銀の鎧細工通信
目次|前|次
この爪を尖らせて、この牙を磨いて。 この髪を武装に、この眼を威圧に。 この指を企みに、この声を恫喝に。
私は女だ。 それが何だというのだろう。
不意に現れた陸奥という小柄な女に、初め船員は小莫迦にした態度であからさまに「女だてらによくやるぜ」という嘲笑を含んだ眼差しを向けた。 最も其れは彼女の独特の威圧感と、圧倒的な知識と判断力、戦の心得腕っ節の強さ尋常ならぬ覚悟の座り方、それらの実力に向けた畏怖の念に変わった。 不穏なまでに人間離れした存在感に距離をとっていた船員達も、坂本との遣り取りを見ているうちに心をほぐした。
「陸奥、遅いきにゃ、おまんは化粧が長すぎじゃ化けゆうのもほどほどにしゆうがじゃ」 と云えば 「煩いぜよ毛玉、余計な世話じゃ。おまんの方がいっつも遅刻ばしちゅうくせに何を云うか」 とドス、と坂本の鳩尾に重いツッコミを入れる。
外見こそ人間離れして入るが、血の通った仲間だと。 けれど実力の無い女だったらどんな待遇を受けただろうか。 今は陸奥という先達が居るので、「商いに性別なんぞ関係ないがじゃ!」という坂本の論も相まって女の船員も多少は居る。 技師の娘は整備班に入り、女中上がりだという女は掃除炊事洗濯の割り振り分担を担い、芸妓出の女は主に営業を行う。 得意分野を活かすのは男も変わりは無い。 基本的に船の管理は持ち回りなので、家事を女ばかりが担うわけでもない。
ふと夜中に眼が覚めて、船室内の洗面所で水を飲む。 ぬるりとした感触に気が付き、下着の中に手を入れた、どす黒く粘度の高い血液が指に絡みく。 蛍光灯の灯りで白々しく照らされた経血は不可思議なものに見える、自分とは関係のない物質のような。 勢いよく指を洗い、下着を脱いでそれを洗う。 洗っている側から自分の内股を血が伝っていくのがわかる。 それが滴る前に下着を洗い終えて浴室にタンクトップを脱ぎ捨てて入る。 流れてゆく湯には血が混じり薄赤い、やがてシャワーが放つ透明な湯だけになった。 足元を眺めていたら、ペディキュアが剥げている事に気が付いて(塗りなおさんとな・・・)と思う。
タンポンだけを体に含み、陸奥は裸でベッドに腰掛けた、背筋を髪から落ちる雫が伝う。 少し濡れてしまった髪をまとめてから小瓶に手を伸ばす、ベッドサイドの灯りだけで爪を丁寧に染め上げる。 さっきの血の様に暗い赤。
足を中に放り出したまま倒れこむ、長い髪が散らばる。 手だけで煙草と灰皿を手繰り寄せて、体の横に置くと煙を呑む、船室の低い天井に煙は広がり消えてゆく。
私は女だ。 私は私だ。 私は私で女だ。
陸奥はふう、と目を閉じる。 船のエンジン音が子宮に響いて鈍痛を感じさせる。 窓の外は真っ暗闇の宇宙。 深く無音の宇宙。 それに比べて自分は血を流し、限りある肉体を持つ一人の生き物。
爪を磨いで牙を鋭く。 やまねこは眠る。
END
意味不明でごめんなさい。 私の中で陸奥は髪が金灰、眼が金緑、つー『BANANA FISH』のアッシュと同じなもので、中島みゆきの『やまねこ』を聴きつつ、お仕事女性の日常を書きたくなりました。 陸奥が書きたかったのもありますし、笑。 カップリものじゃない陸奥単独も書きたかったんです。 何せ本編で出てこないから困ったね! 高杉といい・・・さっちゃんをあんなに出す前にもう少し・・・!くう!
|