銀の鎧細工通信
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2006年06月05日(月) 梟 (エドアル)

「・・・兄さん?兄さん?」
「・・・・・・ん」
「寝ちゃったの?・・・もう。流星群だから徹夜だぞ〜って云い出したのは兄さんのくせに」
不思議な響きが聞こえた。
目を凝らせば
「あ、梟」
夜が白みはじめるまで見ていた夜空は、青く澄んでいた。

「わーーー!!アル!アルフォンス!!」
母さんの居なくなったキッチンで紅茶を淹れていたら、どたばたと階段を駆け下りてくる足音。寝癖でボサボサになった髪を振り乱したままで、足を踏み鳴らす。
「何で起こしてくれなかったんだよ!あーくっそ!全然流れ星見られなかったー!!」
ミルクを注いでカップを置いてやれば、立膝で椅子にどっかと腰を下ろした。
「眠いの起こすと兄さん不機嫌になるじゃない、八つ当たりされるの嫌だしね」
にこにこしながら前の席に座る。少し前までは、隣り合って座っていたけれど、それでは向かいに誰も居ない事が意識されすぎてしまうから。
まだそっぽを向いて、頬を膨らましている。
「なぁに?そんなに願い事したかったの?」
首を傾げて問えば、ぐるりと勢いよく向き直り、大きなつり目で「ばっかじゃねーの!ちげぇーよ、星だぜ星!拾えたらすげー素材になりそうじゃんか!」とまくし立てて、得意げに笑った。
「ああ、なるほどね。この星には無い物質だもんね、きっと」
星に願いをかけたって、叶わないことくらい、もう知っている。
願い事は自分たちで叶えなければ、叶わない。
「フン。でももう直ぐだぜ、星になんか頼らなくっても、な!」
「うん、そうだね」

コドモじみて笑っていた。
無理もしていた。
叶うと信じていた。
笑っていることでしか保っていられなかった。
それがどれだけおぞましい願いの実現への試みだと、考えもしなかった。
はしゃいだ道化のストーリー。
残酷で無残なストーリー。









歪んだ午後、歪んだ青空、赤い赤い赤い、血。
訳がわからないまま、真っ赤になったエドワードを抱き上げて走った坂道。
あの時の血の染みは、死ぬまで落ちない。
真っ赤な模様がちりばめられた。
醜い、血の模様。
それは、アルフォンスを繋ぎとめる、血の紋様。



はじめのうちは、絶望との闘いだった。
調子に乗って、引き当てたクジはジョーカーだった。
泣いて誤魔化す事などできやしない。泣いたって許されない。
エドワードが立ち上がる事も、期待はしていなかった。
アルフォンスが体を取り戻す事も、期待は出来なかった。


もう なにも のぞんでは いけない


忘れられないものを抱えて、旅に出て。
エドワードは欲しがった、嘘をもっと、愛をもっと、溢れるほど頂戴、と。
嘘でもいい、信じられるものが欲しい。縋れるものが欲しい。信じたい。
誰にも許されてはいけない自分を、それでも愛してくれるのはアルフォンスしか居ない。

愛して、愛して、許して。

何度も云い含めた。
「僕は兄さんを恨んでなんかいない」「僕は兄さんが大好きだよ」なだめる呪文を、覚えても覚えても、足りないのはなぜ。
解っている。
元の体に戻っていないから。
「大丈夫だよ」
嘘をもっと
「大切だよ」
愛をもっと
「きっと手がかりは掴めるよ」
嘘をもっと
「兄さん、大好きだよ」
愛をもっと
「凄いね、真理に近付いたじゃない」
嘘をもっと
「ずっと側に居るよ」
愛をもっと
「兄さんてば天才だ」
嘘をもっと
「独りになんてしないからね」
嘘をもっと
「愛してるよ」
嘘をもっと
「愛してるよ」
嘘をもっと

覚えても覚えても知識が足りない。
覚えても覚えても力が足りない。
覚えても覚えても愛が足りない。
覚えても覚えても嘘が足りない。
覚えても覚えても、さみしい。
覚えても覚えても、むなしい。
この体は空っぽ。
月がそっぽを向く夜も、日が姿を見せない雨も、いつもずっと醜さをちりばめて、なだめる。笑えない顔で笑う。一挙手一投足、四方八方、逃さないで見ていてあげる。歌ってあげる、硬い手を繋ぎあっていてあげる。

いつだってこの視界は歪んでいる。
ぼうぼうと光る、目では無い目の光が青空を揺らめかせる。



「兄さん、今夜は流星群だって」
思い切り顔を上に向かせても、アルフォンスの表情など解らない。
「ふぅん・・・」
赤いコートをなびかせて、道の前を真っ直ぐ見据える。
「取れるまで、僕が寝室の番人をしてあげる」
そう云って、言葉を挟ませないように歌を歌う。
♪あかいめだまの さそり
 ひろげたわしの つばさ         
 あをいめだまの こいぬ         
 ひかりのへびの とぐろ        
 オリオンは高く うたひ        
 つゆとしもとを おとす        


いつの日か、運命なんていう響きに嫌気さして、
ふっと僕から逃げる日も、
ふっと僕が逃げる日も、
それでもきっと合図を送るよ。
見ていてあげるよ。
兄さんに僕が見えなくても。


ねえ、僕はまだ、見える?
ああ、梟の鳴き声が聞こえる。





「梟」天野月子







END

引用したのは宮沢賢治の「ほしめぐりのうた」です。定番にして大好き。
5曲中、2番目に難曲と思っていた「梟」です。
だって歌詞が・・・。
そしたらですね、そもそもこの銀の鎧細工通信、鎧細工はアルフォンスのことな訳で。
書くのが難しく、本当に久しぶりの鋼ですが、ああこれはアルだなぁ、と思いまして。どうしても鋼は散文状になってしまいますが、原点たる愛、アルフォンスで「梟」となりました。
でも、どこがエドアル?
どっちかというとコレ逆じゃ?


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