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「で、結局なんだったんだ、あれは」 部活終了後、二人は慈郎の希望で駅近くのアイスクリームショップに立ち寄った。なんだかんだで言いなりになっている自分に、跡部は心の中で溜息をつく。そんな心中を知ってか知らずか、慈郎は奢ってもらったアイスを嬉しそうに食べていたが、問われてふと手を止めた。 「なにが?」 「お前のラクガキ」 ラクガキ、の部分にやや力を込めて跡部は言った。 「なにって、なにが?」 「なんで、あんなこと書いたんだよ」 ひどく曖昧な会話ではあるが、大体慈郎は普段からそんな感じであって、今回も、跡部の言わんとすることは理解したらしい。 「あの本てさ、あれじゃん、ぜんぶラブレターみたいなもんだったじゃん」 「…そうか?」 「読んでたら、ちょっとおれも書いてみようかな!って気になってさー」 「ふーん。んで?」 「ん?それでおわりだよ。あとは、さっき言ったとおりー」 「だから、そこでどうして俺の名前が出てくんだよ」 「だっておれ、跡部好きなんだもん」 「…そうか。俺もお前の事は嫌いじゃねえな。けど、それはまた別の話だろ」 「別って?」 口の周りを黄緑色のクリームで汚したまま、不思議そうに小首を傾げる慈郎に、跡部は苦笑した。 「そういう時は俺じゃなくて、女の名前書けよ」 「ああ。だって、いねーもん」 「?」 「跡部よりも好きなこ、いないし」 「ガキだな、ジロー」 跡部が笑うと、慈郎は何度か目を瞬いた後、へへへと笑って頭を掻いた。 「そうかもね」
hidali
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