銀の鎧細工通信
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2009年06月22日(月) 097:幾重にも重なる暗い夜を越えて (遊戯王 御伽×城之内×御伽)

 
 俺だってヘコむ日くらいあるわけで。とにかく疲れて疲れて疲れはてちゃって、もう全部嫌になる日だってあったりするわけで。 そんな時にタイミングよく声をかけてくる奴がいたりなんかしちゃって。「飯、食いに来ない?」だなんてさりげなーく、何食わぬ顔でさ。
 膝に突っ伏した姿勢のまま、目だけ上げて盛大に溜息。だってその飯は美味くて、部屋は明るくてきちんとしてて、でもちょっとどっかがらんどう。そこがまた居心地がいいっていう居心地の悪さ。
 「はあ。御伽やっさし」
 「普通だよ」
 印象的な緑の目を更に大きく丸くして、御伽は肩を竦めた。そんで笑ってみせる。そりゃもー完璧な笑顔。鮮やかの一言。お見事、と云う代わりに俺は小さく鼻を鳴らす。
 優しいのは事実。料理が上手くて、丁度いい距離感で丁度よく優しくて、何気に面倒見が良くて、でもお節介というほどじゃなくって、ほどほどに綺麗好き。顔も可愛い、ていうか綺麗系?睫毛なんかぶわーっと長くて、髪はツヤツヤのサラサラで幾ら触ってても飽きない。辛抱強くてマメで気が長い。慎重だし冷静、そもそも頭がいいっぽい。俺にはないもんだとか無理っぽいもんばっか持ってる。
 「なあ、なんでそんな何でもできんの?」
 「器用貧乏なだけだよ」
 否定しないんだから嫌になる。
 たぶんこいつが最初に俺に興味を持ったのは「カテーカンキョー」ってヤツなんだと、思う。どうしようもない親父抱えて二人暮らし。殴られて蹴られて生活の面倒全般みてやって、もっともオレは鞭とかは流石にないけど。セイシュンってのに影を落とす血縁の存在。別に何も珍しいことじゃない。
 「くやし…お前のダメなとこ数えよ」
 何それ、という不満の声を無視する。お前が持ってなくてオレが持ってるものがきっとあんだろ?でなきゃなんでオレのこと好きだとかゆーの?同類相哀れむってヤツ?そんなの真っ平だ。いや悪いばっかでもないとは思ってる。悪いばっかじゃねーんだよ、たぶんそういうのはさ。
 「超インドア、出不精で軽く引きこもり入ってる。凝り性でオタク気質バリバリ。センスは突飛なくせに根暗でネガティブ」
 ひどいなと呻く声がする。本気で怒らないのなんか判りきってる。それがムカつく。
 「器用貧乏」
 「それさっき俺が云った」
 どさりとソファの背もたれに頭ごと上半身を預けた。腕で額を押さえる。蛍光灯が目障り、顔なんか見られたくない。 
 「お茶いれよーっと」
 「………」
 察しもいい。オレ甘いのがいい、そう声を上げると少し離れて返事が寄越される。近くから御伽の気配が消えた。ふっと気が緩む。確かな体温だとか存在感だとか、質量がなくなる。気楽なのに、心許無い。
 「実は結構ヘタレ、カッコ付けのくせにすぐふにゃふにゃしだす、押しに弱い!」
 キッチンにまで聞こえるようにと、どんどん声が大きくなる。
 「そろそろ泣きそうだから、やめて」
 不意に声が近くなった。腕を外すと湯気のたつマグカップをふたつ持って御伽が苦笑してる。ほんと、嫌になるくらいきれいな笑顔。
 「すぐオレを甘やかす」
 熱いよ、とカップを手渡して腰を下ろした。床に座ってソファに寄り掛かる。たぶんオレの目付きは物騒だったろう。御伽に見られなくてホッとする。
 「それってダメなとこ?」
 手近な雑誌を引き寄せて適当にめくる。真剣に詰め寄らないこいつの、弱さ。
 「ダメじゃねぇけど、ダメ」
 「わがまま」
 御伽が笑う。肩と髪が小さく揺れる。お前は臆病で、だからいつも他人のこと探ってるし、注意深いから優しくもできる。根っこのとこで半端なくビビり。
 「オレに嫌われるのが、怖い?」
 本当にちょっとだけ、微かに肩が震えた。他人を観察してるのならオレだって同じなんだ。
 「怖いよ」
 はぐらかすかと思ったら、意外なことにあっさり認めやがった。云い過ぎたかな。こいつはネガティブスイッチ入っちまうと殻に閉じこもるから面倒。静かに自閉して、喚かない泣かない怒らない、本当に静かで見た目はいつもと変わらない。だから、すげー厄介。
 ばかだ。ばか。ばかばか、
 「ばーか」
 やべえ口に出た。でもまあいいや。そんな、なんか妙に寂しそうな背中とかすんなよ。見てる方が寂しくなる。後ろから首ったまにかじりつく。あーこいつの髪ってなんかやたらイイ匂い、とかオレはぼんやり思う。泊まって風呂借りて、同じシャンプー使ってもオレのとは違う。
 「なんで城之内が泣くの」
 泣きたいのは俺の方でしょ、と呟く掠れた声が肩に押し付けた額から伝わってくる。
 「うるせー。オレは弱ってんだよ」
 目の奥がぶわぶわと熱く歪んでる。風邪ひいた時みたいに顔に力が入らない。鼻をすする。御伽は軽く溜息をついて、ティッシュケースを引き寄せた。数枚引き抜いて、ほらと押し付けてくる。
 優しくするから優しくしてよ、ねえ。
 オレもお前も決定的に飢えてるもの。圧倒的に足りないもの。きっと絶対永久に満たされきることなんてないもの。たぶんこいつは解ってて笑う。解ってて肯定する。受け入れる。いつもと変わらない顔して線を引いてる。そう云うと「城之内は笑って線を引いてるよね」だとか応えやがる。そうかも知んない。どうだろう、自覚なんかない。
 「御伽、おとぎ」
 「なぁに」
 「おとぎオトコマエ、ちょうイイ男」
 ティッシュでぐしゃぐしゃ顔を吹きながら、それでも抱き付いたままでなんとか云うと、御伽は吹き出してくすくす笑う。
 「ありがと」
 呆れたような、でも満更じゃないことくらい判る。ちょっとクセのある、やさしい声。
 「大好き」
 駄目押し。
 「うん」
 そこは「うん」じゃねぇだろ。すげー穏やかな声。こいつこのまま死ぬんじゃねえの、ってくらい。
 オレたちがやってるのは馴れ合いだろうか?傷の舐め合いだろうか?それだけでこんな一緒にいたりできるモンだろうか。こいつはたぶん本当にオレのことが好きで、
 愛してあげるから愛して。
 ろくでもない考えばっかり浮かんでくる。オレは確かに飢えてて、でもそんなないものねだりには際限なんかないんだ。オレに見える色が、こいつにも見えてるような気がしてるだなんて、願望だろうか?
 遊戯を抱きしめた時の、何とも云えないくすぐったいようなあったかい感じとは違う。本田と肩を組んだ時の、眩しいみたいな力強さとも違う。杏子が飛びついてきた時の、きらきらチカチカしてうれしいのとも違う。御伽は抱きしめても抱きしめても足りない。届かない感じがするんじゃない、しっくりきすぎて、馴染みすぎて、あんまり気持ちいいからもっともっとってなる。オレこのまま死ぬんじゃねえの、ってくらい。
 御伽のきれいな笑顔が好きだ。すげー気持ちいい。小首を傾げて笑いかけられると、もうなんでもいいやって、全部どうとでもしてやるって、そう思う。静香に対してもそう思うけど、そういう責任の重さみたいなのが、御伽に対しては、ない。
 たぶんオレは愛とか恋とかわかってない。わかってないけど、それでも御伽とこうやって過ごす、胸が苦しいような夜が好きだ。色付きの薄いセロハンを何枚も何枚も層を重ねていくように、どこまでも静かで、それはきれいなものなんだ。オレにとっては、確かに。








END


遊戯王初SSがオトジョオトっていう圧倒的マイノリティ。
御伽くんが好きです、大好きです。
遊戯王はリアルタイムで読んでて、またここ数年相棒のお陰で2525でアニメ映像とか見てたりしてて、元々好きではあります。それが書くまでになるとはねえ・・・笑。
CPは社長総受け。でも愛されてなくていい。闇海贔屓。闇海前提の城海が次点。表海も表城も闇城も好き。基本的に城之内は攻め。なので御伽くんともリバっぽいのが良い。
BGM、イメージは東京事変「落日」



 


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