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JIROの独断的日記
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2003年05月05日(月) 「人間の存在を少しでも明るく照らし出すことが、芸術家に与えられた使命だと信じています。」(カール・ベーム)

 カール・ベームは、とっくの昔に故人となった、オーストリアの指揮者である。1975年3月に手兵であるウィーンフィルハーモニー管弦楽団と来日した。それに先立ち、クラシック音楽雑誌、「音楽の友」がベームにインタヴューをした。その記事の中に載っていたベームの言葉である。当時中学生の私には、ピンとこなかった。

 雑誌を読んで暫くして、いよいよ、ベームとウィーンフィルが来日した。最初の東京のコンサートで、あまりにも有名なベートーベンの交響曲第5番「運命」ハ短調を演奏した。中学生の私には高額のチケットはとても買えず(大人でも、なかなか入手できなかっただろう。ものすごい人気だったからだ)、自宅でNHK・FMがライブで放送するのを夢中になって聴いた。

 「運命」のフィナーレ(終楽章)は激情の嵐のような音楽である。聴いていて、あまりに壮大な音の響きの素晴らしさに息を呑んだ。心臓をぎゅっとわしづかみにされたように胸が苦しかった。正体がわからぬ、熱い思いで胸がいっぱいになった。最後のC(ド)音を全オーケストラの楽器がすさまじいフォルティッシモで鳴らし終えたときに、涙があふれた。

 音楽を聴いて泣いたのはそのときが初めてである。

 その夜は興奮で眠れなかった。カールベームが云った言葉の真意が分かるようになったのは、暫く経ってからである。

 「人間はこの世のものとは思われないほど素晴らしい音楽を書くことができる、人を泣かせるほど素晴らしい演奏をする事ができる、素晴らしいものだ。」一度、それを知った人間は、心から人類を憎む事ができなくなる。音楽なり、絵画なり、文学なり、優れた芸術にはそういう力がある。ということを云いたかったのだと分かった。

 今のように暗い時代こそ、芸術家の存在価値を発揮して欲しい。人間は感動するものがあれば、生きていける。


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