銀の鎧細工通信
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2005年05月22日(日) 悪夢症2 (沖土、内容は続いていません)

土方が眠れないでいると、いつも姿をあらわすのは沖田だった。

「眠れない」と云って部屋に押しかけてくることも頻繁で、
「嫌な夢をみた」と云っては土方の布団にもぐりこんで
眠りもしないまま居座り続ける。
土方自身も眠りは浅い方で、取り分け他人の気配には敏感な方だ。
しかしうつらうつらとしてくる中で、沖田がガラス球のような目を
ぱっちり開けたままでいるのは酷く奇異で、眠る気も無いのか、と
思いながら土方がことりと眠りに吸い込まれるのだった。


暗くて音もしない世界で眼は開けたまま何も見えない聴こえない。
感覚も無い、抜け落ちる全ての実感。
塞がれた世界。沈み込んで落ち込んでゆく世界。

皆が寝静まる夜に、抗っても限界になって襲われる睡魔を
沖田は憎悪していた。
(眠りたくないのか?総悟)

(目を開けて見ている方がマシなのか?)

(昼間には莫迦みたいに眠り続けるくせに)

(人のいないところで、人が眠っている時に、眠るのが嫌なのか?)

嫌な仕事の後や疲れが溜まっている時に毎回悪夢で目が覚めることもある、
そんな時は眠らない方が余程マシだと思うが、結局は
「眠ィ・・・」と執務室で煙草を吸い続けて働く羽目になれば睡眠への
欲求はたまらなく甘美なものだ。

眠っている間は忘れられることだって、いろいろとある。

そんな時には沖田の態度は理解不可能なものだ。
何故にそんなにも夜の眠りを忌避するのか、
何故そんなにも夜に眠りに身を任すことを嫌がるのか、
昼間との態度の裏腹さに眠りたいのか、
それとも眠りたくないのか、さっぱり解らない。



土方が厠へと起きて行き、洗面台の処に行くと煌々と其処だけが
白々しいほどに蛍光灯で照らし出され、使い込まれたアルミの洗面台が
鈍い鏡の様に沖田を写していた。
骨の様に白い顔に背筋が冷えた。
虚ろな表情には生気が微塵も無く、ガラス球の目も焦点が定まっていない。
病んだ意識を浮き彫りにするしゃれこうべ。
それが首の上に乗っかっているようだ。
「総悟・・・」

呼ぶ前から沖田は土方のほうを見ていた、けれど土方を見てはいなかった。

そっと近付けば、目の前のグラスに半分ほどの水と、
半分ほど錠剤の無くなった薬のシート。
「眠り薬でさ」
呂律の回らない舌で無理矢理に声を押し出す。
云っているそばからぐらりと時折大きく傾ぐ。
「部屋までつれてってやるから、ほら来い」
二の腕を掴む。
沖田の体は脱力しかけており、無理矢理立っている事だけに全身の力を
かけていた。半ば引き摺るようにしてやらないと足も動かない。

引き摺られながらぼそぼそと呟く、呼吸を洩らすように小さく力無く。

「無理矢理脳が眠らされる所為かね、頭の中がぼわぼわするんでさ」


「・・・ぐらぐらする」

「二日酔いみたいな感じか」
土方は笑ってやる事も出来ないで答える、顔すら見られない。

「外からの音が響くってのとは違うんでさあ・・・
頭ん中だけでぐわんぐわん響いて、心臓の音とか血が流れる音が
耳障りでしてねェ」
凶悪なまでに苛立ちを顕しているのに声は静かだった。

しまった。
見てしまった。

土方が動揺と恐怖を隠すために心の中で舌打ちをする。
ガラスに映った沖田の表情は神経質に歪み、細めた目に
深くよせられた眉、しかめ面などという類ではない。
感情が全く無いにも関わらず、負の気配だけが満ちた「顔」という入れ物。
「ふ・・・ふふ、何か喋ってくだせェよ、土方さん・・・
靄がかかっちまって何もわからねえ」

土方の動揺を見透かして沖田は音だけで笑う。
なんて愉しそうに。

不快感と気持ちの悪さで土方の脈拍が速くなる。

「総悟、お前夜に眠れないのなんでだ」

「ああ、つまらねェ事訊きやがるぜィ」

「お前昼には寝てるじゃねえか」

沖田は答えない。
恐る恐る表情を窺っても前髪に隠れて見えない、完全に俯いて
外界を遮断している。
今、沖田が感じているのは土方の体だけだ。

舌打ちを大きくして、掴んでいた二の腕を引き寄せる、
その手を肩にかけ、身を寄せる。
影が重なる、沖田はまた陰鬱な笑い方をした。

うすらぼんやりとした月明かりだけが縁側に面した廊下で影を作る、
(隠れるな)
土方は焦燥感にかられながらそれだけ願った。
今、月明かりも無く真っ暗になったら、駄目だ。
理由のよく解らない不安だった。
(こいつの部屋に着くまでは暗くなるな)
唇を噛み締めて土方は顔を上げた。




「おら、着いたぞ。さっさと布団に入れ、寝ろ」
過敏なのにゲルのようにどろりと実体の無い、溶け出してずるずると
腐り落ちそうな沖田を気遣ってそっと体を布団の上に下ろしてやる。

その時、胸倉を掴まれて引き倒される。
沖田の体は完全に重力にしたがっているので、その重みをかけられると
身動きが取れない。
そのまま沖田の手が土方の首にかかる。
的確に首を押さえられ、直に息が出来なくなった。


「・・・っ・・・そ・・・ぉごっ」

引き剥がそうとしても力が強すぎてどうにも出来ない。
沖田の表情が見えない。影になって見えない。

「俺はそのうち目をさまさなくなりやすぜィ」


ふるふると重たげな動作でかかった髪を払ったので、
沖田の顔がやっと見えた。

「今だって眩暈でもうよく見えないんでさ」

目だけが笑っていないいつものにっこりで
はっきりと云った。












「だからあんたを連れてく」


















END
友人とカラオケに行った際に彼女が歌ったプラスティック・ツリー(すいませんスペルに自信が無かったので)の『睡眠薬』をモチーフに。
聴きながら「うん、これは沖土だね」などと私は興奮し、彼女は逆で興奮しました。面白い・・・。

結構「土方眠れない」話は書きましたが、その一方で「沖田夜に寝ない」と
いう印象がありまして、そういう事もちらほら匂わせて書いているんですね、私どうも。
なので「眠らない沖田」話をひとつ。ままおひとつ。

本当に曲そのままです。






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