銀の鎧細工通信
目次


2004年10月26日(火) 鳴る鳴る鳴る鳴り鳴り鳴り響く(土方→近藤)


寂しさが肥大する。
哀しみが体内を満たし内臓ごと逆流しそうだ。
孤独感で窒息しそうだ。
寂しさと後悔とやるせなさと哀しみと苦しさと
どうにもならないことに押し潰されそうな。
実際にそんなことがないことは、分かっている。
分かっているからこそ、惨めな感傷の感情。


あの人の笑顔が見たいのに。
あの人の笑顔を求めているのに。
笑っていれば嬉しいのに、今は胸を引き絞られる。
笑い声を聞いていられない。見たくない見たくない見ていられない。
苦しいんだ、目の前が真っ暗になる。

自分無しで平気なあの人なんざ本当は見たくない。
見たくなくても顔は合わす。
あの人の目の前からいっそ姿を消したい衝動に駆られるけれど、
それが出来ないとも思っている、重々。
本心はそうしたい訳でもないから余計に情けなくなる。
こんなのはガキの駄々じゃねェか。
エゴ丸出しだ。
俺は今日いつもどおりの顔が出来ていただろうか?


昨日の晩に「聞いてくれよトシ、素敵な人に会ったんだ
まるで菩薩さ、優しくて大きい、素敵な人なんだ」
顔面に青痣を作って、頬は何か入れているかのように腫れて、
そうやってにこやかに、自分を心底から揺さぶる笑顔で。
決闘に負けたとか俺に云った舌の根も乾かぬうちに報告してきた。



そう一辺に色々云うなよ、こっちの容量考えてくれよ。
刹那感じた「待ってくれ」という思い。
行かないでくれそんなに早く。
まだ、待ってくれ。

結局傍に居られることを望んだ、形はどうあれ。
仲間でいられればいい、戦友で有れればいい、それを選んだ。

いつかこの人を受け入れてくれる女が現れたら、
俺はどうする?どうもしない、今のままだ。
この人はそうなっても変わらない。
俺が全くの不必要にはならない。恋人とは関係性が違うから。




「副長?どうしました?具合でも悪いんですか」

はっと我にかえった土方は、近くまで来ていた山崎に不意を打たれた。
こいつも総悟も目聡くて、仕事の上ではありがたいが、
こういうときには本当に厄介だ、心中で舌打ちした。

隙を見せているのは俺自身なんだがな、だらしねェ。
「いや、何でもねェ、考え事だ」

「夕暮れの縁側でひとり物思いなんざァ全く少女のような
お人ですねい。見てるこっちが恥ずかしくならァ」
「あっ、隊長」「総悟」

「ハモんないでくだせえ、おら土方さん、寒いからもうそこ
さっさと退いて、戸ォ閉めさせて下せェよ」
沖田は土方を足蹴にして、そのままずず、と土方をどかそうとする。

「ちっ、わァったよ」
土方は苦々しい表情で立ち上がり、屯所の奥の部屋へ入っていった。



土方が座っていた縁側の地面には吸殻が無数に散らばっている。
山崎は軽いため息をついてそれをひとつひとつひろいに
裸足で地面に降りた。
「ひとりになれないって、こういう時屯所暮らしはきついっすね」


「何、あの人は構って欲しいんでさ、結局どうしようもなく
寂しいってことを分かってもらいたい、甘ったれなんだィ」


「隊長は厳しいなあ・・・」
山崎は苦笑しながら云った。

「しょうがないもんは、しょうがねェ、どうにもならねーんだ。
そういうモン抱えて生きてくしかねえのさァ」

さあっと冷たい風が吹き抜けた。

「まあ、そうなんですけどね・・・土方さんも分かっ」
「分かってら、あのお人は。もう嫌ってほど。
でも納得がまだ行かねェんだろィ」

山崎は顔を上げて沖田を見上げた、沖田は日没の橙に彩られていた。


「困ったもんですね・・・」
ふ、と小さい苦笑を浮かべて山崎はまた地面に眼を落とした。
この吸殻は残骸なんだ。
彼の想いの、断片なんだ。
諦めきれない、想いの砕け散った残骸。
本当は他人である山崎が拾ってやる義理なんて無いものだ。


「全くだぜィ、未練がましい吸殻の後始末まで他人に
やらせちまってなァ。でもあんお人、それを済まないと、
申し訳ないと、思ってるんだろーなァ」

「だと、思いますよ。・・・本当に」




打てば鳴り響く、焦がれて止まぬ想い、あの人に向けてだけの。
鳴っても響いても、もう届かないあの人に向けてだけの。
早く終末の鐘へとなればいい、想いの弔いの、野辺送りの鐘に。






END


距離感を取ってくれそうな人にしか伝えていません個人的な大衝撃。
でも今日職場で匂わせてしまった、同じ職場で普通に顔合わせるの
辛くもある。弱いですね。情けないですね。


最近S星の王子から一気にまともなキャラに変貌してきて、全然
掴めない沖田ですが、山崎と絡めてみたくて!
あー山土とかも気になるんですが、私の山崎はこういう敏感な
傍観者だから自分では書けなそうです。
彼女とかいればいいとか思っちゃうし。まあ、いんだけど。
でも沖田は沖→土ですよ!






2004年10月22日(金) 後悔なんてできやしない(近高)

いびつな象形。紫の花。闇夜に羽ばたく鳥の影。
打ち落とす。風の音。また朝焼けが忍び寄る。
膝を抱えてじっと立ち向かう。









宿はしばしば変えた。橋の下で眠る夜もある。
野良犬暮らしだと、夢も信念も最早失くした狂犬だと、
アイツは云った。いやアイツじゃなかったか、云った奴は
斬って捨てた。文字通り橋の上から川に投げ捨てた、死骸を。
アイツもそこまで不粋なこたァ云いやしない。
会えば批難の口は開かれる。そのお綺麗な面、長い髪、
目障りで懐かしい。

溶けて消えることのないこの手の血。
今更どうとか思うって云うのか?
そんな目で見るな。
折り合いをつけて、今もう新しい連れどもと生きてるお前に
そんな顔される覚えねえよ。

会うこともろくに無い。今は宇宙のどこにいるのやら。
俺の背が低いからっていつも「酒ばほどほどにしちゅうて
飯食って大きくなれ」だの
好き放題云ってた邪魔くさいかさばる奴。
もう本当は思い出せない、奴が最後に、旅に出る時、俺に何て云って
どんな目で見たのかを。ただ、俺は相変わらず酒ばっかり呑んでいる。


どいつもこいつも澄ました処で同じ穴のムジナだろ。
生き残っているんだろ。死に遅れているんだろ。
「鬼兵隊のことを忘れろとは云わない、でも今を生きろ。
時代は変わっているんだ」
云った奴も斬って捨てた。そいつは路地裏のゴミ捨て場に。
忘れるとか今を生きるとかくだらねえ、何の役にもたちゃしねェ。

だから何だってんだ?
本当のところはよ。




ああ今日も眠れない。

それとも自分は眠りっぱなしなのか?

起こしてくれるのか?


起こしてくれるのか?
悪い夢からこの白昼夢から起こしてくれるのか?
あの男は俺を殺す役目の人間だろ。
追いかけて殺すんだろ?本来は。
なのに殺さない。起こさない。



「近藤」

「近藤」


「・・・んあ?」


「日の出だ。起こせっつたのお前だろ」


「んご・・・・」



「おい、寝んじゃねェよクソ髭野郎」


「ん〜お妙さァ〜ん・・・」


お前が眠るなよ。のんきな面しやがって。
たまにどうして見つけ出すのか俺の所に酒持って押しかけて、
くだらねェ浮世の話なんざしちゃァ眠る。
のうのうと眠るな。俺を起こせ。さもなくば眠らせろ。

「ぐごっ!!!!!!」


「いてェ!!!痛ェよ!!!何だ一体!?何事だ!?」


「・・・おー高杉、何も本気で蹴るこたねェだろ・・・」


「さっさと出てけよ。俺の命を狙いもしねえ奴となんざ
居たくもねェ」


「命のやり取りだけなんざ俺は真っ平だ、っと上着何処に掛けたっけな、
大体お前酒だけはいつも黙って呑むじゃねえか」


「そう睨むな。仕事の話し抜きで呑みたい時もあるんだよ。
隊の奴らとじゃどうしたって仕事の話になっちまわァ」


「その仕事で俺に刀向けもしねェ奴がよく云うな。辞めちまえ」


イラ付きは最高潮。目に染みる朝日が殺意を招く。
まぶたを透かした血の色が真っ赤で真っ赤で。
「高杉ィ、お前また寝られなかったんだろ、目ェ真っ赤だぜ」


「どれ、布団をしいてから帰ってやろう。付き合ってくれた礼だ」


「余計なことすんな。人の部屋勝手にさわんな。消えろ」

「人の部屋っつたってこりゃァこの宿の主人の部屋だろう」


「つまらねェ屁理屈なんざどうでも良いんだよ」


「ほれ、そっちで寝ろ」


「押すな!俺に触るな」


刀はいつの間にか遠くにある、この手元から。
こいつと居るといつもそうだ、気が付くと刀が手を離れている、
普段より少し。



「眠りたいんだろ?無理するな」






布団に埋もらされる。写る朝の日差し。濁りきったもの。黒い服。
隙間を風が吹き抜ける。重く重く重い。沈む。暗きに転ずる。暖かい。
抱えていた膝が柔らかい布にくるまれる。





「おやすみ高杉」



襖をそっとそっと閉めて遠ざかって行く近藤の足音。
とんとん、とん。とんとん、とん・・・・・。




一体何だってんだ?
また一日過ごしてしまった。また一日が来てしまった。
悪夢に白昼夢。近藤の笑い声足音。
後悔なんてできやしない。
何もかもがくだらない。馬鹿馬鹿しい。鬱陶しい。
起きたら俺は起きているんだ。変わらない何も。
だったらやっぱり後悔なんてできやしない。





END


・・・書いていて思ったんですけど沖田→土方(何か気になる)→銀さん
と土方→近藤(何かほおっておけない)→高杉って似ている。

いやむしろ私の土方と高杉は絵でも文でも書き分けが出来てない!!
大ショックです、誰かいいアドバイスください。
だってふたりとも強がり乙女じゃん!!
このSS、高杉と土方代えて近藤さんと銀さん代えても問題ないです。
もう困ったなァ・・・。高杉もう少し出てこないと人柄分からないよ。
妄想ばかりがエベレストを超えるよ。

Y子ぴょん→陸奥話の感想がっつりメルするから待っててね!泣き。
Kるぴょん→人間ドッグでも行け!胃カメラのめ!胃腸科行け!泣き。












2004年10月07日(木) 白の深いの黒の淡いの(沖土+真選組)

「総悟!総悟ォ!」

よく磨かれた隊舎内の廊下をどかどかと荒く歩いているのは
土方が不機嫌な証拠だ。
三角巾に後ろで少し長めの髪をひとつにくくった山崎が
雑巾がけをしながらその土方と眼を合わさない様にしていると、
がしい、と首根っこを掴まれる。
「おい山崎、総悟の奴知らねえか」
土方とてむやみやたらと八つ当たりをし、隊士に暴力を振るうほど
頭の疎かな人間ではない。

しかし、怖いものは、怖い。

そろそろと振り返り、覗き込まれた眼は瞳孔が開いて怒気に満ちている。

「た、隊長ですか?今日は見てないです・・・」
「そうか」
ぱ、と後ろ襟首を離され山崎は寿命が7時間ほど縮まった気になる。
元々緊張感のある引き締まった顔だが、その分それが緩むと
えもいわれぬ愛嬌があるのに・・・と思った矢先に土方の表情が緩む。

「近藤さん!総悟見なかったか!」

庭先で隊士に竹刀で稽古を付けてやっている近藤に呼びかける、
その土方の表情には素直な感情が表に出ている。
「おーうトシ、総悟かァ〜見てねえなあ。何だ巡察か?」
「そうなんだよ、アイツまた雲隠れしやがった」
そういう土方の苦々しい表情も近藤の前では活き活きとしているのだ。
高く澄んだ秋の空が近藤の笑顔の向こうでひたすらに、青い。
「ははは!仕方のねェ奴だ!」
「あんたがそんな風に甘いから、あの野郎好き放題しやがるんだ」

ぱっと見は無愛想な事に変わりは無い土方の表情、山崎はそこに生じる
小さな変化に見入っていた。今度はすねる子供のようだ。
ふ、と自分の頬が緩むのを感じた、すると背後から冷気が身を掠める。

「何ですかい、ガタガタうるせェお人ですねい土方さんは」

人を小ばかにしたやや高めの声、けれどその気配は全く感じさせない。
この人はこの人で全く読めないな・・・山崎は雑巾がけを続けた。
今日は非番で、何と云っても天気がよくて、掃除洗濯布団干し日和なのだ。

「総悟!てめー今日は巡察担当だろうが!」
「アンタは今宿題やろうとしてた子供に”宿題早くやりなさいよ!”って
怒鳴りつけてやる気をそぐ教育ママですかィ」
「てめーなァ!そのなめたアイマスクのっけて巡察行く処だったなんざ
ほざくなよ!!」
「いーじゃねえかトシ。何もそんな急ぐこたねえんだ」
「・・・ちっ」
土方は煙草を取り出して火を点ける。
「はーあ・・・土方さんは全く単純で困りまさァ」
「んだと、どういう意味だ」
「さっさと行きやしょうぜ」
いつの間にかアイマスクを外し(おそらくポケットにいつも仕舞われて
いるのだ)刀を差して腕組みしている。準備万端だと云わんばかりの
仕草の沖田に今真意を問いただしても仕方が無い。


「いーい天気ですねィ、昼寝日和だ」
「まだ寝るのかてめーは・・・」
きらきらと日差しを浴びて輝く河原の芝に沖田の目が奪われている。
「土方さんには趣味が無いから分からないんでしょーよ」
「趣味は惰眠です、よかマシだ」
「趣味という趣味も無くやることは喫煙だけです、なんて公害人間に
云われたかないですぜ」
「てめっ・・・!全国の愛煙家に詫びろ!」
沖田のスカーフを引っつかんで怒鳴ると足元を払われて河原に
沖田諸共転がり落ちた。
「あ・・・いって・・・何なんだ突然てめーは」
土方が身を起こす間もなく、沖田がその眼を手で覆って隠す。
芝が首筋にちくちくと当たっている。
「何だ、総悟・・・」
「何が見えやすか」
土方の言葉を遮って問うた。
「あ?何も見えねーよ」

「いや、ちゃんと見てくだせェ、絶対見えるから」

「・・・・・・」

「見えやしたか」

「淡くぼやーっと黒くって・・・総悟の指の端が中の血で赤い」


ぱっ、と素早く手が離される、飛び込んできた光に土方が眼を眇めた。


「今度は、何が見えやしたかィ」


「見えるも何も真っ白だぜ・・・眼が眩んでやがる」



「黒ってのァ案外淡いもんで、白い色のが深くて深くて、
 言葉を奪うんですぜ。知らなかったでしょう、土方さん」



「知らねーな、これはお前の趣味で発見したことか?」

沖田には特に表情の変化が無い、奇矯な言動も珍しくは無い、
土方はしばしばする眼で煙草に火を点けた、深く吸い込む。





「いや。黒が淡けりゃ案外見える、白が深いと何も見えない。
土方さん、アンタを見てて発見したんでさァ」



丁度吐き出した煙で、沖田の表情は、土方には見えなかった。

「白が深いと、何も見えない・・・まさに今のてめーだな・・・」
思わず口にした土方に、沖田は噴出して答えた。




「白くしてるのは、誰ですかィ」






END


抽象的なんですけど。
土方の表情は暗くっても淡くっても見える。
でも沖田の表情や変化は、たぶん真っ白で深くって何も見えない。
それは沖田がピュア★っ子とか云う意味でなくて、色が無いのは
孤独なことと思いました。

沖田にしてみれば土方は黒く見せてるけど淡いので、見えるわけですよ、
近藤が大好きなことや銀時が気になることや真選組バカなことが。
そこでその土方に「白が深いので見えない」って云われちゃったら、
沖田としてはもう笑うしかない。別に彼自身は自分が白いとか深いとかは
思ってないと思いますが。
沖田には色が無い。執着や情念が見えない、私のそういう思いのSSです。


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