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■ (日記) ある爺ちゃん客のこと
去年、この店をオープンしてまだ間もない頃、一人の酔っ払い爺ちゃんがフラフラした足取りで入って来た事がある。 その時、他に客は居なかった。 どうやら私がやる以前に、この店に1〜2度足を運んだ事があるらしい。 店の様子も大分様変わりし、経営方針も全く変わったこの店を一瞥し、「おやまぁ。なんだか様子が違うぞぉ〜」とニタニタしながらフラ付いている。
私はこの素性の知れない酔っ払い爺ちゃんに、どう対処したものかと迷いながらも「ココは料金も雰囲気も気軽な呑み食い処に変わったんですよ。宜しければどうぞお掛けください」と呑引き笑いでいちおう応じてみた。
服はヨレヨレ労務者風で、しかも相当酔っている。ロレツも怪しく、かなり引きはしたが、見た目で人を判断は出来ないし、ともかく新規客は一度は様子を見なくては・・・。そう思った。 もしも変な人ならば、隣の店に助けを求めればよい。
爺ちゃんは瓶beerを注文し、付き出しのマグロのヌタを見て「おっ! 中々オツな物を出すじぁないか」と突付きながら「パチンコでやられてすっからかんになっちゃったぁ・・・」とケラケラ笑っている。
【やばっ・・・! もしかしたら初(ハツ)無銭飲食体験をさせられるやも・・・】 そう思いながらも爺ちゃんの勧めで私も一杯beerをいただいた。 もしも金を持ってないなどと言われたら、少しでも飲んでおいた方が悔しくない。そんな浅ましいのん兵衛根性が働いた。ww
その内爺ちゃんは、自分の仕事の事や子供の事、最近の社会情勢への不満などをポツリポツリと愚痴り始めた。 聞くところによれば昔はかなり羽振りが良かったらしく、何でも大工の棟梁だったようだ。人望も厚く、弟子も沢山居たという。 何しろ松本辺りの飲み屋事情に詳しい事詳しい事・・・・・・。 知らない店が無いくらい色々な店に詳しい。 弟子たちを連れ歩いちゃ毎晩毎晩、豪勢に飲んでいたそうだ。 「年も年だし、徐々に仕事も減り、今ではこんなに落ちぶれちゃってさ・・・。ホームレスと紙一重。」そう自嘲する。 「たまにある出稼ぎ仕事で食い繋いでるけど、その内どこかでのたれ死ぬかもねぇ〜」と、舌を出して笑っている。 その笑顔が何とも無邪気で憎めない・・・。
ウソか本当かは知らぬが、今は女房に逃げられ、息子達も独立し、独り暮らしをしながら、仕事が無い時はパチンコで飲食資金を稼いでるそうだが、この所負けが続いてると言う。 その愚痴一つにしても、落語家のような話しっぷりでとても面白いのだ。 他愛もない事をしゃべっているうちに、この爺ちゃんにだんだん愛着を感じてきた。 こいつは只者じゃない! と言う感じ。 結局beer3本を飲み、ちゃんとお金も払い、その爺ちゃんは「ママって、案外顔に似合わず優しいんだね」と言って帰っていった。 顔に似合わずは余計だろうがぁ!
それから半年位して、又その爺ちゃんがどこかの韓国料理屋のキムチを手土産にやって来た。どこかの店のママさんと一緒だ。 そのママに「俺の見つけた隠れ家なんだ」と言っている。 偶々店内は満席状態で、フゥーリィーも手伝いに来ている日だった。 店の混雑ぶりを見て爺ちゃんが「おっ! 中々繁盛していて良いじゃないか」と嬉しそうに言ってくれた。 私が忙しく、相手が出来なかったので、カウンターにいるフゥーリィーを紹介すると、結構気に入ったようで、フゥーリィー相手に釣りの武勇伝をぶちかましながら楽しそうに飲んでいた。 フゥーリィーも爺ちゃんが帰った後「あの爺ちゃん、なんか憎めなくて良いねぇ」と言っていた。
それから忘れた頃になるとポツリと現れては、自分でbeer2本。人にbeer一本の割で奢ってくれ、しばし、女道楽や、釣りや、パチンコの武勇伝をぶちかましてはしつこくも無く、早々に引き上げて行く。 今では結構な仲良しになった。
あの爺ちゃんを見る度、吉田拓郎の【洛陽】と言う歌が口をついて出てくる。
♪サイコロ転がし 有り金無くし すってんてんの あの爺さん アンタこそが 正直者さ この国と来たら 賭けるもの等無いさ〜 だから話を聞かせてよ サイコロ転がして〜♪
あんな風なやんちゃで、粋で、憎めぬペーソスを持つ不良親父が、最近はとんといなくなった・・・・・・。
2006年05月10日(水)
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