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人物紹介


女馴れ
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「綺麗だなと思ってさ」

そう言われた瞬間、嬉しいとかよりも先に、呆気にとられた感じでした。
そんな言葉をサラリと言えるK先輩に驚いたのです。
驚きすぎて、目がそのまま逸らせなくなっていました。
ちょうどその時、止まった電車のドアが開いて、立ちすくんだ状態の私が邪魔だったのでしょう。
K先輩に、「ほら、危ないだろ」と言って腕を掴まれ、先輩と体がくっつきそうな程、そばに引っ張られました。
その距離で、乗客が降りてくる間、K先輩の真後ろに私は居ました。

近くになって、その時始めて、K先輩からコロンか何かの香りがする事に気が付きました。
私が知っていた中・高校生の頃の先輩とは、なんだか違う人に見えました。
でも、中学の時のK先輩の担任であり、私の部活の顧問の先生が言っていた
「Kは、女好きだからなぁ」
という言葉が急に頭に蘇ってきて、私は間近の先輩の顔を斜め後ろから見つめながら、
「やっぱり、先輩は女馴れしてるよ」
と心の中で悪態をついていました。
なんとか先輩の雰囲気に飲まれまいと、何故か必死でした。

電車に乗り込むと、空席が無く、ドアの所に向かい合うように立ちました。
何を話していいのか分からず、窓の外を見ていると

「なんだよっ」

と頭を小突かれました。
チラッと先輩を見ただけで、私がまた窓の外を見出すと今度は

「なに?怒ってんの?俺、また何か言ったか?」

と聞かれました。

「いえ、べつに」

なんと答えていいのか分からずに、それでも窓の外を見ていると、また小突きます。
私は、少し手が届かない距離に離れようと思って、一歩身体をずらしました。
すると、私のすぐ後ろには同じように窓に寄りかかる人が居て、その人にぶつかってしまいました。
慌てて「すみません」と私がその人に謝るのと同時に、先輩の手が、また私の腕を掴んで引き寄せました。
まるっきり電車に乗る時と同じ状態を繰返した自分が、余りにも情けなく、恥ずかしくなりました。
しかも、今度は向かい合わせで物凄い近い距離に先輩が居る状態で。

「ほら、ったく」

K先輩に言われて、思わず私は

「先輩、女馴れしすぎ」

と言ってしまいました。
さっき、思っていた事が思わず口から出てしまったのです。
あまりにもぶっきらぼうに言ってしまって、これじゃぁ冗談にもならない言い方をしてしまったと後悔しました。

「なんだよそれ?」

やっぱり、先輩は少しムッとしたように聞いてきました。
でも、先輩は何とも無いかもしれないけど、私にとってはそういう一つ一つが大変な事なんだと分かって欲しいと思い、すぐに謝る事は出来ませんでした。

「さっきだって変な事平気で言うし」

心の中では、怒らせちゃったどうしよう・・と焦ってはいても、態度に素直に出すことは出来ません。

「あ?さっき綺麗って言ったからか?」

K先輩は、それでなんで怒るんだろう?とでも言いた気でした。

「そうです。普通、そんな事言いませんよ。」

私が答えると、K先輩は少し笑ったような口調で

「そうかぁ?・・・ん?お前、俺が誉めたの髪の毛だぞ?」

と言い出しました。
その言い方が、「何、勘違いしてんだ?」風に言われたような気がして、

「そんなの、分かってますよ。自分で髪の毛ぐらいしか誉められないって自覚してますっ」

と思わず強い口調で言い返してしまいました。
K先輩は、まるで独り言のように小さな声で

「そんなことねーんだけどなぁ・・・」

と呟いたまま、黙ってしまいました。
沈黙に耐えられず、思い切って先輩の顔を見ると、やっぱり怒ったような厳しい表情をしていました。
途端に、物凄く怖くなり、

「すみませんでした」

と謝りました。
すると、先輩は溜息をつくように息を吐き出した後、

「俺さぁ、そんなに軽く見えるかぁ?」

と言いました。
その声を、どこか寂しそうに感じながらも私は、

「だって先輩、色んな女の人と遊んでそうだし。」

と言い返してしまいました。
先輩は

「お前さ、勘違いしてんべ?俺、そんなに遊んでないし。誰にでも同じ事言う訳じゃないぞ?」

と少し強い口調で言いました。
でも、私の中で、やっぱりすっきりしないものがあり、

「だけど、先輩、たくさん女友達居そうだもん」

と、まるで拗ねるかのような言葉を言ってしまいました。


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吐き出すように言いました。


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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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