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『最後の息子』(再読) 吉田修一 文春文庫 - 2003年12月27日(土)

吉田修一の作品は忘れていた何かを思い起こさせてくれる。
本当に不思議な魅力を持った作家だ。
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吉田さんのデビュー作となる本作はエンターテイメント的要素の強くなってきた近作と比較するととっても純文学的である。
史上初の芥川賞&山本周五郎賞のダブル受賞者としては進むべき道を模索してる状況なのだろうか?

本作は3編からなる中編集ですが、作品間に差がかなりあるように思えた。
表題作はゲイの話なんだがラストの閻魔ちゃんの手紙はせつないんだけどやはり題材的にはちょっと受け入れにくかったかな。
2編目の「破片」は吉田さんの出身地長崎を舞台とした帰省物語である。
私のイチオシはなんといっても「Water」だ。
この作品も舞台も長崎であろう。近作『東京湾景』『日曜日たち』が東京を舞台とした話が中心となっているので、読者のみならず吉田さんも思い入れの強い作品じゃないだろうか?
書かれた時期なども考慮すると、吉田さんの原点的な作品だと言えるのでしょうね。
こんな青春をビビッドに描き出してる作品ってなかなかお目にかかれない。
他の吉田さんの作品では味わえない躍動感が伝わってくる。

どの作品もタッチが全然違ってそれが魅力的なのだが、逆にどの作品にも共通して言えることは、“どの主人公も真っ直ぐ一途に生きている”ということである。
きっと吉田さんの作品の基本コンセプトなんでしょうね。


近作に比べたら全体的には物足りない感は否めないが、読み終えて少しでもひたむきさを感じ取れたあなたはやはり吉田さんのファンに一歩近づいたと言えるんじゃないかなあと思ったりする。

評価7点。




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