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■鎮魂。
2002年07月27日(土)
胎児は死んだ。

嫁からメールでその事実を聞かされた時の唐突さは
数年前に癌に犯されて入院していた親父を見舞った時、
医者に別室に呼ばれ、

「長くてあと1週間でしょう」

と言われた時と同じだった。「えっ?」としか言えなかった。

死の宣告は突然であり憎たらしい程正確だ。
親父はその日の夜、死んだ。

胎児も2週間前は90%大丈夫でしょう、と言われていたのに。

命はかくも脆い癖に、
夜寝ても朝当然の如く起き上がって歯を磨いたりしている自分の、
馬鹿みたいに無駄な惰性は何なのだろう?

理不尽さに天を仰いでも、どす黒い夕焼けが経血を連想させ、
逃げるように家に帰った。

家では、只でさえ泣き虫の嫁は滂沱。
僕はずっと嫁を抱いていた。
それしか慰める方法を知らなかった。

母体に原因がある、という、嫁にとっては刃物に等しい言葉を
投げつけた産婦人科医を呪った。

産婦人科医は、嫁の目から流れる涙とすすり泣きの音を知らないだろう。
昼の患者とは別の女陰から流れる蜜をすすり上げる音を立てていることだろう。

嫁はずっと泣き続け
僕はずっと抱き続け
闇がどんどん重くなってきて、疲れて、何時の間にか寝た。

たった7週間だけ僕らの元に降りて来た命は
そんな脆い僕らを表していたのかもしれない。
今日もアリガトウゴザイマシタ。

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