銀の鎧細工通信
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「ご飯ですよーーーーーーい!!」 山崎が髪をくくり、前掛けの姿で片手を拡声器代わりにそえて呼びかける。 わらわらと隊士たちが集まってくる、 「今日の晩メシ、何?」 「ん?素麺に生姜たっぷりの焼き茄子、豚コマ入りニラ玉七味がけ、大根と油揚げの味噌汁、ワカメとしらすの酢の物」 「げ、俺生姜嫌いなんだよな」 「お前らの好き嫌い全部考慮してたら何も作れねえよ、夏バテ防止に喰え」 「おめー本当に監察よりこっちの方が向いてるんじゃねーの」 「いや山崎はプロミントン目指してるんだろ?」 「だはははプロミントンって何だよ!」 「うるせーな、ほら来た奴から座れ!」 ざわつく座敷を見渡して、冷たい麦茶を用意しながら目で探す。 (副長が居ない)
「う・・・っぐ、げぇ・・・げほ」 吐しゃ物混じりの唾液をペーパーに吐き出し、口をぬぐって流す。 ザアアアアという水音に混じって溜息が重い。 トイレのドアにどしんと背を預け、また大きく息をつく。 酷い悪酔いに頭も体も重く、気持ちも悪く、クラクラふらふらと定まらない重心に苛立つ。 訳が解らなくなっている程酔っているにもかかわらず、だからこそ不快感だけは色濃く感じられる。 全部吐き出してしまいたくて、喉の奥に指を押し込むが少しも吐けない。 繰り返しているうちに、ぬらりと唾液にぬれた指先が赤く染まっていた。 蛍光灯の白々しい灯りの下で、透明の唾液に混じって赤が透けている、 指を開くと粘着性を帯びた液体はだらりと垂れた。 伸びた爪で、喉の粘膜を切ってしまったらしかった。 それ以上指を突っ込む気になれず、またペーパーで指を拭っては丸めて流した。 これ以上は今は吐けない、と判断しトイレから出て手を洗って口元を漱いだ。 鏡に写った切れ長の目は少し充血して余計に凶悪なものになっていた。 きついきつい目付きで、眼差しで鏡の中の自分を睨みつける。
建物からふら付く足で出て、自動販売機でミネラルウォーターを買っては口を漱いで道の脇に吐き出す。 喉元をぬらす冷たい水が気持ちよかった。
ふらふらとそのまま夜道を歩いていく。 今日はオフだった、明日は遅番という恵まれた条件にもかかわらずやりたいことも特にない。
「あんれ、土方くん」 またか、と土方は思った。この声。 どうしていつもこう。 呂律の回っていない声はその主が大分酩酊している事を表す。 自販機に寄りかかり、俯いているとぺたりぺたりという妙な足音ともに主が近付いてきた。 「?」 俯いた視線に先ず飛び込んできたのは、乾いた泥がこびりついた足。 裸足。 着物の裾にも泥が少し付いている。 顔を上げるとやはり焦点の定まっていない気の抜けた顔があった。 「何やってんだ」 「土方くんこそ、こんなトコで何してんの?」 質問の意味するところが掴めない銀時は間の抜けた返事をした。 「何云ってんだ、てめえの足だ、足」 土方は早口でまくし立てた。 「んあ?ああ、これね、うん・・・」 ゆらりと上体が傾いた、咄嗟に支えてしまう。 「へへ、あんがと多串くん」 酒臭い息、目の前で銀時がへにゃりと笑う。 目線だけでそんな銀時を見下して、土方は支えている手を放す。 ずるりと銀時が座り込んだ、 「何よ」 と云い切らないうちにペットボトルから水を落とした。 「うおい!冷てっ!!」 驚いて足先を引っ込めようとするのを草履を履いた足で踏みつけて押さえる、「おら、出せ」。 「裾まくらねえと濡れるぞ」 と云いながらだばだばと水を落として泥のこびりついた足を流してやる。 土方の足にも水は飛び散ったが、この季節だ直に乾くという気持ちと酔いの所為かどうでもいいという気持ちがない交ぜになっていた。 踏みつけられたまま、意図を察してズボンの裾をまくりあげ、器用に足同士で泥を落とす。 「気持ちいい」 自販機の灯りで照らされた銀髪のつむじを眺めながら「そうか」と応えた。 ブーツはどうしたんだ、とか何でまたそんな真似してやがるんだ、とか訊く気にもならず足をすすいでやる。
「あんがと」 着物で綺麗になった足を拭いながら礼を述べた。 夏場でもブーツを履いていることの多い足の甲は白く、骨も筋もはっきりと照らし出されていた。 むくりと立ち上がると、土方の腕を掴んで 「お礼に散歩しようぜ」 と云った。 「意味が解らねえよ、なんだそれ」 空になったペットボトルを捻り潰して無理矢理自販機の横の缶用のゴミ箱にねじ込む。 ぐいと引っ張られ「いいから、散歩しようぜ」と云って、笑った。
ぺたぺた、裸足の足が立てる音。 じゃり、ざり、と草履が砂をくじく音。 夜道を並んで歩く影は対照的な白と黒。
END
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