銀の鎧細工通信
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2005年08月23日(火) クロノス (リーバーミランダ)

「やぁーっぱり、コレ、考えないといけないよねえ」
コムイが時計を見ながら頬杖からずず・・・と顎を落としながら呟いた。

ミランダは唇をきゅっとへの字にして、おずおずと大きな置時計を見返る。
まるで親から離れる事を心細がる子供の様に。
このままでは前線に出られない、折角の支援能力を本部での雑用に使うのも気が引けた。
それぐらい、ミランダは力をつけていたのだ。

「んな顔すんなって、誰も引き離しゃしねーっから」
ほい室長、とコーヒーを手渡しながらリーバーが背後から声をかけた。
後ろからじゃ顔は見えないでしょー?と呆けきった顔で揚げ足を取るコムイに
「見なくても解る事でしょうが!」
と眉を吊り上げる。
実際、置時計からミランダが離れる事はないし、それはイノセンスの適合者として当たり前のことでもあった。

「うーん、どうするのがいいかなあ、・・・」
真剣な表情で考え始めた風に見せるなり、小首を傾げて
「ねえどう思う?リーバーくん」
と語尾にハートのつくような声色で思考放棄する。
ブチ、と何かの切れる音がしたかと思うとリーバーは鬼の形相でコムイの胸倉を掴んでねめつけた。
「ほっほーう、さっきまで仮眠とって休んでいた室長様が徹夜30時間の部下に丸投げで質問ですかあ・・・」
「やだなあ、もう。有能な、部下に質問してるんでしょー」
あくまでものらりくらりとかわす。
不味い表情をしたリーバーが手を放し降参のポーズで掌をひらひらとさせた。長い指が器用に舞う。
科学班独特の仲良しぶりが未だ掴み切れないミランダはハラハラおろおろとしており、急に振り返られてはビックゥ!!と肩を震わせた。
リーバーの目が細められる。
ふ、と吐かれた呼吸にミランダも引き攣るように止めてしまった呼吸をつく。それを見届けると、またくるりとコムイに向き直る。

「実は、考えてたんスよ」
白衣のポケットからごそごそと紙切れを差し出した。
「うん、知ってた」
受け取りながらにこりと微笑むコムイに対して、またリーバーのこめかみに血管が浮き出る。
全身から(解ってたんなら始めから訊けよこのヤロウ・・・!!)のどす黒いオーラが噴出する。
「うん、これはいいね」
慣れているので気にも留めず、コムイは紙面から顔を上げずに、ミランダさんちょっとおいで、と手招いた。

デスクの上の紙の山を長い腕で押しやって、B5の紙一枚が置けるくらいのスペースを空ける。今にも机の隅から本の束が落ちそうでミランダにはそれが気になって仕方がない。
きょろきょろとしつつデスクの元へ進む。
覗き込んだ化学式の羅列と分析理論は今ひとつだったものの、下手糞な絵で描かれたものの意味するところは理解できる。
文字盤の裏に歯車がある。
その歯車たちを支えている基盤。
それを取り出して加工する。

「この基盤は時計を支え、その動きのメインを司る部分だ、これをコアとして改良するのが一番いいだろうね」
赤ペンで化学式と解析に訂正と改良を加えながらコムイが早口に告げる。
リーバーを見上げながら
「それって・・・あのう、あのこをばらばらにしちゃうっていう・・・ことですか」
ミランダは心配そうに表情を曇らせた。
やれやれ、と肩を竦めつつ「基盤は別のを作るよ、あいつが」
と云いながら置時計を見るリーバーの目は優しい。
「気に入るかは解らねぇけど。どちみちあんたじゃないとゼンマイは巻けないんだ、手巻き式じゃなくて自動のにして動いててもらうさ」
じっと見詰めるミランダをなだめるように続ける。
「あいつは此処に置いて、ちゃんと面倒見る、」
身を屈め、手でコムイの方に盾をして声を潜めた、
「知ってたか?実はこの部屋、時計がないんだぜ」
きょろ、と辺りを見回して
「そういえば、そうですね・・・皆さんとても忙しいのに、不便じゃないんですか?」
いたって常識的な質問に苦笑する。
「以前に室長が暴れて全部壊しちまったんだよ」
仕事に集中できない、とか云ってさ。結局締め切りに追われるのが嫌なだけなくせにな。
ぼそぼそとリーバーは続けた。
ミランダはぶつぶつ化学式を唱えながら赤ペンを走らせるコムイに目をやって吹き出す。
ようやく見せた笑顔に胸をなでおろし(大人しく臆病なくせに頑固で、何をするか判らないミランダにはリーバーも手を焼かざるを得ない、それを悪いものと本人は認識していないが)、リーバーは
「じゃあ、いいか?」
と問うた。
強い眼差しでミランダがこくりと深く肯いて、「お願いします」ときっぱりと云った。

「こっちもオッケイだ、これで問題ないはず。リーバーくん早速取り掛かって、彼女の武器化は君に一任する。僕はもう一個の課題をクリアするから」
「はい」
コムイは云うなり立ち上がり、早口で指示を出しながらすれ違い様に髪をリーバーに返してそのまま「ちょっと集合!」と部屋の真ん中で人を集めて何か指示を出している。
てきぱきとした動きにミランダはまたおたおたとする。
ぽん、と肩に手を置かれ、
「すぐにでも取り掛かるぜ、心の準備はいいか?」
真剣な眼差しが交差する。
「ええ」
先刻よりも幾らか勢いのある声で返答をする。


時計の基盤を外すための解体作業から、取り出した基盤の変わりのものをはめこみ、置時計がミランダ不在の間にも時を刻めるようにと、自動のものにする工程は、さながら手術だった。
ミランダはずっと時計のどこかしかに手を触れて、慰めるように励ますように労わるように、勇気を貰うようにじっと側に居て作業を見守っている。

取り出した基盤は美しい漆黒だった。
「レコードみたいだな」
慎重に、丁寧に、作業を一工程ずつ素早くこなして、ようやく時計が動き出したのを確認した後に、ミランダの手に預けていた基盤を見てリーバーは汗拭いながら口にした。
額に巻いていたタオルを取ってごしごしと顔を拭う。
「・・・レコード、ですか」
「ああ、時間のレコードだな」
横に置いておいたコーラを氷ごと流し込んでリーバーは笑んだ。
それを見てから大切に両手で持っている基盤に目を落とす。
「・・・タイム・・・レコード・・・」
愛しげに呟くミランダを見てまた小さく口角を上げる。
「そだな。よっし、じゃ次だ次!」
「あっ・・・はい!」




「はい」
2人で、といってもミランダは作業自体は手伝えないので実質、非常に神経を使う作業を一人でこなし、それにずっと付き添い見守り続けていた2人がゾンビの様になって科学班の大部屋に戻ってきた途端に、これもまた一様にゾンビのような姿に満面の笑みを浮べた科学班のメンバーとコムイがニコニコとトランクを差し出す。
「はい?」
2人の声が重なる。
「最新の団服」
こちらも大勢にハモられて、しかも語尾にはハートがついているかのようだ。けれど、
「アレンくんが左腕を破壊された」
継がれた言葉は余りにも2人を打ちのめすものだった。
「・・・っつ!!?」
「生死は!」
悲鳴を押し殺すかのように両手で口を塞いだミランダの後にリーバーが単語だけをまくしたてる。
「・・・・・・」
「室長!!」
黙り込んだコムイにリーバーが怒鳴る。
その後にそれがお門違いな事を悟って声のトーンを落とした。
「左腕・・・つまりイノセンスを破壊されたという事ですね」
「そうだ」
ミランダの手のみならず全身がガクガクと震えだす。
見開いた目が、血の気の失せた顔が、同じく骨の様に真っ白になってしまった細い指先の震えで隠れる。
「アレンくんはアジア支部に収容済みだ」
淡々と告げるコムイ自身も、他のメンバーも決してこんなことは云いたくないというのは嫌というほど解る。
「くそ・・・っつ!!」
誰ともなしにリーバーは呻いて拳を握り締めた。
ふと気が付くと、隣に立っているミランダの震えが止まっている。
長身の目線から見下ろすと、毅然と顔は上げたままだ。
「新しい、団服を、トランクにまで入れて私に見せるということは、アジアに行けばいいということですね」
云うなり唇を噛み締める。
コムイの張り詰めた表情がほんの少しだけ緩んだ。
「そう、そっちの準備は大丈夫?」
「あ・・・」
リーバーが応える前に「大丈夫です、すぐに向かいます」
毅然とした声が響いた。
「・・・リーバーさんが、頑張ってくれました。ヘブラスカにも適合を確認してきました、刻盤は発動可能です」
リーバーが勢いよく振り向く。
「・・・タイムレコードか、いい名前だね、2人ともお疲れ様。じゃあミランダさんはコレ着て、出発の仕度してまた戻って来て、一旦解散!」
ミランダは団服を受け取ると、リーバーに微笑みかけた。
崩れそうな微笑ではあった、
「アレンくんは、大丈夫。私、アジアでそれを確認してきます、リーバーさん・・・ありがとう。本当に」
もう一度笑顔を作ったときに堪え切れなった涙が一筋頬を伝って落ちた。
それもすぐにリーバーの横を通り過ぎたため、一瞬しか見えなかった。
駆けて行く音がする。


やれるだけのことはやった、彼女は大丈夫だ。
頼む、アレンを、皆を・・・!


リーバーも班の仕度に勢いよく駆けつける。




「じゃあ、行ってきます」
バイクスーツのような、これまでのばさばさした外套風の団服とは大違いの、ボディラインの出る服にミランダは落ち着かない風ではあったが、即座に刻盤用に改良された(これも製作者であるリーバーの指示によるものだった)団服は、ミランダをエクソシストとして包んだ。
「これ、頼んだよ」
大きなトランクを手渡す。最新型のものはとても軽く、片手でそれは持つことが出来た。

「少しでもキミ達を、守ってくれるように」

翳りを浮べた表情は、「兄」のものだった。
「・・・はい」
ぎゅっと持ち手を握り締める。

「あんた、クロノスみたいなもんだ」
「私は時間を一定吸い取れるだけです、飲み込むなんて出来ないです」
真面目くさった応えに、はは、とリーバーが笑った。
「そうだな、頑張ろうな、時計のエクソシスト」
「ええ、ええ・・・!頑張りましょう」


見送るだけだった、今は初めて見送られる立場となって、しかもそれは惨事の戦場。
出だしからついてない任務だった。
(私にはお似合いね・・・アレンくん・・・皆、どうか無事で)
俯いて胸元で硬くトランクを抱え込んだ。

大きく掲げられ振られたリーバーの長い手は、時間を運ぶ翼のようだった。
「行ってきます!」
もう一度大きな声でミランダは告げた。








END

団服、ミランダさんには興奮しましたが、ラビは前のほうが可愛い〜。
にしても、あれ、神田どうなるんでしょうね・・・滅茶苦茶似合わなそうよ・・・!?爆笑。
そこは作者さんの事ですから、きっとそれぞれに似合いの仕立てにしてあるのでしょう。アレイスターの団服はぴちっとしててもマント仕様だったし。
リナリーのはどんなかな〜。
ああ・・・しかしラビ・・・可愛かったのに・・・なんだかますます天化に・・・(藤崎竜『封神演義』)腹が出てないのが幸いか。笑。
しかし長い捏造をしました。
ふははははは・・・!いよいよリーミラが固定してきてしまったよ・・・!
完全に刻盤は二人の愛の共同作業状態に・・・!苦笑。
発案・製作者リーバー、名付け親も彼。笑。

しかし前半部はギャグまじりで、後半がシリアス・・・最初は書きにくいと思っていたDグレですが、作者さんのテイストに慣れると楽だと解りました。

さ、次は銀魂だ!!
あああでも市丸乱菊市丸も書きたい・・・てっか読みたい。


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