与太郎文庫
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1970年03月03日(火)  出谷 啓:ジャズを読む

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19700303
 
 クラシック音楽の、おびただしい文献の数に比べて、ジャズに関する
ものがきわめて少ないのは、日本だけでなく、本場アメリカやヨーロッ
パでも同じ実状である。ひとつには歴史的にまだ浅いために、研究家が
百出するに及んでいないともいえるし、もともと実演を中心に発達した
ために、研究対象として把えにくいことなども考えられる。そのかわり
“凡誌愚本”のたぐいは概して見当らず、不幸中の幸いとでもいうべき
であろうか。以下は、主として初心者のためのリストで、歴史もの・辞
典類・解説もの、といった順に列挙した。割愛した良書・好書も多い。
 
J.ベーレント《ジャズ〜その歴史と鑑賞》油井正一 訳・誠文堂新光社
 
 著者は西ドイツを代表する評論家で、作曲家でもあるだけに、その考
察は詳細をきわめており、クラシック音楽との対比から、各楽器の特性
に至るまで、鋭い批判精神に貫かれている。アメリカで生れたジャズが、
評論の分野では、ヨーロッパに一歩をゆずるという定説の面目躍如たる
力作である。ちなみに、1958年のドイツ語版による日本訳が出版直前と
なっていたところ、原著者の意向で、4年後に出た英語版をもとに、逐
次追加稿をあわせて、油井氏によって改訳されたのが当書でまさにジャ
ズは生きもの、の所以である。
 
油井正一《ジャズ〜その半世紀の内幕》創元新社
 
 できすぎた話には、おおむね誇張や歪曲の影があるはずで、たとえば
往年の音楽映画《未完成交響楽》など二作いずれも完全なフィクション
ではあったが、それはそれなりに、一面の本質をとらえることが可能で
ある。
 実際、ジャズのエピソードといえば、どこまでが事実やら、当人でさ
えアテにならないものもあるらしく、したがって絶妙の西洋風講談にも
なり得る。当書は決して不真面目なものではなく、いわば著者の博識を、
縦横に駆使した“よみもの”であるが、なかなかに啓示に富んだ本格的
な労作といえる。かなりの高給ファンでさえもが、思わずヒザを叩くほ
どに、語り口はなめらかである。
 
グローアー&キープニーズ編《A Pictorial History of Jazz》Crown Pub.
 
 よむ、というよりは観る本であろうが、詳しい解説・注釈によって、
写真資料が整然と分類された唯一のものである。共編者のふたりは、も
とリヴァーサイド・レコードの社長で、マニア中のマニアであったらしい。
 
植草甚一《モダン・ジャズの発展/バップから前衛へ》スイング・ジャーナル社
 
 鮮烈な時代感覚と、豊富な引用によって、前衛ジャズへの傾倒ぶりが、
熱っぽく語られたエッセイ集。翻訳家あるいは映画評論家としての著者
を知る人も多いはずである。
 
F.ニュートン《抗議としてのジャズ》山田進一 訳・合同出版
 
 フランシス・ニュートンとは、イギリスの経済学者エリック・ボズム
ボームの変名だが、意識的な題名のとおり、社会学的な見地から存分に
ジャズを論じた近作である。
 
L.フェザー《The Encyclopedia of Jazz》Horizon Pub.
 
 1955年の初版、1961年には改訂版としての《New Edition》、1966
年には増補版である《'60s》が加わり、今春《'70s》も出るという、
いうなればジャズ・マニアのための虎の巻である。人名辞典を主として、
前後に歴史や文献・楽典が要領よくまとめられている。ジャズ紳士録と
して決定版であり、おそらくレコード・ジャケットの解説のほとんどが、
当書をたよりに書かれているのではないか。縮少版として、かつモダン・
ジャズに限定したものに《モダン・ジャズ百科/スイング・ジャーナル 
社》がある。
 
野川香文《ジャズ楽曲の解説》千代田書房
 
 スタンダード・ナンバーの作詞・作曲・年代・歌詞大意(!)さらに
代表的名演などを列記したところの労作である。著者は1957年他界、た
めにケントン、ハーマンなど、プログレッシヴ時代で途切れている点が
惜しまれる。
 
G.サイモン《The Big Bands》Macmillian Pub.
 
 1920年代から、ごく最近までのビッグ・バンドを網羅したもので、著
者自身、スイング全盛期にメンバーとして活躍した豊富な体験があり、
なんといっても説得力に満ちている。歌手についての言及もあり、第二
次大戦後に流行した例の《センチメンタル・ジャニー》が縁で、ファン
となったオールド・タイマーには、わくわくするような回顧録である。
 
 ■ 各国のジャズ月刊誌
 
《スイング・ジャーナル》 日本
《ダウン・ビート》    アメリカ
《ジャズ・マンスリー》  イギリス
《ジャズ・オット》    フランス
《コーダ》        カナダ
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19700303
── 出谷 啓《ジャズを読む 19700303 月刊アルペジオ》
── 《Day was Day 20001224 Awa Library》P203
 
(20070217)
 


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