長渕剛 桜島ライブに行こう!



歌の価値ってなんですか? (桜島ライブ58)

2004年11月08日(月)

『歌の価値ってなんですか?』−桜島ライブ(58)

                 text  桜島”オール”内藤





ステージの骨組みにバッとかかった帆。
さあ、正真正銘、桜島ライブ最後の歌が始まる!


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M-42 Captain of the Ship (2)
 −アルバム『Captain of the Ship』(1993)−



あのときの自分の感情を、
今、こうして文章に綴りながら思い起こしていると、
なんとも不思議な気分に襲われます。

なぜ、あの前奏の間中、あれほどに、
胸がしめつけられ、
間違いなく、『Captain of the Ship』だとわかった瞬間、
涙があふれたのか。

強い思い入れがあるから、としか今はいいようがありません。
剛のファンなら、きっと、少なからず、
あの歌に対しては思い入れがあると思うのです。
桜島の前も、桜島を終えた今も、
あの曲のCDをプレイヤーに入れ、
9曲目を再生していると、
蘇ってきます・・・・
桜島の強烈な思い出と共に、
1993年のセピア色の思い出が・・・

そう、アルバム『Captain of the Ship』がリリースされたのは、
ちょうど、今頃の季節でした。


ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!



僕は涙をぬぐいながら、
人間の沸き立つ様子を観ていました。
僕のブロック、Aブロックの前方では、
再び人間の波がうねっていました。
桜島の会場の、ほんの先頭の一部の集団でしたが、、
やはり筋金入りの剛ファンが多数いるブロックでした。
一斉に、ヨー!ソロー!の掛け声をふりしぼっていました。

僕はといえば、完全に我を失っていました。
あの循環するメロディが僕を狂わせました。
ヨー!ソロー!と叫ぶ剛が僕を狂わせました。
印象深いなんて言葉では言い表すことができない。
『Captain of the Ship』はとにかく強烈な曲。
初めて聴いたときから、ずっと強烈な曲でした。

あれは、1993年の11月、今頃の季節でした。
当時、僕には、CDショップで働いている仲のよい友人がいました。
ある用事で、彼に電話をしたとき、彼は僕に唐突に言いました。

「長渕、もう、ダメだね」

彼は、アルバム『Bye Bye』の頃までの剛はよく聴いていたそうですが、
だんだんと遠ざかり、もうファンではなくなっていて、
バリバリなファンである僕に向かって、
最近の長渕はよくない、といつも言っていました。
またか・・・と思いながらも僕は言い返しました。

「なんだよ、こんどは何がダメなんだよ」

「ニューアルバムのサンプルかけたの、今日。」

確か、剛のニューアルバム『Captain of the Ship』の、
発売日か、その前日、前々日あたりに、僕らは電話で話していました。
僕は、彼のお店でアルバムを予約していましたが、
まだ、受け取りには行けていませんでした。

CDショップには、注文枚数によっては、
店内で曲をかけるためのサンプルCDが発売元から配られるのです。
注目アルバムである剛のニューアルバムを、
彼のCDショップではかなりの枚数を注文していました。
そのため、サンプルCDが付いてきたという話でした。

「あ、じゃあ、聴いたんだ。どうだった?」

僕は気色ばんだ声で、せかすように聞きました。

「(サンプルには)3、4曲くらいしか入っていないんだけど、
 一曲、スゴイのがあるの。」

「スゴイ? どうスゴイの?」

「もう・・・スゴイの。」

「それじゃわかんないって。いいの?悪いの?」

彼はなぜか、そこで笑いを挟んでから話を続けました。

「メチャクチャ、悪いよ(笑)」

「チェッ、そりゃあ一曲くらい、気に入らない曲もあるさ。」

また、いつもの悪口か・・・と思いました。

「そういうんじゃなくて・・・(笑)
 なんていうか・・・かけられないんだって。」

「かけられない?」

「店長が、止めたもん。CDを。」

「CDを・・・止めたあ?」

まったくもってわけがわかりませんでした。
何度聴いても、彼が言うのは、
とにかくスゴくてかけられない。
店の雰囲気もあって、かけられない。
ヤバすぎて、かけられない。
女性客や中学生とかも来店するから、かけられない。
歌詞がどうとか、覚えてないから詳しく教えられないのがもどかしい。
でも、聴けば、わかる。
聴けば、わかるから・・・と繰り返していました。

翌日、僕は彼が働くCDショップに、閉店間際にかけこみました。
そして、彼本人から、予約特典のポスターと一緒に、
アルバム『Captain of the Ship』を受け取りました。
店の一角には、アルバムのジャケットの写真のピンナップが、
何枚も並べて飾られていました。
その下の販売台にずらりと、
剛のニューアルバムが平積みになっていました。

しばらく彼が帰り支度を整えるのを待って、
一緒に僕の部屋に帰りました。
そして、僕の部屋で、さっそくアルバムを聴いたのです。

「ほら、もう、声がダメでしょ」

バラードを歌う剛のしわがれた声を聴きながら、
友人はそう言っていました。
この頃の剛の声、そして歌い方については、
ファンとして、心おだやかならぬものがありました。
それは、友人に言われるまでもなく、思っていたことでした。

僕は何も言わずに歌を聴いていました。
歌詞カードをパラパラとめくりながら・・・

『泣くな、泣くな、そんな事で』、
そして、『ガンジス』を聴いて、僕はいい曲だと思いました。
それから、同じくいい曲だと思ったのですが、
『12色のクレパス』を歌う剛の声に、
なんだか、無性に不安な気持ちになりました。

僕は『Captain of the Ship』のページを開きました。
なにやら、細かい字がぎっしりと詰まっていました。

(長い歌なんだなあ・・・)

歌詞のとなりに、何かにすがるような表情で祈りを捧げる、
真っ赤な剛の写真がありました。

そして、9曲目のその歌を聴きました。

イントロを聴き、勢いのある、いい感じの曲だと思いました。
続いて、激しい言葉を早口でまくしたてる剛のボーカル。

「ちょっと激しいけど、止めるほどでもないんじゃないの?」

そう言うと、友人はニヤニヤしながら黙っていました。

長い歌でした。
じっと聴いていました。
だんだんと、歌は激しさを増していきました。
矢継ぎ早に、繰り出される言葉に、僕は少しずつ痛みを感じていました。
休みなく飛び込んでくる、その、痛烈な言葉。
僕は、だんだんと、友人の言っていた意味を理解しつつありました。

痛い・・・痛すぎる・・・

3番の歌詞が終わってからは、もう・・・・聴いていられない。
僕は思わず、口を開きました。

「スゴイな・・・」

「だろ? スゴイだろ?」

そら見たことかと、得意そうな友人。

確かに、スゴイことになっていました。
こんなCDが、売られているのか、と今更ながら思いました。
なんだか僕は、打ちひしがれるような気分になっていました。
そんな気分の僕に容赦なく、延々と、延々と、
その歌は、痛い言葉を浴びせ続けました。

僕はこのとき、こう思わずにいられませんでした。

「剛、わかった!
 もう、わかったからやめてくれ!」


心から、僕はそう、思いました・・・
思いましたが、歌はそれからも延々と続きました。

ようやく、長い、長い、あきれるほどに長い、
『Captain of the Ship』がフェイドアウトしていき、
僕のあのときの気持ちを見透かしたかのような、
『心配しないで』という曲が流れ出しました。

やってしまった・・・
剛はやってしまった・・・
えらいものを作ってしまった・・・

僕はすっかり滅入った気持ちになっていました。
『心配しないで』と歌われても、たまらなく心配でした。

「かけらんないでしょ? 店では」

友人が、追い討ちをかけるように言い放ちました。
もはや反論することはできませんでした。

「かけらんないね・・・これは・・・」

剛は行き着くところまで行ってしまった。
どうなっちゃうんだろう、剛は。
僕は呆然と、しかしファンとしてけっこう真剣に、
剛の行く末を案じていたのです。


ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!



今思うと、不思議な話です。
あの頃の、やや異常な雰囲気の漂う剛はどこに行ったのでしょう。
目の前のステージで叫びを上げているアスリートと、
あの頃の剛が同一人物だということが、
僕には信じられない。

そして、あの、第一聴で、あれほど打ちひしがれた曲で、
歌い叫び、拳を振るう僕が、桜島にいたのです。


歌ってなんだろう。

歌の価値ってなんだろう

歌が伝える感動ってなんだろう。


10年ものあいだ、演奏されなかったいわく因縁の歌。
罪を背負って封印されてきた歌。
きしみを上げながら、桜島で眠りから覚めようとしてる。
最後にこの歌が。
桜島ライブの最後の最後に、この歌が。

10年前の、あの、僕の部屋にいた自分。
あの自分からは想像ができないことだけど、
今、この桜島で、僕は震えが止まらない。
あの歌が待ちどおしくて、僕は震えが止まらないのだ。


ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!



剛が、マイクをかざす。

『Captain of the Ship』が、始まる!



続く



<次回予告>
歌に殴られる。歌に蹴飛ばされる。
『Captain of the Ship』は僕を蹂躙する。
歌いながら、叫びながら、体験せよ!
自分との対話という航海を。

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