銀の鎧細工通信
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「・・・兄さん?兄さん?」 「・・・・・・ん」 「寝ちゃったの?・・・もう。流星群だから徹夜だぞ〜って云い出したのは兄さんのくせに」 不思議な響きが聞こえた。 目を凝らせば 「あ、梟」 夜が白みはじめるまで見ていた夜空は、青く澄んでいた。
「わーーー!!アル!アルフォンス!!」 母さんの居なくなったキッチンで紅茶を淹れていたら、どたばたと階段を駆け下りてくる足音。寝癖でボサボサになった髪を振り乱したままで、足を踏み鳴らす。 「何で起こしてくれなかったんだよ!あーくっそ!全然流れ星見られなかったー!!」 ミルクを注いでカップを置いてやれば、立膝で椅子にどっかと腰を下ろした。 「眠いの起こすと兄さん不機嫌になるじゃない、八つ当たりされるの嫌だしね」 にこにこしながら前の席に座る。少し前までは、隣り合って座っていたけれど、それでは向かいに誰も居ない事が意識されすぎてしまうから。 まだそっぽを向いて、頬を膨らましている。 「なぁに?そんなに願い事したかったの?」 首を傾げて問えば、ぐるりと勢いよく向き直り、大きなつり目で「ばっかじゃねーの!ちげぇーよ、星だぜ星!拾えたらすげー素材になりそうじゃんか!」とまくし立てて、得意げに笑った。 「ああ、なるほどね。この星には無い物質だもんね、きっと」 星に願いをかけたって、叶わないことくらい、もう知っている。 願い事は自分たちで叶えなければ、叶わない。 「フン。でももう直ぐだぜ、星になんか頼らなくっても、な!」 「うん、そうだね」
コドモじみて笑っていた。 無理もしていた。 叶うと信じていた。 笑っていることでしか保っていられなかった。 それがどれだけおぞましい願いの実現への試みだと、考えもしなかった。 はしゃいだ道化のストーリー。 残酷で無残なストーリー。
歪んだ午後、歪んだ青空、赤い赤い赤い、血。 訳がわからないまま、真っ赤になったエドワードを抱き上げて走った坂道。 あの時の血の染みは、死ぬまで落ちない。 真っ赤な模様がちりばめられた。 醜い、血の模様。 それは、アルフォンスを繋ぎとめる、血の紋様。
はじめのうちは、絶望との闘いだった。 調子に乗って、引き当てたクジはジョーカーだった。 泣いて誤魔化す事などできやしない。泣いたって許されない。 エドワードが立ち上がる事も、期待はしていなかった。 アルフォンスが体を取り戻す事も、期待は出来なかった。
もう なにも のぞんでは いけない
忘れられないものを抱えて、旅に出て。 エドワードは欲しがった、嘘をもっと、愛をもっと、溢れるほど頂戴、と。 嘘でもいい、信じられるものが欲しい。縋れるものが欲しい。信じたい。 誰にも許されてはいけない自分を、それでも愛してくれるのはアルフォンスしか居ない。
愛して、愛して、許して。
何度も云い含めた。 「僕は兄さんを恨んでなんかいない」「僕は兄さんが大好きだよ」なだめる呪文を、覚えても覚えても、足りないのはなぜ。 解っている。 元の体に戻っていないから。 「大丈夫だよ」 嘘をもっと 「大切だよ」 愛をもっと 「きっと手がかりは掴めるよ」 嘘をもっと 「兄さん、大好きだよ」 愛をもっと 「凄いね、真理に近付いたじゃない」 嘘をもっと 「ずっと側に居るよ」 愛をもっと 「兄さんてば天才だ」 嘘をもっと 「独りになんてしないからね」 嘘をもっと 「愛してるよ」 嘘をもっと 「愛してるよ」 嘘をもっと
覚えても覚えても知識が足りない。 覚えても覚えても力が足りない。 覚えても覚えても愛が足りない。 覚えても覚えても嘘が足りない。 覚えても覚えても、さみしい。 覚えても覚えても、むなしい。 この体は空っぽ。 月がそっぽを向く夜も、日が姿を見せない雨も、いつもずっと醜さをちりばめて、なだめる。笑えない顔で笑う。一挙手一投足、四方八方、逃さないで見ていてあげる。歌ってあげる、硬い手を繋ぎあっていてあげる。
いつだってこの視界は歪んでいる。 ぼうぼうと光る、目では無い目の光が青空を揺らめかせる。
「兄さん、今夜は流星群だって」 思い切り顔を上に向かせても、アルフォンスの表情など解らない。 「ふぅん・・・」 赤いコートをなびかせて、道の前を真っ直ぐ見据える。 「取れるまで、僕が寝室の番人をしてあげる」 そう云って、言葉を挟ませないように歌を歌う。 ♪あかいめだまの さそり ひろげたわしの つばさ あをいめだまの こいぬ ひかりのへびの とぐろ オリオンは高く うたひ つゆとしもとを おとす
いつの日か、運命なんていう響きに嫌気さして、 ふっと僕から逃げる日も、 ふっと僕が逃げる日も、 それでもきっと合図を送るよ。 見ていてあげるよ。 兄さんに僕が見えなくても。
ねえ、僕はまだ、見える? ああ、梟の鳴き声が聞こえる。
「梟」天野月子
END
引用したのは宮沢賢治の「ほしめぐりのうた」です。定番にして大好き。 5曲中、2番目に難曲と思っていた「梟」です。 だって歌詞が・・・。 そしたらですね、そもそもこの銀の鎧細工通信、鎧細工はアルフォンスのことな訳で。 書くのが難しく、本当に久しぶりの鋼ですが、ああこれはアルだなぁ、と思いまして。どうしても鋼は散文状になってしまいますが、原点たる愛、アルフォンスで「梟」となりました。 でも、どこがエドアル? どっちかというとコレ逆じゃ?
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