長渕剛 桜島ライブに行こう!



ボロボロになりたいと願いましたか? (桜島ライブ43)

2004年10月17日(日)

『ボロボロになりたいと願いましたか?』−桜島ライブ(43)

                 text  桜島”オール”内藤





ライブ会場へ向かう人たちの行列なんですが、
仮装行列のように見えるのはなせでしょうか(^o^)。
変な集団ですね、こうして見ると。
ほんと、素晴らしい!
あんなに全身全霊でノレる祭って、もうないかもしれないなあ・・・


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M-30 一匹の侍  −アルバム『家族』(1996)−



『コオロギの唄』を歌い終わったあとの剛は、
けして、お母さんを思い出して、
感傷にひたる感じではありませんでした。

スクリーンに映った剛の顔は、
むしろ、さっぱりと晴れやかな表情です。

まもなく、僕らのすぐ近くの、メインステージで、
「1,2,3・・・」
とカウントを取る声が聞こえました。

バンドのアコースティックギターが、
力強いコードストロークを弾き出し、
剛は、そのテンポに合わせて、

Hey! Ho! Hey! Ho!

と叫ぶ。

反射的に、拳を上げて、同じように叫びました。
拳上げも、なんだか久しぶりな感じがする。
しばらく休ませてから、急に動かしたせいか、
少し、右腕に重さを感じます。

おそらく誰もが思ったように、
僕も、その掛け声から、『三羽ガラス』かと思いましたが、
どうも、メロディが違うように聞こえます。

まるでウォーミングアップのように、
歌の前の入念な腕上げ。
十分に上半身があたたまったところで、
耳をつんざく大爆音が響き、主旋律が流れ出す。

この夜に生き残れ、『一匹の侍』!

母親への思いを天に届けた男は、
思い残すことなく、サムライへと変わるのでしょうか。
一転しての、勇壮な、猛々しいサウンド、
野太い、Hey! Ho! の掛け声が、
僕の鼓膜をビンビンと震わせる。


傲慢無礼さになす術もなく
大切な男が目の前で死んだとき
俺たちは ただ黙って 
指をくわえるだけなのか
己、一匹のサムライ

売られたケンカなら 潔く買っちまえ
天空へ突きぬける 鉄拳をねじり込め
修羅場の向こうの葬式が終わったら 
今こそ、己、一匹のサムライ



言葉をしぼり出すように、剛は歌っています。
「天空へ突きぬける 鉄拳をねじり込め」
といった歌詞に、僕の体は強く反応しました。
歌に鼓舞されて、懸命に
ねじり込むように、高く拳を上げて、歌う。
そして、その一方で、
僕は、確かな疲労を感じていました。

これまでのような、手応えのある疲労感とは違った、
心身に降り積もるような、鈍い疲労感です。
午前3時過ぎ、
さすがに体のバイオリズムが変調をきたしているみたい・・・。


イカサマだらけの この街をぶった斬れ
朝となく昼となく夜となく
骨身を削って 汗水たらせ まだまだ
己、一匹のサムライ



そんな僕の一瞬の弱気に、容赦なく、
『一匹の侍』は、厳しい激を飛ばしてきました。
真夜中だろうと関係あるか!
まだまだ、汗水たらせ!
まだまだ、骨身を削れ!
おまえが一匹のサムライならば・・・
と、綴られた歌詞の手厳しいこと。

その一方で、
もっと、もっと、ボロボロになりたい
という感情が芽生えていました。

あと、3時間あまりで終わるかもしれない。
そこまでに、完全燃焼したい。
拳も上がらず、声も出ないところまで、行きたい。
僕は、そんな、自虐的な思いを持ち始めていました。
『一匹の侍』を歌いながら、
その思いは、切実な願望へと膨らんでいきました。

剛は相変わらず遠くにいましたが、
バンドは僕らのすぐ近くで演奏しています。
遠くの剛に意識を集中していたこれまでから一転、
Aブロックも喧騒の嵐に巻き込まれています。
そのムードは、剛が戻ってくると予感させるに十分なものでした。

はたして、『一匹の侍』の間奏で、剛はステージを降り、
ジープに乗り込もうとしているではありませんか。

とうとう、剛が、
メインステージに戻ってくる!


後方ブロックの人には申し訳ないのですが、
やっぱり、剛が戻ってくるとわかったときには、
ワクワクするような喜びを感じていました。

投げ入れられたタオルの間を縫うように、ゆっくりと、
剛を乗せたジープはメインステージへと近づいてきます。
不思議なことに、
これまでスピーカーから聴こえていたサウンドさえ、
剛が近づいてくるにしたがって、
音質と迫力がグングン増して行くような気がする。

ついに、ステージに剛が上がり、あらためて感じました。
近い! 近い! 剛が近い!
表情がわかる! 気迫が伝わる!

しかしながら、近くで見るからこそ確認できたこともありました。
『Keep on Fighting』でメインステージを去るときの表情に比べると、
剛は明らかに疲労の度合いを増していました。
メインステージでの弾き語りを中心としたパフォーマンスは、
剛の体力をごっそりと奪い取っていたのです。

重要な曲がラインナップされていたということもありますが、
メインステージに比べると、
けして演奏しやすい、歌いやすい環境ではなく、
遠く離れたバンドメンバーとのやり取りも含めて、
実に難易度の高いステージングをこなすことで、
剛は磨耗したのだと思いました。

しかし、体力は奪われても、気力は奪い取れない。
メインステージで拳を振り上げまくる剛の眼は、
よりいっそうランランと光を放っているのだから。

例えば、イチローのバッターボックスに立つ姿に、
僕はサムライを感じます。
江戸時代の侍たちでも、太刀打ちできないでしょう。
そのイチローが、数字と結果の世界のサムライならば、
剛は、パフォーマーとしてのサムライだ。

歌とステージングを通して、サムライになっていく。
歌い叫ぶ姿を通して、サムライを体現していく。
日本刀に近い威圧感を、剛のギターは感じさせてくれる。
武士道に近いメッセージを、剛の歌は伝えてくれる。

『一匹の侍』の世界に触発されて、
そんなことを考えながらも、僕は、
確実にフィナーレに向かって進んで行く桜島ライブ、
その終焉をしっかりと意識するようになりました。

こんな僕でも、潔さというものがあるのならば、
残りの時間に、すべての力を出し尽くそう・・・
すべての思いを吐き出してしまおう・・・

けっして、
悔いが残らないように・・・


願うように、心に誓う僕でした。




続く



<次回予告>
ブライダルソングだけど、必ず学生時代を思い出させる歌。
僕にとっての「雨ニモマケズ」。
僕にとっての、語り尽くせぬ青春の歌。
あの日々を共に過ごした仲間たちは、今も心の中にいますか?

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