銀の鎧細工通信
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2005年05月12日(木) 王国 (鋼:エルリック親子)


もう長いこと父親はホムンクルスだった。
長いことそうして生き続けてきた。
生命の摂理に反して、彼は王であり神であり、「父」であった。
新たなる生命体の「父」。
新たなる生命体の生みの親。
錬金術の歪みの神。



彼は自分を実験体にし、成功した。
だから生殖能力がある。
ニンゲンが素のホムンクルス。
だから生殖能力がある。

彼が自分を素にしてコンセプトごとに無から作り上げた
実験体の成功ホムンクルスたちは個体に生殖能力は無い。
それを持たない彼女・彼らは自己増殖できない一世代の生命で
あるが故に尚更創造者を無二の神として、「父」として
すがるしか無かった。
彼しか、他に誰もいなかった。
一味と見做されていてもコンセプトの異なるホムンクルス同士には
生みの親以外の共通項は無く、擬似家族の機能も果たさない。
しかもあくまで創造された擬似生命体であるため、同胞意識も薄く、
そこで出奔する者が出るのも他のホムンクルスに懐く者が出るのも、
ただ創造過程でのコンセプトに違いがあるからであり、存在意義を
「父」以外に持たない彼女・彼らの個別の、独自の生命としての
実存に大きな差異は無い。



父親はホムンクルスだった。


人間の女との間に子どもをもうけた。


個別で起こっている問題は共有されておらず、
個別の記憶も共有されておらず、
それらが結節すればあの常軌を逸した天才兄弟があの年齢にして
錬金術の稀有な才能を持っていることにも合点はゆくのである。






彼らこそホムンクルスと人間の混血児。






人間を超えた生命力と、そもそもに錬金術による影響下に
生を受けたためにその血には、肉には、骨には、全身全霊に
錬金術の(異端としての)恩寵を生まれながらにして授かっている。
死者の人体練成を、それが「他人」とはいえ歳若く行えたのも
そのことによって持っていかれた魂を呼び戻し、物に定着させる
などという異常な事態を招き寄せることが出来たのも、
彼らに流れる錬金術の基盤がなした芸当だった。
忌まわしく呪われた恩寵。
禍々しく業に満ちた恩寵。

母親の死に関しての一連の行為が無ければ、彼らはホムンクルスで
ある父親がやがて迎えに来て、その禁忌を犯した王国での大きな地位を
しめたことだろう。
父親はそうした戦力として、人間とホムンクルスの間の生命体としての
実験体として彼らを生殖したのだ。
誤算は、自分が姿を消したためにその息子たちが(失敗に備えて
二人も生殖したというのに)「母」という存在に、人間よりに
育ってしまった事だった。

この上なく人間らしく振舞う彼らこそ



人間でも



ホムンクルスでも無い





唯一の生命体という、禁忌を凌駕した実験の賜物であるにもかかわらず。
人間に育てられれば、人間の中で成長すれば、それはどの様な
生命体でもそれなりに人間らしくなるものだという実験結果を生み出した。

人間面をしようとも、異様に突出した才能に他の錬金術師たちは
少なからず畏怖を感じていた。
異常な存在だと思っていた。

アレは単なる「天才」などではない。と。

自分たちの目的のために生き、その才覚になど興味が無いために
当人たちは気付かない。自分たちこそがそもそも禁忌の上に
生まれ落ちた偉業にして異形である事に。

父親にしてみれば彼らは「神」と「人間」の子であり、
そうでない人間にしてみれば「フリークス」と「人間」の忌み子、
呪われた畏怖の子であった。


それを知る者はいない。
事実は結節しておらず、本人たちもうすうす感づいているにしても、
その様なグロテスクな存在である事は認め難いので知らない振りをする。
かつて出会った犬と人の合成生命体などではない、
生殖によって生まれた、その過程で云えば純粋な細胞レベルでの
合成、否、生殖生命体だ。


父親は王国の高み、孤高の、異端の、禁忌の、重罪の、
その王国から息子たちを見ている。
満足と手落ちを惜しみつつも、兄弟が王国の戦力になる事を、
神の子として君臨する事を焦がれて待ちながら。


錬金術の至高の王国。

そもそもが異形の実験体たちは、自らの過ちによって更に
異形と成り果てている。
それを行いえた兄の才覚を喜び、
それを行われたが故に、存在として異形の質を高めた可能性としての
弟を、足下に欲した。弟は更に新たな可能性だった。
肉体を捨て去り、ただ魂だけの存在を錬金術は練成し得るのだ。

王は笑う。
楽しくて仕方がない。
楽しみで仕方ない。


飽くなき、際限なき高みへの希求はどれだけ人間にとって
脅威であっても、あったとしても、関係のないことだった。

何処まで出来るのか、
何処まで高みへと登りつめられるのか、
何処まで練成出来得るのか、
行き着くところまで目指すのだ。
何かの才覚に特化した、より錬金術寄りの生命体であるホムンクルスと
どうとでも変幻する人間よりの生命体であるそのハーフ。
今度はそれらを練成すれば、より面白い事になる。
その実験は実に興味深い。
王は笑う。
高みから独り笑う。
孤独な笑いだった。
もう何処にも引き返せない、もう何処にも戻れない、
もう行き場など無い。
人間しかいないような世界に居場所は無い。

成功させねば。
どれだけ時間がかかっても、どれだけ失敗したとしても、
実験は成功させねばならない。



もう「父」に帰属する世界は無いのだから。
創り上げた王国以外に何処にも存在を赦されないのだから。
なら生き続けるために、実験の成功としての生命になってしまった
孤独な自分をこの世界で正当化せしめるために、王国を拡大しなければ
ならない。
この世界を作り変えなくてはならない。


さあ、可愛い可愛い「子ども」たち、
私の元で生きるが良い。



王は孤独に狂った笑顔で腕を広げる。
王は実験の成功を喜ぶ不吉な瞳で手招く。
境界を、境目を突破するのだ。



かえっておいで、「子ども」たち。
この王国に戻っておいで。
君たちに生きる場所は無いのだから、
この世界の何処にも無いのだから。


この王国以外に。










END


オウコクシリーズ最終話は既存の「オウコク」で〆。
元々この話のコンセプトはあったのですが、他にも書きたいジャンルで
色々画策しまして、本丸にようやくたどり着かせた、という感じです。

あ・・・沖土でも「オウコク」に入れられそうなネタあったんだよな・・・。
一応〆ますが、基調としての「オウコク」ネタは続くかもです。
沖土と、後、どうも需要のあるらしい山土を次は予定しています。

しっかし久々の鋼がおとんメインかい。
台詞も無ければ兄弟も出てこないですよ。
妄想丸出しですいませんねえ・・・。


BGM:『キャシャーン』サントラ。
これしか無いでしょう、新造人間だし。笑。





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