テキスト倉庫
DiaryINDEXpastwill


2006年04月20日(木) 菫4/ジロ跡

「で、結局なんだったんだ、あれは」
 部活終了後、二人は慈郎の希望で駅近くのアイスクリームショップに立ち寄った。なんだかんだで言いなりになっている自分に、跡部は心の中で溜息をつく。そんな心中を知ってか知らずか、慈郎は奢ってもらったアイスを嬉しそうに食べていたが、問われてふと手を止めた。
「なにが?」
「お前のラクガキ」
 ラクガキ、の部分にやや力を込めて跡部は言った。
「なにって、なにが?」
「なんで、あんなこと書いたんだよ」
 ひどく曖昧な会話ではあるが、大体慈郎は普段からそんな感じであって、今回も、跡部の言わんとすることは理解したらしい。
「あの本てさ、あれじゃん、ぜんぶラブレターみたいなもんだったじゃん」
「…そうか?」
「読んでたら、ちょっとおれも書いてみようかな!って気になってさー」
「ふーん。んで?」
「ん?それでおわりだよ。あとは、さっき言ったとおりー」
「だから、そこでどうして俺の名前が出てくんだよ」
「だっておれ、跡部好きなんだもん」
「…そうか。俺もお前の事は嫌いじゃねえな。けど、それはまた別の話だろ」
「別って?」
 口の周りを黄緑色のクリームで汚したまま、不思議そうに小首を傾げる慈郎に、跡部は苦笑した。
「そういう時は俺じゃなくて、女の名前書けよ」
「ああ。だって、いねーもん」
「?」
「跡部よりも好きなこ、いないし」
「ガキだな、ジロー」
 跡部が笑うと、慈郎は何度か目を瞬いた後、へへへと笑って頭を掻いた。
「そうかもね」


hidali