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2006年01月14日(土) |
ぼくのじてんしゃのうしろにのりなよ・3 (べかみ) |
「あー…つかれ、た…」 跡部邸から五キロほど離れた公園についた時には、すでに神尾の息は完全にあがっていた。自転車を停め、近くの芝生に倒れるように仰向けになると、青空が目に眩しい。 「何やってんだろ、俺」 思い返せば、いつもこんな風に跡部に振り回されている自分がいる。出会った時は、なんて嫌なやつだと思ったものだ。自分勝手で傲慢で、人の意見を聞かず、行動の先が読めない。おまけに意地悪である。しかも、どういうわけだか神尾に対してだけ、とりわけ意地が悪いような気がする。と、今までに何度か問うた事はあるが、その度に笑って否定された。悔しいが、その笑顔はとても好きだった。 ひとつ息をついて目を閉じる。前髪を揺らしてゆく風はまだ冷たいが、ほんの僅か早春の暖かさを含んでいる。まるで、
(まるで、あいつみたいだ) 「おい」 「うわ、冷てっ…!」 急に額に冷たい物を押し当てられ、驚いて飛び起きると、両手にペットボトルを下げた跡部が神尾を見下ろすようにして、立っていた。神尾が口を開く前に、跡部は右手に持っていたスポーツドリンクのボトルを放ってよこした。 「ご苦労だったな、神尾。御褒美だ」 「ちぇっ、こんなんじゃ割に合わねーっての」 跡部の事を考えていたのがなんとなく気恥ずかしくなって、神尾は照れ隠しのように悪態をつきながら起き上がった。受け取ったペットボトルに口をつけると、乾いた喉に冷えた液体が心地よく流れ込んで、一気に半分ほどを飲み干した。 跡部も神尾の横に座り、ボトルの蓋を開けている。まだ枯れて白茶けた芝生の上へ無造作に投げ出された足は、嫌味なほどに長い。顔もスタイルもそしてテニスの実力も、どれひとつとっても到底神尾のかなう相手ではない。それが悔しくもあり、嬉しくもある、そんな複雑な気持ちにいつも捕われるのだった。 「それにしても、驚きだぜ。跡部が自転車に乗れないなんてさ。へへっ、明日テニス部の連中に言いふらしてやろうかな〜」 まるで鬼の首でもとったかのような神尾に、跡部はいかにも呆れたという顔になった。 「お前…つくづく馬鹿だな。おめでたいヤツだ」 「ああ!?喧嘩売ってんのか?」 「そういうつもりじゃねえ。なんだ、気に障ったのか?」 「あたりめーだ!」 「なら、わかりやすく言い直してやる。お前は本当に馬鹿で…」 そこで、跡部はつと口を耳もとに寄せ、ぎりぎり聞き取れるくらいの低い声で囁いた。 「可愛い奴だって、そう言ったんだぜ?」 面白いほど瞬時に、神尾は耳まで真っ赤になった。 「…!な…何言ってんだよっ!お、おま、ば、馬っ鹿じゃねえの?」 「ハ、お互い様だろ」 目を白黒させている神尾に満足そうな笑みを作ると、跡部は服の芝を払いながら立ち上がった。 「そろそろ戻るぞ」 「跡部…っ」 「帰りもせいぜい頑張ってくれよ。この俺の運転手ができるなんて滅多にねえ、光栄に思うんだな」
帰りは下り坂が多く、自転車はスピードに乗って軽快に走ってゆく。風に流れる髪を長い指で払いながら、跡部は独り言のように呟いた。 「信じねえよな、普通は…」 「え、なんか言ったか?」 「いいや。ちゃんと前見て運転してろ」 「ちっ、わかってるよ」 跡部は、神尾の背に軽くもたれかかって目を閉じた。 (俺の自転車…帰ったらどこかに隠しておくか…)
背中に伝わってくる微かな震えに気付いて、神尾は前を見たまま口を尖らせた。 「さっきから、何ひとりで笑ってんだよ、跡部」 「…別に」 「変な奴」 通りすがりの桜並木も、もうしばらくすれば満開の花で彩られるだろう。 そうしたら、また、
「…何笑ってんだよ、神尾」 「別に!」
俺の自転車の後ろに、乗りなよ。
END
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ベカミのコにツボを語ってもらって へえーと思ったので そのへんを意識して書いたつもり…だけど、どうでしょうかね。 跡塚やリョ塚ではできないことができるので、ベカミ書くのは楽しいです。 ちなみに跡部の自転車は、プジョー(だっけ?)の高級品ですよきっと。 でも殆ど乗らないので、いつでも新品同様、ぴかぴかですよたぶん。
hidali
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