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翌日の放課後、跡部は図書室近くの廊下で、ばったり慈郎に出くわした。ゆらゆらと眠そうに歩いてた慈郎の顔が、ぱっと明るくなる。 「あとべー!今から部活いくの?」 「…」 「だったら、今日は俺も出ようかなー」 「…」 「…?どしたの?」 普段なら「さぼるつもりだったのか」など小言の一つも返ってくるところだが、跡部は不機嫌な様子で押し黙っている。慈郎は下から覗き込もうとしたが、ふいと顔を逸らされた。 「あのさ、もしかして怒ってる?」 「…」 「俺、跡部に怒られるような事、なんかしたっけ?」 不思議がっている慈郎の頭を、跡部は無言のまま、手に持っていた件の詩集で思いきり殴りつけた。 「うお、いってえ!いきなり何すんだよ」 「…ジロー、こいつに見覚えねえか、アーン?」 跡部が詩集を目の前に突き付けると、頭をさすっていた慈郎の手がピタリと止まった。 「あっ!」 「あ、じゃねえぞ。図書室の本にラクガキなんかしやがって。見つけたのが俺だったから良かったものの、どういうつもりだ」 「跡部、見たんだ!」 「だからそう言ってんだろ」 苛立つ跡部とは対照的に、慈郎は悪びれる様子もない。それどころか、さも嬉しそうに満面の笑みである。 「へへー」 「…何ヘラヘラ笑ってんだ」 「え?あれ、そんだけ?」 「あの絵について批評しろとでも言いたいのか?とにかくこれはお前が責任持って返しておけ、いいな」 本を押し付けると、跡部は踵を返して歩き出した。 「ちょっと待ってよ跡部!全部見た?」 「あー、見たぜ。ついでに全部消しといてやったからな、感謝しろ」 「おかしいなー」
つづく
hidali
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