銀の鎧細工通信
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| 2005年09月09日(金) |
さつがい (獄寺山本) |
何でかと云うと、単に銃を扱うにはひ弱だったからだった。 子どもの細い腕に小さな掌で銃は扱えない。 それでも家庭環境から「自分はマフィアになるのだ」と思っていたし、 英才教育も施されていた。 徒手空拳はさることながら、話術に語学(最も、特殊な環境で出遭う人間は大人ばかりだったために獄寺のコミュニケーションの基盤は上下関係だけだった。よって話術の学習は功を奏していない)、基礎教養、ピアノから料理(殺人には使えないが、本来の食事としてなら姉よりも巧かった)。 基本的に何でも器用にこなしたが、入れ替わり立ち代りする大人たちの中で外出がちの両親、日常的な知り合いの訃報、それらが不安定な精神構造を形成し、コミュニュケーションの不得手さは「他人を信用しない」という形で発展を停止した。 自分で自分の身を守らなければ、という意識は暗黙のうちに叩き込まれもしたし(でなければ両親の負担となり、それはファミリーへの迷惑にもなった)、周囲を信用しない以上は必然的にそのベクトルに進む。 ベレッタですら重くて両手でも照準を合わせられない。 手軽で機動力と破壊力に長けたダイナマイトを持ち歩くようになったのはそうした理由からだった。 成長期の未熟な身体では屈強な大人には敵わない、身軽さと俊敏さを利用し、持ち前の判断力で放り投げる爆薬。 軽やかに軌跡を描くのに、その後の轟音と爆風の対比が「してやったりだ」と負けん気の強さを充足させた。
人殺しの生々しい実感に欠けるところも、よかった。 火薬の量を調整すれば軽症で済み、必ずしも致死にならないのも、よかった。
ゆくゆくは手を血に染める事は、覚悟していたが、あまりにも早いうちから殺しの味を覚えたくは無かった。 何故そう思っているのか獄寺は把握できていない。 抵抗感。嫌悪。恐怖。必要性の無さ。 自分が従うべきボスも見つかっていなければ、自分がボスになる力量もまだ持ち合わせていなことを理由に忌避していた。 いずれ殺しをする事にはなるのだから。
ちろりと目線を流す。 昼休みの校庭で野球をしている莫迦。 ぱくぱくと昼食を済ませると、「ちょっと体動かしてくる」と牛乳パックのストローを咥えながら出て行ったのだった。 「うわあ、食べてすぐによく運動する気になるね」と綱吉が理解できない、という顔をしながら云うと「逆に腹ごなししねぇと落ち着かないんだよなあ」といつものようにへらっと笑って応えた。 座っている獄寺の目の前に、リストバンドをした右手が丁度ある。 (治ってないんだろ、これ・・・) 平時からの悪い目付きでどうでもいいように眺めた。 日頃はリストバンドでほんの気持ちばかりのサポーターをし、極端な気圧の変化がある日には右手をあまり動かさないようにしているくせに。 (どこまでも莫迦だな) 教室内では煙草が吸えないために、パックジュースのストローを噛みながら心の中で毒づいた。 ある意味仮面のように貼り付いた笑顔に人懐こい表情、声色。 人好きのするそれら全てに胡散臭さすら感じる。
(幾ら単純野球莫迦でも、おかしいと思うだろうが)
解った上でどうでもいい振りをしているのかも知れなかった。冗談として流して。 (どの道わからねぇことだしな) 幾らリボーンが評価していようが、本当にイタリア・マフィアになるだなんて十代そこらで決定するはずも無い。一般家庭の子どもだ。(綱吉がボンゴレの10代目に成ることに関しては疑いを持たないのだが)
綱吉とリボーンと他愛ない遣り取りを交わしているうちに始業のチャイムが鳴った。 がたり、と立ち上がると「一服してきます」と云った。 「え?あ?だって授業始まるよ」 「一本だけですから、すぐ戻ります」 口ではそう云っても、ヘヴィーでチェーン・スモーカーの獄寺が1本で済む筈が無いのは解りきっていたが、綱吉はもう何も云わなかった。 急に静かになった人気の無い後者の階段を下りて、人気の無い駐輪場の方へと向かう。大きな木があって気持ちが良いのだ。 建物を出るなり火を点けると、風を切る音がして目を上げる。
真昼間の、快晴の、学校で、木漏れ日を受けながら立っている。すらりとした背の高めの中学生。 人気の無いところで煙草を呑む獄寺含めて、健全極まりない景色の中で猛烈に目を引く違和感。 すらりとのびて、曇りひとつ無い刃物のギラつき。 清浄なまでに美しい日本刀。 鋭利な切っ先。 バットから変形した刀を静かに携え、俯いてそれをじっと眺めている。 あまりにも静かな光景が逆に不自然だと思えた。 指に挟めた煙草を咥えながら、目を眇めてぽかあと煙を吐く。
ゆっくりと顔を上げて「獄寺」と云った。 大抵が笑っているので判り難いが、山本は真顔でいると片眉が少し歪められている。いつも。 その所為で少し年相応でない陰りだとか妙なニヒルさが浮かぶ。 「授業時間にこんなところで刃物持ってぼんやりしてるだなんて、見られたら大事じゃねえのか」 無関心を装ったつもりだったが、どことなく感情がこもってしまった言い草に、獄寺は舌打ちした。 「そーだな、煙草より問題だよな」 何でもないような顔で云うので、何でもないように日本刀を携えているから、 (ああ、こいつは) 柄の握り方、動かし方、やたらと手に馴染んでいるから、 (こいつは) 吹きぬけた風で揺れた葉の間から差した光が獄寺の目を焼いた。 咄嗟に眉根を寄せて目を細める。 長者手にして何でもない顔をして、こんなところに独りで居るから、
(殺すな)
と思った。
「お前は人殺しに向いてるよ」 灰を指先で落としながらはっきり口にした。 ひゅ、と刀で風を切り裂きながら「わかんねーよ、そんなのは」 と云って笑った。 あまりにも、普通に、いつもどおりに、 笑った。
瞬間的に背筋にぞわっと震えが走り、それを無かったことにするように土を蹴った。 小さなナイフを顎の下に突きつけた時には、獄寺の首筋にも刃が当てられていた。 露骨に噛み付きそうな表情が出る獄寺に対して、山本は本当にいつも通りの表情。 「ナンだよ、いきなり」 と軽く口にするくせに首にひたりと付けた刃は維持している。 ふ、と小さく息をつき、刃先をぱちりと柄に畳み込んだ、それに合わせて器用に長い日本刀を少しも互いの体に掠めないように下ろした。 (気持ち悪ィ・・・) それは何に対してなのかは解らなかった。 でも、咄嗟に強く感じた。 山本の胸倉を掴んで引き下ろし、乱暴に強く唇を押し当てる。 きょとんと目を開いたまま、けれど舌を入れれば応じてくる。 つくづく何を考えているのかさっぱり解らない、が、野球が満足に出来ない鬱憤が後のファミリーの戦力に成り得るだなんて、あまりにも非常識で滑稽だ、 (それくらい非常識で底知れないのが、掴み所の無いところが、) 「・・・ん、は・・・っつ」 ぴったりと向かい合ったまま首だけ下に向けている所為か山本が少し苦しげに呼吸を溢す。 先ほどのものとは違う痺れにも似た震えが腰の後ろ辺りを駆けた。 もっと深く口づけるとぴちゃぴちゃと水音がやけに耳についた。 「あ・・・んぅ・・・ふ」 息苦しさからじゃないくぐもった甘い声が漏れて、山本より身長の低い獄寺の喉元まで互いの混じった唾液が伝い落ちる。 衝動的に唇の端に噛み付いた、そして放す。 「いってぇ、いきなり噛むなよ」 濡れた唇の端を赤い舌先でなぞった山本は、 「お前の十八番は飛び道具なんじゃねえの?」と訊きながら獄寺の顎から喉に伝った唾液を長い指で拭ってぺろりと舐めた。 (こういう読めないところが、) 「接近戦だとか徒手空拳ぐらい一通りはこなせねぇと早死にする」 淡々と告げると 「まーそうか」 と納得した風に応えた。
(殺しに向いてる)
(こいつは解ってて流してるだけだ)
(絶対ファミリーの裏での殺しを担うようなことになる)
まだ筋肉も骨格も出来ていない少年の眼に、暗い影が落ちる。 長めの前髪がそれを隠した。
END
獄山獄・・・にした方が良かったですね。
頭のおかしい山本と、常識的でセンシティブだけど人の心を無意識に抉るのも得意な実は奥手なピュアっ子獄寺(この表記でどうして獄寺が受けじゃないのか、と不思議に思う方は居られるでしょう。爆笑。私だってこの文じゃ獄寺受けだよな、と思います)の噛みあわないじりじりぐるぐる青春残酷模様も楽しいですな。 うーん、山本を雲雀とも絡めてみたいなあ・・・。バリ山。
あ、でもあくまでも私は銀魂を愛して居りますので。 メイン銀魂。そんで色々手を出してみたり・・・。
BGM:倉橋ヨエコ
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