銀の鎧細工通信
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2005年08月18日(木) 何度数を数えても (リボーン獄寺山本獄寺)


何度も指折り数えた。
自分には野球しか無い。
他に数えてみたけれど何も無い。
何度数を数えてみても。


「ただいま」
「おう、お帰り。ちょっと手伝ってくれねえか、葬式用の注文に手が回りきらねぇ」
暖簾をくぐって引き戸を開けるなり、顔も上げずに父親がまくしたてる。
「いいよ、着替えて来る」
体を動かすのは好きだ。
思うように動くときのえもいわれぬ快感は他の何にも代えがたい。
だからこそ自分は、ままならない腕に、肩に、歯痒い思いをした。
山本の歩いた後にびしゃびしゃと水が落ちていることに父親は気が付かなかった。
風呂場に直行して、戸を閉めると山本はうずくまる。
顔を覆った掌は柔らかくなってしまっていた。
それが酷く自分を傷ませた。


先ほどまで綱吉たちといつものように莫迦騒ぎをしていた、帰り道で獄寺と通りがかった公園の池には月がうつる。
揺れては輪郭が壊れた。
元に戻ってもまた壊れた。
(何をしてるんだろうな)
そうした実感は時折山本を襲った。
(野球もしないで、何をしているんだろうな)
足を止めて水の月に見入る。獄寺の吸う煙草の煙が目の前を掠める、少し目に染みて涙が滲む。
「どうしたよ」
数歩先まで歩いてしまっていた獄寺が振り返る。

云えない。

心がぎしぎしと軋む時があるなどと。
云ってもどうにもならない。
自分というものがどんどんと錆付いていくような気がすると、云ったところで誰が解るだろう。
誰も彼も周りは皆、何かに夢中で迷う事もなくがむしゃらに、そういっそ馬鹿馬鹿しいほどに迷わずに動いているのだ。山本もそうして野球だけ考えてきた。
野球しか無い自分が、こうして時間を使うことに、無性に焦燥感に駆られるのだ、錆びていく自分、一人だけ錆びていく。
「お前、は、いいよな」
池の淵に立ち止まったまま、へにゃりと笑った顔は、確実にいつもと違うものになってしまったという自覚があった。
お前は何でいつもそんなヘラヘラヘラヘラしてやがるんだ!と、いつも眉間にしわを寄せて怒ってばかりいる獄寺によく云われる。
案の定
「・・・笑い方、気持ち悪りーぞ・・・?」
咥え煙草を指に挟んで呟いた。
(ああ、やっぱり)
また山本は力なく笑った。
笑い顔を作った、と云う方が正しいかも知れなかった。
微笑を何度作っただろう、何度誤魔化しただろう。
仏頂面に不審の色を浮べて立っている獄寺は真っ直ぐに立っていて。
真っ直ぐに、立っていて。
ぐらりと傾いで低い柵を滑るように、吸い込まれるように池に落ちる瞬間に、驚愕の表情をしてもそれでも真っ直ぐだった。
自分の目線が傾げば傾くかと思った。

「おい!!」

絶叫が聴こえた。
けれどその瞬間に大きな水音にそれは消えた。
思ったよりも池は深く、脱力した山本をすっかり沈めてしまう。
水面の内から見える歪んだ世界は、まるでいつもの違和感とよく似ていた。
そう、こんな風に、息苦しくて。
よく見えなくなる。
歪んでぼやけて滲んで揺れて。
重く重く重く自分は動けないまま沈んでいく。
水の中に住むことが出来たなら、水の中で息が出来たなら、それなら今のままでも遣り過ごせると思ったけれど。

結局、それは出来ないし苦しくなってしまう。


力強い腕が無理矢理に引き上げる。
「おまっ・・・!何考えてんだ!莫迦かよ!」
山本よりも背の低い獄寺は腰の上まで水に浸りながら、それでも片手で負荷をものともせず引き摺り上げた。

力強い腕。
迷わない腕。

錆付かない、軋まない、迷わない沈まない溺れない苦しくならない、ああ真っ青な空に白い雲の下で真っ黒に日焼けして汗をかいて、それだけで土の匂い。死んだ振りをして待っていたって何も変わらない。
早く自分が自分を治さなければ。

ばしゃり。
立ち上がって「わり、滑っちまった」、今度は巧く笑った自信があった。
何か云い掛けて口を噤んだ、手を離して「莫迦じゃねえの」と云い捨てて背を向ける。

傷付かずに生きていけるなら、その方がいいに決まってる。
でも無理だろう。
体も心も傷付くんだ。
水に飛び込んだ所為で煙草もダイナマイトも駄目になってしまったらしい。
放り投げた煙草はまだ煙を立ち上らせている、それを拾うと塗れた手をごしごしと制服のズボンで拭いてまた咥える。
「早く上がって来いよ、野球莫迦」
陸地から見下げて云うなり、目を丸くして笑った。
「何」
指差す。
自分の胸元を見る、水に浮かんだ月が山本の胸から半円を描いている。
「円盤星人だ」
旨そうに煙を吐いて云った。
「何だよソレ」
苦笑して手を柵にかける、獄寺がそれを掴んで引っ張りあげた。
勢いあまって体がぶつかる。
獄寺の体温は高い、少しだけ高い。
腕を掴んで、体を正面からくっつけたまま「野球莫迦は野球してりゃいいんだよ」と云う声が体に響く。

出来ればこんな思いはしていない。
云い掛けて云えない。
故障が完治していない自分を監督はマウンドに立たせない。
それは山本がそれだけ期待されている選手であるからではあると理解していた、よく理解していた。
部に顔を出しても気を遣う皆の顔は水の中よりも息苦しい。
だったら誰かと莫迦騒ぎしている方が気が紛れた。
「野球、してえよ」
そう云うのが精一杯だった。
「早く治せよ、スランプだか故障だかしらねぇけどよ」
優しさが尚自分を錆付かせる。
額を獄寺の肩に置くと、灰色がかった髪が目の前に見える。


何度数を数えてみても。
何度練習にまともに参加できる日を数えてみても、まだ自分は使い物にならない。
何度虚しくなってそれを数えてみても、何処にもいけない。


「水の中で息が出来るようになりてーなあ・・・」

「本当に莫迦なんだな、野球莫迦」










END

青春風味で。青春ド直球で。
リボーンはまともに読んでいませんし、よく覚えても居ません。
山本がただ好きで、彼が受けに思えて仕方が無いので書いてみました。
リボーンは受けしか居ないので大変です。

で、山本って野球部復帰してるの?ツナたちと遊んでばっかりいるけど大丈夫なの?!バットは振ってるし体は動かしているのでスランプは脱したの?そもそも山本ってスランプだっけ故障だっけ?
色々全てが解らないまま書いてみたら、受け同士なりに楽しいのでした。

ずっと忙しいやらで家でじっくり小説がかけなくてですね、大変歯痒く、もっとも携帯から書けたとしても私の携帯電話のメール送信文字数はとても少ないので意味が無いのでした・・・。
萌えもくたびれているとイマイチふるいませぬ。
豊かな萌えトークで萌えたぎりたいものです。

拍手でミランダさんのことを書いてくださったあなた様!
来週が楽しみでなりません、「時計の女」って煽りがまた大興奮です。
彼女の成長と能力に合わせてまた妄想したいと思っております!!
ありがとうございます!!絶対書きますね!ええ!
誰とどのように絡められるか、ミランダさんは人との間で成長していくと思うので、それらを考えつつわくわくしております!嬉しかったです、感謝でございます。

私のおおふりが好きだと仰ってくださったあなた様!
ありがとうございます!ワンパターンに陥りがちな私の阿部受けですが、もっと抉りこむように妄想を深めてさらにえげつない(・・・)阿部受け(主にハルアベ)を産みたいと思っております!ありがとうございます!!

天野月子がお好きだと仰ってくださったあなた様!
どの作品がお気にめしたかお教えいただければ幸いです!私もいつか『カメリア』で近←土を書きたいと思っていたもので、物凄く嬉しかったです!
ベースはやはり近←土なので、そちらも混戦模様の土方受けの中でしっかり打ち出したいと思っています。やはり原点回帰で大事にネタとして取っておいた(苦笑)『カメリア』で行こうかしら!なんて思わせていただきました。ありがとうございます!

取り急ぎ。
お久しぶりの銀鉄火でした。
今回また初物ジャンルなので、上記メッセージを下さった方がお読みになられるかが心配でございます・・・。でも本当に励みになります。
好みのジャンル、気に入って頂けた作品、お好きなカップリング、クレーム、などなど何でもお伝え頂けたら燃料にさせていただく事間違いなしです。苦笑。

BGM:矢野絢子『水の月』にインスパイア。





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