与太郎文庫
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2005年02月26日(土)  ポン子の素性 〜 大江戸裏街道 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20050226
 
 むかし“アルサロ”という酒場があった。さまざまのワケあり女性が、
近所に内緒で(恥をしのんで)勤めているから、アルバイト・サロンと
いう。のちの“ピンサロ”は、ピンク・サロンの略である。
 
 さらに細分化されて、未亡人サロンとか人妻サロン、女子大生サロン
などと称した。トランジスタ・サロンといえば、当時流行の小柄な女性
(トランジスタ・ガール)が集まっているはずだ。
 
 ナイトクラブやキャバレーとちがって、まるで衣装代がかからない。
 ほとんど普段着のまま座っていても、客は納得してしまうのである。
 なんといっても、きわめつけは“ネグリジェ・サロン”だった。
 
 いまや制服ごっこ、幼児ゴッコなどの“コスプレ”も主流らしい。
 ばくぜんとした男の性欲を、嗜好別に分析すれば、特定の境遇にある
女性に対して、強い衝動をしめす傾向があるらしい。
 
 その原点は、野性のライオンの生態に見られる。
 雄ライオンは、処女には目もくれず、もっぱら母ライオンを狙う。
 子ライオンを殺されると、すぐさま母ライオンは発情するそうだ。
 
 ふたたび牝ライオンが出産すると、またも別の雄ライオンに襲われる。
 かくして生きのびた子ライオンだけが、種を継承しつづけるのだ。
 ライオンは、人間のように、家族や集団の概念をもたないのである。
 
 これら水商売の実態は、旦那もち亭主もちが、平気で女子大生サロン
に勤めていて、バッタリ前の店の客に出会ったりすることもある。
 客も「なんだ、未亡人じゃなかったのか!」と驚いたりしない。
 
 このような店は、たいがい新聞の求人広告を出している。
 どんな店が、どんな条件で、女たちを集めているのか、謎が解ける。
 求職者の女性だけが読むばかりか、男性の愛読者も多いのである。
 
 この世界には“ひも”と呼ばれる幸福な男たちが寄生している。
 彼らは、つねに新聞広告を見くらべ、自分の女にクラガエさせる。
(黒岩重吾の作品に、くわしい実体験が描かれている)
 
「求む、現役女子大生。高級優遇、委細面談。前払い可」あたりから、
「求む、20代の人妻」が「30代の人妻」や「30代に見える女性」
「30代に見えると思う女性」へと変化するあたりがわびしい。
 
 40代を過ぎると面接の門は狭くなる(だからみんな39歳だ)。
 そこで、ハタチ前後の娘を連れて、セットで売りこむのである。
 未成年だと断わられるので、母娘そろってサバを読むことになる。
 
 人手がたりなくて、しぶしぶ母娘を採用しても三日後に娘は来ない。
「娘はどうした?」と聞けば「急に体調がわるくなった」と答える。
 こんどは母の友人の娘になりすまして、他の店に勤めているのだ。
 
 母娘そろって働いていても、おもてむきは姉妹である。
 客が夜食に誘うと、かならず姉がついてきて、ガツガツ食べる。
 ついでに折詰までせしめられて、バイバイすることになる。
 
(つづく)
 


 黒岩 重吾 作家 19240225 大阪 兵庫 20030307 79
/1961釜ケ崎(あいりん地区)を舞台にした《背徳のメス》で直木賞。
《休日の断崖》《カオスの星屑》《落日の王子》《茜に燃ゆ》など。
社会派推理小説のほか体験を基にした風俗性の強い「西成もの」も多い。
1970年代後半からは古代史への関心を深め、1980《天の川の太陽》で、
吉川英治文学賞。1991紫綬褒章。1992菊池寛賞。


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