れば、それはどれだけ満足げなものか。


土方は暗い森の夢を見た。
薄暗いけれど、暖かい森の中、誰かが自分の手をずっとひいている夢。







END

風邪をひいていたのは私です。この話の土方の状態はほぼ私の丸写しです。
HA・TU・NE・TU!ドカン。
まじで日曜日に具合悪くなると焦りますね。電話は通じないし混んでるし、
ホント泣きました。皆様どうぞお気をつけ下さいね。
病み上がりなので、誤字脱字には目を瞑ってやって下さい・・・。

沖田の対処は、風邪の日の過ごし方を人が教えてくれたものを使用。
バケツでは無く、加湿器をお土産に見舞いに来てくれた人が居ました、
感謝感謝。

つーわけで「側に来ると危ない」ネタ第3弾、沖土ラブラブでした。
案外、私の沖土には反響が無いのですが、皆さんあんまり食指が
のびませんか?私、好きなんですが・・・。

★レス★
4日じりじりもやもや・・・のアナタ様!
一番は別って知りながら持て余す関係!その言葉自体たまりません私!
いいですよねえ、トキメキますよねえ。うふふ。
良かったです、煮え切らないけど気に成り合う銀土派の方がいらして。
安心しました、うれしかったです。有難うございました!!

5日Y子嬢
ふふ・・・早速書かせてもらいましたよ、陸奥桂。しかも出さねば
なるまい幾松さん!ってな訳で、14日(前後)にエリヅラを
考えているのですが、幾松さんというイイオンナの登場に波乱含みの
エリヅラです。ありがとうね、感想。ラブ!

BGM:鬼束ちひろ『インソムニア』


2005年02月04日(金) 腰抜け (銀土)

このモヤモヤは何だろう。
不愉快だ、ああ不愉快だ。

「おいィ!銀髪!」
「あによ、ンな大声出さなくても聞こえてるよ」

数歩先を歩いている銀時が面倒くさそうに振り返る。
土方の眉間には深い皺が刻まれ、眉が攣り上がっている。
ああイライラする、こいつの全部に。
何だか無性に、何だかとっても、堪えきれない感情。
「多串くん、顔こえーよ」
半眼でだるそうに、それだけ云うと銀時はまた
ひょいひょいと歩いていく。

軽い足取り、周りの景色を眺めながら、ふらふらゆらゆら。

コイツが俺にちょっかいを出すの何ざ何かの気まぐれだ。
気まぐれなんかに振り回されるのは真っ平だ。
はじめから飽きて終わるのが解ってる遊びなんて。

ツカツカと早足で歩を進め、銀時を追い越すとくるりと勢いよく
振り返る。
「てめーどういうつもりだ!」

「・・・何がァ?」
わしわしと頭を掻きながら応える。
頭に血が上る、もう真っ平だ。

「どうして俺に構う」
ぎりぎりと歯噛みするように漏らす。
「何でかなあ、・・・何となく?」
土方がカッとする。(どこまで人をコケにしやがる気だ・・・!)
「何となくで、つまんねー暇つぶしに巻き込まれんのは御免なんだよ!」
街灯の提灯の灯りを受けて土方の薄いグレーの虹彩が赤く光る。
ちかり。
ちろり。
狐火のように。

「いちいち理由が必要なんて、多串くんはおぼこいねえ」
何処までも思い通りにならない。
人の神経逆撫でする事しか云わない。
土方は舌打ちすると踵を返して駆け出した。

(付き合いきれねえ、そもそもそんな必要ないじゃねえか・・・!)

走りながら虚しくなってくる。
自分は何をしてるんだろう、
自分は何がしたいんだろう、
何が欲しくて、何をしたくて、
一体何が本当なんだろう。
自分の何が本当なんだろう。
縋る様に盲信している近藤さんも、
何で自分はこんなにしばられているんだろう、
まるで意味が無いのに。
こんなこと自体考えたって答えは出ないし
意味が無いのに。
そもそも何かに意味なんてあるのか?
駆けながら器用に手で風を除けて煙草に火を点ける。
真っ直ぐに駆けてゆく土方の辿った道の後ろに
煙が散り散りになりながら後を引く。
黒い影が細く細く長く後を追う。
ただただ真っ直ぐに駆けてゆく、脇目も振らずに。



走るだけ走って屯所まで戻ると、
其処には銀時が待ち受けていた。
やっぱりイライラする。
「てめーは何がしたいんだよ」
土方は溜息混じりに、口に出す。
ああもう馬鹿馬鹿しくて涙が出そうだ。

「あのねえ、多串くんといやらしい事がしたいだけ、そんだけ」
何処か呆けたような顔で銀時はするりと云った。
土方はもう真顔で銀時に駆け寄って、其の勢いで殴りつけた。
「頭おかしいんじゃねえのか!」
銀時は立ち上がって砂埃を払うと、顔を上げて
「嘘。本当は無性に多串くんの事が色々と知りてェんだわ」
口の端が切れて血がにじんでいる。
「ホントに頭おかしいぜ、意味わかんねー・・・」
土方が其れから目を逸らして俯く。
銀時は、その俯いた頬に手を伸ばして、触れるか触れないかの処で
ぴたりと手を止めた。
「うん。だからさ、俺の側に居ると危ないからさァ、
俺だって訳わかんねーし、何をどうしたいのかわかんねェんだもん」

止まったままの手を思い切り手で叩いて、土方は銀時にキスをした。
勢いだけの、本当に微かなキス。
「腰抜け!!」
怒鳴って屯所の勝手口に入った。



単なる好奇心だとか、興味が欲情になって、
触れ合ったところで話すことも特に無い。
そのくだらなさに自分の本質なんて揺るがされない。
楽しいのか、楽しくないのか。
それともそういうのはどうでもいいのか。
土方はほだされかかっている、「都合のいい」自分に
腹が立った。
「・・・腰抜け」
屯所の庭をまた駆けながら小さく呟いた。自分へと。


壁の外では銀時が殴られた口の端の傷を指でなぞり、
「こんなの、危ないだけだよなあ・・・」
とぼやき、それはシンとした夜の闇に溶けて消えた。
叩かれた手のひらがジンジンする。


恋とか愛とか名前の付かない感情。
もてあましてる、不愉快なくらい。
もう、どうにでもなればいい。
なるようになればいい。
出たトコ勝負なんて行き当たりばったり、本当は
自分の性分じゃない、けれど、けれど。
アイツの出方次第だ。
土方はそうして、立ち止まって「っはーーーー・・・・」
溜息と共に顔を空に向かって仰いだ。





END


微妙な関係の銀土。「側に居ると危ないから」ネタ2弾。
シリアスにするつもりは無かったんですが、
何だか青春まっしぐらなヤキモキ話になってしまいました。
お前ら高校生か!!

開き直った喧嘩上等でラブラブな銀土も好きですが、
どうにもぐじぐじぐずぐずしてしまいます。
このね、二人のじりじりした感じ、実はちょっと好きなんですねえ。
銀さんにしてみたって、土方が近藤さんのことが大好きなの解ってるし、
いい年の男同士だし、土方にしたって近藤さんへの想いは報われないって
解ってるし、銀さんも気になるし、で何だか二人とも腰引けて、
こう・・・もやもやと・・・。笑。





2005年02月03日(木) サルビア (リザロイアル)


誰かのために、なんて本当は自分のため、だったりもして。
正直じゃないな、大人気ないな、だって、でも、
あいつはもう居ないのだから。




「やあ!アルフォンスくん、今日は生憎の雨だね、
こういう日には体の具合はどうなんだい?」
「大佐、こんにちは」
アルフォンスは挨拶を欠かさない。
毎度何かの儀式の様に行う。
大きな鎧をぺこりと屈めてロイにおじぎをした。
「う〜ん・・・動くのには困りませんけど、後で水滴を
ふき取るのが面倒なんですよね、僕一人じゃ届かないところも
あるから誰かに手伝ってもらわないといけないし・・・。
といっても、兄さん以外には頼めませんけどね」
語尾には苦笑が混じっていた。
ロイは鼻息も荒く、
「私が幾らでもふき取って磨いてあげよう!何遠慮することは無い!
若き才能溢れる錬金術師のためだからね、この焔の・・・がふっ」
「気持ちわりーんだよ!このヘン大佐!」
云い終える前に、赤いコートをたなびかせて小柄な少年が、
そぐわない野太い声で制止に入る。

「何ていうことをするんだね、鋼の!今君は上官に機械鎧の方で
蹴りを入れたんだぞ?!機械鎧の方で!」
「二回云うな、ウザい」
吐き捨てると、地べたで横座りのロイはさも心外という表情を浮かべた。
「行こうアル、待たせたな」
「えっ、でも兄さん・・・大佐にちゃんと謝らないと。
いきなり暴力を振るうなんて良くないよ」
口調は丁寧だが、有無をいわさぬ頑なさが込められている。
「いいのよ、二人とも。お行きなさい」
「中尉」
アルが背後からのアルトの声に、振り向いて姿を確認する前に反応を
示した。
「この人に近付くと、危ないからもうお行きなさい」
ぶはっ!とエドワードが噴出し、ゲラゲラ笑いながら云う。
「だっよなあ!流石中尉、解ってるよ」
「危ないとは何かね、ホークアイ中尉」
まだ横座りで居るロイはわなわなとしながらやっとの思いで口にする。


「湿気たマッチの様になるから危ない、という事ですが」


さらりと、しかも真顔で見詰められながら放たれた言葉にロイは
泣き崩れる真似をした。
「君って人は・・・今疑問形ではなく断定形で云っただろう・・・!」

側でお決まりの茶番を見ながら、ハボックが一人、
(問題はソコかよ・・・)と痛いものを見る眼差しでロイを見やった。


ロイを放置する形でエドワードは清々しい表情で部屋を後にした。
アルフォンスを引き摺って。

ロイは憔悴した表情で猫背になりながらとぼとぼ部屋を出て行く。
「大佐、まもなく軍議の時間ですが、どちらへ?」
何事も無かったかのようにホークアイは声をかけるが、
「あ〜うん、行くよ、行く」
と虚ろに返答してロイはぱたりとドアを閉めた。

「一服っすよ、あの人、中尉が煙草嫌いだからって、いつも外で
吸ってるんです。まあたまにですけどね」
ハボックが弁護に入るも
「そう。でもアナタは気にしないのね」
と一蹴で返り討ちにあった。

「キツイなあ、もう・・・。でもこれでも控えてんすよ?」
この男特有の、片眉だけ吊り上げ、口をへの字にした曲者然としながら
憎めない表情で応える。ハボックは、へこたれない。弱くない。
「解ってるわ」
ホークアイも、特有の無表情で応える、が其処にはからかう様な
笑みが含まれている。
ハボックは(敵いませんよ、あなたには)と云う風に肩をすくめてから
「しっかし大佐も何であんなにエルリック兄弟に構うんでしょうね。
あの人、子ども好きでしたっけ?・・・まあ、ただの子どもよか、
余程重いっすけど」
と咥え煙草(火は点いていない)のまま呟く。

「充電したいのよ、自己投影かしらね」
「充電?」
「そう、出来て無いけれど」
あまりに唐突で抽象的な文句にハボックは一瞬ポカンとしたが、
直に意味を解して
「充電出来ない充電器かあ・・・空回ってますね、そりゃ」
と飄々とした顔で、ホークアイから視線を逸らして呟いた。
「全くね」
ホークアイはカツン!と小気味良い音を立てて踵を返し、
棚から会議に必要な書類をピックアップし始めた。

ちら、と窓の外に目を遣ると、植え込みの影から紫煙が一筋、
もやもやとたなびいている。
少し目を細めて(全く無能なんだから)と毒づく。




燃やし尽くすしか能が無くて、不器用なんて云えば聴こえも良いけれど、
結局自分と同じ歪んだ者が好きで、何かを創れる人間を求めるんだわ。
(まあ、私も自分で何かを創り上げられる様な人間じゃないわね)
自嘲してまた書類の束に目を戻す。



空回ってでも、誤魔化したいものが、そこかしこに溢れている。
大人も子どもも関係無く。
走ってゆけるまだ見ぬ先がある子どもはまだ良いのかも知れない、
見えてしまったら其処に進むしかなくて。例え何があっても。
何を失っても。


もやもや、もわもわ、誤魔化しきれない煙が上がる側に
サルビアの赤い花が咲いている。




END


あおはるじかん、の青井さまに捧がせて頂きます、気持ち悪い大佐です。
職人技のマッチには感動しました!
この様な居候に、御本など本当に有難うございます!
かなり腹を抱えて笑わせていただきました、最高です!!
返品可、です。苦笑。

ええと、今後は何作か「側に来ると危ないから」ネタを続けます。
私が今日、銀迦ちゃんに云った言葉なのですが、彼女がウケてくれたので
ネタにします。
何が危ないかって、私がヘビースモーカーだからです。煙害。スモハラ。
(スモーク・ハラスメント)

今後は銀魂で続けるつもりですYO!


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