銀の鎧細工通信
目次|前|次
| 2006年06月03日(土) |
ウタカタ (ミランダ) |
藻屑となって沈んでいく。 木片がぷかりと浮き上がっては、名残の様にまた沈む。 ウイルスに侵された肉体は想いを封じ込めたまま、微塵の粒となって遠くへ霞み、海の底へと落とし込んでいく。
光溢れる出口などどこにあるの (勝ってください エクソシスト様!!!) 光溢れる出口の向うになど (生きて欲しい・・・っ) あなたがたは居ないというのに。
私が発動を解けばすべては現実の時間に。現実の時間に。
他人の命を弄び、傲慢な仕打ち。止まった時間を、元の在り方に吸い込ませて、私は沈める。 泡沫の命などと。 これから消滅させる人々を目の前にして、海の泡の様に消えて何も残らない人々を前にして、考えたくも無い。皆が遺体さえ残らない死に方をした。
のろのろと震える手を伸ばした、「刻盤発動停止」と叫ぶ口は震えた。 云えない。告げられない。これで終わりなのだと。 もう終っている人に、聞こえないとしても、云えない。 すんでで発動解除を止めてしまいそうな手を逆の手で支えた。誰ともなしに、肩を支えてくれようとした手を払いのけた。 私の能力だ、私がひとりで機能させなければならない。 かつて杭を打たれた、手の甲の傷跡がぎしぎしと引き攣れ、裂けるように痛む。 後悔はしていない、と云った美しい人の手のぬくもりと重みが躊躇させる。あなたが笑って送り出したこの道は、より過酷な旅路であるというのに。なんていう柔らかな声と笑み。逢いたい人に逢えなかったというのに。 隣りで死をとして帰ってきた少女が、いやだ、とも何ともつかない絶叫を上げ、その叫びはすぐに音の無い悲鳴になった。 低い嗚咽が雨音よりも耳に響く。 絶叫の形に開けた口からは何の声も出なかった。 封じ込めた時間を解き放つ。多くの人数と巨大な舟の分の時間は重く、その解放に腕ごと吹き飛びそうになる。それよりも前に精神が壊れるとも思った。 (壊れる・・・!もたない・・・・・・!!) チガウ。 残さず夢を覚まさなくては、幻を現実に戻さなくては、虚ろに誰も取り残さぬように、生死のあわいに留めることなく、神のもとへ。 神の、もとへ? チガウ。 こんな仕打ちを強いる神のもとになどに?あの人たちを? 嫌だ冗談じゃない、本当ならば共に暖かい体を持って生きて、そうして在りたかったのだ。こんな地獄に落とし込む事など望んでなかった。 沈めていく虚ろの淵で、あなたたちが願う場所を想えばいい。 幸せな未来でも、幸せだった過去でも。もう帰る場所などありはしなのだから。そこに引きずり込んだのはこの戦争。そして、私の能力。
帰る場所などありはしない、それは私だってそうだ。 教団はホームと呼ばれるが、あれはただの基地に過ぎない。誰の帰る場所でもない。
思いもかけず、あてどもなく踏み出したこの道は何処へ続くの。この足は何処に進むというの。 舵を手にして、漕ぎ出した箱舟が轟音を立てて沈んでいく。 届いた夢の中から、届かない現実の果てへと消えていく。 何も出来ない無力な手を伸ばした、瞬間、隣りにへたり込む少女がその腕を掴んで引き寄せた。 ここに居ろ、と云わんばかりに。ここに留まれ、と。
光差さぬ悪夢のさなかで、やまない雨の中で、見えない出口を追って、 「必ず勝ちます」 沈む箱舟を捨てて歩くのだ。 この全てを覚えて歩く。決して歩みを止めてはならない。 帰る場所は光溢れる出口の向うへ辿り着いてから作ればいい。そこまで生きて進めたならば。 涙で霞む目を見開いて、消えていく泡沫を焼き付ける。
「ウタカタ」天野月子
END
拍手のメッセージがあまり長期間残らず、お返事が出来ずに申し訳ありません。こうしてお返事を書くこと自体は滞りがちですが、残らず読ませていただいております。
・奥村愛子、私も好きです。 ・沖土にはまってくださってありがとうございます。 ・陸奥シリーズが予想外に好評で本当に嬉しいです。総攻め陸奥に、残らず皆幸せにしてもらうがいいさ、と私本人思いつつ(笑)、陸奥にそんな気が無いのだろうので、きっと坂本と山崎に構いがちになりそうです。
|