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2006年05月02日(火) イルカショーのおにいさんパラレル…?跡塚(たぶん)

大学を卒業したあと、釣り/魚つながりで
地元の水族館に就職を決めた手塚。
本当は、淡水魚の飼育係になりたかったのですが、
ルックスがそこそこいけてて若いという理由で、
イルカショー係にまわされてしまいました。
(実際はとても難しい仕事だと思いますが、そこは妄想なんで!)
見た目よりはるかに不器用な手塚は、イルカを手なずけるどころか
なめられっぱなしでした。
そんな手塚も、おりからの人出不足で早々にショーに出ることに
なりましたが、もちろんうまくいくはずもありません。
イルカがわざと合図と違うところでジャンプしたりして散々です。
それはそれでお客さんにはウケましたが、手塚にとっては辛い毎日でした。

その日もお客さんに笑われながらなんとかショーを終えた手塚。
舞台の上のポールやバケツを集めながら、ふと客席を見ると、
一番はじっこの席に、若い男が足を組んで座っていました。
他のお客さんはみな帰ってしまって、観客席に残っているのはひとりだけです。
ショーの間はいっぱいいっぱいなので気付きませんでしたが、
高級そうなスーツを身につけた若い男が、
イルカショーに来ているのはちょっと不思議な感じがしました。
ここは昔気質の古い水族館で、
若い男女がデートに訪れるようなおしゃれな場所ではなかったからです。
片づけながらちらちらと客席を伺っていましたが、
連れの女性が現れる様子もなく、さりとて席を立つ気配もないので、
手塚は思い切って声をかけてみました。
「今日のショーは、これで全て終わりなんですが…」
「んなこと、見ればわかる」
その高飛車な物言いに手塚は内心むっとしましたが、
一応客商売なので、黙っていました。
ところが、手塚は建て前というものを知らずにこれまで生きてきたので、
思いっきり顔に出てしまいました。
それを見ると、男は何がおかしいのか、くつくつと笑って、
ようやく立ち上がりました。わざとらしい動作でスーツの埃を払うと、
ふふんと鼻で笑って言いました。
「なかなか面白かったぜ。もっとも、イルカじゃなくてお前のショーって感じだが」
「…!」
「また来る。邪魔したな」
「…もう、来なくていい」
根が全く客商売向きじゃない手塚は、ついはっきりと言ってしまいましたが、
男は別段気を悪くした様子もなく、笑いながら立ち去りました。
ぽつんとプールに残された手塚を、
水の中からイルカ達が生暖かい目で見上げていました。


翌日も、その翌日も、男はショーにやってきました。
世事に疎い手塚が見てもそれとわかるほど高価なスーツで、
そしてやっぱりひとりきりなのです。
彼は、一日3回あるショーのうち、必ず最後の回に現れました。
最後とはいっても、始まるのは夕方の4時です。
一体どういうカテゴリーの人間なのでしょうか。
先日の一件に腹をたてていた手塚は、無視してはいましたが、
日を追うごとに男のことが気になっていきました。
おかげで、最後の回はいっそうミスが目立つようになってしまいました。


ある日、いつものように最終のショーの舞台に立って
客席を見渡した手塚は、いつもの席に彼がいないことに気付きました。
不思議なもので、顔も見たくないと思っていたのに、
いざいなくなってみると、そこにぽっかりと穴が空いたような、
落ち着かないきもちになりました。
結局、ショーが終わるまで、彼は姿を見せませんでした。

やがて水族館は一日の業務を終え、職員達もそれぞれ帰宅していきました。
プールの方でイルカが泳ぐ音が聞こえるほかは、静まり帰っています。
なんとなくさみしい気分のまま、手塚が水族館の門を出ると、
目の前の街灯の下に、あの男が立っていました。
「間に合わなかったか」
「…」
「今日は、いくらかマシにできたのか、アーン?」
「お前、そんなにイルカが好きなのか?随分熱心だな」
真面目な顔でそう言う手塚に、男は呆れたようでしたが、
やがて笑いだしました。
「…何がおかしい」
「いや…」
男は笑いをおさめると、やや真面目な顔になって、手塚に少し近付きました。
「別に、イルカが好きなわけじゃねえ」
「じゃあ、なんだ。嫌がらせか」
「最初に言わなかったか?お前を見に来てんだよ」
「…」
眉間に皺をよせ、口をへの字に結んで黙っている手塚をおかしそうにみていた男は、
再び笑いましたが、それは今までのような皮肉な笑みではなく、
とても優しい顔だったので、手塚は少しどきりとしました。
「さてと、これ以上ここにいても仕方ねえな、帰るぜ。…また来る」
「…」
「来なくていい、って言わねえのか?今日は」
「…」
「じゃあな」
男は、笑いながら去って行きました。
ぼんやりと立ちすくんだままその姿を見送った手塚は、
ふと、まだ彼の名前も知らない事に気付いたのでした…。



続きません。
ていうか、何ですかこれは。


hidali