再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 「美ら島」沖縄タイムズ劇評。

離島苦 世代を超えて/国立劇場おきなわ「美ら島」/老婆と青年 次第に共感
2019年11月8日朝刊芸能21面 芸能
 離島に暮らす老婆と青年の島への思いや心情を描いた2人芝居「美ら島」が10月26〜28日に浦添市の国立劇場おきなわで上演された。両者のかみ合わない会話の「おかしさ」で世代を超えた離島苦を浮き彫りにしながら、万人に共通する「ふるさと」を思い起こさせた。脚本は謝名元慶福、演出は藤井ごう。エーシーオー沖縄主催。27日の舞台を取材した。(学芸部・天久仁)


 石油基地の建設と引き換えに、本島と道路で陸続きになった架空の島が舞台。頑として1人残ると譲らない島のノロ、東城カミイ(新城カメー)の家に、退去させて老人保健施設に入ってもらおうと躍起になる役場の臨時職員、島袋正吉(粟野史浩)が現れて物語が始まる。

 作品は1982年に東京で初演され、当時はカミイ役を平良とみが務めた。

 頑固なオバアと、どこか冷めてビジネスライクな若者はどこにでもいそうなキャラクターだ。一方で物語が進むにつれて「島」を共通点に、それぞれの持つ島への感情が明らかになっていく。

 カミイは息子の松男が石油基地の誘致に加担したことや、弟が沖縄戦当時にスパイ容疑をかけられて迫害された過去を心に引きずっている。

 一方の正吉は都会に憧れ、集団就職で本土に飛び出したものの、仕事も恋愛もうまくいかず、結局は生まれ島に戻って悶々(もんもん)と暮らしている。

 勢いのある正吉の「ツッコミ」とカミイの淡々とした「ボケ」のリズムは、ある意味で心地よい。その中に、それぞれの島への複雑な感情がさらりと込められており、ドタバタ劇に終始しない、切れ味をにおわせた。


 島の人でありながら「ヤマトグチ」で話す正吉に当初、違和感があったが、カミイとの反発を示す要素として次第になじんでくる。

 「松男さんの気持ちオレ分かるな」、「童(わらばー)ぬうぬわかいが(子どもに何が分かるか)」−。2人の会話はある意味で逃げ場がなく、答えを求めて延々と押し問答を続けるようにも聞こえる。

 戦争と開発で多くを失ったカミイ。正吉との会話の中で、過去に島と本島とを道で渡そうと願った1人であったことが明かされる。

 島という限られた空間で2人がぶつかり合い、世代を超えた「共感」が次第に芽生えていく。正吉が終盤で見せた満面の笑みに、将来への希望が見て取れた。

 切なさを込めた「カミイのバラード」をはじめ、挿入歌が劇を彩った。

 音楽はチアキ(しゃかり、歌三線)、くによしさちこ(バイオリン、ビオラ)、伊波はづき(島太鼓、パーカッション)、寺田英一(ギター)。

(写図説明)世代や境遇を超えて、生まれ島への思いをぶつけ合うカミイ(左・新城カメー)と正吉(粟野史浩)=浦添市・国立劇場おきなわ

(写図説明)2人のこっけいな掛け合いも見どころの一つ=浦添市・国立劇場おきなわ

2019年11月08日(金)
初日 最新 目次 HOME