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JIROの独断的日記
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2009年03月07日(土) 安永さん夫妻は、今までにも、全国の重度障害者施設などで演奏しているのですが、感動的なエピソード。

◆同じ話題があまりにも多い、と思われるでしょうが、書かずにいられません。


ここ一ヶ月、安永さん、安永さんと何度も同じような記事を書いていることは自覚しています。

今日は、先日安永徹・市野あゆみ夫妻のCD、「ベスト・ライヴ・コンサート」を紹介しようと思ったのです。

これは今まで、安永徹さんと夫人の市野あゆみさんが出したCDの「ベスト・アルバム」なので、

「デュオ・コンサート」と曲目が一部重複しています。

実は、まだ新しいCDを聞いていないのですが、柳田邦男さん(ジャーナリスト。クラシックに造詣が深い)

のライナーノーツを読んだ段階で感動してしまいました。

それを是非、ご紹介したい、と思いました(CDの内容については、また別に書きます)。


◆安永さん夫妻が、重度障害者施設コンサートなどで演奏したときの、感動的なエピソード。

安永徹さん夫妻は今まで、ベルリン・フィル、コンマスの激務の合間を縫って一時帰国して日本でリサイタルを開いていました。

それは知っていましたが、普通のリサイタルだけではないのです。

夫妻は、全国の重度障害者施設、病院、少年院に収容されている少年を招いたコンサートなどでも演奏します。


「ベスト・ライヴ・コンサート」のライナーノーツに柳田さん書いているエピソード。

1999年安永夫妻は、函館の重度心身障害児施設の講堂で演奏しました。

聴衆は約80名の重い障害を持った子どもです。半数の子供は車椅子に座っていることすら耐えられないので、

マットに寝そべり、半数の子供は車椅子で聴きました。

安永徹と市野あゆみさんが中心となり、20台半ばの若手演奏家(ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)も加わって、

子どもたちに音楽を届けよう、というコンサートでした。



コンサートが始める前、子ども達は身体を動かしたり大きな声を出したりして落ちつきがありません。

身体の一部が不随意運動を起こしてしまったり、叫び声をあげたりするのは重度心身障害児の場合、避けられないことです。

障害児の親や施設の職員たちは、知的発達の遅れた子どもたちはクラシック音楽の室内楽などというものを楽しめるだろうか。

演奏を聴くことに耐えられず、騒ぐだけで終わってしまうのではないか、という危惧を抱いていました。



 これに対して、安永さんや市野さんは違う考えを持っていました。

ベルリン・ザルツブルクであれ、東京・大阪・地方都市であれ、音楽ホールでのコンサートでは、

全力を尽くして最善の演奏をして音楽の真髄を聴衆に届けようとする。

その音楽への姿勢を、施設訪問のコンサートであっても崩さないようにしよう。

音楽は論理的な思考を求める言葉によるコミュニケーションとは違う。

音楽とは演奏家の魂(さらにその源泉としての作曲家の魂)と聴く者の魂の共振・共鳴という全人類的なコミュニケーションなのだから、

知的発達に関係なく届けられるものがあるはずだ。

そういう音楽観と演奏思想を持つ二人は、施設での演奏であっても、水準を落とすような演奏は絶対にしないのです。

一級ホールでのコンサートと違う点と言えば、ソナタは一つの楽章に絞って、

全体時間を40分程度にすることと、普段着のスタイルで演奏することぐらいです。

曲目はドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」第1楽章から。シューマンのピアノとヴィオラのための小品「おとぎの絵本」、

弦楽四重奏曲第1番イ短調(第3楽章)へとすすみ、同じシューマンのピアノ五重奏曲変ホ長調(終楽章)で最高潮となりました。

これは、普通のコンサートと何ら代わりの無い、純然たるクラシック。聴衆が障害者だからといって、敢えて軽い音楽を選んだりしない。

このあたりが、如何にも安永さん、市野さんです。


柳田さん(このコンサートを手伝うため、「裏方」として同行していました)が子ども達の様子を見ると、

曲が進むにつれて散漫になるどころか、目がやさしそうにうっとりとなる子、リズムに乗って身体を心地よさそうにゆする子、

みんなが演奏に集中しています。 ピアノ五重奏曲の終楽章が情熱的なリズムをもって進行していくと、

もう子どもたちは完全にその曲の世界に魅せられ取り込まれた表情になっていました。

柳田さんの脳裏に

ああ、ここに音楽がある。

という独り言が浮かびました。



後日、養護学校の施設の音楽担当の先生から、コンサートの手伝いをしていた、柳田さんに手紙が届きました。

そこには、こう書かれていました。
誰に強制されたわけでもなく、真剣な表情で無心に聴き入っている姿。演奏家の渾身の演奏を身体全体で受けとめ、その世界に入っている・・・というか、

虹の橋のような、幅の広い、きれいで柔らかいものが生徒たちにたなびいて、生徒がその上に気持ち良く座って一緒に揺れ動いているような気がしました。

とても不思議な光景、生徒たちの呼吸がとても深くなり、表情も優しく穏やかで、でもとても真剣でした。

演奏が終わるころには、どの子も満足の表情になっていて、それを見ている私の方が胸が苦しくなり、子どもたちに対して畏敬の念すら覚えました

柳田邦男さんは、その風景が忘れらないそうです。そうだろう、と思います。



また、少年院に収容されている少年を、安永さんたちの「普通の」コンサートに(全員ではありませんが)招待したことがあります。

少年院に収容されるぐらいですから、過去にあやまちをおかしている子ども達ですが、彼らが後日送ってきた手紙は、

どう考えても心の底からの本心だと思います。

A君。
僕は、ピアノ、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、などの楽器や演奏を見たのは初めてでした。

演奏を聴いていると、気分もとても落ちつき、少年院生活も忘れ、気付けば目を奪われるぐらいのものがあって、

本当に楽しく過ごさせて頂きました。

僕たちは、周りの人から見れば非行少年という目でしか見られないと思います。でも、今回、そう言うことを気にせず、

温かく迎えてくれたことが、本当に嬉しく思います。これを励みに社会に帰ってからも、必ず期待にこたえられるように努力していきます。

B君。
僕は今までこういう演奏を間近で聴いたことがなく、今も感動しています。そうした美しい演奏は僕の更正の支えとなるものでした。

僕は今まで数々のあやまちを犯してきましたが、今回は有意義な時間を過ごさせて頂き、自分が生まれ変わったような気がします。

柳田さんは、
こうした感想を裏返して考えると、彼らが如何に幼い頃から「美しいもの」に触れる機会に恵まれなかったか、

如何に、温かい人の愛に包まれる経験もしていなかったか、という悲惨な家庭環境に思いが至る。

そんな生い立ちの少年たちの心にも、音楽というものは美しいものへの素直な感動と大事な「気づき」を与えることができるのだ。

と書いておられます。正に同感です。


◆色々考えました。

冒頭に書きましたが、安永さんの話がここ一ヶ月、異常なほど多いと思われるでしょう。それは分かっています。

どうして、こうなったか。

最初は、単に、ベルリン・フィルから日本人のコンマス、安永さんがいなくなる、ということに対するショックでしたが、

それがきっかけとなって安永徹さんのベルリン・フィルでの映像、ソロ(又は夫人とのデュオ)を聞いたり、

対談集をやインタビューを読んだりしていると、感動の連続なのです。

これは安永さんを盲目的に崇拝するというような(そんなことをされたら、安永さんが迷惑でしょう)次元ではではありません。

一人の音楽家の人生における重大な決定と、それに対する私の思いを通して、例えば「音楽とは何か」を考えました。


以下に引用する指揮者の故・カール・ベーム氏が、晩年、音楽ジャーナリスト真鍋圭子氏のインタビュー(「音楽の友1975年2月号に収録)

で語った言葉は、この日記・ブログで過去何度も載せましたが、今一度書きます。

人々にずっと長い時間影響を及ぼす何かを与えるということ、これが芸術の使命だと私は思います。

人間の存在をより美しく、明るく照らし出すことが芸術家の使命です。

この目的を少しでも果たしたと感じることができるなら、80年の生涯を振り返った時、大変満足に思います。

当時中学三年生だった私は非常に感動を受けました。子どもの頃の感動は、忘れません。

何しろそれから34年経った今でも覚えているぐらいですから。

安永さんの演奏を聴き、安永さん自身の言葉を読み、安永さんのコンサートにまつわる柳田さんのエピソードを読むと、

この、カール・ベームの言葉は、やはり核心を突いているように思えるのです。

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