銀の鎧細工通信
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古びた木の光沢、重厚な漆黒の鉄道、窓の外の景色は一様に雪に覆われて白く枯れている。針葉樹の濃い緑。 窓際に座ったラビの髪の色はこの景色の何処にも無い色。 揺れでわずかに動く髪は逆立てて押さえている所為もあって炎のようだった。 光の加減で緑の混じる虹彩はへーゼルナッツ色。
「ラビの出身は何処なんですか?」 ふいと向けられた顔の造作も整っているが、エキゾチックな部分と西洋的な骨格が微妙に混ざっている。 「何処で生まれ育ったかってこと?」 「はあ、まあ」 頭の上のティムキャンピーが尻尾でじゃれ付いてくるので額がくすぐったく、アレンは手でそれを払う。 誰も彼をも疑わなければ生きていけない課業に身を置きながら、ラビは人懐こい。ブックマン継承者としての探究心からなのかも知れなかったが、時にはわざとコートを脱いででもその辺の人に話しかけに行く。かと思えば頑なに人との関わりを避ける時もある。無反応で返すのだ。 (英語に訛りは無い、でもフランス語もスペイン語もドイツ語も話してる、もしかしたらもっと喋れるんじゃないのかな・・・) 前の席に腰掛けるブックマンの視線を感じて、アレンは慌てて 「あ!でもブックマンの秘密っていうんだったら、そんな・・・」 あたふたとしだしたのを手で制し、少しだけ口角を上げると 「構わないだろ、ジジィ。俺はまだ正式なブックマンじゃないさね」 と不敵に云った。 静かな溜息をつき「こういう時だけ未熟者面をしおって・・・好きにするがいい」とだけ応じて目を閉じた。 満足げににやりとすると、両手を顔の横に上げて 「生まれた場所は知らない、育った場所ならヨーロッパ全土、西欧東欧関係なし、少しは西アジアにも居たことがある」 顔にこそ出さないが、アレンは頭の中で歯車がかみ合うのを感じた。 クロスに偶然(だったのだろうか)出遭い、引き取られてからの日々に、似ている。 大半は教団と借金取りからの逃避行だったが、随分とあちこちをまわったものだ。 自分がその中で身につけた世渡りの術と似たものはそれが正体だった。 なるべく人に警戒されないようにするための術。 巧いこと誰にでも溶け込める術。 イカサマやハッタリ含めての知識と技術。 「つーわけで、国籍は、無いさ」 アレンの沈黙を見破って先に口にする。 (ああ、こういう風に他人の顔色を読むのに慣れきっているのも) 表情と動作だけで笑った。
ラビは大声でばか笑いもするくせに、時々こうして声を立てずに笑う。
「ちょっと通るぜ」 と云うと前方のボックス席に向かった。 目で追うとケースに入っているものもあれば、無造作に袋からはみでているものも含めて、沢山の楽器を持った家族連れ。子どもの数はとても多い。 何を話しかけているのかは聴き取れないが、気さくに話しかけて家族連れからも笑い声が生じた。 何事か話し終えると、父親らしき人物が網棚に乗せてある楽器を取りに立ち上がった。その時に見えた顔立ち。あ、と息を飲んだ。 彼がギターを手にし、ラビに見慣れぬ形状の弦楽器を手渡す。 ギターと違ってそれは琵琶の様に球状の胴体で共鳴させるらしく、またコードを押さえる竿の部分の先がほぼ直角に近く折れ曲がっている。 濃く豊かな髭をたくわえた父親がにっこりしながら誰かに目配せすると、おもむろに彼はギターを鳴らし始めた。続いて主旋律を追いかけ支えるようにラビが見慣れぬ楽器を爪弾きだす。 車内中の視線が一気に集中した。 子どもたちが手を打ち鳴らし、合間に指笛や掛け声をあわせた。 重く静まり返った厳寒の車中に、激しくも哀愁も帯びた旋律が満ち溢れる。 驚いた乗客も長い道中と、変化の無い窓外の風景に飽きていたのだろう、硬いシートに腰を深く沈め、静かに聴き入った。 木製のシートの手すりに腰掛け足を組み、ラビは楽しそうに目を細めながら楽器を奏でている。その横でも組んだ足にギターを乗せた男が素早く慣れた指捌きをしているのが覗ける。 にわかに車中に溢れかえった活気、どこか懐かしさをそそる耳慣れないメロディ、(僕もイギリスの道端で聴いたことがあったな・・・)街角で歌い奏で、時に踊る彼ら彼女ら。 そのとき繋いでいたマナの手を思い出す。
演奏が終わると、聴き入っていた乗客らが手を叩き口笛を吹く。 男は帽子を、ラビはマフラーを広げて乗客の周りを回っていった、くまなく回り終えるとマフラーから金を男の帽子に全部入れ、また言葉を交わして戻ってきた。機嫌が良いらしい足取りは、(いつもひょいひょいと軽いのだが)心なしか踊っているようだ。 「莫迦者めが、調子に乗りおって。お前はすぐこうだ」 ギロリと鋭い眼光で睨まれ、咎められても少し肩をすくめて返すだけ。 するりと2人の足の間を抜けるとどさりと腰を下ろし、 「ブックマンでも何でも同じことさ、芸は身を助く、ってな」 とタレ目を細めてニヤニヤとブックマンを眺め回した。 「お前のは血じゃろうて」 また目を閉じて視線を返さずぼそりと云う。 「どちみち混じりに混じってルーツの無い血だ、ブックマンになって捨てるのには好都合。まあこうやって生きてきた事実だけは捨てたところで消えやしないよ」 どちらにともなく口にしてから、アレンに顔だけ向ける。 「お解り?」 独特の細工のピアスが揺れた。 「ジプシー・・・ですか」 ニッと笑う。 「ずーっとブックマンはエクソシストだったわけじゃないんさ、時代に応じて色んな立場の人間が居たらしい。適合者の中からブックマンとなる人間を選び出す、仕組みも方法も知らないけどな」 口を開きかけたブックマンを制すように 「これ以上は云わねぇよ、ただ俺のことは別だろ」と早口に云った。 横を向くと眼帯でラビの表情はほとんど見えない。 「別に家族がアクマに襲われたわけでもない、何でか解らないが、ある日教団の人間が来た。俺も親も兄弟もワケが解らなかったさ」 「大抵の、適合者にはワケがわからないでしょうね・・・」 自分の身に何が起こったのか、自分が一体何なのか。 「基本的に俺らは家族を大事にするんさ、それしか財産は無いし、何処にも社会的な居場所は無いんだからな。家族も俺も泣いて泣いて、でも仕方ないっしょ。元々うちの家族は割りとキリスト教に親和的な一族でもあったしな」 あっさりとさらさら口にする。澱みなく。 「幾つの・・・頃なんですか。ラビは僕と違って自分の歳を知ってる」 一緒に雪だるまを作ったのはつい数日前のことだ。 「さあね。ただそっからは一旦教団本部に行ったけど、専らこのパンダジジィと相変わらず点々としてたさ。本部には行ったり来たり、呼ばれたり」
何より愛する人をこの手で殺して、ワケも判らず自分を呪い、毎日泣き続け食事も摂らず、ただ膝を抱えて衰弱していく廃人同然のアレンを殴り、蹴って食事を摂らせ、慰めるわけでもなく手元において養ったクロス。 (僕が自分から生きようと思うまで、放っておかれたなあ・・・最も自主性を見せたら後は家事と雑用と金作りと・・・大して教団のことも対アクマ武器のことも何も教えてくれなかった) 「何処に移っても、案外客は居るモンでな、退屈はしなかったぜ。ジジィはたまに副業で針治療院もしてたし、本業の客にゃ”よーうJr.元気にしてたか”なんつって気のいい人も居たさ、色々教わったよ」 「・・・あいつめか、要らんことばかり吹き込みおってな」 不意にブックマンが忌々しげに口を開いた。 ふ、と笑った気配が横でした。 「ジジィはこの通りさ、昔から。口うるさいやつでな、よく面倒見てもらってるぜ」 「抜け抜けと、お前がつまらん悪戯から何かと世話ばかりかけさせるんであろう」 間髪入れない二人の遣り取り、何処に行っても紙だらけの部屋で書き記し記録を留めるブックマンの後ろで、本や記録を読みふける小さなラビが見えた気がした。 不意に抜け出しては悪戯をして連れ戻され、正座で説教される姿も。 思わず噴出すと 「何だよ」 と穏やかに問う。 「いえ、お二人は仲良しだな、と思って」 1人は「まぁな」と声を出さずに笑い、1人はまた溜息をつく。 (本物の家族でなくても、もしくは本物の家族よりも掛け替えない偽物の家族があるなんてことは、よく解ってる・・・。ラビにもリナリーにも本当の家族が居るけど・・・) かなり真っ赤に近い赤毛が揺れている。 片目を覆う睫毛も、濃く長く、同様に真っ赤だ。 「・・・家族が恋しいですか」 赤い冠のような髪が揺れる。 「いんや、もう、ね。第一それは云いっこナシさ」 気まぐれに黙りこくって窓外に目をやる。 (この2人はエクソシストだけど、エクソシストじゃない。いつか別れるんだろうな)
でも、死ななければ、きっとまたいつか逢える。
通信用ゴーレムで兄へ、家族へと連絡をしていたリナリーが戻ってきた。
END
捏造してみました。でもラビの風体や人物像は結構ジプシー/ロマ的だし、多種族の血を引いていて、国籍も不明で、原作の時代設定から見ても、それはアリかな、と思いまして。 まあ私が無類のロマ/ジプシー好きのラビ好きというのも大きいですが。 ラビが弾いている楽器はウードです。ギターレとウードで、曲は映画『僕のスウィング』トニー・ガトリフ監督作品の「ORIENT DE SWING」のイメージ。 ちなみに私はラビ受けなのですが、いい攻め手が居らずもやもやしています。ブックマン×ラビかなあ・・・。
拍手返信:遅くなりました、ごめんなさい。
11月1日の過去LISTを押すと拍手になってしまう、のアナタ様。 ごめんなさい、これは前々から解っているのですが、原因が究明できておりません。過去作品は全て拍手ボタン「金魚に餌をやる」下の各コンテンツでご覧いただけます。未収録作品は表の日記に出ています。 おいおいサイトマスターの銀迦ちゃんにDグレコンテンツも分離してもらう予定でおります。ご面倒おかけして申し訳ありません。
11月6日、ビアンキ山本に惚れてくださったアナタ様。 ありがとうございます!なんだか最近ビアンキが「山本武」とよく云っているなあ、と思っており、そんな中で萌えネタ枯渇状態の私が友人にリクエストを募ったところ、「ビア山」とのリクをいただきまして、書いたものです。 相変わらず山本の口調が難しいなあ、と思いつつ、可愛くて好きなビアンキが書けて楽しかったです。私は一山本受け推進者なのですが、惚れていただけるなんて、もう本当にありがたいお言葉です。ありがとうございました!
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