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『日曜日たち』 吉田修一 講談社 - 2003年10月19日(日)

吉田修一の小説に東京はよく似合う。
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彼の描写は意外と鋭い。ちょっと引用しますね。
『読み終わりだった小説は、四十代の男性作家が書いた恋愛小説で、面白いというよりも、どうして主人公の女性がこんな自意識過剰な男に惚れるのかが気になって、ついつい読み続けていたのだが、残り数ページとなった今もその理由は書かれておらず、もしも主人公が、最終的にこの男をきっぱりと捨てなければ、自分が代わりにこの本をゴミ箱にきっぱりと捨ててやろうと思っていた。』

本作も5人の男女を通して、大都会東京で生きることの辛さを語ってくれる。
彼の主人公はいたって不器用だ。
全員が過去をひきずって生きている。
不器用だからこそ同じ目線で読者も読むことが出来共感も強く出来るのだろう。

なんと言っても、2人の家出した幼い兄弟の話には泣かされる。
どの話においても、途中で登場してきて少しづつ露わになってくるのだがそれぞれの物語の主人公の心を癒す役割をはたしているのが伝わってくる。
母親を探す切ない気持ちの2人と、結構淡々と生きている各編の主人公とのコントラストが見事だ。

吉田さんの作品って“現代人の不安”を浮き彫りにして読者に提示してくれる。
特に本作は後半に行けば行くほど深みが出てきたような気がする。
1編1編は特に感動的ではないが、読み終えて良かったという読後感をもたらせてくれる作品といえよう。
特に最終章の素晴らしさは特筆ものだ。
成長した兄弟が読者にとっても“一服の清涼剤”となることがきっと吉田さんの希望なのでしょうね。

評価8点。


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