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2006年04月11日(火) 菫2/ジロ跡

 翌日の放課後、跡部は図書室近くの廊下で、ばったり慈郎に出くわした。ゆらゆらと眠そうに歩いてた慈郎の顔が、ぱっと明るくなる。
「あとべー!今から部活いくの?」
「…」
「だったら、今日は俺も出ようかなー」
「…」
「…?どしたの?」
 普段なら「さぼるつもりだったのか」など小言の一つも返ってくるところだが、跡部は不機嫌な様子で押し黙っている。慈郎は下から覗き込もうとしたが、ふいと顔を逸らされた。
「あのさ、もしかして怒ってる?」
「…」
「俺、跡部に怒られるような事、なんかしたっけ?」
 不思議がっている慈郎の頭を、跡部は無言のまま、手に持っていた件の詩集で思いきり殴りつけた。
「うお、いってえ!いきなり何すんだよ」
「…ジロー、こいつに見覚えねえか、アーン?」
 跡部が詩集を目の前に突き付けると、頭をさすっていた慈郎の手がピタリと止まった。
「あっ!」
「あ、じゃねえぞ。図書室の本にラクガキなんかしやがって。見つけたのが俺だったから良かったものの、どういうつもりだ」
「跡部、見たんだ!」
「だからそう言ってんだろ」
 苛立つ跡部とは対照的に、慈郎は悪びれる様子もない。それどころか、さも嬉しそうに満面の笑みである。
「へへー」
「…何ヘラヘラ笑ってんだ」
「え?あれ、そんだけ?」
「あの絵について批評しろとでも言いたいのか?とにかくこれはお前が責任持って返しておけ、いいな」
 本を押し付けると、跡部は踵を返して歩き出した。
「ちょっと待ってよ跡部!全部見た?」
「あー、見たぜ。ついでに全部消しといてやったからな、感謝しろ」
「おかしいなー」


つづく


hidali