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己は他人が自分から離れていくのが怖い。ひどく怖い。 他人の肉体が己から離れていく瞬間はひどく寒くなる。他人の精神が己から離れるのを感じる時己の中に穴が穿たれる。それはごく小さく、細く、深い。 胸の奥にその穴は在る。その穴に少しずつ、しかし速やかに水が流れ込む。凍った水が鈍く己の身の内を満たしていくのがわかる。水は冷たいというよりは寒いのだ。身を切るような冷たさも痛みも無い。感覚が麻痺するような寒さが流れ込み、己の中が冷えていく。底冷えのする寒さが己を取り巻いて凍らせて動けなくさせる。先ごろ感じるようになった秋の夜のあの底冷えのする寒さを思わせる。 それは己の心が冷えていく、その情景なのだろう。離れていったものを追い求めるだけの情熱を己は持たず、離れるままにしている。それが淋しくないわけではない。だからこそ冷えるのだ。冷やすのだ。心を凍らせて麻痺させてその痛みに耐えようとする。
穿たれる穴の、その中に流れる水の音が聞こえる。
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