与太郎文庫
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2007年01月09日(火)  格差の今昔物語 〜 所得倍増の行方 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20070109
 
 一昨年亡くなった恩師“テッちゃん”こと高橋哲郎先生の自叙伝が、
お嬢さんの手で公開されている。ひとこと伝えたい思いもあるが、不肖
の教え子なので、かえって失礼になるやもしれず自重している。
 
 重要な記述に、国立大学理学部を出たばかりの先生が、私立高校教師
となって、初任給が7600円(!)だったとある。
(たとえば、東大理学部を出て慶応高校の教師になるようなケースか)
 
 実は、その4年後に、与太郎は美術学校を中退し、新聞広告をみて、
看板屋に就職したのだが、その初任給が7500円(!)だった。
 東北から集団就職した、高卒2年目の同僚たちとおなじ待遇である。
 
 ◇
 
 6月末に就職した与太郎は、運よく手腕を発揮して、年末には200
万円の売上を達成したために、倍の給料でどうか、とスカウトされた。
 時あたかも、池田内閣の所得倍増計画(19601227)が決定している。
 
 転職して月給15000円を手にするのは翌年9月のことである。
 職務の合間に、公然たる副業をいとなみ、胸の内ポケットに30万円
の札束をしのばせ、助手をやとって運転免許をとらせたりした。
 
 その後たちまち逆転するが、上には上があるもので、作家となる前の
黒岩重吾ごときは、毎夜300万円もってキャバレーに通ったそうだ。
 ダンスの相手が「何を入れてるの?」と触ってみて驚いたという。
 
 ◇
 
 補足資料をあげると、美術学校の入学金10000円、授業料(年額)
24000円、施設拡充費15000円、実習費8000円、旅行費が
3000円。寄付金や校債を含めると、合計10万円に達していた。
 
 つまり、高校教師の年棒と、私立大学生の教育費が、ほぼ一致する。
 さらに、毎月の仕送りが13000円、当時ロックフェラーの御曹司
が同志社大学に留学中で、18000円と伝えられた(週刊新潮)。
 
 両親が、これほどの投資をするからには、教え子が恩師を上回る出世
をしないと、割りに合わないのである。一方で(当時の試算によれば)
大卒と高卒の生涯賃金は、かろうじて高卒が上回るとされた。
 
 ◇
 
 現在の初任給相場を、かりに高卒15万円、大卒20万円とするなら、
私立大学の入学諸費用も年額200〜300万円とみられる。
 大きなちがいは、学生数そのものが数倍に膨れあがったことである。
 
 その結果、将来の生涯賃金は2倍から5倍に及ぶそうだ。
 これをもって、たちまち格差を論じていいものか。
 別の見方をすれば、教育費の投資効率が向上したのではないか。
 
 市場原理が破綻したのではなく、経済学が破綻しつつあるようだ。
 市場原理は偶然に支配されても、経済学は必然でなければならない。
 専門家に任せておいたら、すっかりこんがらがってしまったらしい。
 
 ◇
 
 くりかえし云うが、テレビ・コメンテーターと称する作家や学者は、
「だれに、いくらもらったか」胸に値札を付けてから語るべきだ。
 同じ番組で、同じギャラの出演者が、同じ意見を云うのはいけない。
 
 マスコミは、投票率が上がれば世直しが実現するようなことを云う。
 彼らは、いったい何によって経済学や政治学を学んだのだろうか。
 せいぜい前々世紀の、化石のような翻訳書ではないのか。
 
 民主党は、幹部が一言いうたびに、確実に支持者が減っていく。
(いまどき食糧自給率などを論じるのは、あまりにも不勉強である)
 日本共産党も、資本家が労働者を搾取する図式から離脱できない。
 
 ◇
 
 現代社会を論じる人々は、ぜひ「2ちゃんねる」を読むべきである。
 むかしは収集できなかった庶民の、とくに青年労働者諸君の意見が、
生々しく伝わってくる。ただし数百に一の割合だから、根気を要するが。
 
 現実論として、一ヶ月の給料が最低賃金法を下回るような労働契約が、
諸悪の根源である。そこで大企業から零細企業における労務担当者に、
運転免許更新のような、試験制度が必要ではないか。
 
(本日、谷本岩夫先生のホームページ最新稿に触発され、本稿を記す)
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tbc00346/component/sentiment300.html#kakusa
 格差問題 〜 いま考えていること 〜
 
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(20070109)
 


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