銀の鎧細工通信
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2006年09月10日(日) 爪遊び (アレンラビ)

食堂がなにやら騒がしい。
数の少ない女性はエクソシストとファインダーの間の隔たりなく、仲がいい。
「この色かわいくない?ねぇちょっと探索の時に買ってきてよー」
「ばか、遊びで行くんじゃないのよ、あんたの方が強いんだから自分で行って来なさいよ」
「無理無理ー急な任務のときに居ないと怒られるもん、エクソシストだと外出もままならないんだからね、やんなる。ねえ?」
「そうなのよねー、出て行っても大騒ぎでさ、早めに任務切り上げて買い物しようと思っても、直ぐ帰って報告しろ、だもんね」
「あたしらだってそうだよ」
「でも聞き込みとかの振りでいけるっしょ、お願い!明後日から任務でしょ?」
「うっわ、仕方ないなあ。じゃあ帰ってきたら奢ってね、あんた謝礼の代わりにーとかって偉くいい酒貰ってきてたじゃん」
「げ、ばれてた?」
「ファインダーなめんな」
軽やかな笑いがひらめくようにはじける。
「なになに、何の話さー」
持ち前の好奇心から声をかけるのは、いつもラビだった。
「あ、ジュニア。新色のマニキュアの話」
「口紅もね」
「秋冬物のファンデも!」
一気に起こる返答の波に、わかったわかったと両手を顔の横に上げた。
「確かに買い物には不便だよなぁ」
と、自分も欲しい本だの服だのを思い浮かべて返答する。
「でっしょお!?やっぱラビは解ってるわ。お偉方なんてアレよ?」
「そうそ、戦争に着飾ることなど不用だ」
「うわっは、似てる!やばい似てるよアンタ!」
「いつの話してんのよって感じだよねーこちとら命かけてんだからさ、ソレ相応に楽しみ無いと、頭おかしくなるっての」
またしても湧き起こるやかましさに、思わず後じさった。困惑しているラビをフォローする意図はなく、むしろ「僕も欲しいシャンプーあるんですよねぇ・・・コンディショナーはこの間こっそり仕入れたんですけど、シャンプーが切れそうで・・・」と首を突っ込むのは、アレンだ。
「えー!なになになに、アレンくんてばどこの銘柄!?」
いつもラビがあっけに取られるのは、アレンのこういうところだ。世慣れていて、あらゆる世代にうける話題のカードを持っている。取り分け、妙齢の女性への対応の巧さには、師匠であるクロスの尻拭いをさせられる対象の大半が女性だったことをうかがわせた。
「もう、話のわかる男って、悔しいけど癒されるねー」
「だよねぇ、むさくるしいチームだとこっちばっか気ぃ遣ってホントしんどい」
「アレンとかと一緒に任務行きたいよー」
あはは、光栄です。ねえラビ?と矛先を向けられる。
「え?ああ、そりゃむさくるしいヤローどもとより、綺麗なおねえ様との方が楽しいさ」
口にすれば、間の後に揃って溜息を吐かれる。
「つったって、あんたはブックマンといつも一緒だからねぇ」
「花がない!花がないよアンタの青春には!!」
「かわいいのに勿体無い!」
ともすればセクシズムというか、セクハラ満載の遣り取りに、戦争の過酷さの中で抱えるストレスがうかがえた。
「もう、ここ座んなさい二人とも、急ぎ?」
「いいえ」とにこりと微笑みながらアレンは素直に腰掛けた。こわごわとラビも腰を下ろす。
他愛ない話を交わしながら、ふとアレンの隣に腰掛けるファインダーが「アレンくんてば、綺麗な手してるのね」と云った。
手、という言葉にアレンがぴクリと反応する。片方は異形の手を持っているのだ、過敏になるのも無理はない。
見透かしたかのように、
「あたしにしてみればね、そっちの隠してる手だって、あたしらを守ってくれるありがたい手よ?大切な手なんだからね」
と穏やかに微笑みかけた。
「そーよ、色々いるんだから、ここでは気にしなくてもいいんだよ」
と同調の声があがる。
弱々しく微笑み返すのを、ラビは横目で見ていた。
「ちょっと見せて?ね?」
おずおずと両手を机の端に置いた。
「よし!」と云って小さな小瓶を手にとる。2人がぎょっとすれば、周囲の女性たちは理解した!と云わんばかりに、まあまあいいから、とラビの横にもすかさずエクソシストが座った。
「止めてくださー・・・!」
云い終わらないうちに、アレンの手袋が数人に抑えられて奪われる。
「おい!お前らちょっとやりすぎさ!」
(うわあ、陵辱だぁ)と思いながらラビは口を挟み、その際に自分の手もきちんと机に並べて置かれたことに気がつく。「・・・あり?」
「大丈夫よー怖いコトないからねぇ」
とぎらついた目をした女に囲まれて云われても、それは脅しでしかない。
「アレンくんにはこの色どう?」
誰彼ともなく、マニキュアの小瓶を取り出して手の横に並べてみせる。
「それはラビ向き、あんたのセンスはビッチなんだもん」
「失礼ねーセクシーって云ってくれる?じゃラビこれね」
「え、でもこれもよくない?」
「ああ、じゃあラビは色全部変えちゃおう!」
「いいね、そっちのが似合う似合う」
「ほーら、ジュニア、多様な側面を持つ男、ってことでどう?なかなかニクイと思うけど?」
と妖艶に微笑えまれれば、「好きにしてください」としか応えられない。よく判らないし、ましてやビッチだからラビ向き、という単語にも複雑な気持ちになる。
「あ、私いいの持ってる」
と1人が差し出した小瓶は、柔らかで深みのある薔薇色だった。
「えー何、色名がイングリッシュオールドローズだってさ、いいじゃんコレ、アレンに似合いそう」
咲きかけの初々しい薔薇の蕾、朝露に濡れたような輝き。けれど爪に施されると、それはこっくりとした深みと、飾らない強さのあるまさにオールドローズのような色だ。
「こっちの手には、コレかな」
差し出されたのは、朝の光に照らされた雪のような輝き。白とも銀ともつかない色味のものだった。思わずラビが
「それいいさ、アレンの髪の色と同じだ」
と云えば、周囲はにこにこと嬉しげにした。アレンはただ微苦笑を浮べているばかり。
人間を愛する手には薔薇色が宿り、アレンの淡い色素にそれは上品に映えた。
アクマを壊す手には白銀色が宿り、毒々しい赤の手の先で静かに爪を彩った。
ラビといえば、
右手の親指は「目の色と似てる!」ということで偏光で緑が光るパールブラウン、
人差し指は「じゃあグラデになるし」ということで深い深い森の緑、
中指は「目立つから」と黄緑の大粒ラメ入り、
薬指は「ホラホラこのラメに似合うよ!」と小粒のラメが上品な黄色、
小指に「あーいい感じにグラデになったじゃん」と差し出された「これ高かったんだよね」なパール入りのゴールド。
左手は「ビッチとかいわれたし」な鮮やかなクリムゾンレッドを親指に、
人差し指は「じゃ私の勝負色ね」とワインレッド、
中指は「わはは!ラビ色っぽいよー」と笑われながら出てきた同じくラメ入りの深い赤紫、
薬指に「これいいじゃん、エロい。ペディキュアとかでよくない?」と云われながら滑らかな青紫、
小指には「こっちの手は落ち着きがなすぎ!」と偏光シルバーの紺色。
赤系統で結局鮮やかなグラデーションになった。

2人の指先に丁寧に丁寧に塗られた。
乾くまで、とアレンはイノセンスの宿る手を晒し続けねばならなかったが、慈しまれるように施された色は、優しい想いのこもったものだった。
赤く引き攣れた皮膚に死んだような黒い爪、それが白く輝くだけで、少しは生きたものだという実感を呼び覚ます。
「案外、ゴツイ手にも似合うものですね」
としみじみとした言葉に、「ゴツイって云ったって、2人なんか若いし骨格できてないし、この中じゃ可愛いもんよ」と肩を叩かれた。
他愛なくかけられた魔法。
気にすることなどない、隠せるのだから。こんなにもささいなことで、変わる見た目。
「例えばさ、きっつい任務の後でね、爪の間に入った泥とか綺麗にしてさ、こうやって色塗ったりすると気が紛れんのよね」
「アクマの血でべったりーとかでも、リセットできるような気がすんの」
穏やかで、どこか悲しげな響きが入り混じっている。
「ふぅん・・・こんなに手間のかかるモンなんだな、知らなかったさ。綺麗に塗って、しかも乾かすんだろ?他のコト考えずに没頭できるかも知れないさ」
ラビが両手をひらひらさせて乾かしながら、素直な感想を洩す。
「そうそう、本気になりすぎて、途中から何で化粧をするのかよりも、化粧すること自体に意識がいっちゃうのよね」
「あ、あるある。何で任務に行くのにこんな完璧にベースメイクしてんの?あたし、とかね」
2人の指先にかけられた丁寧な祈り。丁寧な願い。
時に気を紛らわせ、時に自分は大丈夫だと彩り、鼓舞するもの。
女だろうが男だろうが、それは人それぞれで、色々ある。カードにしたってチェスにしたって、自慢の髭を丁寧に整えるのも、団服にアイロンをあてるのも、髪をセットするのにも。
丁寧に丁寧にこめられた、祈り。
この日々を生き延びる祈り。
少しでも心を守る、願い。
戦っていくための、願い。




もう乾いたからいいよ、と解放されて、2人はヨロヨロとアレンの部屋へと向かう。
「女によってたかられてたらしいじゃねーか」というカラカイには、手を上げて見せれば爆笑で内容が知れる。とりわけ色とりどりのラビの手には、「こりゃまた弄ばれたなぁ」と同情すら寄せられる。
部屋に入りドアを閉め、鍵をかければ2人はどっとベッドに倒れこみ、狭いですよ、お前こそ、これは僕のベッドですよ、と云い合いながら何となくじゃれ付き始めた。
アレンがラビの服を脱がせる時に、ぴたりと手を止めて「不思議な感じがします」と小さく笑うので、「リナリーに除光液でも借りてくるか?」とラビは云った。
「いいですよ、なんか、勿体無いし。ちょっと面白いですもん」
妙にアレンが嬉しそうなので、「あ、そ?」と云ってラビもアレンを脱がしにかかった。
髪をなでられながら、アレンの股間に顔をうずめていると、不意に顔を持ち上げられる。「それ、見えるように舐めて下さい」とラビの爪を指差してにっこりとした。
「うわーアレンが倒錯的な味を覚えてしまったさ」
とぼやきながらも、わざと爪が見えるように手を動かしながら丹念に舐める。
指を体内に入れられれば、ラビは「これ、はがれて体ん中に残ったりしないよなぁ、アレン爪、はがれてないさ?」と何度も訊いた。「大丈夫ですよ、ホラ」とローションにまみれてぬらぬら光る指先を見せ付けた。
アレンに入り込まれながら、ラビが目を見開き、その後に笑い出した。目を見開いた時点で「痛いですか」と訊こうとしたアレンの口はぽかりと空いたままだ。
「ああ、これさ」
おかしそうに笑い始め、(ラビは何か他の事に気を取られると、すぐ集中力がなくなってしまう)とアレンは腰の動きを深くした。ラビが悲鳴のような短い声をあげる。
「何がですか?」
そうしてわざと何でもない風に相槌を打つ。
「何でこんなことしてんのか、ってよりも、こういうことする自体に意識がいっちゃうんさ」
喘ぎながら、涙目で笑ってみせた。
「それは単にラビがセックスがスキだってことじゃないですか」
と意地悪く云いながら異物を押し込む、引いてはまた突き入れる。
「そ、うだけどさ、変な理屈つけるよかマシさ、ただしたいんだから」
爪が覗くような浅さでアレンの指を口に含み、舐めながら、応えた。





END

秋っぽいマニキュアが欲しいと思って書いたので、台詞ばっかり続く野暮な一作。
でも、あっさりとアレラビが書けましたわ。神田ラビは難しかったものなー・・・。


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