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■死産の果て。
2002年07月29日(月)
嫁のつわりは続く。
胎児の生命がなくなったからといって、
この苦しみも一緒になくなるわけではないのだ。

いつものノリなら

「偽りのつわりとはこのことだ」

などと山田君が全速力で座布団を奪いに来そうな
お約束をかますのだが、そういう雰囲気ではない。

(でも山田君は子沢山なんだよなあ…あやかりたいなあ…)

よく「産みの苦しみ」と言うが産まれる筈もない、
見返りなど何もないこの苦しみは何だというのか。

理不尽な話だ。

死産の宣告を受けたショックに加え、肉体的にも
苦痛を味わなければならない彼女が不憫でならない。

それでも嫁は

「お腹すいた」

と言ってきた。食欲が出てきたようだ。

「そうか、何を食べたい?」

「牛丼」

「お前、随分重いもの食いたがるんだなあ」

そう言いつつも僕は嬉しくなって速攻で吉野家へ買いに行った。

「吉野家だー。これにね、卵をかけて食べるんだー」

僕が嫁の分の牛丼を渡すと嫁がそんなことを言った。

「卵」と聞いて、「卵巣」とか「受精卵」といった
今あまり聞きたくない単語を連想させられてビクッとしたが
嫁は全然気にしてないようだ。

僕のほうが気にし過ぎなのだろうか。
じゃあ、僕も卵を…と、気を取り直して冷蔵庫を開けた。

「あの…卵、一個しかないんだけど」

「あら、そう?」

「…いいよ、君に、やる…」

「ありがと」

少しずつ、明るさが出てくればいいのだけれど。

今日もアリガトウゴザイマシタ。

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