銀の鎧細工通信
目次


2004年09月28日(火) 断崖3(銀土)



自分が半身乗りかかっている体は見た目よりがっしりしている。
熱くなった体にその銀髪の男のぬるい体温は心地よかった。
他人の体が心地よいことなんて滅多とない、これは酔いのせいだ。
嘘だ、酔っていれば尚の事過敏になった神経は他人を受け入れない。
自分が身内と認めたごく一部の人間以外は。

土方は銀時にのしかかったまま半眼でぼんやりとしている。

いつからだ俺はこんなにも理由や言い訳や肩書きがないと立っても
いられなくなったのは。
あの人が、自分の握る剣の重さが、存在理由。
俺を俺として成立させるものは今や組織と副長の肩書きと、
彼の傍に居ること、彼を護る事、剣の重み、血だまり、人殺し、
「多串くん、重いから人の上で寝んなよ」
銀時の不機嫌な声で我にかえった。
「寝てねー・・・」
しんと静まり返った部屋の中で二人の声だけが響く、
外では虫の声がした。
身じろぎもせず土方は銀時の上に乗っている、心臓の鼓動がわずかに
伝わって、自分のそれと重なった。気持ちが悪い。
土方を苛々させる銀時という男の存在の在りようなど訊いた処で
何にもならない、所詮自分には関係のない他人の生き様なのだ。
それが分かっていながらなぜこんなにも目障りなのだろう。

無関係の他人。他人。どう関係すればいいのか何てことも自分は知らない。
「なあ銀髪、斬り合いでもするか」
「はあ!?何をトチ狂ってるんですか多串くん、あんたホントに好きねェ」

銀時が大声を出したので胸が上下し、振動が伝わってきた。
今度はそれが可笑しくって土方はくつくつと喉の奥で笑った。

こんな風に人に触れるのはどれくらいぶりだろう、給料日に隊士が
女を買いに行くのに誘われることもあるが、金を払ってまで知らない女と
体を触れ合わすのなどは億劫で気色が悪い、ので土方は行かない。

近藤さんがばしばしと肩や背中を叩くことはある、あの笑い顔で
「トシはごちゃごちゃ考えすぎなんだ!大丈夫だ!!」と俺に云うんだ。
何が大丈夫なものか、何も大丈夫でなんかない。
総悟とは触れ合うというかド付き合っている、そしてたまに俺が
机に向かって仕事をしているといきなり背中にのしかかって
居眠りしたりする。
そして「土方さんはアレコレ考え過ぎなんでさァ、ハゲのもとですぜ」
と云うんだ。どいつもこいつも単純にできてやがる。

「だァ〜から多串くん寝るなら布団で寝やがれっつうの」
「うるせえ、大人しく枕にでもされてろよてめーなんか」
「何ソレ、多串くん実は寂しがり?!キモッ、瞳孔開いちゃってるのに!」
「何だとォ!?上等だコラァ!」
がばりと跳ね起きて、剣に手を伸ばした、それよりも早く銀時の足が
その剣を部屋の隅へと蹴飛ばした。
「お前ねえ、二言目には斬る斬るって、人の命なんだと思ってんの、
むやみに人殺ししちゃいけませんて小さい頃習わなかったの?」
「習わねーよ。人殺しになんざたまたまなっただけだ」

「ふーん・・・人殺しって自分のこと思ってるんだ」

銀時の声がやや真剣みを帯びたように聞こえたので土方は湯飲みに
酒を注ぎながらその顔を見上げる、死んだ魚のように目は暗いままだった。
酒瓶の横にそっと置かれた彼岸花を手に取り、くるくると回しながら
銀時は土方から目を逸らし

「俺はお前より殺してるよ、いっぱい」
と云った。

湯飲みに口をつけたまま土方は眼だけ上げて、銀時の顔をうかがった。
銀髪が行灯に照らされて橙を帯びている、手には鮮紅の花。
群生をなしてひっそりと人知れず血の沼のように咲くあの花。

「なァ銀髪、お前は何か持ってたか?その頃」
「ダチはねーたくさん居たよ、大体死んじゃったけどな」


「じゃあその場所はてめーを受け入れてくれたのか?」
「受け入れるとか入れねーとかじゃなくて、大事な場所だったねェ」

逆行で表情が良く見えないが銀時は無表情だった、ように土方には見えた。
俯きがちに語ったその場所や人はもう失ったものなのだろう。
もうこの世には無いものなのだろう。
こいつがあの桂と関係のある人物なのは確かだ、
ということは攘夷志士だった。ならば。



自分が今日殺した人間は、こいつの仲間かもしれない。


ざわりと背筋が冷えた。死ぬかと思うほど冷たいものが背中を
駆けて散った。
だけど、それでも、自分は幕府の人間だ。
ああまた理由をつけている。肩書きに自分を挿げ替えている。





本当はただあの人の傍に居続けられれば良いと願っただけだったのに。
それだけだったのに。




「多串くん、これ水に入れてやってよ。どーせ枯れるけど、
それまでは咲いてっから」
顔を上げて土方に向き直った

「・・・多串くん、何泣きそうな顔してんの」

覇気のない表情で自分に手を差し伸べてくる銀時の手のひらから、
どす黒い血がばたばたと滴り落ちている気がした。
土方は進んでそれを頬にあてがい、すり、と目を閉じて手のひらに
頬を滑らせた。

贖罪ではない、それはこの世には存在しない。
土方が死んでも彼が殺した人間への贖いにはならない。


自分が縋り付いて、それのみによって生きている理由、言い訳、
肩書き、組織、仲間、そういった中で
この妙な銀髪男は何も持たず、受け入れてくれるものも無い処から
今まで生きてきたのだ。


この男は対岸に居る、その間には深い深い深い溝があって、
その崖っぷちで男は自分に血濡れの手と花を差し出す。

何かなければ、あの人が居なければ成り立たない自分は、
この銀髪が羨ましいから、目障りなのだろうか。

この男は対岸に居る、その間には深い深い深い溝があって、
その崖っぷちは対岸に自分が居たかもしれない断崖なのだ。


土方は花を受け取った、真っ赤な花を。真っ赤な血濡れの手から。
換わりに酒を注いでやる。銀時はにんまりとしつつ呑む。


土方は、自分がただの一人の人間としてこいつと向かい合えない限り
この苛付きも焦燥も、云いようのない感情すべてがどうにもならないのだと
覚った。


「おい、銀髪」
「何よ」
土方は銀時に覆いかぶさった、口付けて押し倒した。
「やろうぜ」
「別にいーけど、俺挿れられんのはヤだなァ」
「どっちでも構わねェ」
銀時に下から見上げられて、土方はまた云いようのない感情に襲われた。
それを誤魔化すように口付けたら、体を反転されて組み敷かれた。
銀時の髪が首筋にふわふわとかかってくすぐったい。


静かな夜だった。







END


本当は、セックスシーンを書こうと意気込んでいたんですが、
何かもう銀土は物理的なエロとかじゃなくて、精神的エロを求道したい、
とか思って、いえ銀さんはそんなに土方に揺さぶられたりしないと
思うんですけど土方は確実に銀さんに侵食されると、ふと思いました。
何か土方って主体性なくって、自分があまりないように思えました。
まず近藤さんありき過ぎる。真選組ありき過ぎる。
そういう部分は銀さんも目を細めて見るかもしれません。
彼がどういう思いで攘夷戦争に身を投じたかまだ知れませんが。

この二人は侵食し合えばいい。そっと影響し合えばいい。
食いつ食われつすればいい。
断崖越しに。


2004年09月21日(火) 断崖2(銀土)


ひたひたと夜の庭園を歩いて副長室に向かう。
皆寝静まり、尚且つ人の気配が充満する屯所だ。
隊士以外が入る事は滅多に無い空間、銀時はお化け騒動の際に入ったが、
それでも目新しい空間である事は確かだ。
きょろ、と周囲を見回し月明かりに照らされた庭を見る。
くるり、と前方を見返ると月明かりに土方の黒髪が照らされている。

土方は無言でひたひたと歩いている、銀時が植え込みに突っかかることしばし
ながら土方はすいすいと植え込みや石灯篭を避けて歩いていく。
「自分の庭」なんだということを改めて感じさせた。

「多串くーん、暗いんだけど」
無言の土方につい声をかけさせられる息苦しさ、彼の領域。
すると土方は銀時に顔を寄せて「静かにしろ、皆寝てるんだ」と
ぼそりと云った。
その囁きに土方の箱庭に自分は侵入したのだという実感が込み上げ、
銀時の背筋がざわりと泡が立った。

こいつは此処で生きているのだ、此処だけが自分の場所と信じて。



通されて入った部屋はこざっぱりとしていながらも、文机の上には書類が積まれ、
衛門掛けに隊服がきちんとかけられている。
しかれた布団が乱れているのを見る限り、土方が眠れずにごろごろしていたのが
よく分る。布団と少し離れたところに吸殻満載の灰皿が在るのを見ると
土方が本当に転がりまわっていたことが伝わってくる。
「多串くんの部屋、広いね」
「てめーのせまっ苦しい店兼用部屋よりかはマシかもな」
「でもうちはこんなに煙臭くねーよ」
「ハッ、余計なお世話だ」
幾分落とし気味の声に、穏やかな表情。彼の安心感が空気を和らげる。

黒犬、こんなに無防備にねぐらに侵入させて良いのかよ、銀時は思った。

土方を見ていると自分の攻撃性が時折呼び起こされる。
この事実は、この関係性は何なのだろうか、自分が去った場所の爪痕を
彼に感じるのだろうか。それは感傷に過ぎないだろう。自嘲する。
「茶はださね−がコイツはあるぜ」
そう云いながら土方は酒瓶を出してきた、それと湯飲みを二つ。
「サービスいいねえ、どうしちゃったの多串くん」
にやにやと薄ら笑いを浮かべて揶揄してみる、土方はそれにぎらりと赤い目を
瞬間光らせて口角を上げた。その仕草にはいつもの土方の「壁」を
感じさせないのを銀時は感じた。
煽ったのは土方だ。常態ならぬ彼。

酒をふたつの湯飲みに注ぎ、土方は何も云わず口にした。
銀時も習って口にする、対して上物ではないが辛口の味の後に優雅な香りが漂う。
文机の横の行灯に日を入れ、それに照らされた土方は輪郭がぼやけていた。
あわあわと照らされた土方を、酒をすすりながら眺める銀時は行灯の赤く
柔らかな光に照らされて銀髪が暖かな光を放つ。
二人の影が壁に大きく写る。土方は無言で酒を舐めるように呑み、その横顔は
黒と橙のコントラストによく映えた。睫毛の影が淡く土方の顔にかかった。

銀時はぼんやりと眺め、自分が土方に何故構うのかを考えた、
考えながらちびちびと杯を重ね、他愛ない話をとつとつと交わしたりもしたが、
恐らく其れはお互い気にもとめない雑談だった。
酒に血行を良くした土方の唇が赤い、そういえば二度もこいつと口付をしている。
銀時は回らなくなってきた頭で土方の顔に手を伸ばした、黒くしなやかな
髪をすくと土方は銀時のほうを向きなおる。
土方はじっと見詰めた後に銀時に顔を寄せた、静かに口付けた。
目は閉じないまま。


今夜はあからさまに土方が飛び込んできている、銀時の領域に。
銀時を箱庭に侵入させ、その代わり銀時の領域をさらせと暗黙に急き立てる。
静かな夜にぎらぎらと二人が探りあっている。
行灯に照らされた土方の眼が血のように赤く照らされたかと思うと、
銀時は布団に押し倒されていた。土方の髪が鼻先をくすぐる。
早い鼓動と暖かい体が生々しさを伝えて、銀時は眩暈がした。

こいつは何を探り出そうとしている?




NEXT

銀さん視点からの続編です。二人の歩みよりです、ああもうじれったい。
いえ本当はもっとじれったくてもいいんですが。ぶっちゃけ。
単にそこまで書く力量と余裕が無いのです。
銀土の関係性ってのは難しい・・・気になるアイツ同士でしょうか。
銀さんがやたら絡むのも土方ですよね。馬鹿にしてるのは云うまでも無く、
花見の時とか蚊の天人の時とか露骨に絡んでますよね。
そういう無骨な、でも引き寄せられる関係性を書きたいです。

とか云いつつ色々アルコール摂取しているので私自身がぽあっとしてます。





2004年09月15日(水) 断崖(銀土)



畔道に不自然な赤、ひとつふたつと群れをなし、
やがて田畑を埋め尽くす。

暗い森の中に暗い赤、みっつよっつと群れをなし、
やがて森そのものを赤く染める。

河原に灯る赤、いつつむっつと群れをなし、
やがて水面までを赤で侵す。

岩山に突如表れる赤、ななつやっつと群れをなし、
やがて廻る風車も赤くなる。

断崖に引き寄せる赤、ここのつとおと群れをなし、
やがて招かれ手は血塗れ。


仕事の後は気分が悪い。人間を斬り殺した仕事の後は。
土方は苛ついた気分を自室で悶々と抱いている。
畳に横になり、灰皿を引き寄せてごろごろしながら煙草ばかり吸っている。
もともと喧嘩っ早く、命のやりとりをする瞬間としての真剣勝負の緊張感は
何よりも自分を高揚させ、精神が研ぎ澄まされると感じてはいた。
しかしそれは実際に人間を殺すとか自分が殺されるとかではなく、
そういう断崖ぎりぎりのような切迫した剣の交え方が好きなのであって、
決して斬り殺すのも斬られるのも好きではない。
人殺しが好きなわけではない。
血を見ると昂ぶる、そして同時に死ぬかと思うほどに冷える。

剣しか能がなかった。
奉公に出ても揉め事を起こしては実家に戻り、そこでも諍いは絶えず、
家も飛び出し、落ち着いた先はそうした世間の厄介者や疎まれ者、
不器用で変わっていく世の中に適応していけなかった者、
百姓から徒士から、商家の跡取りから、あぶれた者があの人の道場で
ただ剣術をした。喧嘩をした。揉めながらもともに過ごした。
剣を媒介とすることで他人や世の中と対峙できた。
雇われ用心棒、雇われ喧嘩の手伝い、冷たい目で白い目で見られていた
連中どもが剣を手にしたことで居場所を得た。
近藤さんのところで皆が覚えた剣は、威張るためのものでも、
人を脅すものでもなく、自分の立ち位置としての剣だった。

今も隊士たちは仕事の際、なるべく相手を斬り殺すことを避けている。
もしかしたら自分たちが対峙している相手は、
自分がそうあったかも知れない姿だ。
剣と居場所と己の立ち位置を、天人に奪われることに蜂起した攘夷志士、
自分たちが違う道を選んだのは、きっと偶然なのだ。
もしかしたら自分たちも刀と居場所と己の立ち位置を守るために
幕府に牙をむいていたかも知れない。
そして攘夷志士は本来人間と闘っていたのではなかった、
俺たちのような『幕府の犬』が組織されたから志士たちは天人だけでなく、
人間と刃を交える羽目になった。
だからといってそんな感傷は今更無意味なのだ、よく分かっている。


むしゃくしゃした思いを反映するように手荒く煙草をもみ消し、
土方は刀を掴むと屯所を出た。


夜に街中をうろついていると出くわす奴がいる。
今夜はあの不愉快なにやけ面を見てやっても良い、と思った。
ふと見ると道端のあちらこちらに曼珠沙華が咲いている。
闇夜に鈍く赤が映える。
葉もなく突如として地からのびて、先端が赤く散り開く花。
血しぶきのように赤い花弁が開いている。
夕刻の感触が思い起こされた。土方は舌打ちをする。目の裏を赤がちらつく。
忌々しい。
土方は意識的に、出くわしたくなく、しかし今は会ってやってもいいと
思っている男の住処の方へ足を運んだ。

すると住処の前まで来てしまった。
つくづく忌々しい奴だ、会いたくもないときには人の邪魔をし、
会ってやっても良いと思うときに限って姿を見せない。
土方は自分のしていることの馬鹿馬鹿しさにまた舌打ちをして踵を返した。

帰路にも曼珠沙華が点在し、数本ずつ群生しては
血溜まりを思わせた。
今更人殺しに躊躇いはない、しかし後味の良いものではないのは確かだ。


屯所の横まで戻ると、きらりと光るものが視界に入った。
「万事屋・・・」
意外なところで出くわしてしまい、土方は思いがけず声に出してしまった。
屯所の門から折れた角に銀時は突っ立っていたのだ。
「よう、多串くん。コンバンハ」
「ここに何の用だ」
銀時はへにゃりとしていて何の気負いもない、
「ん〜多串くんで遊びたいと思ってな。来ないかと思ってたんだ」
「あ?何だそりゃ」
「ほれその反応。何か云やァ瞳孔開いて反応してくる、お前、単細胞だから」
にやにやと笑みを浮かべている銀時にここで食ってかかったら奴の思い通りだ、
と土方は平静さを努めて装う決心をした。
「夜な夜な理由もなく市中徘徊してるさびしい野郎に云われたかないぜ」
「さびしいのは多串くんだろ。ムサい連中に四六時中囲まれて、
息詰まっては夜のお散歩なんだろーが。疲れない?そーゆーの」


「余計なお世話だ。大体てめーは何なんだ、一体」


土方は自分の云った言葉にハッとした、お前は何なんだ、それが
人間を斬り殺し、返り血の赤が焼き付いて、考えを巡らせては落ち着かない
夜を過ごしている土方が銀時に今夜出くわしても良いと思った理由だった。

「俺?俺は万事屋銀さんよ」
そう云うと銀時は土方に向き直った、見えていなかった左手には、
曼珠沙華が一本握られている。
まただ。土方の目の裏に赤が蘇る。
「手土産持参だぜ、部屋にあげてお茶とパフェくらい振る舞ってくれや」
真っ直ぐな茎を土方に向けて、赤い花弁を眼前に突きつける。

土方にとって銀時は予想外の行動ばかり取り、目的も正体も掴めないまま
変なところで遭遇しては振り回される、得体の知れない男だ。
見てるものも相手にしてるものもわからない、こいつは断崖のどちら側にいる?
この男は一体何なんだ?

釈然としない感情が二重になって、目の前の赤い花と銀の髪の対比の色彩に、
分からないならその意図の分からない狙いに乗ってやっても良い、
と土方は思った。


「ねーよ、ンなモン。裏門はこっちだ、付いてこい」



NEXT

明日以降、週明けまで更新できないので無理矢理書いておきます。
おかげでもーうまとまってないったらありゃしない。
お題は「彼岸花」と「銀土の関係の発展」です。
今日は巾着田というところで100万本の彼岸花畑を見てきましたよ。
赤にやられたあああああ〜〜〜花に狂ったあああああ〜〜。
うあ〜。ということで20日は・・・オンリーの成果を読んでるだろうし・・・
続きの更新は遅いと思いますが、その分練ります。錬成します、銀土を。

もう寝なきゃ・・・朝から仕事なのに・・・ぐへえ。



2004年09月14日(火) ヴィタール(「白日の…」後談沖土)



門前で旋風に晒されていると身が引き締まる。
気を抜けば飛ばされるような錯覚、気を許せば吹き飛ぶような錯覚。
束の間手に入れた日だまりの暖かさを、微塵も残さず吹き飛ばせ。
この身に轟々と刃のように突き刺され。
内臓も血も骨も、いつもの自分のように戻れ。
与えられた束の間のぬくもりなど忘れろ。

門前で虚空を見る、黒い髪が風になぶられ舞い踊る。
迫る薄闇は、自分の時間、逢魔が時。
ぬくもりを全て忘れ去るための時間。


土方は腰に差した刀の位置を確認し、屯所の門から踏み出した。
「副長、見廻りですか」
「ああ、ちょっと行ってくる」
「この大風です、嵐でも来るかもしれない、お気をつけて」
「ああ」
門番役の隊士と言葉を交わして土方は強風と宵闇の中に身を躍り込ませた。

振り払え、生ぬるい感傷など。
殺戮しろ、自分の不甲斐ない感情。
ぎゅっと眉根を寄せて、土方は徐々に闇に染まりゆく街を早足で歩く。

昼間の晴天とは裏腹に、どんよりと重くたれ込めた雲と身を切るような風に
店屋は早々に暖簾を下ろしている。
不穏な天候に天人の舟も空に見あたらない。
風の吹きすさぶ音だけが耳に響くような、人気のない街。
土方は当て所もなくただただ早足で歩き回った、
見るもの全てを斬るような目付きをして歩き回った。

誰にも会わない。魔性のものにでも出くわせばいい、斬り捨ててやる。

大風に煙草の火花が土方の後方に流れて散る。
紫煙はたなびくよりも早く掻き消える。

どんよりと薄暗い、人気のないうらぶれた光景が自分には似合いだ、
土方は無性に思いこんだ。
晴天の日だまりに甘んじた自分を罰するようにひたすら歩き回る。
刹那、背後から一直線に射抜くような気配を感じた。
殺気とは言い難い、ただ土方を否応なく射抜く圧力だった。
瞬時に柄に手をかけ振り返る、

「・・・総悟」

灰色の景色に薄茶色の髪がなびいている、少年のような容姿の男が一人
ぼんやりと浮かび上がるようにたたずんでいる。
黒い黒い曇天を背後に従えて無表情に。

「何ですかィ、化け物にでも会ったみてェな顔して」

「逢魔が時だ、化け物にでも会ったら斬ろうと思ってたんだぜ、丁度」

「失礼なお人でさァ、俺は化け物ですかい」

「似たようなモンだろうが」

風の中で、妙に声は互いに響いて届いた。
沖田はいつもより蒼白な顔色をしてたらたらと土方の方へ歩いてくる。
「ずっと、後をつけていたんでさ」
「何?」
「だから、あんたが屯所出たときから、ずっと、後を」
抑揚のない声と青白い顔色、無表情に淡々と語られる言葉に土方はぞっとした。
合わせた目の深さに吸い込まれるかと思った。
ましてや、尾行されている気配など少しも気がつかなかった。



「こんな大風の日でもねェ、あんたの歩いた後には血の匂いが付いていて、
どこに行こうが俺にはわかるんですよ」



ふわりと笑んだ沖田の表情は幽鬼のようだった。
言葉を呑んだ土方に沖田は続けた、
「土方さん、あんたァ胡散臭いモンにほだされたりしちゃ駄目ですぜ」

「…どういう意味だ」
沖田の無表情さに土方は少し焦った、長年の付き合いになる相棒の一人だ、
家族より繋がりは深い。だがしかし沖田の腹の底に潜むものには、内蔵を
掻き分けても届かない気が土方はしている。
内蔵に手を突っ込み合って腹を探り合うような関係。一体いつから。
無邪気な兄弟のように近藤さんと三人で、そこまで考えてちくりと
胸が痛むのを感じた。そこで考えるのを、やめた。

「初対面の男に、好いように抱かれたりしちゃ駄目ですぜ、って
云ってるんでさァ」

「ッツ・・・・!」
土方のまなじりが引きつった。それを見て沖田がニコリと微笑む。
沖田の笑い方は目だけが笑っていない。


「俺はね、土方さんあんたの其の目の中に、苦い苦い光が燃えてンのを
見るのが好きなんでさァ」


どこか歌うように云った沖田は土方の眼前にまで歩みを進めていた。

「誰にも云いやしやせんよ、今日のことも。あんたの気持ちも」

「何だそりゃ、俺の気持ちってのはよ」

食ってかかった土方に、沖田は一瞬きょとんとし、そしてまた無表情な笑みを
浮かべて云った。


「聞きたくないくせに強がるのはいけねーや、土方さん」


曝かれた内臓、か細いぬくもりが指先から「ふ」と掻き消えた。
苦い光とやらの正体も、こいつには解剖できるのだろうか、土方は想った。
曝きだして、取り出せるものなら、なァ、総悟。
口にはしなかった。

「屯所に戻りやしょうぜ、直雨がくる」
沖田は云いながら土方の心臓部分の隊服をわし掴み、唇の触れそうな近さで
其の目を覗き込んだ。
切り開かれる感覚。いや、もうとうに此奴には切り開かれて曝かれているのだ。
「ああ、戻ろう」

云いながらも土方は沖田をそのままにし、二人は灰色の街並みに
黒い影となって佇んだ。




END


初の沖土です。私の書く土方さんは気が弱い気がします・・・。
もう土方の想いが変質した時点で三人の関係は崩れて、危ういバランスに
あるのではと思います。長いこと。
近藤への決して云えない想いにもの狂う土方を、沖田は愛でていると良い。

「にがい光」と「血の匂いがついていて」というのは田村隆一の『細い線』と
いう詩から触発を頂きました。なんだか沖土な詩です。

「涙をみせたことのないきみの瞳には   
にがい光のようなものがあって
ぼくはすきだ」

「きみが歩く細い線には
雪の上にも血の匂いがついていて
どんなに遠くはなれてしまっても
ぼくにはわかる」
とか。ああ・・・!

タイトルはお正月公開の、最愛の塚本晋也監督作品、
且つ最愛のCoccoがエンディングテーマ曲、
そして『ACRI』以降のファンである浅野忠信主演の映画のタイトルです。
人体解剖の映画だそうです。楽しみすぎてタイトルに。へへっ・・・。




2004年09月08日(水) 白日の下の透明2(坂土)

畳に擦れることと隊服が汚れること、両方を気遣った坂本は
土方の上着を脱がせベストとシャツはすべてはだけさせた。
大小の傷跡の残る、それでも白い肌を滑るように労るように
大きな手で愛撫する。
口吻たり舐めたりするのに邪魔なグラサンを取った坂本の目は
真っ直ぐで遠くにある輝かしい物でも見ているようで、土方はまた
既視感を覚えて胸が苦しくなった。見えないようにと自分から口吻をした。
それは小さな嬌声を押し殺すためでもあった。

性急にでもなく、焦らす風でもなく、土方の呼吸に合わせて坂本は
愛撫や口吻をする。その優しさに土方は惑乱する。
丁寧な手付きで土方のズボンを下着ごと脱がしそっと土方の熱に指を絡ませる。
柔らかに土方の性感を高めてゆき、溜息のような息がこぼれる。
声を殺して眉を顰めて何かを必死に耐える土方が哀れで、
坂本は頭を撫でたり軽い口吻を落としたり、そっと微笑んだ。
自分の体の下で震えるこの男を可愛いと思った。
「達っていいぜよ、楽になっていいきに」
耳元で呟くと、外套の襟を掴まれて引き寄せられた。
土方が顔を見られないようにしたままで「挿れてくれ、あんたの」
とこれまた震える声で呟いた。

「おんしゃ、難儀じゃの。何ばそないに抱えて耐えておるんじゃ」
と土方の頭を撫でながら身を起こし、くしゃりと笑った。

坂本が内ポケットからなにやら軟膏を取り出し、「傷薬じゃ、安心するろー」
と云いながら土方の体を慣らしてほぐす、緩やかに緩やかに。
慣れない違和感に必死で土方は耐えた、手の甲を噛みしめながら
自分に覆い被さる坂本を細めた目で見つめる。
嫌悪感はなかった、白日の下でこのまま蒸発する水溜まりにでもなりたい、
そんな風に思った時に、

「泣いちょる。泣かんでいいんじゃ」

と労るような声がかけられて、
土方はもう自分が消え去ってしまえばいいと強く思った。
「もう・・・い、い・・・平気だ、から・・・」
恥もプライドもなく強請ってばかりだ、初対面の男に。土方は自嘲した。
「力抜いてるろー」
「・・!った、あっく・・・う・・・!」
いくら脱力しきっていても本来の機能を逸脱した行為の衝撃は大きかった、
質量と熱さにまた目眩がする。
「ふ・・・・くう・・・んっ・・・」
はじめは土方のなかで動かさず、呼吸が落ち着くのを待っていた坂本が
律動を始めると土方は必死で声を殺した。
荒い呼吸だけが部屋にわずかに響き、なだめるように自分の体の奥を突く
坂本と視線を絡ませていた。
ずるりずるりと内臓を出し入れされるような感覚と、内臓の奥のうずきが
いたたまれなく、土方は坂本の腕にすがった。
土方の腕が絡まった方の手で自分の上体を支え、坂本は器用に
もう片方の手で頭を撫でてやる。

「透明な男じゃのー、おんしゃ」
坂本がそう云い、土方の熱の中心への刺激を再開し、律動が速まった。
放たれた言葉の意味を考えるよりも前に土方は声もなく達した。
白光に、目の裏が満ちた。



土方が呆然として、胸を上下させている間に坂本はしゅるりと取った
スカーフで体を拭いて、はだけた服を着せてやる。
土方も意識はあるものの為すがままだ。自分はどうかしていると思っていた。

「土方サンよ、自分をそげに追いつめちょるんは毒にしかならんきに」

またしても考えていることを読んだようにかけられた言葉に、ぐるりと
首を巡らして坂本をじっと見た。
この初対面の旧攘夷志士に何故こんなにも自分は良いように強請り、甘え、
わかった風な口をきかれているのか。
しかもそれが不快ではないのは一体どうしたことか。
あの人の代わりにしたわけではないのだ、似通った部分があっても、
あの人はこんなに敏くない。自分の押し殺している思いになど気付かない。

「ああ、また眉間に皺ば寄せちょる。おんしゃ泣き虫じゃのう」
「泣いてなんかいねェだろうが」
「涙が出ちょらんだけじゃ、何ば堪えて我慢して泣いちょる。難儀じゃのー」
「そんなことねェ・・・」
「・・・よしよし」

すっかり身を清められ、上着以外は服も整えられてしまった。
あの人にすらこんなに気を許したことはない。
いやあの人だからこそかもしれない。他の奴は無論のことだ。
襖の外からの光がかげってきている、夕暮れか。
白日の時間は過ぎた。
土方は身を起こし、上着に袖を通した。
「引き留めて・・・すまなかった。痴漢騒ぎとかであんたは
騒がれて良い立場の人間じゃない。気をつけろ」
「アッハッハ!おんし、コトの後で「お前」呼ばわりが「あんた」に
なったぜよ!わかりやすい奴っちゃのー」
土方の頬から耳にかけて朱が走った。

自分が「あんた」と呼ぶのはあの人だけだ。

「日も暮れかけてきたぜよ、早よ戻らんと陸奥に半殺しじゃ〜」
「門まで案内する」
鈍痛の残る腰を隠しつつ土方は事も無げに立ち上がり、襖を開けた。
中庭を挟んで向かいの部屋で刀を抱いた山崎がうつらうつらと舟をこいでいる。
心配をかけた、見張っててくれていたのだろう。
情けなく不甲斐ない自分を叱咤した。俺は真選組の副長、土方だ。

門の見える辺りまで来たところで、背後から坂本が肩をぽんと叩いた。
「ここで大丈夫じゃ」
振り向くとニカァと笑って「おんしゃ腰労って寝ちょった方がいいきに」
と云った。
好き放題した弱みのせいで、ここで食ってかかることができない。
土方は唸って俯いた。
またぽんと肩を叩かれる。
「おんし、透明な男じゃ、張り裂けて割れんようにせんとダメじゃ」
「透明どころか・・・血で真っ赤だよ俺は」
「でもダメじゃ、このままじゃいかんぜよ」
「・・・どうしようもねェのさ」
自嘲に満ちた嫌な、笑い方をした。それでいい。それでいいんだ。
俯くと、夕暮れの影は薄い。
白日の下でこそ影は濃く暗く暗く、なるのだ。
自分はあの人の分までその影になる。
あの人が白ければ、その分自身が黒い影を負う。幾らでも。
「・・・じゃあな」
顔を上げて坂本に告げた。
坂本はくしゃりと笑って、ひょいひょいと下駄履きにしては軽い足取りで
門を出て行った。


ごぅ、と旋風がとぐろを巻いた。風のうねり。
土方の黒い髪が舞う。まなじりを吊り上げて虚空を見据えた。



澄んだ透明だからこそ、深い深い黒い暗い影を写せるのだと、
土方には、理解できない。






END



長くなりました。坂土・・・シリアスエロ・・・。
土方さんがヘタレました・・・いいえでも坂本のコロコロした笑いや
軽やかさに彼はよろめかされますのです・・・よろめいているのは私です。
銀さんほど茶化したりしなそうだから、坂本は。
繰り返し云いますけどお父ちゃん系だし。
つーわけで坂土/近←土でした。
何か・・・こんな好き放題やってて、読んでくれてる人本当にいるのかな・・・。
畏れ多くも「花に嵐 月に叢雲 君に涙」 
http://homepage3.nifty.com/hikage_m/hijikata/hijikata-1.html
のもり様に献上させていただきました!


BGMは天野月子。



2004年09月07日(火) 白日の下の透明(坂本×土方)

「アッハッハ!勘弁してくれろー早よう行かんとわしの
命が危ないぜよ〜」
「そんなわけいくかァああ!あんた今月何度目よ?!
往来で若い女の尻触ってしょっぴかれるの!こっちが勘弁してほしいよ!」
「アッハッハ!あげな尻がわしを誘うきに仕方なかろ〜」
「仕方ないで済んだら俺ら必要ないんだよ!ってか誰も誘ってねえよ!」

真選組の屯所の前で山崎が長身の男を引きずりながら押し問答をしている。
さほど背の大きくない(とは云っても標準圏内だが)が引きずるには
大きすぎる男だ。グラサンに黒い外套、ぽあぽあした硬質な癖っ毛が
特徴的な、土佐弁の男。

砂埃が舞いながら山崎が大声を上げている。
遠目からそれを見た土方はまた奴が光速目指したミントン素振りを
しでかしているのだと思い、怒声とともに突っ走って来て跳び蹴りを
喰らわした。山崎が吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ山崎ごとその長身の男、坂本も吹っ飛んだ。
「あれ?」
3人が同時に口にした。




「すまなかった、山崎。お前ミントンしてこい、俺が許す。」
瞳孔が開ききったきつい眼差しで謝られても威圧感しか醸さない、
しかし土方がミントンを許すとは異例な事態だ。山崎は思った。
「でも痴漢の常習犯をわざわざ副長が取り調べするなんて・・・・、
そもそもこういう軽犯罪は同心に任せても・・・」
「いいんだ。こいつは同心の奴らの手に余る。いいから行け」
手に余る、その言葉に即座に判断をして山崎は場を去った。
あの男はおそらく旧攘夷志士だ、しかも大物の。
人払いをした部屋に二人を通して、自分は中庭に面してその部屋が
視界に入る部屋から様子をうかがう。刀を身に預けて。


「お前、坂本辰馬だな。天人相手に商売やって攘夷志士どもの一部からは
反感食ってるそうじゃねェか」
「おんしゃ副長ば呼ばれちょったな、真選組の土方か?」
座布団を敷いて、土方は構えつつ胡座をかいている。
坂本は長い足を立て膝してくつろいだ風だ。
「ああ、俺が土方だ。でだ、お前は何でそんな身分の癖に痴漢で
しょっぴかれてるんだ。囮か、目立っておいて何か計画でもあるのか」
「アッハッハ!こりゃ随分真面目な男じゃの、何もないぜよ。
やっぱり地球の女しかうけつけんきに。商いに宙ば出ちょったら
終わりじゃけー!」
「・・・・・・・・」

この豪快な笑い方。死線をくぐって尚血に汚れてないガキ大将の笑い方だ。
人を惹き付けて大勢にかこまれる日だまりのような、あの人のような。
土方は忌々しく思い眉をひそめた。背丈や年も似通っている。
苦手だこの男・・・始末に困る。そうは思っても近藤や沖田に取り調べを
交代する理由も面目もない。

「おお、大変ぜよ。そんなに眉間に皺ば寄せたらきれーな面が
台無しじゃ」
思案にくれた土方の顔に影がかかる、目を上げると、ぬうっと坂本が
土方の方に上体を寄せている。
「なっ!」
しまったと思い体の脇に置いた刀に手を出すよりも早く坂本の大きな、
ごつい指が土方の眉にかかる前髪をさらりと掬った。
同時に刀にかけた手の上に厚い手のひらがしっかりと重ねられる。
「抜かんでいい、こげな物騒なモンわしゃ地球じゃもう扱いたくないきに」
低く優しく落とし気味の声で諭されて、大きな手で髪をすかれて、
温かい手のひらに手を包まれる。
くらり。土方の眉根がまたきつく寄せられる。切なげに。
目を閉じれば胸が締め付けられる、錯覚だ。しかし日だまりの暖かさに
張りつめた心が取り繕えない。くらりと目が眩むような、白日。

「よしよし、おんしゃ重か重か荷物ば長いこと抱えとるんじゃのー」
気がつけば土方は坂本にすっぽりと抱きかかえられている、背中に回された
手の温かさに苦しくなる。自分は何をしているんだ。

「吐きださんと、おんしゃ張り裂けてしまうぜよ」

吐き出すわけにはいかない思い、憧憬に敬愛に思慕に・・・。
土方の剣呑な目付きに哀しみが宿る、坂本は背を優しく撫でている。
かすかに震える手で坂本の広い背中に手を回す、瞼の裏によぎるのは
昔、河原での喧嘩に足を挫いた自分をおぶった彼の広い背中。
坂本の肩におでこを強く当てながら土方は俯いた、今だけ、
土方は吹っ切るように強くすがりついた。かき抱く日だまり。今だけだと。

坂本が艶やかな黒髪の後頭部を押さえて土方の顎を持ち上げる、
素直に上向いた唇の隙間に唇をあわせ、舌を滑り込ませる。
それぞれが敷いていた座布団の一枚を枕に、もう一枚を土方の腰の下に動かす。




NEXT



長くなりそうだから続き物にします。
あるサイト様に触発されて坂土。もちろん近←土ベースで。
似たタイプですよ、この大らかさ優しさ包容力。お父ちゃん系!
最後に萌えない単語を発しましたが私は萌えています。
銀魂初エロが坂土!!!!!そんなバカな!
いえ銀土は本命すぎて馴れ初めから徐々にしか書けないんです。
銀さんに心身開くまで相当時間かかるだろうし土方さん・・・。

ということで次回はセックスしています。
NARUTO漫画描いてた時の何もかも捨て去ったエロのソウルよ降りて来〜い。



2004年09月03日(金) 箱庭(銀土)

「この剣の届く範囲は俺の国だ」
久々に握った真剣が傲慢な台詞を吐かせた。
自分の大事な世界を構成する人間に、物に、勝手に
触れるやつは看過できない。

自分の大事な箱庭を、荒らすやつは斬り捨てる。
我が儘な本性。

自分の守りたいもののためなら何でもする、
ヅラのことをとやかく云えたモンじゃねえ。
我が儘なガキだこれじゃ。
理想の箱庭を守ろうとしたつもりで守れやしなかったこと、
忘れてはいないのにも関わらずこの有様。
「まだまだ俺も青いね〜・・・」


神楽と新八は万事屋に着いて、帰り道で買ってきた
カップ麺とコンビニ寿司をたいらげるとすぐさま眠ってしまった。
当たり前だろう。
あれだけ身の危険に晒されて尚この二人は自分から離れていかなかった。
死にもしなかった。今回は、箱庭を守れた。


独善的な自己満足を自覚しながら、銀時はそっと外に出た。
熱を冷まさないと眠れそうもなかった、自分は二人の前でいつもの顔を
していられただろうか。エゴ剥き出しの夜叉の顔をしなかったろうか。
月夜が明るい、銀時はまた「青い青い・・・」とため息をつきながら
ぷらぷらと静まりかえった夜道を歩く。
銀髪がきらきらと残光を放つ。


ふと前を見ると夜中の闇に尚暗い、黒髪と黒い着流しをまとった
人影が紫煙をくゆらせながら一人で歩いている。

あ、犬が、居る。銀時はとっさに思った。
箱庭の忠実な番犬。
居場所と主を何より愛する番犬。
ちり、と真剣を握っていた手がうずいた。

「お〜おぐっしく〜〜ん」
背後から気を抜いた声をかけると人影は振り向く、月光に照らされた
目が一瞬ちろりと赤く発光する。夜行性の生き物の目だ。

「おめェか。何してんだこんな時間に」
「内緒〜多串くん今勤務時間じゃないでしょ?だから答える義務は
ありませ〜ん」
「まぁな。関係ねえことだな」
珍しく素っ気ない反応に銀時はおや、と思った。
「どしたの、多串くん。悪いモンでも食ったの?」
顔を覗き込んで、からかう調子を緩めず畳みかける。
せめていつものように怒鳴りあえたら、
いつもの自分を取り戻せるかもしれない。

「・・・てめェ、瞳孔開いてんぞ」

ひやりとしたものが背筋を通り抜けて地面まで染み渡った。
見透かされているのか?犬は鼻がきく。

「”春雨”っつう天人の海賊船、沈めたのてめェだろ」
「そんな美味そうな名前の船しらねーよ。むしろサラダで食いてえな」
「・・・ふん」
土方はため息とともに煙を吐き出す。
夜空に広がって消えていく、雲散霧消。銀時は熱が治まらないのを感じる。
ざわざわ、ざわ。体の奥で何かがさざめく。

「幕府の天人官僚とシンジケートとの癒着が明るみに出た、
だからって俺たちには関係ねェ。明日っからの仕事が増えるだけだろうよ」
「へえ・・・多串くんたち給料安そうだしなあ、良かったんじゃねーの」
「給料なんざどうでもいいこった」
銀時を見据えてにやりと笑んだ、その土方の笑みは壮絶なものを孕んでいた。
自らの箱庭を見せびらかす機会を得た、自信にあふれた笑み。
ざわざわしていたものが一気に脳天まで駆け上った。


「いいよなぁ。てめーの大事なモン見せびらかせる奴は。
箱庭守ってることに臆面もない奴は。無くしたことないんだろ?」
銀時の放つゆらりとした不穏な気配に、土方がやや構えを見せる。
土方がくわえている煙草を指先ですっと取ると銀時はため息と一緒に
吸い込んだ煙を空に放った。熱は逃げない。
煙草を投げ捨て、土方の胸ぐらをつかんで噛み付くように口吻た。
咄嗟に抵抗する土方の両腕をがっちり掴んで動きを封じる。
顎の角度を変えては、貪るように土方の口腔を味わう。
「っふ・・・・んむ・・・ふ」
荒々しい口吻に土方の呼吸が乱れる。
間近で見る土方の目は月光に反射して赤い、
けれど近すぎて焦点を結ばないので赤色が揺らめくだけだ。
土方は銀時の肩越しに見える煌々とした月の逆光で、
きらきら光る銀髪が視界で揺らめくのを見た。
「・・はっ・・・く・・んん」
負けじと舌を絡めだした土方の小さな喘ぎがこぼれる。
「てめ・・・え、だって大事なモン抱えて、ることに臆面も無えじゃねえか・・
・・んっく、はあっ・・人で、もルールでも・・・ん・・同じこった・・」
口吻の合間に切れ切れに土方が云った。
銀時は驚いてそっと身を離した。

「ガラス箱に閉じこめて見下ろすだけの箱庭じゃなくて、てめェのは
開け放って一緒に連れ歩いてる箱庭じゃねえか」
濡れて光る唇で土方は続けた。
「それとも囲い込んで眺めてるだけで満足なのか?」
「違う。野放しでいいんだよ、好きなことしてんのが一番いい」
ぽかりと口を開けて素直に答える銀時に土方はまた口角をあげた。
「間抜け面だな、銀髪」

真剣の重さと熱さが手のひらから離れていった。するするとふわふわと。

犬は鼻がきく。銀時の消えない殺気に反応したのか、剣と血の鉄臭さか。
この黒犬が護っている箱庭も理想郷じゃない、
それでもこの犬は構わないのだ。
所有したい訳じゃなく、そこに無事にあればいい。
大事な人が笑っていればいい。
後は一人一人が引き受けるだろう。

「間抜けだな〜よりにもよって多串くんにいさめられちゃったよ・・・
ショックだな〜もうショックすぎて失神しそうだ」
「勝手に失神してろ。そんで二度と目覚めるな。
俺は朝っぱらからガマの警護なんだよ、余計な時間使わせやがって」
きびすを返して土方が背を向ける。


「あ、多串く〜ん、口吻の時には舌に噛み付かない方がいいよ〜
危ないからね〜それとも君何?やっぱ獣かなんか?」
「ってめ!!」
振り返りざまの土方の回し蹴りをかわして銀時はひょいひょいと後方へ跳んだ。
土方は夜目にもわかるくらい真っ赤になっている。
何の因果か、野郎と二度も口吻するとは・・・二人はその時同じことを思った。

土方が舌打ちとともに再び背を向けて歩き出した。煙草に火をつける。
くゆらす煙が漂ってくる。
「じゃーまたね、多串くん」
「だから俺は多串じゃねえって云ってんだろ!」
背を向けて歩きながら土方が怒鳴った。

背負いきれないから大事に暖めた。
背負ったものがなくなったから箱庭はなくなった。
また大事な世界が築かれる。
月夜に照らされる小道。
一人、でないことの不幸と幸せ。



END


へたれ銀さん・・・!!誰これ!?
いえ3巻でですね、白夜叉で所有欲丸出しで「俺のモノ」発言とかしてるし
瞳孔も開いちゃって真剣とか持ってるから、後で反動が来たりしないかな、
と思って。後悔したり持て余したりしないかなと思って。
そういう反動は、やっぱり自分の”国”に手出しされたら「ぶった斬る!!」
ってなる土方と相通じるかしら、と思って。
あと銀土っぽいのを書きたかったんです、エロリハビリ。
でも土銀みたいかもしれない・・・あれっ!?

達観してる銀さんが好きだけど、まだ青かったり人間くさい銀さんも好きです。
祝★3巻!15訓と17訓収録にもう大変です。
表紙の神楽ちゃんがかわいいよー!!


銀鉄火 |MAILHomePage