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JIROの独断的日記
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2002年09月15日(日) 同時通訳に関わる思い出

 先日、9月11日にブッシュ大統領が演説をしたとき、テレビでは同時通訳が活躍していた。このようなことは現在はごくありふれたことになっている。
 初めて同時通訳という技術、また同時通訳者というものの存在を日本人が知ったのはアポロ11号の月面着陸のときだった。鮮明に記憶している。打ち上げ準備の様子を含めて何日にも亘って、NHKで特別番組を放送していた。

 初めのうちは今と同じように通訳者は画面に映る事は無く、訳した日本語の音声だけが流れていた。すると、NHKに電話が殺到した。「あの、英語を即座に日本語にする機械は何というのか教えてくれ。うちの会社でも是非使いたいのだ」。NHKの担当者は答えた。「あれは機械ではありません。通訳者が英語を聞きながら同時に日本語に訳しているのです。」 しかし、多くの人は信じなかった。「馬鹿をいえ。英語を聞きながら通訳するなんていうことが出来るわけがないだろう。本当に人間が訳しているというのなら、画面に映してみろ。」ここまで言われて、NHKも黙ってはいなかった。「分かりました。今夜の放送からご覧にいれましょう。」

 この日から、スタジオの一角に通訳用のブースが作られた。当時通訳を担当していた、日本の同時通訳者の草分けである、西山千、國弘正雄の両氏が通訳をするたびに画面一杯に映し出された。全ての日本人が驚嘆した。これほど凄い技術があるのか。こんな事が出来る人がいるのか・・・。この感銘はアポロ11号の月面着陸と一体となって、深く日本人の脳裏に刻まれた。日本人は熱しやすい。翌年、日本人がなりたい職業というアンケートで、医者、弁護士を抜いて、「同時通訳者」が1位になった。無論、並みの努力で身につく技術ではないのだが・・。

 この当時の日本人は、しかし、ただ熱しやすいだけではなかった。同時通訳者の西山千氏が後に、素晴らしいエピソードを語っていた。アポロ11号騒ぎも一段落した頃、西山氏が外出の折、バスに乗った。すると反対側の座席に座っていた、見知らぬ老婦人が自分の事を妙に真剣な顔で見つめていた。西山氏は服にシミでもついているのかと落ち着かない気分になった。暫くして、やおらその婦人が立ち上がり、西山氏の前に来て深々と頭を下げて、云った。
 「あの、アポロで通訳をした方でしょうか?」
 「はい、NHKでやりましたが・・・」
 「ありがとうございました。私が生きている間に人間が月に行くなどとは夢にも思っていませんでした。でも、貴方が通訳してくださったおかげで、全ての様子が良く分かりました。何とお礼をいって良いか分からないほどです。本当にありがとうございました」

 西山氏は感激した。暑いスタジオで汗まみれになって毎日何時間も通訳してへとへとになった苦労を一瞬にして忘れるほどだった。

 昔はこういう丁寧な日本人が世の中に沢山いたのだ。私は、自分のことではないのだが、このエピソードを思い出す度に、胸がいっぱいになる。


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