銀の鎧細工通信
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肩書きというものは重い。 組織というのはもっと重い。
「武装警察なんて云ったってさ、アンタら幕府の万事屋だよな」 銀時がにやつきながら云い捨てた瞬間、拳が出た。 抜刀すらせずに、それは反射的な衝動だった。 「お前に何が解るんだよ」 怒鳴りつけた声の大きさに、土方自身が驚いた。
この国のシステムはつくづくよく出来ている。 お為ごかしの監査委員会、各大名家による地方自治なんて 最早出鱈目もいいところだ。 実質、過半数を占める幕府の天人による国庫支出金のためにゴマすりする 大名達は、開国時に廃止された参勤交代を進んで行っては金勘定だ。 力で国を取り返すことも出来ず、かといって民主主義ですらないこの国は、選挙も何も無くお飾りの幕府に覆われた、被占領国だった。 国民の意思が反映されない政治には、テロリズムでしか主張を出来ないのだ。政治参加が叶わないことで、幕府は目安箱を設置したが、 そんなことではリコールひとつ叶わない。 天人の技術力と武力とで高度経済成長し、国は豊かになる反面、 中身は荒む一方だった。否、空洞化というべきか。
どれだけくだらない事務処理すらも、形式的には取らざるを得ない。 幕臣として帯刀を許されたことだけが成功で、後は、詰まらない雑用から 無意味な粛清しかしない。
(頭、重てぇ・・・)
土方は案件の処理報告と、それによる経費の申請書類を作成しながら こめかみを押さえた。 忠義心だけのみならず、もともとの性根の真っ直ぐさから近藤は疑問を 感じていない。 ならば自分はそれに従うまでしかない。 武士の、侍の、その誇りを維持できていると幸せな振りをする。 「ちくしょう・・・」 弱弱しい独り言が漏れる。 こんな立場などなくとも、木刀といえど帯刀し、侍として生きている銀時は非常に目障りだった。 今の自分達が莫迦莫迦しく思えるから、無意味さを突きつけられるから。 惨めだった。 道場に残った、剣以外能の無い自分達が食い扶持を確保するには成功して いる、金には困らない。組織という重圧を背負ってはいても、 字すら読み書きできない隊士たちには願っても無い保障ではある。 でも、息苦しかった。
自由が許されない。
ただ剣を振るう事だけが誇りで、その自分達の腕だけが頼りで、 それだけで白眼視されても振舞えていた気楽な日々は戻りようも無い。 「トシ?」 襖の外から声がかかった。すぐに解る。 「何だい」 襖を開けると寝巻き姿の近藤が立っている。 「こんな時間まで仕事かよ」 「ああ・・・何となくな、眠れなかったからついでだよ、ついで」 承服しかねる、という顔で 「だってお前着替えてもいねえじゃねーか」 隊服のシャツとパンツのままでいる土方を見下ろして不服そうな声を出す。 (だって近藤さん、俺らは幕府お抱えの組織で、首都の治安を守るって 肩書きがあるんだぜ・・・) 云えるわけが無かった。 もう愚痴なんておいそれと、不満なんて軽々しく、口にする事は出来ない。 「別に、明日の仕事にゃ支障出さないからよ」 眉をゆがめて土方は云うのが精一杯だった。 「仕事の事じゃねえよ、お前が体壊すだろ」 (ああ・・・変わらない) 近藤の心配に満ちた言葉は、惨めさと諦めと覚悟を強固にする。 (道場に居た頃と変わらないな、あんたは) 嬉しかった。 「俺は副長だ、やるべき仕事をやるだけだよ」 そっけなく応える。 当たり前の気遣いを、嬉しいと思う気持ちは表には出さない。 焦がれて慕って、想っている近藤にこそだから、決して出さない。 土方が一線を引かなければ、馴れ合い集団になってしまう。 組織として機能しなければ逆戻りだ。 今度こそ刀を手放さなければならなくなる。
そっけなく、しかしぴしゃりと線を引いた土方の物云いは、 真撰組が組織されてからは常となった。 それが隊を守るために取っている態度なのだと解るからこそ、 近藤は何も云えなくなるのも。 決してそれが自分自身のためだということには気が付きはしないけれど。
(肩書きの前に、トシはトシなのにな、そんなことすら云えねぇ・・・ なんて。それこそ情けねぇ「隊長」だよ) (隊が離散するような事態になったら近藤さんが苦しむ、俺らを守るため に腹でも切りかねねぇ、そんなこたぁ許さない)
引かれた線はかみ合わない。 土方が取っている態度が距離を作る。 その距離がいつか土方を見えなくさせる。 近藤には、もう土方がよく見えてはいない。
不穏な胸騒ぎばかりが膨らんでいく。 「無理すんなよ、明日出来る事は明日皆でやりゃあいい」 胡座をかいたままの土方の頭を撫でて、 「おやすみ」 と云って近藤は厠の方へと向かった。 「おやすみ」 襖を閉めながら土方も呟いた。
こうして土方は失踪していく。 其処に居ながら失踪する。 見えなくなっていく、「副長」ではなく、土方、という人間が、 重さのために消えていく。 誰も気付かない。 誰も気付かない。
END
そこでそういう不自然さや歪みに気が付くのは銀さんや、他所の人なんだろうな。 立場や肩書きのために、個人が自己を裏切らなければならないのが、 「仕事」がゆえの義務だとは、思えないのは、特に軍隊や自衛隊や 機動隊や警察や役人に感じるのでした。 賃労働や大義名分で「自分」を抑圧するのは、見ていてもしんどい。
選挙ですね。小選挙区比例代表制の人数配分、もういい加減良くないんで はと個人的に思うのは、消去法的に投票したい政党だとか議員が私は 決まっちゃっていて、しかもそれら政党が弱っているからなのであった。 がっつり行きますけどね、選挙。 しかし衆院選挙もさることながら、先ず都知事リコールしてえよ・・・。 暗雲立ち込める政局模様は混迷憂鬱。だからこそ行くのだ。
BGM:石川さゆり
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