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2002年10月21日(月) 苦いキス/雨の匂い/煌々と照る月の

 呼吸さえ奪うようなキスが欲しい。
 なんて書いていると自分が欲求不満なように思える。実際そうなのだけれども。
 人恋しい季節なんて要らない。

 煙を吐き出す。咳き込む。後味の苦さに顔を顰める。精神安定剤にもならないこんなものを好んで吸う彼らを理解できない。それならば何故吸うのだろう。手持ち無沙汰、口寂しい―どうでもいい理由なら考え付く。
 そんな行為で誰かに認められるとでも思うのだろうか。そんなことありえない。分かっているのだ。
 分かっているのなら何故。自分でもよく分からない。衝動とは違うけれど。
 捨てられたいのだろうか。自分を壊したいのだろうか。どうしてだろう。
 男達の煙草の理由を聞いてみたいと思った。己が知っている人は煙草を利用していると云った。だから止められないと云った。それは己には分からない感覚だ。誰か己のこの愚考を納得がいくように説明してくれないか。

 口の中が荒れている。ざらざらとした感触で分かる。風邪をひいているのかもしれないがおそらく大部分が煙草の所為だろう。親や教員に隠れて喫煙している高校生のように彼女の目に触れないように火をつける。染み付いた臭いですぐ分かってしまうのに何をしているんだ己は。

 会いたい人に会えて心底ほっとした。いつものように煙草をふかし、ゆっくりとした丁寧な標準語で話す。大丈夫かと訊くとまあ何とかというように返す。ここにいるならそれでいい。
 会うことが怖かった人に会って心が揺れ動かなかったことに寒気すら感じる。記憶に無い感触や温度を思い出してみようとしても出来ない。だからなのだろう。だから何も感じない。幾ら言葉で聞かされてみても実感の伴わないことに感情が追いつかない。

 久々に見るあの方の変わらぬ笑顔が苦しかった。あの方を独占したいなんて無理なのにそれでも思う。態度で示さない分、表で発散させない分、己の欲望はエスカレートしていくように思う。
 心の奥底に埋もれる冷たく凍りついた劣情と執着のかたまり。

 嫌いだと言い切ったあの人に、どこかで依存したがっている自分がいる。あの人に見透かされて、納得させられたい自分がいる。
 あのキスが忘れられないのか。それとも慰めたいだけなのか。未だによく分からない。ただ自分の子供じみた独占欲と支配欲に振り回されているだけなのかもしれない。


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