銀の鎧細工通信
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2005年06月16日(木) けもの (銀高)


ふとした瞬間に込み上げてくる、やりきれない悔恨。
忘れられない死人の重み。
どろどろに血にまみれ、重くなった。体も、心も。
そうした時に気配を感じるのだ。
自分の背後から忍び寄ってくるけもの。
自分の体の中から這いずり出てくるけもの。
のた打ち回り荒れ狂い、「殺せ」と「助けて」と繰り返し咆える。



「あー・・・ひでェ目にあったぜ・・・まっさか定春があんな
ドエライ生き物だったとはな」
痣だらけの脇腹がうずく、肋骨が折れなかったのは奇跡だ。
口の中が酷く切れていてなかなか血が止まらない、気持ち悪さと痛みを
誤魔化すために銀時は安酒場に繰り出した。
えいりあんの時といい、真っ先にしゃしゃり出てきて、定春を殺しても
おかしくなかったはずの真撰組はじめ、警察機構は手を出さなかった。
少しは出したが、あれも体裁だけのものに過ぎない。
奇妙な縁は、奇妙な信頼感による適度な距離感を生み出している。
「・・・それともアイツらあれか?実は犬好き?有り得るよな、ソレ」
鼻に詰めていたティッシュをとって投げ捨てる。
「よーやく止まりやがったか」
夕焼けが血の様に赤い。

(ああ、それなりに振り回され、家計は困窮させられてたものの、
うまく共存してたと思って飼い犬がねえ・・・あんなに暴れるとはな)

銀時の心が後ろ暗くなる。
「思うようにいかねェもんだ・・・」

ぽつりと呟いてがしがしと頭をかく、
「あだだだだだ!!んだコレェ、たんこぶかよ!?」
思わず一人つっこみを一人でしてしまう、黙っていたら、口を噤んでいたら
アイツが寄って来るのが解ってしまう。アイツの気配を意識してしまう。

考えるな、忘れろ。
無視すると決めたんだ。
殺しても殺しても息を吹き返して自分に付きまとう銀色の毛並みのけもの。
不吉な暗い暗い目で自分を見詰める、その目に囚われたら終いだ。
見てはならない、あの物云わぬ真っ黒な目を。


ぞわり、と背筋があわ立った。
木刀に手をかけて振り返る。
「高杉」
同じけものの気配を嗅ぎ付けてやってきたのか、
そこには血を浴びすぎてどす黒いけものを体内に抱えた男が一人。
ふらりとした足取り、やや揺れた体、大分酔っている。
押し殺した笑いで喉が鳴る。
「お前んトコのけもの、随分派手に暴れまわったじゃねえか、
こりゃ戦並だぜ、見ろよ後ろ」
くつくつと笑いながら煙管で銀時の背後を指す。


振り返れば、見たくもないから背を向けて歩いてきた山。
山、山、山、山、死体の山。
瓦礫に埋もれて砂埃舞う、焼け野が原の中の死体の山。



違う、目の錯覚だ。
しっかりしろ、連れて行かれるな、引きずられるな。
胸を通り抜けた銀色のけものを黙殺する。
銀時は足を踏ん張る。


「定春がやったのは街路樹ぶっ倒したのと、うちの屋根破ったのと、
地面に穴あけたぐれーだよ。後は真撰組の奴らがバズーカぶっ放したんだ」
不貞腐れたような半眼で素っ気無く応える。

「ふん・・・結局けものはけものだ、思い通りになんざならねえって解っただろ」
高杉がにやにやと笑い続ける。
祭りの日に跳ね除けたつもりだった。

お前と同じにはならない。と。


「うちのペットはちょーっと変わってるだけなんだよ」
銀時は踏ん張った足を動かさず直立している。
決してそちら側には、行かない。
自分の背を、腕を、柔らかく押さえて留めている者たちの顔を思い浮かべていく。一人ずつ。

「はっは!あれがペットかよ?!あの異形の化けもんがか!」
歩み寄ってくる、それは高杉が望んでいる事ではなく、彼の中の黒いけものがそうさせる。招きよせ引き込もうとするために。
「お前ん中にも、いるだろう、それを自覚したろう」
ふらりふらりと歩み寄りながら手招く。
銀時の目の前でぴたりと足を止めると、煙管で胸を突く。
痛んだのは、定春に強烈な殴打を喰らった箇所だけではなかった。
胸の中心に煙管を突き当て、高杉は顔を寄せる。
「けものくせェよ、なあ銀時・・・?」
暗い目は口元こそ笑っているものの酷く悲しげだった。
暴れまわるけものに振り回され、壊す事しか殺す事しか出来ず、死ぬ事も出来ず、苦しんでのた打ち回っているのはむしろ高杉自身だ。
何とかしたいのに、死人の重みをどうする事も出来ないまま生き続けているのは高杉自身だ。

イヌ科のけものは群れる。
群れて狩をする。

(そんなに仲間が欲しいのかよ)
心の中で舌打ちをした。
(そうまでしなけりゃやっていけないなら、重いものを何とかしろよ)

(自分自身で何とかしろよ)


(あんなに死んだのに、お前は生き残ったんだから)

(生きてんだから)


目の前の黒い影を銀時は引っ張って抱き込んだ。
小柄で骨の細い高杉は昔よりずっとずっと痩せこけていて、それがあまりにも不憫に思える。
(自業自得だ、莫迦野郎)
そう思いながら腕に力を込める。

「押さえられるんだよ、どんな化けもんでもけものでも。解っただろ。
マナーを守れない飼い主にペットを飼う資格はねーんだ、」
高杉は自分の中に生まれてしまったけものをどうにも出来ない。
なだめることも、野に還してやることも、望むままの餌のみ与え続け、けものは巨大化して高杉を苦しめる一方だ。

「お前にゃさ、飼う資格なんてねーんだから、捨てちまえよ」
腕の中の体が硬直する。
自分は残酷なことを云ったと解っている。
捨てる、とは鬼兵隊を忘れろ、という事と同義に近い。
「捨ててもくたばらねーんだ、だから大丈夫なんだよ」
高杉の抱え込んだけものは解放しても消え去りはしない、記憶は消せない、けれどその記憶によって殺し、殺される事からは解放される。

「ペットに振り回されてちゃ飼い主失格なんだからよ、お前もいい加減認めろよ」
そう云いながらも銀時の中に空いた空洞を銀色のけものは行きかっている。
蠢いている。生きている。
決して死に絶える事がないのは解っている。
だからこそ進んで養ってやる必要など無いのだ。


ぽふぽふ、と高杉の背中を軽く叩く、出て行け、もうこいつを自由にしてやれ、と云い聞かせるように。
まるで憑き物だ。
(あーあ、ったくあの莫迦姉妹にお祓いでもしてもらえばいいんだ、こいつ)
残酷に諌めたら、高杉は大人しくなった。
「ほれ、今とか、お前んとこのけもの、黙ってるじゃねーの」
笑いかけなどしない、片眉をつりあげて小莫迦にした表情をする。

「じゃーな、ちゃんと生きろよ。いいオトナなんだからよ」

手を放してすれ違う。
生きている道が違う、生きている場が違う、もう違う。
あの頃と。そして今の互いは。

「銀時、俺は」
高杉が硬直したまま、背中を向けて何かを云い掛けて、黙った。
ふん、と溜息を聞こえよがしについて、
「先ずはてめーが飯でも食え。じゃーな」
と云って銀時はまた背を向けて歩いて去る。

(しっかりしろ)

(いい加減にしろ)

(お前だけじゃないんだ)


(お前だけじゃない、でも俺は絶対にそっち、には行かない)




背を向け合った二人の歩む道は、違う。
歩くことも出来ないでいる高杉は、まだ歩き出すことが出来る。
それはけものみちじゃない。









END

銀時と高杉書いてみました!ちょっと「銀さん」コーナーに保存してある『拾う』を踏まえて。
突き放すことでしか、この二人は関われないかと思いました。なまじっか、昔を知っているから。共有した過去を持っているからこそ。


★6月14日のあなた様!
わあ、良かった!お気に召して何よりです!!いえもーこんなですから、気軽にじゃんじゃん拍手でもメルフォでも使ってくださいまし。
あの二人の生活は、とても静かだったと思います。緊張感を押さえ込んで押さえ込んで、本当にコップから水が溢れる寸前のような静けさ。
・・・私は今も「何で師匠はアレンたちをあそこに送り込んだの〜何でそっとしておいてあげなかったのお〜」と切なくなります。
いつか破綻するなら、それまでは二人の悲しい日々をそっとしておいてあげて欲しかったです。
でも、アレンたちが訪れたからこそ二人は必死で作り上げて守っていた虚像じゃない恋愛が出来たのかな、終わる時にだけ確信できる愛なんて嫌だけど、あのまま暮らしていたらもっと悲しい別離が来たのかも知れない、そう思うことにしています。
ありがとうございました!これからも書いていきたいです!

★6月16日のアナタ様!
わあ、うれしいです!!ある意味雰囲気だけで書いているようなSSばっかりでして・・・これは私に書く力が乏しい所為なんですが。
感覚的なものばかりではなくて、もっと構成されたものも書いていきたいと思っています、宜しかったらまた遊びにいらしてくださいね。
でもって、良かったらお好きなジャンルなどこそっとお聞かせくださいませvvありがとうございました!

BGM:天野月子『天龍』、最近こればっかりだなあ・・・。














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