銀の鎧細工通信
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2009年05月10日(日) 064:甘い言葉は鋭い牙のようなものでしかなく (山土+トッシー。歪んだあなたへの100題)

年上
上司
おとこ

俺の好きな人



 限度を知らないマヨ異常者だとか、すぐに怒鳴るわ殴るわで二言目には「斬る」か「切腹しろ」のブチ切れ野郎だとか、度を越した負けず嫌いの意地っ張りだとか、それはもう構わない。柄が悪い、目付きも悪い、言葉遣いも悪い、足癖も悪い、きっと肺も悪い、クールに見せかけて熱血だったり、何でもひとりで背負い込もうとするし、それに疑問も抱かないし、直ぐに自分を粗末にするし、底抜けにタフで、正直で、ひねくれてて、義理堅くて、理不尽で、横暴で、風流好みのロマンチストだったりとかして、死んだように眠る人。それこそ自分の感情に気付いた時には「ちょ待てよ俺、なんでよりによってあれ?」と散々脳内検討会を繰り広げてもみたけども、そんなことも、もう、いい。
 信仰じみた片恋を、一生口に出さずに済まそうとしている人だから、俺も黙って側にいようと思ってた。なのにあんまりぐだぐだぐるぐる焦れったい上に、情けないくらいふらふらしてあっちこっちでちょっかい出したり出されたりしてるから、つい俺も黙って見ていられなくなった。それは遣り方を誤ったけど問題じゃない。
 そんなんじゃない。
 問題は、ただ

 「つまり僕が思うに、あのギミックにはー」

 こいつだ。

 たまにはこいつに思い切り羽を伸ばさせないと暴走するから、と副長は気にしている。疲れがたまってくると尚更出てきやすいらしい。今更公然のことではあるのだが、やはり堂々振る舞わせる気にはならないのだろう。そりゃそーだ。あの人に耐えられるわけがない。俺だって嫌だ。
 そこでお鉢が回ってきたのが俺だ。互いの休日をすり合わせ、こうして雑談諸々に付き合う。
 確かに話はできる。他言もしない。だけど、だけど
 「ねえ、そろそろあの人、返してくださいよ」
 あの人と同じ顔して、同じ声して、ホントなんだこれ。
 俺の目の前にはアニメ雑誌からコミックスからアニメDVDから、とにかく大変なものが大変な量で入り乱れて広がっている。
 別人であるオタクの霊に憑かれているわけではなく、これは呪いの一形態らしい。はじめのうちは俺の言動とかこの人の反応だとかを、全部見られてるんじゃないかと気が気じゃなかった。沖田隊長ならいざ知らず、俺にそういう性癖はない。だがしかし、これは乗っ取られているとはいえ副長であることにはあるらしく、でもって記憶の共有はしていないらしい。ただたまに覚えているものもあるのがますます始末に追えない。
 あの人が抱え切れないものを受け入れるのはやぶさかじゃない。それを向けられるのは、いつでも何処でも何ででも俺であればいいとか、割りと真剣に思ってる。
 でも、じゃあ、俺の抱え切れないものは誰が聞いてくれるんだ?これではあんまり遣る瀬無い。
 「何度も云っているけど、僕は土方十四郎だよ」
 やれやれ、と呆れかえったわざとらしい素振りで嘆息される。ぱさ、と黒く濡れたような髪が揺れた。慣れてくれば、正直少し面白い。見たことも聞いたこともないような表情や声を、こいつは惜しみなくさらす。
 そうだとすれば、こいつの相手は尚更俺がやるしかないじゃないか。
 こいつは、残念ながらあの人の一部だ。あの人じゃないけど。そして俺はこいつに恋もしてないけど。でも同じ人間。
 俺の愛を試してるのか?
 ホントなんなんだこれは。
 「判ってます。いや判んないけど」
 俺は盛大な溜息をついて、目の前の「別の」土方さんの散乱させている漫画を手にとってぱらぱらとめくる。好きな人と仕事の話しぬきで?好きなようにうだうだしながら一緒に過ごして?なんてまるで理想的な休日のつかいみち。涙が出てきそうだ。
 「別人格・・・ってんでもないんですよね」
 「どうだろう。そうだね・・・、僕はそもそも刀に残った怨念が宿主の存在によって形を成したものだから、人格と云えるほどのものではないんだと思う。単なる具象っていうか。だから、厳密に云えば十四郎でもないんだろうね。なんでもないもの、たまたま喋る空気みたいな」
 手にしている雑誌から顔を上げ、真っ直ぐに俺を見ながら言葉を紡ぎ、真剣に首を傾げてみせる。
 恋ではない。でもこいつのことが嫌いなわけじゃない。
 あの人にだって好きじゃない面も理解できない面もある。全部好きで、総て受け入れられるほど俺はお人よしでもない。そんなことできるのは局長くらいのものだ。ただ俺は、この人はこういう奴だから、と苦笑して遣り過ごしたり、目を伏せて諦めているだけだ。好きになれないものが、必ずしもイコールで「嫌い」になるわけじゃない。
 全く遣る瀬無い。こいつはこいつで、下手すれば副長本人より余程話が通じる。キモオタではあるんだけど、憎みきれない人間臭さを持っている。なのに、自分がただの具象だとか、云う。いっそ自分は確かに土方の一人格だ、と開き直ってくれた方がまだマシだ。あの人の顔で声で、自分はなんでもないものだと云う。
 俺の愛が試されているのか?
 ふ、とかすかな笑い声がもれる。顔を上げると、「別の」副長が目を細めて俺を見ている。こういう穏やかな笑い方を、あの人はしない。本当はするのかも知れない。見せないだけで。
 「なんですか」
 「いやね、山崎氏は大層十四郎のことが好きなんだなあ、と思って」
 「あんたのことでしょ」
 不貞腐れた声で応えると、ぱちりと瞬いてから「僕のことじゃないでしょ」と苦笑する。ああ、止めて欲しいそんな顔は。あの人が表に絶対出さないように努めているものを、軽々と目の前に晒さないでくれ。ますますあんたのことが憎めなくなる。遣る瀬無い、あの人がこいつで、こいつがあの人で?偏ったあの人の一部。
 「あっ、これいいなあ。新作だ」
 手元を覗き込むと、プラモデルのことを云っているらしい。
 「へえ、最近のは随分細かいんですね。面白そうだなあ」
 「そうなんだ。パーツを切って、切断面を削って整えるだけでとても時間がかかるよ。そこがまた、いいんだけど」
 あ、今の顔は見たことがある。局長に『あんたはホンットにしょーがねえな』と笑って見せるときの顔だ。苦さを頬にはりつけているけれど、目の色がもうどうしようもなく感情を表してしまっている時の。その、目の感じ。
 俺はつくづく、どうしようもないほど、あんたに弱い。甘い。甘くしたいと思ってる。甘やかしたい。その自分の気持ちが、ほとほと苦い。
 「今度一緒に作りましょうよ」
 「ほんとうに?それはうれしいな」
 見知らぬ精緻なプラモデルができあがって部屋にあるのを見たら、あの人はなんと云うだろうか。俺を殴り倒すかも知れない。不条理な話だけれど。でもいい、知ったことか。俺の休日を、自分じゃない自分に宛がうような男だ。俺の気も知らないで。いや違う。俺の気持ちを知ってるからだ。知ってるから、そういうことをするんだ。心底、どうしようもなく、性質が悪い。ひどい。ひどい男だ。とうに知っている、そんなことは。
 所望の品をいつも持ち歩いているメモ帳に書きとめる。目をキラキラさせてそれを眺めながら、彼は云った。
 「山崎氏、僕は案外すんなり消えるかも知れない」
 「なんでです」
 「これじゃまるでリア充だから。こんなでは、怨念は持続しないよ」
 自分の願望は置いておいて、聞く側が切なくなるようなことをあっさりと口にするところは、やっぱりあの人だ、と思った。もっともっと、幾らでも傲慢にのさばって見せればいいものを、自分のためにはそれをしようとしない。決してあなたは。土方さん。
 「それに僕だって、十四郎のことが好きだ」
 


 それはチャンネルが切り替わるように、唐突におこる。すう、と目付きが変わるのを俺はただ見ている。帰ってきたな、と思う。灰皿を差し出すと、黙ってそれを受け取る。ああ、あなただ。
 俺の気持ちを全部解ってて、それを利用する人だ。
 「全くずるい人ですね」
 肩をすくめると、「お前ほどじゃないさ」と観念したようにふっと笑う。
 あなたのやましさ、罪悪感、後ろめたさに俺は付け込むし、あなたもそれを見逃さない。付け込んだ俺の腕をすかさず摑まえてしまう。
 「山崎、感謝してるよ」
 ああ、俺は切り裂かれる。
 あなたたちの牙に。













END

トッシー初書き。うんもうね、言葉遣いはサッパリ判りません!にこ。
実体でオタク生活をエンジョイしてる彼だけど、いろいろ判ってたらいいなーと思いました。土方があってこそ、自分が派生してるって、知ってると、いい。土方だけど、土方じゃない。
で、書いてて思ったのは、ああ、山崎が補完される場所が見つかったなーということでした。うちの山崎は粘着質で忍耐強いです。それこそとことんタフでしたたか。だから土方のぐずぐずぐだぐだっぷりについて行けるし、見放さないし、土方もそれはわかってる。
近藤さん←土方←山崎
の構造でも、うちの二人は落ち着ける気がしています。
でもねえ、山崎好きとしては報われないわけで。いえ山崎としては報われてるんですけど、書いてる私がね。もちっとザキ報われていいんじゃねーの?みたいな。そこを補うのがトッシーかも知れません。土方にじゃないと、うちの山崎は充たされない人なので。でも土方は絶対そういうのなかなか出さないでしゃあしゃあと近藤さんばっか見てていっぱいいっぱいだし。

いや、楽しかったです!


追記
コミックス読んで手直ししました。少し。
いやー屋台の話といい、かなり好きな一冊だった!
ていうか本誌から離れて、コミックスで初めて読むのも面白いものですね。わくわくします。
でもって、改めて本当に空知が好きだと思いました。銀魂が好きです。面白いです。愛しいです。
5年生然り、終わりの話が出てきてますが、さびしいなあ。
銀ちゃんねるで書いてた坂本の話とか忍者の話とか全然出てきてないままなんですけどおおおおおおお!!!!!空知ってば明らかに月詠ちゃん好きだよねえええええええ!!!いや、あたしもだいっすきです。彼女。

しかし切ないなあ。トッシーが随分すきになるシリーズでした。
で、土方を解放するために「誰も俺の前は走らせねえ」とか、あんなカッコイイ顔しちゃう近藤さんに、土方じゃなくとも胸どっきゅん★です。ほれてまうやろ!あほ!
土方のために走る近藤さん・・・もう土方はきゅん死にしてしまえばいい・・・!
で、総悟は何着てもかっこいいですね、あの子www山崎のモヒカンもモヒカン好きとしてははあはあしました。かっこいいーーーー!!きゃーーーさがるーーーーー!!!
トッシーの供養をちゃんとやるとか、たまんないなあ・・・。土方って結構最初からトッシーを自分のヘタレた一部分、って見てましたよね。
好きになった途端成仏とか、あんまりだ・・・!上の話は公式決定戦前ってことでお願いします。

あ、あと最後のほうは伊東を思い出しました。すっごく。伊東・・・好きなんですよね。大好きなんですよ。生きた証なんか、いいのに。ただ生きてれば、いいのにさ。

結論:お通チップカードをコンプリできるほどの経済基盤。そうだ、あいつら公務員だった。経済力がそれなりに安定して確立してる真選組萌え。


 




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