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2002年10月19日(土) 壊れた記憶/溶けた脳

 朝目覚めた時のいつもと同じ感覚に違和感が無かった。携帯を取り出して着信を確かめて、その瞬間昨夜のことなど思い出しもしなかった。
 つけた覚えの無い傷が体中にある。抱きしめた感覚も抱きしめられた感覚も、口唇や舌の感触も、何一つ覚えていない。
 とうとう壊れたというただそれだけだ。どうしても嫌なら来なければ良いだけなのだから、そういうものだと諦めてしまえばいい。
 我ながら倫理とか公という意識とか欠片も無い。
 思い出せないのはやはり恐怖だ。己がすることなど高が知れているけれど、それでも怖い。誰か教えてほしい、苦笑失笑をくれる前に事実をくれ。
 こうやって少しずつ関わる人が少なくなっていくのかと思うと己に呆れてしまう。

 [謝るくらいならするな]と云われた。酔っ払いに何を云うんだこの人は。抱かれることなんて、接吻られることなんてなんとも思わないだろう。何をされても大人しくされるがままになれよ。
 下衆。
 人間として何かが決定的に欠落している。

 穏やかな時間。穏やかな人。温かい家。就寝前のお話を聞いているようなゆっくりとしたまろやかな気分。うとうとと目を閉じている。

 乾いた声で歌を歌った。咽喉を絞った声で満足に歌えない歌を歌った。脳をアルコール漬けになってしまったのかもしれない。あの声に戦慄のような激しい衝動を感じた。押し倒したくなるような声を出す。


 [思えば、バッチリ酔ってしまう時には、私はいつも居ない気がします。残念…。(ぇ]などといわれてしまう己とは一体何なのだろう。自問自答しながら、答えなどとっくに分かっている。
 単なる絡み癖の酔っ払い。


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