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人物紹介


病弱
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私は高3というこの歳まで、映画館に行った事が一度しかありませんでした。
しかも、その一度というのは中学の課外授業でした。
地元の小さな映画館で、クラスメイト達と観ました。
K先輩と行ったのは、大きな映画館でした。
今はもう、場所すら覚えていません。降り立った駅名も思い出せません。
その当時ですら、自分が何処に出かけたのか分かって居なかったかもしれません。
とにかく緊張しっぱなしでした。
周りの景色を見る余裕も無く、人込みの中を、ただ先輩の背中だけを見て歩いていました。

K先輩は、チケットを買って戻ってくると

「始まるまで時間あるから、何か飲み物買いに行くべ」

と言って、またもや、さっさと歩き出してしまいました。
映画館のすぐ側にあったファーストフードの店は物凄く混んでいて、外まで人が溢れているような状態でした。

「俺、買ってくる」

そう言うと、先輩は行列に並んでしまいました。
私は行列から少し離れた場所で、置き去りにされた気分になりました。
後から思えば、何でも先輩がさっさと行動してくれて楽なように感じますが、この時の私は待つ事自体が苦痛でした。
どうやって、どんな顔して待っていればいいのか考えてしまう状態で。
本当は、待ってるだけじゃいけないんじゃないか、一緒に行くべきじゃないか、自分が行けば良かったんじゃないか。
そんな事を考えて、居たたまれませんでした。

多分、それは知らない場所に居る心細さだったのかもしれません。
K先輩の素っ気無い言い方も、決して悪い意味での事では無いと思っていても、冷たくされたかのように感じました。
結構長い時間待っている内に、だんだん私は泣きそうになりました。
それは、知らない場所で行き成り放り出されたような、まるで親とはぐれた迷子のような気分に似ていました。

10分以上かかって、先輩は両手にジュースを持ちながら不機嫌そうな顔をして戻ってきました。
その表情を見て、元々短気な先輩が混んでいる場所にイラついただけで、自分のせいでは無いと頭では分かっていても、不安になりました。
電車の中での事もあるし、自分が何か怒らせてしまったのかもしれない。
先輩が無言で差し出したジュースを受け取ると、私の頭の中では「お金払うって言わなきゃ」と命令していましたが、それすら怖くて言えなくなっていました。
私は、小さい頃から怒っている人が苦手で。
怒っている人の側に居ると、怖くて怖くて、心臓が勝手にドキドキしました。
先輩の態度を怒っているように感じた私は、心拍数が上がると同時に勝手に涙が込上げて来ました。

「おい、どうした?」

先輩に声を掛けられ、ビクっとしました。
まさか、一人で待つのが心細くて、先輩が怒ってるのが怖くてなんて言えるはずもなく。
それに、そんな子供みたいな自分の気持ちを先輩に知られたくありませんでした。
だから、「なんでも無いです」と言おうとしたのに、

「いえ、大丈夫です」

と答えてしまいました。

「ん?気分、悪くなっちゃった?」

先輩は、私の具合が悪いのだと勘違いしたようで、優しくそう言いながら私の顔を覗き込みました。
良かった。気付かれてない。そう思った私は

「ちょっとだけ。でも、もうホント大丈夫です」

と具合が悪かった事にしようと、笑顔を作りながら答えました。
先輩は、納得したように

「そう?ならいいけど。人、多いからな・・・」

と言いました。
それを聞いて私は、「あ、なるほど。人酔いするって言うし」などと心の中で呟き、

「あんま、人ごみ歩かないもんで・・・」

と、更に「具合が悪い」という嘘を本当の事にすべく、言いました。
すると、先輩は心配そうに

「お前、身体弱そうだもんなぁ・・・」

と呟きました。
先輩はきっと、いつも顔色が悪く、部活を辞めてから余計に色が白くなった私の顔と、太らない体質の私の外見でそう言ったのだと思います。
でも実際、私は小さい頃からあまり身体が強い方ではありませんでした。
小学校の時から保健室には始終出入りしていたし、親に迎えに来てもらう事もありました。
中2から運動部に入った理由には、そんな私を心配した親からの勧めもありました。
夢見がちな年頃の私は、自分が体が弱い事を半ば自慢のように感じていた時代もありました。
きっと、少女漫画などの儚い少女のイメージを自分に重ねたかったのでしょう。
それに、心配してくれる先輩の声は凄く優しくて、なんだか幸せな気分にもなれました。

でも、この時だけは、病弱などと思われたらアウトだと思いました。

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私はこれ幸いと乗ってしまった自分の嘘に、後悔しました。

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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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