銀の鎧細工通信
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2005年05月17日(火) ZOMBIE (BLEACH 市丸松本市丸)

『反膜』がギロチンの刃の様にあたしとあんたを隔てる瞬間に、
あんたは自分であたしの手を振り払った。
あたしの手が弾かれる直前に、あんたは自分から手を離した。
離れる最後に、最後に、あたしの指先を撫でて、離れた。

「ギン・・・!」

声にならない叫びで呼んだ。
あんた、何がしたいの、何処に行きたいの、其処にあるの、
行く先は、そんな処なの・・・!?
謝ったって何の意味も無いじゃない、あんたはいつも履き違えてる。
もうちょっと捕まってても良かったって、本当にそう思ったのなら、
本当にそう思うのなら、此処にいなさいよ。
此処に、居なさいよ。
此処に、居ればいいじゃないのよ。



触れるところは全部触りつくした。
何年もずっと側に居た多くのものを共有した、感じるものは違っても、
とても多くの、沢山の、出来事や景色や天気や食べ物や互いの声を、
感情を、身体を、全ての生の質感を、その存在を共にした。

隊が離れてからは、見る度に遠く思えた、
あの髪も頬も顎も指も耳も口も鼻も額も肩甲骨も胸も肩も腕も掌も
膝も腰も脇腹も脛も腿も鎖骨も首筋も足の甲も、
全部よく知っているのに、全部触っていたのに、
それは全部夢だったように思えた。
あやふやで不確かなものに思えた。
夢で、幻で、気のせいで、何かの間違いで、
でも、心には何か暖かいものを失くした感覚だけは鮮明。
失ってもう戻らなくてもう触れなくて遠い処に去ってしまった、
そう感じる意識だけはあった。それは違和感に他ならなかった。
知っていたはずなのに実感がないのよ。
あんなに触れ合っていたのに、嘘みたいなのよそのことが。


触れるところは全て触りつくしたあんたの身体。
共に過ごした日々と経験。

あれは本当だったの?本当だったはずなのに、あたしは思い出せない。
絶対忘れると思っていた、
忘れたくなくても忘れるに違いないと解っていた。
印象だけで、具体的な記憶はどんどん失われていく。
ふと思い出し頭をよぎる思い出も、無声映画のようで。
確かなのに、とても大切で確かなものだったはずなのに、
ねえギン、あたしは留めて置けないのよ。
あんなに馴染んでいたあんたの声も、
「ご免な」
嘘みたいに実感が無くて、聴き慣れないものの様だった。
それでも大切な何かなのよ、今のあたしを造る大切な何かだったの。
それは間違いが無いの。

なのに、ねえ。

抜け落ちていく記憶、思い出せなくなりつつある触感、
喪失感だけ感じられる。
轟音の中で出会いの記憶がよぎる。


霊力のある魂は腹をすかし、生きている人間の様に摂取して成長する。
あたしは霊力とやらがあるらしかった、いつも飢えていて、
食べるためになら時折身体を明け渡した、股を開いた。
空腹で倒れても犯されるんだから同じ事。

そう、まさに空腹で倒れているところを襲われて、体液まみれで
股を伝う生温い精液が気持ち悪くて、でももう動けない。
このまま消えれれば楽になると思ったのに、あたしに手を差し出したのは
あんた。
その手はただの気まぐれのようでもあったし、
その割に、その癖に、互いに意味を与え合うような関わりを求めてもいた
あんた。
あたしの誕生日を決めて、
「丁度9月や、菊の季節なんやしぴったりやんなぁ、乱菊」
そう云って笑った。
無関心を装って、行き先を告げずに消えて、もう戻ってこないのかと
思った頃に帰ってくる関係。
場当たり的で、たまたま互いが其処に居るからというだけで会話し、
一緒に食物を調達し、身を守り、身体も交えた。
獣の最小単位の群れのようなあたしたち。
つがいと呼ぶには不確か過ぎた関係、
なのに存在だけはあまりにも確かだった。


もう触れられない処に居ることで、不確かさを思い知らされる。
でも、触れていたのは、心身を交えていたのは事実だった。
握った手の温度と肌の質感を思い出す、それが首筋に刃を当てているような
状況だとしても。
狐面が笑っているようなポーカーフェイスも、
昔はもっとマトモだったわね、感情の機微があった。生きた匂いがした。

いつからか隔たってしまった。
いつからか離れてしまった。
遠い距離、見えないあんたの意図。
昔から変な奴ではあったわよ、何考えてるんだか解らなくて、
でも本当でも嘘でもどうでも良かったの、あの頃のあたしたちには
それしか無かったんだから。



初めて云ったわね、「さいなら」って。
一度もそんな風に云って何処かへ行った事は無かった。
最後なんだっていう意味なんでしょう。
もうこれが最後だって。
莫迦じゃないの何が「ご免な」よ。
最後の最後に謝ったってあたしが許すかどうかの答えが聞けないじゃない。
自分勝手で莫迦なギン。
謝ってみただけなんでしょ、
あたしが何を云ったってあんたは行くんでしょう。
それでも「さいなら」と云って名前を呼んで、「ご免な」って
云い残さずにはいられなかったんでしょう。
びっくりする位莫迦だわ。
あんたの自己満足なんて知らないわよ。


ねえ、触りつくしたあんたの身体、共有した沢山の時間。
あれは何だったのかしらね。
何でも無くって、何かはあった。
不確かで脆い関係性、信用できない薄情な記憶、
それでもこの胸の寒々とした空白は何かしらね。



確かに生きていたものが、今実感できない。
ゾンビなのはあんたなのかあたしなのか、それとも両方なのか。


こんな風にして終わるものだったの?ねえ。



ギン、あんたの向かうところがどんなところなのかなんて
知らないわ、興味も無いわ。
でも、あんたは、帰ってこないつもりでも、絶対に帰ってくる破目になる。
直らないクセに対してあたしがどう答えるのか、聞いていないから。
ゾンビでいいから。
不確かでいいから。
夢でいいから。
嘘でいいから。
幻でいいから。
不確かであやふやで、忘れ去っていくものでいいから、
気まぐれでいいから、その場しのぎでいいから、場当たりの出たとこ勝負で
いいから、だってどうしようもないじゃない。


手の届くところは触りつくした、
あたしの手の届かないところであんたは生きている。
遠くなっていく暖かい記憶、
あたしだけ取り残されているの?


閉じた空、あんたの自己満足なんて、認めないわ、許さないわ。









END

BGMとタイトルはクランベリーズ。
触れるところは触りつくした、沢山のものを共有した、なのに今それは
夢だったのだと、錯覚なのだと、横顔を見ながら思ってしまうほどに
感じる其れは距離感なのか。だからこそ胸の空洞は、喪失感ばかりが
ひしひしと実感される、そして記憶だけは曖昧になっていく、
というのは私の感じている事です。

自分の思いを二次創作で託すのはずるいし卑怯だと思いながらも、
私は勝手に乱菊さんに自己投影し共感し、こんなものが生まれました。

実は、銀土よりも何よりも、最近ずっと(この二人が幼馴染だと発覚して
から)読みたいのはこのカップリングです。
市丸乱菊市丸、とエリアーデクロウリーエリアーデはもう、すんごい
比重と需要です、私の中で。笑。


うーん、失恋って難しい。慣れないなあ。半年以上たつのになあ。
これ、未練なのか。なまじっか近くで顔をあわせるからこんな風に
思うのかな・・・。
私はmixiで日頃遊んでいるのですが、そっちでは人間関係が近いため、
書けない思いをこちらで解放しました。
解放する以上は創作と妄想を織り交ぜて。



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