銀の鎧細工通信
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2005年06月24日(金) 花いちもんめ (神田ミランダ、アレンミランダ)


綺麗な嘘など要らないの。
だって皆皆皆要らない子。
神様にしか要らない神様の子。

孤独な理由なんて知っている。

手加減の無い生活、独りで居る方がずっと気楽だった。
でもそれも嘘。
嘘じゃない、
嘘じゃない、と思えばいつか本当の様に思えるようになる。
誰も貰ってくれなくていい、
誰もいなくていい、
居場所なんてなくていい。

貰ってはくれない花いちもんめ。
貰ってはもらえない花いちもんめ。

皆皆皆、暗闇の中で一人きり。
孤独の理由は解ってる。
手さぐり、触れるものなど何も無い。
暗闇なんて怖くない、見えない方がいい。
だって皆、見てみぬ振りして行ってしまうから。
ちらり視線投げかけ去ってしまうから。


「選ばれし」者だなんて、望んでなかった。
でもそうであった以上、それによって失くした人が居る以上、
与えられた意味がある以上、闘うしかないのだ。
でなければ何処にも進めないから。
嘆きに飲まれて動けなくなってしまうから。




はた、とアレンは窓に映った自分の姿を見た。
赤黒く変色し、夥しい静脈のに取り巻かれたような手、
くすり、と笑って(気持ちが悪いな)と思った。


着替えている最中に稲光が暗い部屋を照らしたので神田は外に目をやった。
カ、と光る閃光に目を焼かれ、窓ガラスに自分の胸の梵字が見えた。
手を当てると鼓動の音がする。
止まるな、尽きるな、追いつくまで追いつくまで。
間に合ってくれ。否、間に合わさなければ俺が生きてる意味なんて無い。
手ぐしで髪を纏めてきつく結う。


「あら雨・・・」
酷い稲妻が去ったと思ったら雨がぱらぱらと降り出した、ミランダは
顔を上げて外を見る。
自分の後ろでは大きな時計が規則正しく時を刻んでいる。
そっと撫でると正面の振り子が見えるように作られたガラス窓に自分の姿が
映し出される。
よく磨かれたそれに、痩せぎすのミランダが少し歪んで映る。
「焦っても仕方が無いけれどね・・・早く皆の役に立てるように・・・
なりたいわね」
額を押し当てる、この大きな時計を移動させるのは困難だ、しかし最前線で
闘う攻撃型の人間の支援になら打って付けのイノセンス。


神田が勢いよくドアを開け放つと小さく「きゃ」と声がした。
人の気配には過剰なまでに神経質な神田が、それに気が付かないのは
珍しい事だった。
自分はそんなに取り乱していたのか、と短気で頭に血が上りやすい事に
自覚が乏しい神田は自分に舌打ちをした。
それに対して相手は「ごめんなさい」とドア越しにか細い声をかけてきた、
ああこの声は・・・瞬間に神田はイラッとした。条件反射のようなものだ。
ドアを閉めつつ、そちらを見もしないで「いや、こっちが悪かったんだ、
悪かったな」とぶっきらぼうに云ってそのまま早足で去ろうとする。

「神田さん」
声をかけられる、苛立ちがまた増す。
「何だよ」
振り返ってやる。
「あの・・・失礼かも知れませんが・・・」
(シツレイだとか思ってるなら訊くんじゃねえよ)
下がった眉は長めの前髪に隠れて見えないが、血色の悪い細い女は
とても陰気で、怯えた様子が一層苛立ちを募らせる。
一度俯いてから顔を上げる、目に力が篭っている。
(ふん・・・此処に来てからちったぁマシになりやがったか)
自信の無さはすぐには払拭されない。
コンプレックスが消えない事も神田はファインダーとの揉め事で
飽き飽きしている。


(こんな奴がイノセンスの適合者だと?)

(使えもしない奴に与えるなんざ「神」のお遊びにゃ付き合いきれねえな)

アレンたちと一緒に本部へ来た時にそう思った。
役立たずにイノセンスが与えられ、奪われでもすれば損失は大きい。
(いい迷惑だぜ、このモヤシといい・・・!)



その頃よりは幾分マシにはなってきているが、気の弱さは相変わらずだ。

「神田さんの、イノセンスが発動したときの事を、差し支えない範囲で
教えて頂けませんか」
気は立っているものの、ぼんやりと考え事をしていたら声がかけられる、
予想以上の大きい声に驚く。

「・・・何でそんな事を訊くんだよ」

「私は発動後、間もないです。タイプも比較的珍しいそうで、どう、
・・・この力を使っていけるか解らない部分が多いので・・・その、
失礼な事とは思うんですけど参考にさせて頂きたくて」
体の横に垂らした手が強く握られている。

それを見ると、役立たずなりに少しは今後に賭けてやってもいい、そう
思えた。役立たずよりも役立つ奴が多い方がいいに決まっている。

「剣術は元々習ってた、たまたま手にした剣がこの六幻で、ある時
解放された。そんだけだ」

「そうですか」
端折りに端折った説明だったが、ミランダは感謝を込めた眼差しで
「ありがとうございます」と云った。
「剣術を習ってらした神田さんの武器が刀だったのには、きっと理由が
あるんでしょうね」
少し微笑んだ。
「神の意思、だとでも云いたいのか、そうだとしても俺は興味ない」
鼻白んで神田は”運命”や”導き”を否定する。

神の使徒?
くだらない。
正義を気取るつもりも善人ぶるつもりも更々無い。
俺は破壊者だ。


「違います」
穏やかな反論に釣り目を流してミランダを見つめた。
「扱いなれていたでしょう?きっと小さい頃から強かったでしょう?」
余裕のある優しい笑みに神田は少したじろぐ、がそれを表には出さない。


「だから神田さんは今も強い、そしてまだまだ強くなれるんですね」



イノセンス、ではなく「選ばれた者」だからでもなく、
ミランダは神田個人を認めている。
神田の個人的な意思と努力による強さを評価しているのだ。
ふ、と無駄な力みが消えた。
つり上がった眉、きつく鋭い目付きが緩むのを感じた。



「・・・あんたの武器は振り回せるモンでも装備するモンでもねぇ、
強くなりたきゃ先ず体力付けるこったな」

ぽつりと呟いた、無意識にだった。

「あ、確かにそうですね!ありがとうございます」
ふふ、とミランダは嬉しそうに微笑んで「ごめんなさい、引き止めてしまって」と云って去っていった。
長い団服の裾がふわりと翻る。
細い細い黒い影。
長く伸びる。
思わず手を伸ばした六幻は黒い細身の刀。



誰も自分を要らない花いちもんめ。
だから自分も誰も要らない花いちもんめ。


でも、要らないもの同士だったら・・・?

(傷の舐めあいも馴れ合いも御免だ)

特別な力をでは無くて、自分を見てくれた。
神の使徒ではない、剣の使い手としての闘う自分を見てくれた。

心地よい脱力感に神田は珍しくゆっくりと歩きはじめた。
カツン、と特殊な素材の頑丈なブーツが石の回廊に音を響かせる。
慣れない脱力感。
違和感、でも不快じゃない、妙に軽い感情。




「どうでした?」
食堂で湯気の立つ紅茶を飲んでいるアレンがにこにこしながら問う。
ホットワインを手にしたミランダが横に腰掛ける。

「ええ、アドバイスまでしてくれたわ、ありがとうねアレンくん」
こちらもにこにこと満足そうにしているミランダに(おや)と思う、
しょぼくれて、下手をすれば涙目で戻ってくる事すら想像していたにも
かかわらず(アドバイス・・・?神田が?!)天変地異の前触れか、
と思いながらも
「良かったですね」
とまた微笑む。

「で、神田の発動の時はどんなでしたか?」
ふー、と湯気を吹いて質問する、神田がアドバイスまでして、ミランダは
幸せそうにしている。
ある意味自分以上に水と油的な、むしろ火に油状態な二人にどんな遣り取りがなされたのか興味が湧いた。

「それはね、ほとんど話してくれなかったのよ、でも剣術は元々習っていたらしいの、それは磨きをかけようって思うわよね」
耐熱のグラスの中で紅が透けてミランダの手に映る。
「まあ、僕らみたいに0からのスタートじゃないならねえ」
一口紅茶をすすってアレンは続ける。
「しかも僕やリナリーみたいに身体性も無いミランダさんには、やっぱり装備型で、何か物を媒介しているエクソシストの話が参考になりそうですね」

かく、と項垂れてミランダは「ごめんなさいね・・・」と突然呟いた。
「へ!?何がですか!?」
「アレンくん・・・辛い事を話させてしまって・・・」
それは神田の前にアレンに発動時の事を訊いた事を指していた。
(本当にこの人は凹む方向での感情の起伏が激しいなあ)
思わず可笑しくなってアレンは噴出した、
「いいんです、一部の人は知っているし、それにホラ、これがあるから
大抵の人は予想していますよ」
瞳の上のペンタグルを指差してなだめてやる。



この呪いの印も、醜い手も、隠す必要が無い。
それは暗闇の中だからでもあるけれど、
要らない者たちは要らない者たちなりに一緒に生きていけるからでもある。


誰ももらってはくれない花いちもんめ。
あぶれものばかり。
必要としているのは神様の暇潰しのためにだけ。
綺麗な嘘など要らない。

自分たちも互いをもらってあげることは出来ない。
だって手を繋いでしまったら、また花いちもんめが此処でも
始まってしまうから。
手は繋げない。
此処では誰もが要らない子。
手も繋がないから花いちもんめは出来ないの。


アレンは笑った、うれしかった。


見てみぬ振りをされるのも、痛みを解る振りだけされても、
そんなの要らない。

皆要らない皆要らない、だから花いちもんめは要らない。


(・・・やっぱり、此処は、居場所かも知れないな)






END


書いてみたらミラ神っぽくなってしまいました。
神田はお子ちゃまだから、ミランダさんが本気になればお姉さんモードに
巻き込まれるでしょう。笑。
アレンはあくまでも腹黒ドス黒です。愛。












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