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人物紹介


見栄
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K先輩が何を急に言い出したのか、驚いて顔を上げました。
私が「なに?」と尋ねるように先輩の目を見ると、真面目な表情で見返されました。
少しの間、目を合わせたまま私は答えを待ち、先輩は何かを考えている様子でした。
声に出して、「どうしたんですか?」と言おうとした時、先輩が目を逸らしながら

「いや、なんでもない」

と言いました。
私は、きっと先輩の個人的な何かを思い出しての独り言だろうと思いました。
でも、それにしてはまだ何か考え込んでいるような様子なのが気になりました。
もしかしたら、本当はしなければならない事を忘れていて、私に気を使って言えないのかもしれない。
そんな気がして、難しい顔をしている先輩にもう一度声をかけました。

「ほんとは、何かあるんじゃないんですか?」

それに対し、先輩は

「いや、何でも無いって・・・」

と答えましたが、やっぱり何か言い出し辛いという表情に見え、

「でも、もし私に気を使ってるなら遠慮しないで言ってください」

と言いました。
すると、先輩は

「あ、そういうんじゃなくて。なんつーか・・・映画の内容がさ・・・」

と苦笑いのような表情を浮かべました。
私は最初、先輩が言ってる意味が全く検討も付かずにいました。
「え?映画?」と聞き返しながら、ふともしかして・・・と思い、それ以上何も聞けなくなりました。

これまでの話の流れを思い出してみれば、なんとなくその答えが分かる気がしました。
多分、これから観る映画にはラブシーンがあって。
それを私と観るということに対しての「ヤベっ」だったのだと思いました。
ただ、何でそれがヤバイと先輩に思われるのか。
一瞬、先輩自身がそんなシーンを観たらヤバイっていう事なのかな?と、いつもの悪いクセで期待するような考えが浮かびました。
でも、そうじゃなくて。
多分、私を必要以上に子供扱いする先輩にとって、こんなガキに観せたら刺激が強すぎるとか思われたんだ。
そう思いました。

先輩は、「ま、大丈夫だろ」と独り言のように言いました。

この時点ではまだ、私は映画の内容を全く分かっていませんでした。
あくまでも、想像でした。
だから、そんな子供扱いするなっ!と反発心もありましたが、もし、ラブシーンとかそういう事じゃなかったとしたら、私が考えている事は物凄く恥ずかしい事になるので、口に出す事は出来ませんでした。

映画館に着いて、初めて私はポスターで何を観るかを知りました。
可愛らしいラブ・ストーリーでは無い事は、すぐに分かり、怖気づきそうになりました。
以前、親とドラマを観ていて、物凄く気まずかったシーンが頭に浮かびました。
男性と暗い映画館で並んで座るというだけで、既に私の中では爆発しそうなぐらいの緊張なのです。
しかも相手は大好きなK先輩で。親なんかの比ではありません。
それが、多分、顔に出てしまったのでしょう。

「おいっ。やっぱ、止めとくか?」

と先輩に聞かれてしまいました。
私は平静を装って、

「え?何でですか?大丈夫ですよ。子供じゃないんだから」

と思いっきり見栄を張りました。
そう答えてしまった後で、
こんな言い方したら、私が何を考えているのかバレちゃったじゃん・・・
と焦っていると、K先輩が、

「へー・・・なんか、俺の方がドキドキしてきちゃったよ」

と笑いながら言い出しました。
それを聞いて私は、自分の今の発言があきらかに失敗だと思いました。
まるで「そんな事、慣れてます。大した事じゃありません」と大見得を切ってしまったような自分の言葉に、物凄く恥ずかしくなりました。
先輩の「へー・・・」という言い方に、誤解されたかもしれないと不安にもなりました。

そして先輩は、「待ってて」と言うと、さっさと映画のチケットを買いに行ってしまいました。
待っている間、後姿を見ながら私は考えていました。

先輩はどうなんだろう?
私は先輩にどう思われたいんだろう?
先輩は、どう思っているんだろう?

約一年前の出来事以来、私の中でずっと思っていた事がありました。

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子供扱いされるのは嫌だけど、でも誤解されるのも嫌でした。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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