銀の鎧細工通信
目次


2004年11月30日(火) 蝶々のはばたき(数年後、銀さん父の気持ち)


・・・そりゃあ、あんだけ食ってりゃ、育つわな。




和室で寝て、起きて、外の天気を見ようと思って窓を開けたら。
ぷらぷらとでかい半球状のもの。
あれ?ああ朝から何だか妙な気分だ。

「おはよーございまーす、ってあれ?銀さん珍しく早起きですね」
「おー・・・新八くんかい・・・」
応接間から、開け放した襖の向こうに銀時がベランダに立っているのが
見えた。結野アナのニュースの前から銀時が起きているのは珍しい。
しかし、反応はあまりにも清清しくない。

「どうしたんですか・・・そんなショウユ顔になっちゃって・・・」
新八は和室の方へ歩み寄った。
銀時が棒立ちになっている前に干してある、洗濯物。
「何も無いじゃないですか、また二日酔いっすか」
きょとんした新八も、改めてみると背が伸びて、今じゃ銀時と
あまり目線も変わらない。
がしがしと頭をかいて「あ〜・・・」と煮え切らない声が出る。

「お茶でも入れましょか?」
「いやいい・・・何かパフェ的なもんが食いたい・・・」
「無えだろ、んなモン。あるのはチクワと海苔だけだろーが」
新八はいつも通りのつっこみ(というか真実)を指摘しただけだった。
はたと見ると、
「ちょ・・・っつ!!なんか目ェうるんでますよ銀サン?!!!」
「いやね、何でもないのよ新八くん」
「待てよオイ!!何でもないっつうかよ!!
分かりましたよ!甘いもの買ってきますから!ね!?」
云うなり新八はソファにかけてあった銀時の着物から財布を取り、
がっちり握り締めて表へと駆けていった。

「ああ・・・お妙に似てきたなあいつも・・・」
がっくりとうなだれて、銀時は時の流れを感じた。
寂しいとかじゃない、でも何だか。


もやもやする・・・。


「騒がしいアル〜・・・あれ?新八は?今、声したネ」
もそもそと押入れから神楽が出てきた。
寝起きは相変わらずあまり良くない。ぼさぼさのピンクの髪。
「銀ちゃんオハヨ」
「あ〜・・・ああ、おはよ」
「?銀ちゃんショウユ顔になってるアルよ」
云いながら銀時の横を通って顔を洗いに行く神楽、背は勿論背は伸びた、
髪も伸びた。ふっくらした子ども特有のほっぺたもすっきりした。
よろよろと神楽の後を追って台所(兼洗面所)へ向う。
髭をそるときに見てた頭のてっぺん、万事屋に転がり込んできたときは
胸の辺りだった。今は、肩の辺り。
何で気づかなかったんだろなあ・・・・。
こいつら全然云ってる事もやってる事も変わらねェんだもんなァ・・・。
鏡を覗き込んでも、自分に変化は無い。
そりゃそうだわな、あちらさんときたら成長期だもの。
「溜息ばっかり気持ち悪いアル」
「てめっ、歯ブラシくわえたまま喋んなっていつも云ってんだろが、
泡が飛ぶ、泡が!」
「銀ちゃんパピーみたいネ」
「・・・・・・・・・・・・・・あ?」


もやもや?何このもやもや?あれ?パピー???


「はー疲れた、銀さーん買って来ましたよ〜、だんごと饅頭ー」
「新八、朝からパシリ行かされてたアルか」
「ああ神楽ちゃんおはよう、いや何か銀さん変でさあ」
「銀ちゃんが変なのはいつものことアル」
「まあねえ〜」
髭剃りを充電器に戻しながら、じっくり見た。
伸びた等身、声も変わったか?
しみじみと銀時の駄目っぷりについて語り合う二人を尻目に
銀時はまたベランダに出てみた。


大きさはなァ、何か会ったときから下手すりゃお妙より
あった気もするんだよなあ・・・3巻の表紙とかなァ・・・。
でもなあ、この色はなァ・・・。どうなのよ、神楽チャン。
そういやあこの間お妙とおりょうちゃんと買い物行ってたなあ。
・・・お水の勝負下着買いに付き合うんじゃ仕方無ェか・・・。


いつの間にか呑み友達になってる近藤と坂本に夜中呼び出された、
図体のでかいムサイ野郎が二人でストーキングというのはあまりにも
滑稽で、いっそ切ないものすらある。
「銀時ィイ!!聞いてくれよ!お妙さんが・・っつ!!」
「いんや近藤、おんしはまだいいぜよ、わしゃあ、わしゃあ・・・っつ」
「ああ何だよ何だようるせえな!」
「坂本、おりょうさんが真っ赤ってェのはいいじゃねえか、似合うよ、
でもお妙さんが紫は・・・・・・・!」
「紫ばゆうたかて淡いもんじゃろが!うちの陸奥なんか濃い紫とか
黒ばっかりじゃァ!ほぼ黒じゃあああ!!」
「は?もしもし?何?何なのあんたら、何の話?」
「下着の話じゃあ!!」
「下着の話だああ!!」
がばあと顔を上げながら怒鳴る二人のムサイ大男は複雑な涙を流していた。
「・・・帰っていい?」
げっそりとしてくるりと向きを変えた銀時の手を、それぞれが掴んだ。
両手を押さえられたまま顔だけ後ろに向ける。
「いや・・・いいんだ、何色でも。全然構わないんだ、なあ坂本」
「おう、どんだけ派手じゃろうと透けていちゅうと構わんぜよ」
「っつ・・・!透けているのはまずい!!それはまずい!」
「嘘ば付くなァ!近藤、おんしゃ漢のロマンをわかっちょらん!」
「だからさ、帰らしてくんない?」
二人は銀時を引き止めたまま、複雑な涙にまみれて、ひたすら下着の
色について議論し、しまいにはそれぞれ怖い副官が迎えに来た。

今では土方と陸奥も、同じ気苦労を背負った者同士の妙な連帯がある。
「ああ、土方。久しぶりじゃな。おんしも全く難儀じゃの」
「おう陸奥さんよ、いやあんたこそ苦労が絶えねェだろうな」
二人そろって、深い深い溜息をついて、酔いつぶれたそれぞれの
大将を怒鳴る、殴る、蹴る、つねる、等々してずるずる引き摺って帰る。
「じゃあな、ああ陸奥さんよ、あんたこっち戻ってきたら屯所に
顔でも出してくれや。うちは男所帯だからあんたみたいな美人が
来てくれるとちったァ華やぐってもんだ」
「ふふ・・・全くおんしゃ口ばうまか男じゃきに、信用ならんろー」
「ははは!そう云うな、美味い酒でも仕入れとくから」
「わしは焼酎の方が好きじゃ」
「分かった、またな」
「ああ、沖田にも宜しくな」
「あんたら妙に仲良いからなあ、腹黒同士気が合うんだな」
「ふん、好きに云え。どこで沖田の奴が聞いてるか分からんぜよ」
「じゃあ俺は行くぜ。おい、銀髪、ご苦労だったな」
「坂田、世話ばかけた」
瞳孔の開いた2人と呑み潰れた2人は闇夜に消えていった。



柔らかい風にそよぐブラジャー。

これ・・・何カップだ?
そっと手を伸ばしてホック部分のラベルを見ようとしたら、
「銀さん、お茶入れましたよー!ニュースも始まりますよー!」
大声で呼ばれて、何故か後ろめたい気持ちになる。
慌てて手を引っ込めた。


うう、もやもやする・・・。二日酔いよりも甘酸っぱい、
寂しいとかじゃない、でも何だか複雑な。



でも応接間を振り返ってみれば、姿こそでかくなったものの、
何にも変わっちゃいない風景。

銀時は饅頭をほおばりながら結野アナのニュースを見る。
新八はお茶をすする。
神楽は定春を撫でている。



神楽の、立派なブラジャーは他の洗濯物に混じって、柔らかい風に
そよぐ。
蝶々が洗濯物の森に迷い込んで、またはばたいていった。






END


銀迦ちゃん、こういうイメージよ。お父さんな銀さん。
本当は大きくなった沖田に困惑なお兄ちゃん土方も書きたかったんだけど、
近藤・坂本コンビと土方・陸奥コンビ書いたらそれがあまりに
楽しくって・・・うふふ。またの機会にしようかな。
銀魂、未来予想図。
変わるものと変わらないもの、どうか皆幸せで。

金魂カバー本当に有難う!!よりによって台所に「もののけ姫」ポスター
があるのはびっくりだよ。長い付き合いになりますが、まさか
そんなミステリーが潜んでいたとは・・・。



2004年11月26日(金) 雪龍(高杉)


吐く息が白い。
けれど今まで身を置いていた京の街よりも、寒さが柔らかい。
もうあの街では深々と冷え切った空気が大気を侵している筈だ。


ああ、でも自分はこの場所で闘っていたんだ。
昔の話。











「高杉、大丈夫か」

白い息とともに銀の髪が薄く光る。
「ああ、大したことねえ。かすっただけだ」
身を起こそうとした高杉にきつい制止の声が飛ぶ。
「莫迦野郎!肺をやられるところだったんだぞ!!
坂本が医者を連れてくるまで動くな!」
桂が大声を出した。
冷静沈着ぶっている人間ほど、精神状態が荒んでくると
それが露骨に表に出る。
苛付を隠せないようにあばら家の戸口で刀を構えている。

銀時が軽く肩をすくめて「だとよ。まあ寝てろや、血ィ足りてねえだろ」
と高杉の顔の前で両手をかざした。


高杉の小さな舌打ちが、火の気の無いあばら家の温度を更に低くする。


状況は最悪だった。仲間内では死人が後を絶たず、
絶望と疲弊から戦線を離れる者も少なくなかった。
前にも後ろにも戻れない、口にこそ出さないが皆そう感じていた。
高杉は首をめぐらして窓の外の空を見た。
重い雲が雪を運んできそうな、冬空だった。
重くて重くて、暗くて、押し潰されそうな空の色。

3人とも口を開かない。
今、何が云えるのか。誰もそれを知らない。





「高杉ィ!生きちょるかー!」
坂本が息を切らして駆け込んできた。
後ろにいる馴染みの医者の顔を見て、桂の表情が緩んだのが分かった。

「おお、真っ青な顔して。こりゃいかんぜよ」
そういう坂本こそ蒼白で、高杉の顔に触れた手は氷のように
冷え切っていた。
坂本は、じき戦場を、否地球を離れて別の方法を取る、と云っていた。
桂はまた追い詰まった表情で外を見張っている、
刀を握り締めすぎた指先が白い。横顔が、白い。
銀時は傷口の処置を施されている高杉の胸の傷を暗い瞳で見ている。
戦場で銀髪を血で染めるごとに銀時の眼は暗くなってゆく。

溜息をついたら、

それで崩れてしまいそうだった。
何もかもが。


だから高杉はまた空を見上げた。
失血のせいか霞んだ視界に、真っ白な龍が天を横切っていくのが見えた。
白い刃のような鋭い鱗を光らせて、太い胴をくねらせ、
カギ爪を開いて、白い龍が真っ白な線となって駆けて行った。
西の方だ。
西の方だ。


「お、雪だ。道理で冷えるな」
銀時がぽつりと誰とも無しに云った。
「・・・もう・・・冬だな」
桂がそれに答えた。




高杉は鬼兵隊が壊滅した後西へ行った。京へ。







夜の河原で煙管を吹かしていると、かつて見た龍のような白い筋が
目の前を流れて消えていく。

「小せえな」

ぽつりと呟いても川音に消えるだけ。
この河原に仲間の晒し首が並んだ時にも呟きはざわめきに消えた。
叫びは喉を刺しただけで口には出なかった。



あの時、あの崩壊間際の戦場で血を流していた自分の眼に映った、
白い残酷な龍は冬を背負い雪を従えるものだったのだろうか。

それとも潰れる願いを連れ去る夢の龍だったのか。
絶望の夢龍。強く白く圧倒的な。





高杉は空を見上げた。
もう、何も見えない。







END

高杉を書くとどうしても回顧的になります。
彼が過去から離れられないから。
また出てきてくれないと、妄想ばかりが膨らんでしまうヨ!




2004年11月22日(月) 闊歩(ロイアル、鋼9巻によせて)


それもこれも取るに足らない狂気の沙汰。
繰り返し繰り返される狂気の。









「それじゃあなんの説明にもなってない!!」
叫んだ声は鎧の空洞の中で反響して消えた。
微弱な振動が、絶叫の余韻をびりびり、ぶるぶると伝える、
生身の身体ではない物理的な揺れだ。



兄さんは一人で抱え込もうといつもする。いつも、いつでもだ。
巻き込んだのは僕も同じだ。
苦々しい表情、堪えても激情が全身からくすぶっている、
そうロス少尉の死体からも似たくすぶり。



「そんな身体はいらないよ」


わからずやで頑固で意地っ張りな、そして臆病な兄さんに
初めて、初めてついに口にした言葉。
ようやく云えた。云ってしまった。
でも兄さんは憮然とした表情をした。
本当にわからずやで傲慢だ。
黒い服に身を包んだグレイシアさんへだって、
僕に説明だけさせて、責任だけは自分が負おうとする。
帰り際にそっと涙する彼女に傷付く位なら責任だけ、結果だけ
負おうとするなんて傲慢なんだ。
僕らにはののしられる資格すらない。

「許し」という最大の枷の意味を兄さんは分かっていない。
その重みを。
罪への対価、等価交換、それが枷なんだ。
重く冷たく声も出ず、寒々と荒涼とした闇しか見えない、
空虚さと悔恨の渦中にただ立ち竦むだけの、罪人の枷。






だから、僕は鎧なんだ。






その意味をいまだに直視しようとしない、弱い兄さん。
その意味を痛感しながら、それでも堪えて、枷ごと
立ち尽くして前を睨んでいる、大佐。
彼だって、強くはない。






兄は分かりやすい。
激情のままに振舞う、あからさまな言動。
弟は、弟は、冷静だった。
そういう兄の分まで背負うように。

「それじゃあ何の説明にもなってない!!」

彼はよく分かっている。人の死を。その横暴を。
その暴力を。滅ぶ肉体を。
戻らないことを。
帰らないことを。







アルフォンスくん、君に云い忘れたよ。


私は軍部の鑑定室で、死因となった頭部への銃創が、
解剖の必要もないくらいあいつの後頭部を潰れたトマトのように
しているのを、見たんだよ。

拭き取られていても、血臭で酔いそうになる錆びた色した電話ボックス、
君にも見せたかった。
見てもらいたかったんだ、私は、君に。







それもこれも取るに足らない狂気の沙汰。
繰り返し繰り返される狂気の。
まだまだ歯車は止まらない。
闇の闊歩は止まらない。
狂気は、終わらない。






END


もう言い尽くせません・・・!鬼才荒川弘。
そして言い尽くせぬ私のヒューズとアルへの愛。



2004年11月18日(木) 鮫(沖土)

グロテスクな本音を縫い合わせたあなたの傷痕、を敢えてなぞる。
何でも無い振りをしている表情の裏にあるあなたの攻撃性の正体は。

ああ、ああ、あなたを頭から噛み砕ければぶちまけられるものなのか。
そうすれば



「楽になるでしょう、土方さん」

ぺろりと手についた精液を舐め取り、沖田は顔をあげた。
「莫迦云え、トチ狂いやがって。どういうつもりだ」
土方は上気した頬と荒い息で、それでも虚勢を張り続ける。
「鬱屈した顔されてちゃ迷惑なんでさ」
「俺がどんな顔してようとてめーには関係ない、さっさと退け総悟」
土方は自分の足の間にかがんでいる沖田の肩を押した。
「へェ、無かったことにするんですかい」
「忘れてやる、って云ってんだ」
ぎろりと睨みつける土方の眼にはどこか苦いものがちらつく。

沖田はそれを見るのが楽しくて仕方が無い。
土方がサディスティック星からやってきた皇子だとか云うのも
道理かもしれない。こんな嗜虐性。
幼稚だとも云えるのかも知れない、攻撃によって、傷付けることによって、
自分を忘れないようにと振り回すのだ。



何の意味も無い。
相手は離れていくばかりなのに。



「でも、もうやっちまったモンはしょうがねえ、ねえ土方さん?」
言い訳のように土方に問いかけた。
彼は眉を寄せて顔を背けた。



この人は、人の言葉を決して無視しない。
こんな時でさえ。
無理に押し倒して欲情を暴力的に煽った。
押し問答は覚えてもいない。
この人は、他人のことを無視しない、できないのだ。
飲み下した土方の精液が喉の奥で熱いような気がした。


いちいち俺に影響されれば好い。
いちいち俺に振り回されれば好い。
せいぜい俺のことを考えろ。
せいぜい俺のことを想え。
止められないのだ、この愚かな我侭を。
ならばいっそ傷付けてやろう、他人を無視できないあなたを。

違う、違う。
本当はこの人の眼にちらちらする苦いものが気にかかるのだ。
自分にはどうすることもできない苦いものが。
この人も報われないと分かっている苦いものが。
気になってどうにもならないのだこの人のことが。


そう云えば「総悟は昔いつも気になる娘をいじめていた」
と未だに近藤さんに酒の席で云われることがある。
一歩も進んでいないのか、自分は。


沖田は呆然と土方から離れた。


「総悟・・・?」

無視してさっさと何処かへ行けばいいものを。


だから俺はあなたに絡めとられたまま動けない。
あなたと同じように何処にも行けない。
ここから離れられない。
ただ攻撃し、喰らい、回遊し続けている同じところを。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
それでも傍にいることに何か意味があるのだろうか。
いつか土方という網を喰い破って離れられるのだろうか、でも何処へ?


沖田は静まり返った屯所の一室を無言で、土方を見返りもしないで
出て行った。音も無く、ひっそりと。
苦い。


云えないということは、どんなにか苦い。
云えないまま傍に居るという事は、本当に苦い。

傷付けたいのは本当で本当ではない。
でも他に表現のし様がない。


グロテスクな本音を縫い合わせた傷痕、を敢えてなぞっている、自分の。
何でも無い振りをしている表情の裏にある俺の攻撃性の正体は。
想っているということなのか。
幼稚だということなのか。
振り切れない網、忘れられないこと。


ああ、ああ、俺を頭から噛み砕けばぶちまけられるものなのか。
そうすれば






END

タイトルは天野月子の「鮫」から。
沖田が10代だったショック記念SS。
青臭いのはどちらもどちら。
時間の流れに身を任す。



2004年11月13日(土) 対光(アルとエドの葛藤、兄弟それぞれ)

ひかりのなかにいた、小さな頃。
父親がいないこと、寂しさや悲しさはあっても、いつも
それは母親が満たしてくれるひかりの中で紛れてかき消えた。


ひかりの見えないところにいた、自分たちの犯した罪、
とも認識していなかったあの行為をなした頃。
何も見えなくて真っ暗で深くて重くて何も見えない見えない見えない
見えない何も見えない真っ暗真っ暗な中で、繋いだ手だけが確かだった。
それだけしかないのだ、と思い込むことで必死にすがった。






その手をねえ、今も繋いでいる?



繋げているのかな。





弟の変貌からもう何年か。
兄さんの半身が機械になってもう何年か。

ここまで走ってきた道は同じところを巡っていやしないか。
出くわした先で幸せな事件などがあったろうか。

アルを元に戻す方へ進めているのだろうか。
兄さんは追い詰まっている。

何とかなる方法なんてあるんだろうか、俺たちが。
放浪の中で兄さんだけが変わっていく。

近付いているのか、なあ真理。
真理、というものの正体、思い出しても僕の体は思い出されない遥か彼方。

いろんな大人に会った、晒し者はアルなんだ、俺じゃない。
僕たちに会った人たち、皆ふしあわせを抱えているという実感。

日々だけが失われていく、アルの生身の記憶とともに。
兄さんは、焦っている。

走ってきた道の意味、後ろにはなくても先に進むしかない。
僕自身の失っていく感覚、もう僕の魂は鎧に根を張ってしまったのかな。





乖離していく思惑。
繋いだ手をいつまで繋いでいられるだろう、
繋いだ手をいつまで繋いでいくのだろう、
忘れかけてゆく、遠い遠いひかりへ対して。


いつまで、どこまで、


それとも、もう?






END

鋼は、詩的に散文的に書くのが自分としては良いです。
物語は原作で彼らが歩んでいるから。
二次創作ではその断片を想いたい。

銀魂はね、長くなっちゃうんですよねえ、えへえ。
なんてだらりと笑いながらまだコミックスカバー付きのジャンプ
(最早目当てはそれのみで名称が思い出せない始末)買ってないや。
やばいやばい!!買わなくっちゃ!カバー!!!


2004年11月08日(月) 躍動/厄動(ロイアル)


移動中の車から子どもを見た。
14,5歳のまだ体も出来上がっていない、けれど
日々成長している若木のような力の躍動を
これ見よがしに発散する子どもを。
その子どもは数人で笑いながら駆けて、
互いを小突きあいながら路地裏へと走っていった。

一瞬の出来事。


職場で子どもを見た。
14,5の癖に、未完成の骨格の上に完璧な筋肉をのせて、
実戦と現実に適応可能な、それこそ不摂生極まる我々大人の
身体よりもはるかに緊張感を漂わせる身体。
顔もまだ子どもなのに、目だけが修羅場を潜り抜けてきた老人のような
鈍く底冷えする光を放つ。

もう一人は、子どもという外見ではない。
不似合いな鎧姿から発する変声期前の高い声と、
はるかに鎧より小さな子どもを兄と呼ぶことで、彼が子どもなのだと
気付かされる。
最も、私自身は彼らの「機密」を知っているので言わずもがなだ。

鎧の中から鬼火のような光だけがぼうと光る。
そんな光、人間の子どもが放つものではないだろう。
あれはこの世のものですらない。

けれど、車の窓ガラスごしに見る通りすがりの子どもより、
私には近しい光だ。
私には見慣れた光だ。
焼き捨てた死体が放つ燐光のような光。
笑が漏れる。

未完と完成の不調和。
その違和感が大人を戸惑わせる、避けさせる。
彼らは何処にも受け入れられない、どのカテゴリにも
許容されない。
ただそれでも傲然と横行する。


鎧の身体に躍動はない。
しなる腕跳ぶ足、健やかなる成長の煌き。
ただ不穏な機械の匂いと威圧の容貌。
そこから救援信号のように眼だけが悲しく不吉にぼやりと灯る。
それこそが真実だろう。
子どもが希望だなんて欺瞞よりも真実だろう。
彼らが大多数の子どもより実際的な被害を招く災厄の種であるという
ことを除いては。


ロイは笑がこらえきれなくなった。
一人自室で笑う。

「災いってのは暗躍するものなのだがね」


驕慢に傲然と、轟然と、走れ。
異質な子どもたち。厄動する兄弟。でも二人、繋いだ手は離さない。
そこにだけ、躍動の可能性を、見ているのだろうか。




END


鋼2連続!うれしい。







2004年11月05日(金) 不吐者(エド)


ひどく天気のいい朝だった。
最近は天候に恵まれ、気温も暖かい。
寒く険しくなってくる季節を前にして、実にうららかな日和だ。

エドワードはベッドからもそりと起き上がって、
あくびをひとつ。
窓からこぼれる光が眼に眩しい。
アルフォンスはいないようだった、大方師匠の店の手伝いにでも
行ったのだろう。肉屋の朝は早い。
はっきりとしない頭で、まずそれでも考えるのは弟のこと、
そして彼の所在。
眼が覚めたらアルが唯の鎧になっているのではないかと不安になり、
眠ることが恐ろしかった夜を自分はいくつ経ただろう。
不眠症の自分とアルは何をして夜をやり過ごしただろう、
思い出せない。

ただもう安心して二人、ぬくもりを分け合って眠ることが
遠い彼方。それだけが忘れがたい事実。
はたしてその不安はもう払拭され切ったのだろうか。



エドはぼんやりとベッドの上に座り込み、
窓からこぼれる光を見た。
祈りに少し似ている。
こんなにも胸を塞がれるような祈り、けして浄化されるような
類のものではない祈り。
無力感に少しずつ押し潰されていくような祈り。

「朝だなあ・・・」それでも呟いてみる。

季節だけがいつも静かに巡り、自分たちごと世界を包んだ。
恐ろしくもあるその時間の経過を、受け入れることでしか
前に進むことも有り得ない。
どれだけ遣り切れなくとも「朝だなあ・・・」そうして
独り呟く習慣。


打ち消したくても、眼を落とす手は機械。
すがりつきたくても、傍にいる弟は鎧。

のばした手を引っ込めて、
すがりたい手を押しとどめて、
助けて、苦しい、寂しい、悲しい、声に出したい感情を
飲み込んで。
吐き出したいものを無視して。
急いで現実を認める。
急いで現実を認める。
慌てて現実を認める。




エドは着替えて表へ出て行った。






END

朝の一風景。日々を送ることの機微。

ちなみにタイトルは「ふとしゃ」でも「ふどしゃ」でも
好きに読んでください。本当は「不吐瀉」だったんだけど、
変換で、者のがいいじゃんって作った言葉なので。


2004年11月02日(火) 奏で(銀土)


歌を奏でよう
声を奏でよう
音を奏でよう
あの人に届くまで
あの人に聞こえるまで
あの人が気付くまで



もうあの人がこの世にいなくとも
もうあの人にこの世で届かなくても




かさりと紙のパッケージから一本の煙草を抜き取り、
銀時は火をつけた。
土方は横目でそれをちらりと見たが何も云わない。


割った鬼の面は、彼の本当の顔であり、もう捨てた顔であり、
それでもやはり彼の顔のひとつだった。
子どもたちが何であれ慕った顔も彼の顔のひとつだった。
仮面なんて皆いくらでも持っている。
そうやって生きている。
偽者でもなく本物でもなくひとつひとつの顔が自分を作る。
それの何が嘘だと、一体誰が咎められる?
今時分の横で横たわるこの男も、仮面をかぶって生きている。
立場、想い、ああ何て非常に少ない仮面だ。
こういう正直な人間は珍しい。銀時は土方のそういうところを好ましく
思い、同時に嫌気もさしている。
ばかめ
口に出さずつぶやく。
土方は銀時と二人で過ごす時は無口だ。
今日は尚更だった。
同情でも慰めでもなくただ喋らない。
銀時は救われたようで、もどかしくもあった。
何か云えよ
また口内で呟いた。本当は言葉なんて欲しくなかった。
自分はこの男になにを求めているのだろう。
何も
自分の足りないものをこの男は持っている?
自分の無くしたものをこの男は持っている?
ばかだ
音にならない呟きは誰に向けてのものなのか、
銀時自身明らかには判別できない。
ただ人が死ぬのはやりきれない。
もういい、十分だ、もう死ぬな。もう殺すな。もう殺されるな。
死なないでくれ。
銀時は立ち上る煙草の煙を目で追いながら祈るように、
悔やむように、思いをめぐらせた。
忘れない、許さない、曲げない。
そして自分が護れるものの少なさよ。


自分のみを全て貫く一本の芯、折れてはならない其れ。
莫迦げているなどと云う資格なんてなかった。
土方自身、そういう芯を支えに生きている。
浮かんでは消える人の顔。ああ。ああ。
いくらでも仮面をかぶろう、あの人のために。
横で人の煙草をふかす男は押し黙っている。
ばかめ
声にしない呟き。
無駄に首を突っ込んで人をも巻き込んで。
そこで組織を動かしてしまう自分も愚かだ。
総悟、うらむぜ
弔い合戦なんて辛気臭い喧嘩は嫌いだ。
帰らないのに、何も。
残された者の自己満足なのに。
この男も分かっているはずだ。
この男はそれでも優しいのだ。優しすぎるのだ。
失うことなどよく分かっている、そんな仮面をかぶりながら
何にも期待しないで、それでも自分以外の人間が傷付くことを恐れて。
ばかめ
ばかめ
ばかめ
けれど呟きは声にならなかった。
土方は溜息をついてごろりと寝返りを打って仰向けになった。
布団の上で掛け布団無しで過ごすには、もう寒い季節になった。
理由なんて後からいくらでもつけられる。
近藤さん、すまねェ
目を閉じて思った。
彼は自分を責めないだろう。だからこそ詫びた。
真選組は目をつけられただろう。
ばかだ
土方は目を閉じた。
自分は薄汚い。それでも護ろう、何があっても譲れないものを。


「多串くん」
ささやいて土方の顔を覗き込んだ銀時の表情は軋んでいた。

情事の時も仮面はかぶったままだ、お互い。
さらしてどうなる、素顔なんて。
意味が無い。

覆いかぶさってきた銀時の背中に手を回し、
土方は天井を睨みつけた。
銀時の体温が心地よかった。
目を細める。


生きている。
生きている。
生きていて。
生きていて。
生きていて。



締め切った窓の外では子どもたちの歌声が聞こえてくる。


歌を奏でよう
声を奏でよう
音を奏でよう
あの人に届くまで
あの人に聞こえるまで
あの人が気付くまで



もうあの人がこの世にいなくとも
もうあの人にこの世で届かなくても
もうこれが鎮魂歌でも






END




人が死ぬのは嫌いです。


















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