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人物紹介


憎まれ口
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K先輩は決してマメなタイプではなく、どちらかと言えばだらしないし、大雑把な性格で。
私に対する優しさから見れば、多分、面倒見が良い所もあり、だけど基本的には物凄い面倒臭がり屋で。
良くも悪くも我儘なところがあって、嫌だと思う事を無理してまでするようなことは、きっとしないというタイプでした。
そんなK先輩が私と会う為に、嫌な思いをするのを覚悟の上で電話をくれたという事の大きさを、私はこの瞬間に思い出しました。
大好きなK先輩にそこまでしてもらえたことだけで、私にとっては幸せすぎることなのに。

私はいつの間にか勘違いし始めていたのです。
逆にそこまでして先輩が誘ってくれた事で、
「私は特別に想われているのかもしれない」
という気持ちが、私の中でまた出てきてしまっていたのです。
だから、余計にK先輩から漂う女性馴れしてそうな雰囲気に、
「別に私だけじゃないんだ」
という失望感もあって、嫉妬し、イラついたのだと思います。
私は、素直な感謝の気持ちを忘れていました。

私は素直に、

「ごめんなさい。ほんと、有難うございます。」

と言い、頭を下げました。
K先輩は、突然私が素直に謝り出したので、少し慌てたように

「いやいや、俺が勝手に誘ったんだし。っつーか、恥ずかしいから、もう止めよう」

と言いました。

「え?」

と言って、K先輩の顔を見ると、先輩は当たりを見回しています。
その様子を見て、私は周りの人に私たちの話が聞こえてたのかもしれないことに気付きました。
急に恥ずかしさが込み上げてきて、窓の方に身体を向けて

「はずかしーー」

と私が呟くと、K先輩は腕をひじで突っつくようにしながら、

「俺ってば、すっげー女ったらしの悪いヤツみたいじゃんかよっ」

と小声でヒソヒソ言いました。
その言い方が面白くて、私もそれに合わせてヒソヒソ声で

「え?先輩の女ったらしは、中学の時から有名じゃないですか?」

と返しました。
すると、K先輩は驚いたように

「うそ?」

と、周りの乗客の何人かがK先輩を見るほどの大きな声をだしました。

「先輩、はずかしー」

その様子がおかしくて、私が笑いを堪えながらヒソヒソ言うと、

「お前が変なこと言うからだろっ」

とヒソヒソ声で責めるので、

「えー、だって。先生が、「Kは女好きだ」って言ってたもん」

と私はからかうように言い返しました。

「まじで?あいつ、何てこと言いやがったんだよー。誤解だぞ?誤解っ」

先輩の焦ってるような怒ったような困ってるような、そんな表情がおかしくて調子に乗った私は

「そうですか?だって、私と最初に会った時も、女子の更衣室に女の先輩たちと居たじゃないですか?」

と言ってしまいました。
ここまで言ってから、私は自分が中学の時の話をし始めたことに、内心焦りました。
私の中で、これまでK先輩との中学の時の話はタブーでした。
最後に私がフラれた話でもあるので、お互いにあまり良い想い出にはなってないと思っていたのです。
これまでも、過去に形だけであっても「付き合ってた」ということは、暗黙の了解で無かった事のように。
ただの中学の先輩後輩としてお互いに接していたように思います。
なのに、思わず出会ったときのことまで口にしてしまい、先輩がどういう反応をするのか不安になりました。

先輩は、そんな私の不安とは全く関係なく何も気にしてないように

「おーおー、そうそう。違うぞ?あれは、なんだっけか、話があるとか言って呼び出されたんだぞ?」

と弁解し始めました。
そして更に、

「あん時、俺、「お前たち双子?」って言ったんだよな」

と懐かしそうに言いました。
私はそんな先輩の何も気にしていない様子が、逆に憎らしく、なんだか悲しい気分でした。

先輩にとってのあの頃の事は、単純に懐かしい思い出になっているんだ。
先輩と、付き合ったことを何時までも特別に思っていたのは私だけだったんだ。
いつまでも過去を引きずって、気にしてるのは私だけだったんだ。

K先輩の言い方はまるで、その後に私と付き合った過去など無かったかのような、すっかり忘れてしまっているような感じがしたのです。
私は先輩の方を見ずに、窓の外を眺めながら

「そうですよ。初対面がいきなりそれだったから、軽いな〜って思いましたよ」

と、自分でもかなり嫌な言い方をしたような気がします。

「え?まじで?お前、そんな風に思ってたの?」

先輩は、少しだけ、ショックを受けたような感じでした。


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最悪なことを言ってしまいました。
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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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