銀の鎧細工通信
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2006年06月04日(日) 混沌 (沖土→近)

梅雨の雨が静かに重く降り続けて、止まない。
傘を持って巡察に出ても、ブーツが弾く水飛沫で隊服の裾が重い。
両足を引きずるように歩く。
(重い)
今日も近藤は幕府の会議に呼ばれて行った。「俺ァ本当に堅っ苦しいのは苦手だよ」と苦笑しながら出て行った。あんな顔、本当は見たくなかった。本当に見たくない。
(重い)
隊服が、あれほどしがみついた刀が。
ぬかるみに踵が沈み込む。刀と、俺たちが居られる場所があれば良かっただけなのに、どうして、あの時手にした鍵はこんなにも重い?あんたを大将で居させるためだけに、松平に道場ごと売り込んだのは、俺だ。
傘越しに見る街並みが歪んでいく。
(あんたのための、あんたを連れてく領地・・・)
莫迦騒ぎを続けた道場での毎晩のような宴は、いまだに昨日の事の様に愛しいのに、それが静かな雨に削られ、壊れていく。過去の、記憶の、跡地として。
土方は咥え煙草の奥で舌を鳴らした。感傷なんてくだらない。雨に流されるような追憶なんて不要なだけだ。手に入れた立場で、残った物をがむしゃらに振って、貫いて、時代の流れとやらごと斬り続けるしかない。
もうこの国に侍なんていないことになっている。紛い物でも偽物でも、田舎道場の成り上がり、芋侍、幕府の犬、どう呼ばわれても、勝ち取って、閉じようとするドアを蹴破って突き進んできたのだ。
乗っ取られたこの国の混沌に乗じて、生き残ったのだ。
溜息の代わりに煙を吐き出すのに、慣れた。

「副長のお戻りです」
門の番をしている隊士が大声で告げる。
(ああ、重い)
自室に戻る途中に、玄関で脱いだ靴下を洗い場に出し、茶器の揃った盆を炊事場から持って行く。
「あーあ、何だィ土方さん。ずちゃずちゃじゃねェですか」
気配を殺していたのだろう、全く気が付かないままに足で開けた襖の中から落ち着き払った低い声がした。驚いて盆を取り落としそうになる。
「何でてめーはここに居るんだ」
冷静を努めても、押し殺してドスを効かせた声は裏返った。
ポーカーフェイスを意識している土方のこの癖を知っているのは、奇行と蛮行で驚かせたり怒らせてばかりいる沖田くらいのものだった。時々それをからかうものの、「それ位人間臭さがねぇと可愛げが無いですぜ」などとしれっと口にする。そう云う沖田こそ人間臭さが無い男だというのに。
「何云ってんでさ、俺ァ療養中の身でぇ」
と寝転んだまま足を軽く持ち上げた。折れた足は、軽度の粉砕骨折で、完治までに時間がかかる。
「あのチャイナは3日で骨がくっついたそうじゃねーですかィ、全く不平等な世の中だ」
わざとらしく溜息をついて見せた。
夜兎族は回復力にも長け、弾丸が貫通した程度では1時間もあれば治ってしまうと聞いた。何とも便利な体だ。
相手にするよりも先に、濡れた服を着替えたい。土方は「世の中って云うより、種族がだろ」と応えながら脱ぎ捨てていた着流しを取る。ぽいぽいと隊服を脱ぎ落とし、後で洗い場に出そう、などと思いながら着流しに袖を通す。見渡すと、片肘で顔を支えている沖田の腰の下に帯が落ちていた。
「オイ、総悟」
顎で指し示して、帯を寄越せと促す。片眉を上げると、ごろりと体を転がし、仰向けの姿勢のままでだらりと垂れ下がる帯を持って手を上げた。
「不精モンが・・・」
眉を顰めながら受け取ろうとすると、掴んだ帯ごと引き寄せられる。折れた足にぶつかったら不味い、と咄嗟に思いつつも、体を捻って肘を鳩尾に入れようとした。軽く避けられてしまい、曲げた肘が畳を強打し、痺れる。
今度は沖田の胴と腕の間に突き刺さった肘を、脇に挟まれ「甘いですぜ」と襟をつかまれた。
頭突きか、あるいは、と心の中でごちれば、案の定後者で。
目を開けたまま、噛みつかれるように口付けられる。逆の手で腕立て伏せのように上体を起こそうとした瞬間、後頭部を手で押さえ込まれ、いっそう深く口腔が絡み合う。粘膜の薄いところを舐めあげられ、舌に歯を立ててはそこを沖田の舌先がかすめる。体重をかけまいとしている上に、片肘を固定された不自然な姿勢に脇腹の筋肉が攣りそうになる。苦しさで喘げば、その呼吸ごと吸われる。
(どうしてコイツはキスひとつとっても、こうサドなんだ・・・!)
土方の目が攣り上がり、こめかみに血管が浮く。それをちらりと眺めて、沖田が後頭部を押さえつけている手を緩めた。
勢いをつけて上体を起こし、深く酸素を吸い込んで唾液で濡れた唇を拭う。「煙草臭くて参りやすぜ」と舌で唇をなぞりながら、呼吸の整わない土方の手首を掴む。ぎくりとした時には、騎乗位の体勢になっている。ゆるく勃起したペニスが尻に当たる。
「怪我人がサカってんじゃねぇぞ・・・」
不機嫌丸出しの声を出せば、「あんたが時化たツラしてるからだろぃ」と云われてギクリとする。
「近藤さんが幕府の重役会議に御呼ばれの時はいつもそうだぜィ」
手首を掴んだ手のひらが、器用に腕の内側の皮膚の弱い部分を撫でる、爪の先で引っ掻く。云われたくない事ばかりわざと云いやがって・・・!心の中で怒声で喚いても、それは口にはできない。悪態を吐いてうつむく。それを見れば沖田は笑う。「・・・このサドの変態野郎が」さっきまでよりもペニスが硬くなっている。
「あんただって誤魔化すためにする、マゾヒスティックなセックスばっかしてる変態野郎じゃねぇですか」
ああ、雨がやまない。ああ、近藤さんが帰ってこない。ああ、刀を振るう相手もいない。
「チクショウが・・・」
ぽつりと溢せば、引き寄せられてまた口付ける。
怪我人のためマグロ、を宣言され、沖田の腰にまたがったままで土方は自分で慣らす。全くいい眺めだぜ、などと云いながら土方のペニスや脇腹、胸に手を伸ばす。
「オッサンくせぇんだ・・・よ、云う事が・・・っ、うあ!」
ローションでぬめらせているところに、指を更に入れられる。
「こんなんじゃ入らねーですぜィ」
体の中で土方の指に沖田の指が絡み付けられ、掻き回される。
「ん、く・・・っつ、あ、あ、やめろ、総悟!」
気持ち悪さと、ともなう訳の分からないもどかしさで土方は体を引き起こし、仰向けで寝転がったままの沖田の股間に顔を埋めた。
胸の中の重苦しい混沌を剥がすように、舐めあげ、口に含み、舌を絡ませて上下させ、吸い上げ、没頭しようとする。
「全く、溺れ死に寸前みてぇだぜィ」
聞こえなかった振りをした。口を離してのしかかる。
ゆっくりと挿入していく。
「あぁ...はっ、溺れ死にだ?俺が死ぬのは戦場でだけだ」
突き上げられて背中がのけぞる。
「沈んでく体の預け場所を探してるだけだろぃ」
雨音に混じって、濡れた音がぬちぬちと耳障りだ。喘ぐ呼吸、漏れる声、溺れているようだ、確かに。
他人の熱と質量が体を満たす。気持ちがいい。滅びの雨に視界は遮られて、目指したものは流されていく。
「ん、うぁ、は、ああっ・・・総悟、も、いく・・・っつ」
締め付けると、ビクビクと脈打っているのが判る様な気がした。おそらく気のせいだ。
「いいですぜ、けど、どかねぇと、中に出しちまうぜィ」
そう云いながら、沖田の手は腰をがっちり掴んでいる。
「うるせ・・・っ、もう、ど、でもいいっ・・・!あ、あ!」


募る重みに逆らって逆らって、果てない混沌の海で、どれだけまだ進んでいけるのだろう。
望むものはたったひとつなのに。






「混沌」天野月子






END

天野月子5周年記念、5枚同時発売楽曲シリーズ2つめ。
「烏」で書こうと思っていた沖土でしたが、歌詞を見ているうちに、ああこれは「混沌」だな、と。
しかし、好きな楽曲で、嘘ゲイ(やおいと云う方が適切ですね)でエロ。愛の示し方に違和感を覚えます・・・。でもエロは成行きで、別にはじめからエロを書こうと思っていたわけではありません。しかも別にセックスしてるだけでエロだなんて、おこがましいものでして、はい。




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